ランペイジ・バレット ~ソシャゲみたいな世界に転生した俺が必死で生き抜いていく話~ 作:捻れ骨子
米国陸軍派遣教導仮設歩兵中隊が使用している官舎。
古いホテルを改装したその建物は、それなりに整えられており、そこそこ快適に過ごせるようになっている。
その大浴場の前で、3人の男たちがコーヒー牛乳を呷っていた。一応浴衣姿だが、揃いも揃って着こなしが変だ。まあ米兵だからしょうがない。(偏見)
ごっごっごっと勢いよく飲み干し、3人揃ってぶはぁと息を吐く。そして。
『『『生きてるって素晴らしいな』』』
感慨深げな言葉が漏れ出た。昼間のあほな騒動、死者こそ出なかったが蹴散らされた彼らは全く良い所がなく、這々の体で生き延びただけであった。あんなバカ騒ぎで死んだら目も当てられない。信じてもいない神にこの時ばかりは感謝する3人だった。
『いやしかし何なんだよあのテック使い。
飲み干した瓶を自販機の隣にあるケースに入れながら、3人の中で一番背の高い金髪の青年が言った。それに応えるのは東洋系の男。
『聞いてなかったのか? ありゃどっかのテック研究者が作ったテック強化装備が暴走したって話だったろ』
『で、なんかやる気が空回ってああなったとか何とか。意味わかんねえよな』
最後は南西諸島系のスキンヘッド。肩をすくめて首を振っているが、彼らは話を又聞きした程度だ。詳細を知らないのも無理はない。
実際のところエイカが暴走したのは、隊長に良い所を見せたすぎてエンドルフィンとかドーパミンとかの分泌が活性化し、それをマスクの制御システムが誤認して脳波を調整しようとしたが、なぜかさらに脳内物質の分泌は進む。そしてまたマスクが誤認して……の繰り返しが起こった結果、エイカは薬物によるトリップと似たような状態になり、結果暴走した。というのがアユミの見立てである。
想定外にもほどがあるとアユミは首を捻っていたが、起こったことは仕方がない。ともかく原因を究明し、対応策が確立するまで強化マスクの技術は封印することにしたようだ。
『この国にもヤベぇマッドがいるってことか。……まああのクソヒーローもどきがぶっ飛ばされたのはスカッとしたけどな』
『それな』
『激しく同意』
良い笑顔を見せる金髪の言葉に、残りの2人はうんうん頷く。
この3人、
米国はともかくヒーローやヴィランを気取っているテック使い連中に対して扱いがヌルい。政府や公安、軍の一部は何とかしたいと奔走しているのだが、一般市民の中にヒーローを賛美し支援する者や、ヴィランを信奉したり利用したりする者が多くあり、またそれらが政財界に多く根を張ってたり警察や司法関係に潜り込んだりして、様々な形でまともな人間を邪魔するものだから始末が悪い。結局警察や軍は思うように動けず振り回されっぱなしと言うのが現状であった。
そんな中、まともな人間達の地道な行動がやっと実を結び、テック使いに対抗する手段を得るために軍の派遣教導が始まったわけだ。(ついでにヴィランの更生なんかも出来ないかなあと、比較的マシ……マシ?な連中も一緒に送り込まれたわけだが、なんか忘れ去られてるような気がする)
1度目は大成功と言えよう。教練を終えた兵士達は、相応の実力と技術、経験を得て格段にレベルを上げて帰還した。そして各地でテック対策に赴き成果を上げている。関係者が2匹目のドジョウを考えるのも当然と言えた。
1度目に選抜されたのは実戦経験があるとは言えまだ若い兵達であったが、今回はさらに吟味され、将来的には軍の幹部にと目されているような人間すら含まれている。その分プライドも高く、現状について思うところがある人間も在った。
『ヒーローとかヴィランとかと肩を並べるかも知れねえってのは面白くない話さ。あいつらのおかげで、まともなテック使いは肩身が狭いってのに』
吐き捨てるように金髪が言う。米国で問題となっているテック格差。強くて有名なテック使いだけが持ち上げられ、低位のテック使い達は偏見や差別を受けているという社会構造。軍に入るのは大体が低位のテック使いだ。それなりに辛酸も舐めている。見込みがありそうなテック使いを更生させ戦力とする、と言う考えには内心賛同できない者も多かった。
『
東洋系も愚痴る。軍に入った者たちは実情を目の当たりにし、低位テック使いを理解して隔意を無くしていく傾向にあるが、それがゆえにヒーローやヴィランを気取っている連中とは相容れないと考える。能力の強弱よりも、その考えと行動によって嫌悪するようになるのだ。何しろ実際矢面に立って被害を受けてる身。加害者を嫌うのは当然のことだろう。
そんなものだから。
『……いくら
スキンヘッドの言うとおり、エイカは捕縛されることなく、それどころか丁重に扱われ病院に送り込まれていた。米兵達から見れば犯罪犯したテック使いを何大事に扱ってんだ、と言う風に見られる。まあ実際のところは保釈金とか賠償金とか色々請求されてて、加えてベルセルククリニックに放り込まれる+アユミからも微に入り細に入り調べられるというプチ地獄が待ち受けているのだが、そこまで米兵達に分かるはずもない。彼らは米国とは違うヌルさを封印都市に感じていた。
『なあなあでよろしくやってるようにしか見えないがな。実力は確かだし、高位テック使い達をよく飼い慣らしてるとは思うが』
金髪が鼻を鳴らす。エリーターズとその隊長は確かに低位テック使いとしては破格の実力を持っているし、相対するテック使いどもも米国ならトップクラスの連中だ。だがその距離感というか対処の仕方というか、どうにも甘くて納得がいかない。一部の兵達が隊長に対して微妙な敵愾心のようなものを抱いているのは、そう言った理由があった。
『なにより……モテそうな男は妙にムカつく』
『それな』
『わかりみ』
なんか別の意味でも敵愾心が抱かれていた。ちなみにこの世界での軍人はあまりモテる仕事ではない。嫉妬かよ。
まあとにもかくにも、一部に微妙な不穏を抱えつつ教導は続くこととなる。
彼らがいっぱしのテック対策要員となれるのか、そしてモテるようになるのか。それはまだ不明瞭であった。
※人物紹介
米国陸軍派遣教導仮設歩兵中隊第2陣
前回のことで味を占めた米国政府が送り込んできた米兵ども。
前回よりも実戦経験が豊富で将来的に有望な人材が選抜されている。しかしそれ故に上位テック使いに対して敵意を抱き、封印都市の有様について思うところが多々ある兵が何割か含まれている。
実はそう言った考えの人間を矯正出来ないかという試みも含まれており、国防省は色々と期待を寄せているが、もちろん現場の人間はそんなこと知らされていないのでどう転ぶかは不明。
来日初っぱなから大リーグボール養成ギブスの刑を受け、さらにトンチキイベントに巻き込まれるというとんでもない洗礼を受けたが、一部の人間はまだ心が折られていない模様。頑張れと言いたいところだが真なるモブである彼らが脚光を浴びる可能性は低い。
BGM? ファミコンウォーズのCMでも流しときんさい。
さらりと流される痴女の末路。