ようこそ熟練探索者が居る教室へ   作:ネマ

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みなさま。お久しぶりです。
よう実最新刊の発売に全巻読み直していたり、クトゥルフ神話TRPGリプレイ動画見ていたり、卓に参加していたりとしているといつの間にか時間が過ぎていました。

そんな話はおいておいて。みなさま、アンケートありがとうございました。結果は『坂柳有栖』が『綾小路清隆』を少しだけ上回る結果となりました。まさかこの二強になるとは正直作者も驚きです。

今回はそろそろ導入の関係上、アンケートはありませんがその次回ではまたアンケートを募集するかもしれません。それでは長々とお話にお付き合いいただきありがとうございます。ここからが本編ですどうぞ。


───────貴方は、椎名ひよりと放課後の買い物に行くだろう。






入学式②

 

 

貴方は椎名と共にショッピングモールにたどり着いた。道中には多くの生徒らしき人が歩いているがその殆どが上級生だと分かるだろう。おそらくまだ多くの生徒は教室にいるのかも知れないと目星を付けた。

 

ショッピングモールは非常に大きく盛況で、普段見かけるだろうスーパーの規模では無いと一目見て思うだろう。案内掲示板を見れば食料品を扱っている店から服や電化製品までおおよそ生きるために必要なモノから娯楽まで揃っている様に見える。

 

「凄いですね……この店確かブランド?」

 

貴方が気がつく事は無かったがどうやら椎名が言うには有名なブランドを扱っている店まで入っているらしい。小規模ではあるが小さなジュエリーショップまであるのを見て貴方はそれだけでも相当のお金が掛かっているのが分かる。

 

そうして歩き出す事少し。貴方たちは当初の目的であった本屋さんに着く。均一に並べられた本棚と積まれた新品の本たちを前に貴方たちは驚きとその広さに空いた口が開かないだろう。非常に広く、そして多くの本があると分かるその本屋で早速互いに本を買い合ってシェアしませんか?と椎名が目を輝かせて聞く。だが貴方はその回答に否と答えた。

 

「それも、そうですね…よくよく考えれば図書館に行ってませんね」

 

商業施設だけでこれほど広いのだからおそらく図書館も、相当な量の蔵書があるに違いない。そこで読みたい本を探してみてからでも遅くないのではないかと貴方は思いついた。そんな貴方の発想に椎名は確かにと考える。どうやら思い付かなかった考えだが、確かにまだ本を買うには早いと今日はあくまで下見する程度にと2人は合致した。

 

そうして貴方は気になった本を手に取るためにしゃがむだろう。だがどうやら椎名も興味があった本が近くにあったのか同じくしゃがんだその時だった。非常に小さな声で椎名が貴方に呟く。

 

「………で、どうでしょうか?」

 

あまりにも意味深な問いを前に貴方は戯けて逆に聞き返すだろう。

だが、どうやら椎名の瞳から読み取れるのは悪意や好奇心とは程遠く、心配と疑問に溢れているのが分かる。

 

それに貴方は特に断定した事を口にするわけにはいかないだろう。何度か、先生の説明が本当の事を言っているとは疑わしい場面が何度かあったから、気をつけるべきだと貴方は思っている。

 

「やっぱり……そうですよね」

 

その回答に椎名は満足したのか満足げに頷いてそれ以降は本の話題に戻っていたのだった。だがやはり買うのは止めておいて、しばらくは様子を見ることに決めた。

 


 

そうして貴方たちはその後も街の散策をして、晩御飯の材料を買いに向かった。

貴方たちは共に料理を嗜む者として食材を吟味しながら今晩はどんな献立にしようかなどを話しながら買い込んでいく。そうしているとやはり気になるのは互いの料理の腕に違いない。寮の規約にもよるが行けるのなら互いの部屋にお邪魔してお料理会なんてどうだと約束したのだった。

 

貴方たちはその両手にビニールを持ちその中には食料品などが数多く入っている。もう既に暗くなって久しい街並みを抜けて、まるでマンションの様な寮の近くまで帰ってきたその時だった。別の道から1人の少女が現れたのは。

 

「あら?……貴方達は」

 

雪のような銀色に反射する紫の髪の少女。深い黒色のベレー帽の様な帽子と、無骨な杖を付いて歩く少女が目の前から現れた。その少女を見ているとクラスに1人はいる様なマドンナ的存在であると貴方は認識すると同時に、どこか見覚えのある様な不思議なデジャヴを感じる。

 

「同じ新入生ですね」

 

貴方はその断定に是と答えた。それと同時に隣が妙に静かだなと視線だけ横にそらせば、まるで目の前の少女に怯えるかの様に椎名が貴方の右後ろに下がっているのが見える。その椎名から発せられる感情は、警戒だろうか。

 

一体、どこに怯える要素があるのか。例えそれが勘だとしても貴方も警戒しないわけには行かない。だが貴方が見ても目の前の少女から嗅ぎ慣れた“平穏とは程遠い刺激的な匂い”はしない。どこにでもいる新入生だと断定できるだろう。

 

「初めまして。…寮まで一緒に行きませんか?」

 

「…………どうしますか?」

 

もう目と鼻の先には寮がある。それぐらいの距離ならと貴方はその誘いに乗るだろう。だがどうやら椎名はこの少女が心配だが、それでも警戒心を隠せていない。それでも貴方は良識がこの少女を放っておくのを咎めるだろう。

 

「いえいえ…ありがとうございます。お優しいんですね」

 

手助けというほどではないが貴方は是と答えて少女が持っていた紙袋を代わりに持とうかと問う。だが初対面の貴方に持たせるのはあまりにも悪いと、少女は首を横に振る。

 

「そう言えば貴方たちの名前を聞いていませんでした。…よろしいですか?」

 

そうして自己紹介が始まる。貴方と渋々椎名が名前を名乗ったのを見て、少女も自らの名前を名乗るだろう。堂々としたその立ち振る舞いからは、良い育ちをしているのではないかと分かるほどだ。

 

「私の名前は"坂柳有栖"と言います。よろしくお願いします。苧環くん、椎名さん」

 

昔、少し関わりがあった坂柳さんの娘との出会いに貴方は驚くだろう。だが、その驚きはあくまで心の内だけの反応で面には一切出てくることはない。内心の驚愕を他所に貴方はそつとなく坂柳さんの娘と会話するだろう。

 

そうしているとすぐに寮へと着いた。その聳え立つマンションといい、白を基調に整えられているのを見ると寮というよりもホテルでは無いかという印象を受けるだろう。

 

「わあ……凄いですね」

 

「そういうものですか?」

 

貴方たちはそのまま寮の受付に向かう。そこではマニュアルとカードキーが渡された。カードキーには家番号が刻まれており、今日からその部屋に住むのだと嫌でも自覚する。

 

「どうやら、全然違う場所みたいですね……」

 

横から見ようとしてくる椎名の視線に貴方はカードキーを見せるだろう。どうやらその番号を見て椎名が落胆している様に見えるが、一体どうしたのだろうか。貴方がそう考えている間に隣で同じ様に受け取る坂柳さんの娘は至って普通なため、どうやらおかしな事が起きている様では無いと放置した。

 

そうして貴方たちは、マンションの共用スペースで少し話してから各自部屋に上がるだろう。肝心のマニュアルの中には基本的な情報と電気やガスの無駄遣いに気をつける事。そしてそれらは無料であるという事が書かれていた。

 

「………………」

 

そうして貴方はエレベーターに乗って部屋にたどり着くだろう。カードキーを翳して扉を開けてみればそこからは人の気配は無く、新品に近い様にクリーニングされている一人暮らし用の部屋が用意されていた。

 

キッチン、トイレ、風呂場など一通り確認したのち貴方はリビングにたどり着く。机に椅子。そしてベッドが置かれ、そこにはどこも変わったことは無い。机の上には家電の説明書だけが置かれ、その他は真っ新と言える状態だろう。

 

「………………」

 

貴方がする事といえば変わりはない。手早く料理を作り、食べて片付けた後に貴方はいつものように鞄の中から朝も読んでいた本を取り出す。だがその本を撫でる手は何処か朝よりも丁寧で、愛着があるように見える。

 

そうして一通り本を撫でた後、貴方はその本を開くだろう。やはりそこに書かれている言語は普段から見慣れる様な物ではない。だがそれでも貴方はその言葉に慣れているとばかりに少しずつ、少しずつ思い出すかの様に読み進めるだろう。

 

「……ああ、もうこんな時間」

 

本を読んでいたら過ぎて行く時間は早いものだと貴方が気がついた時にはもう日付が変わり始めていた。それに気がついたのか貴方は本を置き、立ち上がり首から掛けていたペンダントを外して机の上の本の隣に置いた。

 

そうして貴方は風呂に入り、眠りに入るだろう。誰もいないと分かっていながらもまるで習慣の様に口にした後に誰かの名前を口にした。どうやらそれは言葉になるよりも先に、口から消えていく。

 

「おやすみなさい       」

 

 

 

───────貴方の新生活の1日はこうして幕を下ろした

 

 

 


 

 

 

私はなんとか苧環くんと一緒にショッピングに向かう事が出来ました。やはり一番気になるのはショッピングモールでしょうか。とても大きく、まだ入学したてだというのに生徒らしい人がいっぱいいます。そんな中、私たちはようやくショッピングモールの案内掲示板にたどりつきました。

 

「とっても大きいですね……!」

 

「全部のモノが揃ってる感じだな」

 

苧環くんの言う通り、確かに食料品から衣類、そして電化製品まで全てのものがここで揃う様にと作られています。やはり三年間は外に出れないという事を鑑みているのでしょうか。娯楽施設も多くあり、いつか親友と行ってみたいと思えるので脳内で情報を書き留めました。

 

「凄いですね……この店確かブランド?」

 

「そんな店まで入ってるんだな……」

 

そうして見ていると、どうやら有名な高級店まで入っているのが見えました。私にはそんな店に用事などあるわけが無いのですが何故か覚えていたので、こんな学生の街にそんな高級な店があるなんてと驚いているとやはり苧環くんも驚いているみたいです。……どこか苧環くんはそう言うのに慣れていそうな雰囲気があったので、同じ様な反応をしているのを見ると安心しますね。

 

歩いた先でようやく私たちは目的の場所である本屋に辿り着く事ができました。本屋も非常に広く、ワンフロアの半分以上を占めて本が置かれています。やはり多くの本が並べられている場所は私に安寧と新たな知識に出会えるというワクワクに見舞われます。今すぐにでもこの感動を同志と分かち合いたいと口を開いたのです。

 

「苧環くん!私たちで本を買い合いませんか!?」

 

読みたい本を被らない様に買って、読み終えたら交換します。こうする事で読みたい本の値段の2冊分を一冊に抑える事が出来るのです。かんぺき〜な考えに苧環くんは絶対に乗ってくれると振り返ったのですが……

 

「いや……先に図書館見た方が良く無いか?」

 

「それも、そうですね…よくよく考えれば図書館に行ってませんね」

 

どうやら気持ちだけが先走っていたのは私だったみたいです。確かに苧環くんの言う通り、私たちは学校内の施設をすっ飛ばしてここに来ているわけですから肝心な図書館にさえまだ行けていません。確かに言われてみれば、苧環くんの言う通りです。肝心な無料図書の存在を忘れていたのですから!……ま、まあこんな同志と同じ買い物をする事さえ初めてなので、気持ちが早ぶっていたのかもしれません。

 

買わないにしてもここまで来たのですから、少しばかり本を吟味しようという話になりました。ですが私も苧環くんも見に来た本の欄は殆ど同じです。……ああ、やっぱり私の進学はこの人に会うためだったのでしょう。そう確信するほどに貴方と私は合うのだと密かに確信しました。だからこそでしょう。こんな事を呟きたくなったのは。

 

「………で、どうでしょうか?」

 

「何が、どうかしたのか?」

 

近く、本を取るために屈んだ苧環くんに合わせて私も屈んだ所で小声で声をかけます。こんな分かりやすい衆目がある所で大胆に内緒話なんて、とっても面白い事だと思います。しかもそれに乗ってくれたのか苧環くんも小声で話してくれるのに、その続きを待ちます。

 

「………現状、注意するべき。とだけ」

 

「それは何に対してですか?」

 

ここまで苧環くんだけを見てきて分かった事ですが、苧環くんは意外と人を見ている感じがします。……いえどちらかといえば人の反応、でしょうか?割と素っ気ない印象は否定できませんが、昔の私の様に遮断してるわけでは無い……と思います。

 

昔の私は遮断し過ぎて人の機敏なんて分からない、知ろうともしない様に育ってしまいましたが……まさか気になる人が出来たから、その人を知るためにもっと人と関わっておけば良かったと思う日が来るなんて思いもよりませんでした。

 

「先生の説明に嘘はないけど……どこまで本当かは分からない」

 

「なるほど……含みがあると言う事、ですね?」

 

なるほど私たちの受け取り方による勝手な解釈が起きているかもしれないと言う事ですね。そうなると先生の言った事をひとつひとつ切り分けて考え直さなくてはならないかもしれません。またそのことについても考えましょうか。一緒に

 

「まあ…お金は大切に使いましょう、ってことかな?」

 

「やっぱり……そうですよね」

 

当たり前の事ですがこの十万円も非常に大きなお金です。勿論、無駄使いしなければ十分1ヶ月過ごすには多いですし貯金もできるでしょう。同じ事を考えていると分かるだけでも、少しは距離が縮まったと思えれば良いのですか。

 

そうして私たちは晩御飯の材料を買いに向かいました。初日ぐらい外食でも良いかもしれませんが、そう言う気分にならず何を作ろうかと話し始めていたので今日は大人しく自炊するでしょう。……ここから、腕を磨いていつかは苧環くんをお誘いしたいですね。

 

「こちらの方が安くないです?」

 

「そうだけど量がな……多いんだよ」

 

「なら、私が買いますので分けましょうよ!」

 

「うーん…じゃあ、これは俺が払うよ」

 

そんなこんなで持ちつ持たれずの初日の買い出しを終えて私たちは帰路につく事になりました。やはり分けて買ったものなどを見ると今夜の晩御飯は互いに似た様なものになるでしょう。

 

「あ、あの…どこかで、一緒に料理しませんか……?」

 

「そうだね……落ち着いたらしようか」

 

ま、まあ同志ですから?一緒に料理してもおかしくないと言うか?多分、明日か明後日にはこの予定は完遂されているでしょう。もう今からとても胸が躍ります。そうなるとやっぱり自炊をより頑張りましょう。

 

「とても楽しみですね!!」

 

これからきっと毎日が楽しくなる青春の日々が始まるのだと、そう考えればこれからの不安も全て吹っ飛んでしまいそうです。ああ、やっぱり一番最初に出会った人が苧環くんで良かった。そう、寮まで歩いていた所でした。

 

「あら?……貴方達は」

 

目の前に誰か立ってたのは。その姿を隠していた逆光はすぐに収まり、そこには杖をついた紫色の髪のお人形さんの様な可憐な少女が立っていました。きっとその少女のことを物語では、何処か幼さの中に危険な魅力を孕んでいるとか書かれそうな、何処か庇護欲をくすぐりそうな子でした。

 

「初めまして。…寮まで一緒に行きませんか?」

 

「…………どうしますか?」

 

まあ私個人としては…そうですね。何故か同志とこの少女の気が合いそうな気もするので、あまり関わって変な道に行ってほしくはないのですが。生憎と私が同志と呼んだ人は足が不自由そうな子を放って置ける様な人ではないのです。

 

「いいですよ。……手伝いましょうか?」

 

「いえいえ…ありがとうございます。お優しいんですね」

 

隣で支えようとしている苧環くんもその少女…である坂柳さんも歩いている姿は非常に絵になりそうなのが嫌ですね。2人ともクラスで一番絵になりそうな2人です。私はどうにか苧環くんの服を少し摘むぐらいしか出来ませんが、いずれは絶対に……

 

そうして考えているととても大きなマンションに辿り着きました。どうやらここが寮みたいで、エントランスからまるで大きく敷居の高いホテルの様にも思えてきて圧倒されました。

 

「大きいな……」

 

「そういうものですか?」

 

世間知らずかそれとも良い所のお嬢様なのか坂柳さんとは意見が別れてしまいましたが、どうやらこの学校ではこれが基準になりそうです。3年経ってから感覚が狂わなければ良いのですが…と密かに心配したのは内緒です。

 

私たちはそのままカウンターに向かい、そこで部屋のルームキーとマニュアルを一冊手に入れました。鍵はカード式で翳せば部屋に入れるのでしょう。ふと気になって苧環くんの部屋はどこかなーと手元を密かに覗けばどうやら見ていたみたいで、苧環くんの方からカードを見せてくれました。

 

「どうやら、全然違う場所みたいですね……」

 

同じ敷地内にいるとはいえ、少しばかり距離が離れている事に愕然とします。いやまあ、今思えば男女共用とは言え生活スペースぐらいは離すでしょう。これなら私の部屋に来てもらった方がスムーズかもしれないとそう考えていた時でした。エントランスの共用スペースに座って、坂柳さんから話をしようかと持ちかけられたのです。

 

「……少し、お話しませんか?」

 

「いいですよ」

 

どうやら苧環くんの表情を見ているとただ事でないのかもしれません。ですがまあ微力ながらも私も手伝えることがあるかもしれないと苧環くんの隣に座って坂柳さんからの言葉を待ちます。

 

「そう言えばクラスを聞いていませんでしたね」

 

「ああ…そう言えば。俺たちはCクラスです。」

 

なるほど。と坂柳さんは一言呟き、自分はAクラスだと口にしていました。そうして話していきますとどうやら互いにクラスの様子にはまだ深く関わっていないのも同じらしくこれからどうなるか分からないというので見解が合致した様です。

 

「そうですね。互いにクラス単位での行動はまだ期待できないでしょうし、ここでひとつ個人的に協力────」

 

「坂柳さん。生憎ですが……俺としては火の粉を振り払うだけで十分です」

 

「…………そうで、すか。それは残念です」

 

頬を高揚させ口早にと述べる坂柳さんを遮ってまで苧環くんは堂々とした口調で、何かを断った事だけは分かりました。それが何なのか歯痒い事ですが私には理解する事が出来ませんでした。ですが何故か心底残念そうに、アテが外れたとばかりに肩を下ろす坂柳さんと、動じていない様に見える苧環くんの間で何か交渉でもあったのでしょう。

 

そうしてその後は、空気が悪くなったのか一言二言卒とない言葉を掛け合った後に連絡先を交換して別れていきました。……あっ。そう言えば苧環くんに今夜通話しないかと言うのを忘れていました。そうして家に着いた私ですが

 

「わぁ……!」

 

部屋から見える景色は格別で、今日からここに住むんだと思えばとても胸が躍ります。家全体を見てみればまだ何もない(当たり前ですが…)ので近々苧環くんと家具以外のインテリアを買いに行かないか提案しようと思います。その後は特に何事もなく晩御飯を作ってお風呂に入り、多分出てくれるだろうと確信して苧環くんに電話を掛けました。

 

「………出ませんね」

 

ですが想像と違い苧環くんには全く掛かりません。送ったメッセージも見ていない様なので、もう既に寝てしまっていたのでしょうか。そうだとすると随分と早いなとも思いますがそう言うものでしょうか。気にはなりましたが、私もいい時間になりつつあるので寝る事にしました。

 

「また…明日もありますしね」

 

 

早く、明日になってほしいなんていつぶりでしょうか。

 

 

 


 

 

 

私が、坂柳有栖がその2人を見つけられたのは偶然だったのでしょう。ですがその偶然の出会いはある意味運命的な出会いなのかもしれません。

 

「あら?……貴方達は」

 

天才とは何か。それは生まれた時から定められた体に刻まれたDNAという指針のみが告げる。即ち、人には生まれながらのポテンシャル以上の事は出来ないのだと信じている。“あの部屋”で作られた人工の天才も所詮は凡才の想像の域を出ない凡人が作り出した平凡から少し外れただけの秀才止まりに過ぎない。

 

つまり天才とは、自分と他人の存在の違いを知るものである。

誰1人として己と並び立つものが居ないのだと知りながら己の手で運命を切り開き、人なき荒野に立つ事が出来るたった一握りの存在だけが天才なのだ。そう、私は確信しています。

 

「初めまして。…寮まで一緒に行きませんか?」

 

私が打ち砕くべき敵にして、私の信仰の敵対者である“彼”だけが私の世界だと考えていました。事実私が所属する事になったAクラスも特に何か匹敵するモノを持つ様な方は居なさそうでしたし、あれでは良くも悪くも秀才止まりでしょう。それではこれからのクラスで生き残れるとは思えません。

 

この三年間は単なるお試し期間です。適当に引っ掻き回しながら、対抗勢力でも作って遊ぶ事にしましょうかと丸1日を掛けて、学校の実情を調べ上げてから寮へと向かったその時でした。彼に出会ったのは。

 

「いいですよ。……手伝いましょうか?」

 

光を反射して透き通るかの様なライムグリーンの髪色の…少年でしょうか。非常に失礼な事ですがその顔では、男物の制服を着こなしていなければ同性だと勘違いしてしまいそうな程見目が整っている彼。

 

ですが、彼の本質はそこではない。私が一眼見て、全く把握できない彼のその全貌。覆い隠されているのか、或いは騙し絵の様に欺き誤魔化されているのか。間違いなく、彼はこちら側。一握りの存在と言っても過言ではないでしょう。

 

「いいですよ。…手伝いましょうか?」

 

「...いえいえ、ありがとうございます。お優しいんですね」

 

同類。私と同じ様な天才が、そこにはいたのです。ですがそれは決して鏡合わせの存在ではない。間違いなく私とは別枠の、それでいてもしかしたら私に迫るほどの才覚の持ち主。

 

私はこの時、初めて明確に同族たる存在を知り得たのです。

ああ、ハレルヤ!きっとこの時ほど運命を信じ、神とやらに感謝の祈りを捧げた事でしょう。

 

「私の名前は"坂柳有栖"と言います。よろしくお願いします。苧環くん、椎名さん」

 

私の名前を彼は聞いた事があるのでしょうか。或いはこの学校の理事長の名前を聞いた事がある?……そこまでは読み取る事が出来ませんでしたが、少なくとも風雅くんからは私の名前に何か聞き覚えがあるのでしょう。一瞬ですが、本当に注視していなければわからないほどの一瞬。彼は私の名前に何か知っている様な反応が見えました。

 

「……少し、お話しませんか?」

 

そうして少し話しながら反応を伺いましたが、やはり手強いですね。まるで読まれている事を前提としたポーカーフェイスの使い方。或いはその歳で会話の中での交渉術を身につけているのでしょうか。

 

この寮の規模に驚いているといい、生活はあまりこちら側では無いのでしょう。であるのならそのポーカーフェイス含めた交渉術は経験で磨かれた宝石ではなく、原石のままで宝石を超える輝きを宿している事になります。

 

末恐ろしい。ですが間違いなくこの才能でさえも片鱗に過ぎないと考えると、その本質は一体どれほどのモノを秘めているのでしょうか。私はきっとそれを知りたい。その純粋な知識欲に取り憑かれていたのでしょう。

 

「そう言えば、クラスを聞いていませんでしたね」

 

「ああ…そう言えば。俺たちはCクラスです。」

 

Cクラス。個人的に注意しておいた方が良いでしょう。ですが風雅くん含め、どうやらまだクラスとはあまり関わりがないのでしょう。ただ、良い情報交換になりました。商業施設にある日用品の無料商品に、同じ様に決断した先生の言葉の意味。私はそこで上級生のクラス単位人数について伝えましたが……

 

「これはこれは……貴重なお話をありがとうございます」

 

ふふっ、やはり導く答えは同じなのでしょう。そうなれば、きっとそんな遠くない未来に足並みを揃える事が出来るかもしれません。やはり凡才の集まりとは言え、群れると厄介なのは誰でも気が付きます。

 

ですので、こう話を切り出すのもある意味当然の未来でしょう。

 

「そうですね。互いにクラス単位での行動はまだ期待できないでしょうし、ここでひとつ個人的に協力────」

 

まだ明確に契約となると難しい。伏龍のつもりではありませんが、この時点で先生に目を付けられるのは些か動きが鈍くなるでしょう。だから個人的な“友人”として手を結んでおくのが一番吉です。……まあ恋人関係でも良かったのですが。一番動かしやすい感情なので。ですがこの貧相な身体に釘付けにするには少しばかり機が悪そうです。今では親友からという手段もあるみたいですし、問題はないでしょう。そう、確信していたつもりなのです。

 

「坂柳さん、生憎ですが……俺としては火の粉を振り払うだけで十分です」

 

「…………そうで、すか。それは残念です」

 

しかし、聞かされた言葉はまさかの否。驚きました。あり得ません、まさか…まさか風雅くんも分かっているはずです。同じ存在である私と手を組む利点を貴方は理解してると思っていたのですが、宛が外れたのでしょうか?……まさか、既に隣の女に籠絡されている?

 

………いえ、そうでも無さそうです。その決断材料として一番はやはり視線に含まれる熱があまりにも違い過ぎる事でしょうか。風雅くんにとってその隣の女はこの学校での平穏を維持するためのパーツですね。今のままではそれで終わってしまうでしょう。

 

「ですがたまに話でもしませんか?」

 

「ええ、それなら喜んで」

 

執着している平穏、そして明らかな傍観主義。気がついていても、これではクラス単位での脅威にはなり得ないでしょう。個人なら圧倒的ですが、この学校ではその生き方は路傍の石にさえならない。だからこそ傍観と諦観を既に決め込んでいる。

 

───────気に入らない

 

何があったのかはわかりません。ですが、貴方はそんなところで熱を失った姿をしているのは全く似合わない。初めて会った同類なのだ。ただ無為に過ごして己の可能性だけを過信して怠惰に沈む凡人と同様に成り下がるのは、絶対に認めてなるものか。

 

「ふふっ……これからよろしくお願いしますね。苧環くん」

 

風雅くん。きっと貴方に熱を与えるのは私となるでしょう。

どうか、その日は私と戦ってくださいね?

 

 

 

 






《この世界のハウスルール》

決定的成功クリティカルならびに致命的失敗ファンブルの効果は()()()()()()()()()()()結果を導き出す事が出来る。

②技能は決定的成功クリティカル時のみ1d3の技能値上昇が見込める。これは()P()C()()()()()()()

③HP0を超過したダメージを受けた際、回復には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

④PCが死亡した際そのPCとの関係性を鑑みてSAN値チェックが行われる。尚、この時のSAN値チェックで発生した不定の狂気並びに狂気は()()()()()()()()()()


次回『逆鱗』
感想、評価お待ちしております。

2人の身体と3人の魂。それが風雅に託された『価値』
それに比べて“ただの天才”の有栖ちゃんは風雅を同じ様に思って可愛いね♡

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