導入も終わり、そろそろ本格的にクトゥルフ要素も混ぜていきたい今日この頃。
と言うわけでようやく初めに出した原作キャラが椎名ひよりであることが生かされますよ。
長くなってしまったので上下と分けましたので残念ですがアンケートはまた次回以降再会です。待ち望んでいた方には申し訳ありません……それではどうぞ。
────貴方がこの学校に入学してから二週間近くの時間が過ぎた
貴方が高度育成高等学校に入学してから二週間近くの時間が経った。待ち望んでいた平穏な生活に普通の1日。本来なら取り戻せない筈のこの揺籠に揺られているかの様に緩やかに過ぎる日々は、およそ一年前までは考えられなかったと貴方は振り返る。
「つまらないな」
だがおそらくこんな生活を待ち望んでいた筈なのに貴方の口から漏れた一言は自身の心を裏切るかの様な衝撃的な一言だった。今の貴方には何気ない事を話せる友人がおり、規則正しく授業で知識を得ることが出来、そして至って平穏に1日が過ぎていく待ち望んだ時間と空間がやってきている。
「?何か言いましたか?」
だがそれでも貴方は心の何処かで平穏が裏返り、普通が見る影も無くなったあの一瞬がまるで数ヶ月過ごしたかの様な短くとも長く感じる鮮烈とした地獄を待ち望んでいる。
血と涙だけが満ち、狂気と絶望が渦巻き、おおよそ普通の人間には理解できぬ冒涜が蔓延する最低限の尊厳の保証さえ無いあのおぞましい世界が、何故か今の貴方には眩しく感じてしまい眩暈がしそうになる。
「ふふっ。苧環くんでもホームシックになるんですね」
或いはもはや貴方はそんな地獄の方が尊い日常だと感じるほどに気が狂ってしまったのか。深く考えれば考えるほど貴方はもはや顔見知りとも言えるほど見知った狂気が鎌首をもたげて、身体をキツく締め上げてくるイメージが急速に湧き上がる。
貴方はそんなショッキングな妄想を前に保てる今の正気ギリギリまで綱渡りした後で、何事もなかったかのように会話を再開した。どうやら貴方にはこの程度の狂気はもはや簡単に振り払えるものなのだろう。
「私はここに来て良かったと思いますよ?」
椎名の言葉に貴方も内心、激しく同意する。やはり命の危機や戦闘が常に選択の中にある生活よりもこうした極普通の学校生活のほうが心が安らぐし、少しずつ狂気が薄れていく様な印象を受ける。
そうして椎名と話しているとチャイムが鳴り授業が始まった。肝心な学校の授業は、やはり国主導というだけあってか非常に分かりやすく質の高い授業である。だが、貴方は授業の合間節々に全ての先生が教室を見渡して何か書き留めていると目星を付けるだろう。
「───────は、──────となり、こうなる。」
そんな中、同じ様に授業を受けるクラスメイトは些か不真面目な所が目立つと分かる。椎名や幾人のクラスメイトが真面目に板書をしているのに対して、居眠りや小声での雑談など注意深く見ていたら集中を切らしている姿が目に入る。
授業の終わり。昼休憩のチャイムが鳴った教室はどこか緩やかな空気が流れる。貴方も手に持っていたシャーペンを片付けて伸びをしたその時だった。隣で机の上の片付けを終えたであろう椎名が声をかけたのは。
「お昼、行きませんか?」
貴方はその誘いに是と答えるだろう。広げていたノートを閉じ、ある程度机を綺麗にしてから貴方は椎名の隣を歩き出した。……やはり向かう先はなんといっても食堂だろう。
「相変わらず、凄い人ですよね……」
食堂。やはりそこは【高育】とだけあって非常に広く、そして綺麗に保たれている印象を受ける。そこでは多くの学生が席に座り思い思いの食事を取っているため美味しそうな匂いだけで食欲が刺激されそうになる。
食堂のシステムは発券機制であり多くのメニューからポイントを支払って頼む事が出来る。非常に高いモノから安価なモノまで多様で、やはりここでも無料の料理である【山菜定食】を頼む事が出来る。
「………また苧環くんはそれですか?」
券売機の前に立った貴方は、迷う事なく手慣れた様にひとつのボタンを押す。【唐揚げ定食】と書かれたそのボタンの下に書かれている値段は食堂のメニューの中では比較的安価である。
「ならこっちの【煮魚定食】とかにしませんか?」
同じ価格帯の定食シリーズの一つの食券を椎名はこちらに見せながら貴方に交換するかどうか聞いた。だが貴方の答えは否である。そんな貴方の珍しい断言する態度を前に椎名は少しむ…としながらも何かを思い出したかのように恐る恐る貴方に問う。
「そうですか………何か嫌いなモノでも、あるんですか?」
貴方はその問いに是と答えるだろう。なぜなら貴方は揚げ物や加工品ならまだしも焼いただけの肉や魚姿そのままを食べることを嫌っている。だがそれをそのまま伝える必要はない。貴方はある程度ボカした言い方で好き嫌いとして椎名の問いに答えた。
「…………まあ良いですけどね」
貴方は椎名の訝しげな視線を受け流して料理を受け取る。主菜に副菜。そしてご飯にお味噌汁と出来過ぎなぐらいの定食がそこにはあった。湯気とともに香る匂いはそれだけでも食欲を促進させるほどだ。
「「いただきます」」
貴方たちは比較的人の騒ぎが少ない所に座り手を合わせる。進む箸に躊躇いなどなく、貴方たちは昼ごはんに舌鼓を打つだろう。そうして思い思いの昼休憩を過ごす貴方たちは食堂でいつまでも駄弁る趣味はなく、互いに食べ終えるのを待ってから図書館に向かった。
図書館。そこは木を基調とした半円形に作られている施設である。立ち並ぶ本棚には多くの本が規則的に並べられており、この中から自分の欲しい本を探すのは何か機械が無ければ難しいと思えるだろう。
「「……………」」
だがただ本を読むだけなら貴方はわざわざ探す必要はないと適当な本を手に取り、読み始める。いつの間にか隣に座って本を読んでいた椎名と共に貴方はいつも通りの昼休みを過ごしていく。
そうしていると貴方は本を読み終えた。特に面白みのない中身だったのだろう。貴方は足早にこの本が並んでいた本棚に本を手早く返した。その後はやはり本をキチンと探すべきだと思い、近くの本の中に興味が惹かれそうなのが無いか目星をつけながら探す。……すると遠くから間違いなく貴方に近づいてくる一つの影を見つけた。
「おい、苧環。話がある」
貴方はその目の前の同い年らしい少年の声に振り向く。そこに立っていたのは丸刈りの少年である。どこにでも居るような容姿に少しばかり筋肉質なその姿にはスポーツ経験者である事が分かるだろう。そうして考えていると貴方は目の前の彼が同じクラスメイトである石崎 大地である事に気がつく。
貴方は目の前の石崎から恐怖と困惑の視線で貴方を見ていることに気がつくだろう。だがその恐怖心は貴方ではなく、他の誰かに向けられたものだ。まるで貴方はその恐怖がその“誰か”に強く痛めつけられた後のように感じた。
「あ、ああその放課後に……特別棟へ来て欲しいんだ」
貴方はその言葉に石崎が何かしら嵌めようとしている事に気がつくだろう。少し前に坂柳さんの娘さんから聞いた事のひとつに特別棟には見た感じ監視カメラが仕掛けられているところが少ないということも思い出した。
だが貴方にはそれを断る理由はない。いずれかそうなるかも知れないと閃いた貴方はこの話が長引く可能性を鑑みて、その誘いに受ける事にした。
「!そうか……ごめんな。苧環」
貴方はそう言って足早に立ち去っていく石崎を見送ってまた本を吟味し始める。だが、そうして話し込んでいた時間が長かったのだろうか?また貴方の後ろから近づく影に気がつく。椎名だった。
「今の何用だったのでしょうか……?」
貴方は先ほど石崎との間にあった会話を隠す事なく椎名に伝える。坂柳さんの娘さんとの会話に椎名もいた覚えがある。どうやら特別棟に呼び出すと言う意味が椎名にも伝わったのだろう。その瞳から警戒と恐怖の感情が見え隠れしている。
「待ってください……!そこは……!」
呼び止める椎名の声に貴方は優しく、今日の放課後は別行動で。そして何か危険な事があれば即座に先生に頼る様にと言いくるめて付いてこないようにと言った。
「ほんと、ですか?……信じて良いのですか?」
そうした椎名の追求をのらりくらりと躱して放課後。貴方は一応のため椎名には付いてこないようにと言うだけ言って、誘われた場所である特別棟へと向かった。
「よぉ待ってたぜ。色男」
特別棟。授業以外で近づく人はいないのか人気は無く、周囲に目の前に立つ3人以外の人は居ないのだと分かる。その真ん中に立つのは黒紫色の髪の同い年のクラスメイトである龍園と呼ばれている少年だった。
「照れるなよ。お前らの仲は有名だぜ?」
クラスとの関わりが薄い貴方にとって何用かは分からない。だがその龍園の両脇に立つ石崎と山田を見るに穏やかな感じではないと分かるだろう。
「……そうかよ。早速で悪いが俺の下に付け。苧環風雅」
そうして龍園を観察しているとどうやら喧嘩慣れしているように見える。だがそれでも間違いなく力では隣に立つ山田の方が強いというのに龍園に従っているように見える。
「ちっ、やっぱりか。でも、な?」
目の前の龍園が笑う。嘲笑うかのような龍園の様子に貴方はどうやら龍園は自分を従えたいというのが分かる。そうして従えるのにはやはり物理的に痛めつけるのが一番だと言いたげな様子である。その次の瞬間だった。
「痛みには逆らえねえだろ??……やれ」
戦闘開始だ。行動が最も早いのは貴方だが貴方は
「OK……sorry」
どうやらその次に接近してきたのは山田だ。山田のその恵まれた巨体から繰り出される拳が風を切る音は当たれば只事では済まないと容易に想像できる。だが貴方は慌てることもなく紙一重で回避を選ぶ。
「hmm………」
「龍園さんの命令だ……!おらぁ!」
そうしているとその後ろから石崎からも拳が繰り出される。山田ほどの威力はないが少なからず握り慣れているその拳に当たれば普通の人間は怯んでしまうだろう事が容易に想像できる。だが貴方はまた慌てることもなく紙一重で回避した。
「よぉ。俺も混ぜろよ」
その瞬間、貴方を目掛けて龍園から不意打ちと言わんばかりのキックが飛んでくる。その不意打ちは間違いなく山田と岩崎の攻撃から回避したが故に貴方は反応できない……そうなる筈だった。
「ちっ……舐めてやがるな。テメェ!?」
まるで貴方は龍園から攻撃が飛んでくることを最初から知っているかのような反応速度でまた龍園からのキックをいなす。慣性と威力を完全に把握した上で龍園へのダメージも無いように受け流した貴方の行動に龍園も気がついたのだろう。
「こいつただ目が良いだけでは……?」
「NO……he is a good fighter」
だがどうやらそんな貴方の身を守る以上の事はしない行動に気がついたのは龍園だけでなく山田も分かったらしい。どうやら貴方のことを良いファイターだと褒めながら握る拳は遂に構えて貴方に向けられる。
仕切り直しだ。勿論この間にも隙があるが貴方はまた
「………やっぱりな」
だが貴方はその2人の攻撃に先程と違い、余裕そうに回避するだろう。あまりにも軽やかに避けながら歩くその姿。そして貴方は2巡された中で計4回も攻撃も防御もすることなく、ただ行動を遅延し続けたことを見破られた。
「だが、いやでもやる気出して貰うぞ……なあ?」
「椎名ひより」
貴方は目の前の龍園があくまで脅迫のためにその名前を出したのだと分かる。簡単な挑発だとも分かっている。それでも貴方は目の前の
─────戦闘は、継続します。
入学式から二週間近くの時が過ぎた。どの学生もクラスでの立ち位置が決まってきてグループなどと言ったふうに自然と交友関係が固まりつつあるこの頃。ここ、1-Cではある種の触れてはならない2人組が出来てしまった。
「ねえねえ苧環くん、この本……」
「多分椎名さんのいう様に……」
その名前も苧環風雅と椎名ひよりという男女2人。触れてはならないのは2人がまるでカップルの様に見えるから?それとも空気が2人で完結している様に見えるから?勿論そういう理由もなきにしもあらずだろう。……だがやはりなんと言っても1番の理由は2人の顔面偏差値の高さにあった。
クラスのマドンナでも十分通用するかの様な椎名ひよりに、初めて見た時は女にも見えるリアル男の娘とまで言われた苧環風雅の常に一緒に居る姿は非常に絵になる。それも誰も割り込む気がなくなるぐらい2人は常に一緒にいる姿を見ると噂になる程だった。
「あ……先生来ましたね」
「じゃあまたあとで」
しかもそのカップル顔負けの距離感だというのに、授業中は集中して授業を受けているという公私を完全に分けた2人の関係性には誰も突っ込む事ができず二週間、このクラスの誰もが、触れられない…というより誰か話しかけにいけよと全員が全員で促しているからこそこの2人の周りには空白の空間が出来上がった。
更に噂を深掘りしていけば苧環と椎名とあと1人、女子が一緒に歩いている姿を見かけた事があるなど密かに1-cでは噂になっているのが現状であった。勿論、苧環も椎名も互いに互い以外の関係を築いていないという関係からこれら噂の真相も誰も分からない。
「……へえ。良いな。こいつ」
だが、そんな噂と空白も良いことだけではない。多くの衆目を集める噂を元に悪しき人が手を伸ばさないとは限らないし、空白も悪く言えば孤立だ。…事実、2人はクラスの力関係など全く理解していないのだから。
「早速話を付けるぞ…力を貸せ、アルベルト」
「yes BOSS」
そうして彼らに近付く影がひとつ、ふたつ。そして……みっつ。
この学校に入学して、そして同志を得て二週間という時間しか経っていない事に私は…椎名ひよりは驚きました。二週間およそ14日336時間というあまりに短いと言える時間しか私は苧環くんと過ごしていないのに、何故かもう年単位で付き合いがある様に感じます。
一瞬がまるで数ヶ月過ごしたかの様に短くも長く感じる鮮烈とした時間。どこかの小説の心情に書かれているかの様な永遠の刹那を私は今、感じているのだと思えばやはりこの出会いは、この学校への進学を決めたあの日の私を一番に褒めたいと思えるほどです。
そんないつもの日でした。いつもの様に借りた本を苧環くんと共有して読んで、登場人物の心情や、どこに共感したなどと話しながら雑談しながら過ごしていたある日のことでした。
「つまらないな」
「?何か言いましたか?」
ふと本から顔を上げた苧環くんが遠い空を見て何かを呟いたのが聞こえました。なんて言ったのか、私に向かって言ったのか。つい直前まで本に集中していた私は不運な事に分かりませんでしたが苧環くんが何かを言ったのだけは分かりました。
「慣れない環境で……少しだけ家が恋しくなっただけ」
「ふふっ。苧環くんでもホームシックになるんですね」
少し恥ずかしそうにはにかむ苧環くんを前に少しだけ私は驚きました。なんでもそつとなく熟してしまいそうな苧環くんにまさかホームシックだなんて可愛い弱みがあるとは思いませんでしたから。少しばかり頬を赤らめる苧環くんの顔は初めて見ました。
「椎名さんはそうでもない?」
私?私ですか?…そうですね。私はここに来るまでは本さえあれば大丈夫だと思っていましたし、そうでした。でも今は違って貴方との過ごす時間がとても心地良くて、楽しくて、ずっと期待している状態です。だからこそ私が出す答えはひとつだけでしょう。
「私はここに来て良かったと思いますよ?」
これが間違いなく、私の本心だから。
『キーンコーンカーンコーン』
やはりこのどこか気の抜けそうになるチャイムの音はどこも変わりないのでしょう。カチコチに固まった肩をほぐしながら私は即座に隣に座る苧環くんの方を見ます。流石に授業中は自重してますが今からは昼休み、昼ごはんの時間です。…私はいつもの様に隣に顔を向けて苧環くんをいつものように誘います。
「お昼、行きませんか?」
「……ああ、行こうか」
ほぼ同時に私たちは立ち上がって向かうべき先は食堂です。どうやらクラスや他クラスの人の話を聞き流していると、既にポイントを使い尽くしている人までいるのだから驚きです。何かあった時なんて考えないのでしょうか?とそう思っていたら食堂に着きました。
「相変わらず、凄い人ですよね……」
「でも凄い広さだよな」
そこには既に多くの人がご飯を食べています。人酔いしそうなほど人がごった返した波を抜けて、私たちはようやく食堂でご飯を食べるための食券機の前に立つ事ができました。……今日は何にしましょうか。昨日はお肉にしたので、今日は魚にしようと【煮魚定食】のボタンを押したところでした。隣で昨日と同じボタンを押した苧環くんがまた今日も押したのです。
「………また苧環くんはそれですか?」
「そうだが……旨いぞ?」
確かにここの料理はどれも美味しいです。定食ひとつ取っても副菜も豊富で栄養価は満点でしょう。ですがそれでも苧環くんのその頼んだ【唐揚げ定食】は私が知る限りですが食堂を利用してからその殆どでこのメニューしか頼んでいないのが分かります。たまーに麺類や【山菜定食】を食べているのは見ていましたが、それでもこの定食を頼む回数は度を越しています。
「そうですか………何か嫌いなモノでも、あるんですか?」
「まあ、な。少しばかり好き嫌いは多いかも」
飽きが来ないのでしょうか。それとも何か理由でもあるのでしょうか?ジーッと苧環くんの目を見ながら聞いたところ、何か隠したそうなのが分かります。ですが少なくとも苧環くんが言った好き嫌いというのは嘘のようです。
「…………まあ良いですけどね」
きっと何か理由があるのでしょう。別に今それを問い詰めても良いですが、それが理由で仲が拗れるとか考えると想像するだけでも嫌なのでもう少し証拠を集めてから聞くべきか考えた方がいいかもしれません。ですが少しばかり苧環くんの事が分かったのは行幸でしょう。
「「いただきます」」
──────どうか、この永遠の刹那がいつまでも続きますように。
「よぉ待ってたぜ。色男」
ある日の放課後だった。授業がなければ人気も無い特別棟に集まったのは1-Cで噂になっている渦中の1人である苧環風雅だった。どうやら目の前の黒紫色の髪の青年である龍園が苧環の事を呼び出したのだと容易に想像できる。
「何用でしょうか龍園くん。……そして色男って……」
「照れるなよ。お前らの仲は有名だぜ?」
どうやら苧環は龍園の事を知っていたらしい。龍園からの呼び出しに怯える姿も、困惑する姿も見せず特別棟の一室に姿を現した。警戒さえしていないのはどこか平和ボケしているようにも見えるだろう。
「照れてはいませんが……しかし何用で?」
「……そうかよ。早速で悪いが俺の下に付け。苧環風雅」
龍園には少なくともそう見えたのだろうが、いずれ1-Cの王となる予定の龍園にとって噂の2人は配下に加えておくと必ず使えると思っている。だからこそ、今日苧環と話を付けに来たのだろう。龍園だって鬼では無い。従う存在にキチンと利益も出すまでが王であるが故に。
「お断りします。……最低限クラスの貢献はしますので」
「ちっ、やっぱりか。でも、な?」
やはり言葉だけでは相互理解は難しいと龍園は笑う。とは言え、やはり既にクラスの事へと言う辺り悪知恵は同じぐらい働くと見ていいだろう。と龍園は笑みを深める。……ああ、やはり尚更早めに従えておきたい。と少し前に従えた石崎とアルベルトもとい山田に龍園が首の動きと共に命令を下す。
「痛みには逆らえねえだろ??……やれ」
言うなら傷にならない程度に痛めつけろ。という残酷なまでの命令。単純計算でも三対一。という数の有利も取り、その上でただでさえ筋肉と身長で圧迫感のある山田アルベルトという圧倒的な戦力がある。
「OK……sorry」
「龍園さんの命令だ……!おらぁ!」
この場にいる苧環を除く誰もが一発殴れば終わりだろうと考えていた。…というより一発殴って出来れば穏便に終わってくれと石崎も山田も思っていた。ボス…龍園の命令で殴るとは言え、女にも見える華奢な美人を殴るなんてどう考えても気が引ける上に、こちらが圧倒的に悪役がすぎるのだから。
「ちっ……舐めてやがるな。テメェ!?」
だが、そんな予想に反して苧環は見事なまでに避け続ける。この時、ようやく山田は理解したのだろう。少なからず彼も鍛えている。その顔に惑わされたが、その本質は冷酷に気を伺うファイターの様だと敬意を表して山田は構えた。
「だが、いやでもやる気出して貰うぞ……なあ?」
だが、そんな敬意とは裏腹に、まさかここまで、ここまで逃げることだけを選択し続ける腑抜けだとは思わなかったと龍園は用意していた絶対苧環が従う禁断の言葉を口にしてしまう。それが地雷であると分かった上でなんとかなるそう思っていた龍園の慢心が、最悪までの引き金を引いた。
「椎名ひより」
どうなってもいいのか。そう龍園が口にしようとした瞬間だった。苧環の雰囲気がガラリと変わる。龍園は気がつくべきだった。今までこの3人相手にただ逃げ回っていたその理由を。腑抜けだから?ただの臆病だから。
……そうでは無い。ただ、拳を振るう理由が無かったからだ。
「リ・リ」
不思議な笑い声をあげて目の前で苧環は嗤う。
まるで目の前の三人の愚かさを嘲笑う様に、見下すかの様に
《SKP用のハンドアウト 狂気編》
名称:一時的狂気・平和恐怖症
効果:発症時0/1d3のSAN値チェック
発症者:苧環風雅
詳細:貴方は一時的に恐怖に侵食されてしまった!その狂気はふとした瞬間に貴方を蝕む病の様なものだ。その病は貴方が平穏な生活で過ごせば過ごすほど蝕む。かと言って狂気が心地よいとは感じないだろう。出来る限り平穏に慣れる他、この病を抑える方法は無い。
《この世界のハウスルール 戦闘編》
①回避や受け流し等の身を守る行動は何度も選択出来る。だが
②行動遅延選択時、好きなタイミングで行動を割り込む事が可能になる。尚この割り込み行動は決定的成功が発生せず、致命的失敗の場合は
そろそろ主人公の厄ネタが分かりそうですね。
では次回『逆鱗 ー下ー』おそらく次回はクトゥルフ色が一気に強くなりそうなので注意です。
それでは感想、評価お待ちしております。