ようこそ熟練探索者が居る教室へ   作:ネマ

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遅くなりました

大体シナリオとダイスのせいです。
やっぱダイスの女神は邪神なのではとボブは訝しんだ……

みなさんいつも感想ありがとうございます。
これからも感想、評価お待ちしております


おお、信ぜよ我が心

 

 

貴方は目を覚ます。

いつも通りの不快で、不愉快な朝に瞳を擦ることだろう。どんな夢を見ていたのか、或いは夢を見ることさえもう出来ないのか。

 

けど懐かしい夢を見た気がすると貴方は珍しく寝起きにスマホを見る。だがそこにはただ貴方の触れた手に反応する無機質なプログラムだけ。高度なAIみたいな反応を返してくれることなど万が一にもあり得ない。

 

「………………」

 

そう。あり得るはずがない。

貴方はようやく何かを見るわけでもなくただ持っていたスマホを置き、朝の支度をするだろう。ベッドから立ち上がり、学生寮にしては広く、新品なこの部屋にやはり国主導の学校は金がかかってるなと朝の寝ぼけた脳内でふと考える。

 

そうして貴方は今一度部屋を見渡す。

最低限の家具家電に、机の上に広げられた勉強道具と乾燥させられている数枚の皿だけがこの部屋に辛うじて生活感を与えている。貴方以外いない部屋、1人の静寂が満ちたこの部屋で貴方は小さくあるものに挨拶する。

 

「………おはよう」

 

それこそが今貴方の手元にあるペンダント。星型が刻まれたそれに貴方は声をかけるだろう。愛おしげに優しく模様をなぞり、そして首から掛ける。毎朝律儀に連絡を入れてくる椎名や坂柳さんの娘さんからの連絡に返答しながら、貴方は手慣れたようにインナーゼリーを飲む。

 

ここだけの話だがここでは味さえ気にしなければ業務スーパーで一山いくらかの栄養を摂るための補助食品は売られている。裏技みたいなものだが()()()()()()美貌を持つ貴方にとっては、より安く卸して貰う事など難しくない。

 

(…………まあ、体に入るなら一緒か)

 

とはいえそんなただでさえ一山いくらの食品なぞ味が高が知れている。幸福感、だとか満足感というのを敢えてパラメータ化したら最底辺を記録するだろう。だが今の貴方にとっては簡単に手の入る最も安価で手軽な食べ物だ。

 

軽くディストピア飯じみた彼の食生活だが、人が見ていないところなどその程度だ。最低限、人間としての活動に支障がないなら貴方にとってそれは価値の低いものになる。

 

「………いくか」

 

そうして朝の時間を潰していると、貴方は次第に登校する時間になってきたと気がつく。学校と寮の距離はそう遠くない。走ったところで十分も掛からないほどだ。

 

とはいえ貴方は朝からそんな体力を使いたいわけがない。鞄に勉強道具と本を入れてエレベーターで下まで降りる。気がつけば、いつの間にかロビーで待つ貴方の友人がいた。

 

「おはようございます。良い朝ですね」

 

「おはようございます。ちゃんと朝御飯食べましたか?苧環くん」

 

坂柳さんの娘さんと椎名が貴方を待っていた。瞬間的に判断してしまう、その姿形に変わり無い事に心のどこかで安堵し貴方はその顔を見るだろう。

 

変化はない。変わりない。

その目を覗く。その心を暴く。貴方は神域にまで至るほどには対象の心を読み取る心理学というものに長けている。だからこそ、貴方はこの少女たちが平常であることを毎朝確認してしまう。

 

「おや、苧環くん。朝食は1日の活力ですよ」

 

「今度は朝ごはんを一緒に食べますか?」

 

そんな貴方の確認など意にもかけずに少女たちの話は進む。ついに椎名から朝から晩まで寝るまで一緒にいます?という中々に冗談には聞こえない提案に、坂柳さんの娘さんが今度一緒に朝ごはん食べないかと計画を立てていると勘違いして乗ってこようとするだろう。

 

貴方にとって別にシェアハウスに特別拒否感があるわけでもない。この学校に来る前は少ない時間を戦友…いや最早盃を交わした義兄弟姉妹と短くとも濃厚な時間を寝食を共にして過ごしたことがある。

 

最も、もう貴方1人しかあの家には残っていないが

 

「そうですか、残念です」

 

「やっぱり仲良いですね。お二人は」

 

貴方はそれとなくやんわりと断ると、それが否定である事に椎名が気がついたのだろう。露骨に肩を下ろす彼女を見て坂柳さんの娘さんが小さく微笑む。

 

そうして雑談に花を咲かせながら進んでいくと、次第に話の内容はこの学校の話題に転換することになっていった。どうやら、どこのクラスにも指導者・リーダー格の存在が現れるようになったという話だった。

 

「Aクラスは葛城くん、Bクラスは一ノ瀬さん。そしてCクラスは」

 

「龍園翔。彼の暴力的な支配、ですね」

 

生命というのは群れると上下を作りたくなるのは世の摂理である。それは顔の良さであったり、腕っぷしであったり、カリスマであったりと理由は多種多様様々ではあるが上に立つ人物による傾向というのは見えてくる。

 

Aクラスは体育会系の少年がリーダーとなっている。だがその方針は足元を固める堅実的なモノであり、些か攻勢に欠ける。となればと貴方は坂柳さんの娘さんの顔を見るだろう。

 

「どうかしましたか?苧環くん」

 

楽しげな坂柳さんの娘さんの顔。その顔に邪気と悪意と憎悪マシマシチョモランマ天馬ペガサス盛りマックスを見たことある貴方にとっては可愛いモノだが、やはり坂柳さんの娘さんは現状のクラスにご不満な感じらしい。

 

これは真実が明らかになり次第、反旗を翻すのだろう。それまでこの目の前の少女は自分の手足となる存在を多く作るつもりなのが見て取れる。Aクラスの待ち受ける波乱に貴方は小さく心の中で黙祷して忘れた。

 

「一ノ瀬さんは…人気がありますね」

 

「ええ。私のクラスにまで噂が広まっています」

 

Bクラス。どうやら少女たちにもその話題は広まっているらしく、一ノ瀬という少女を中心としたグループが出来上がっているらしい。カリスマ性か、それとも極端に顔が整っているのか……或いは

 

何かしら、外法で注目を集めているのか。

たった数週間でいくら小さなクラスという群れであろうとも統率を取るというのはどこか貴方が今まで関わってきた事のあるカルトを思い浮かばせる。思い出すだけでも強い不快と憎悪に包まれるのを強引にねじ伏せる。

 

「いえ、私は苧環くんとずっと一緒なので…」

 

「私もお友だちと過ごす時間に取られているので」

 

しかし、他人への感情に干渉する魔術や外宇宙の技術など特段珍しいものではない。と貴方の脳内にある冒涜的な知識から思い当たるのをいくつか並べてみる。手にいれる事が難しい代物から、運が良ければ簡単に手にはいるものまで。

 

貴方にとって何かに魅了されている人間というのは一目で分かる。それが通常では考えられない唾棄すべき外法であればあるほど。それ故に、貴方は二人に接触したかどうか聞いてみたがどちらとも否と答えられてしまった。

 

接触していたら、敵かどうか判別できただろうに

 

「それでやっぱり」

 

「はい。Cクラスのことですよね」

 

だがそんな貴方の警戒をよそに、話の話題は貴方たちのクラスであるCクラスに移る。とは言えCクラスは逆に語ることが少なすぎる。貴方や椎名が所属しているクラス故にその動向は語るまでもないが

 

強いていうのなら、龍園がクラスの中で勢力を伸ばしている。ということだろうか。その手段はおおよそ多くの人間が嫌う暴力という手段に則ったものだ。

 

「中々表には出ないように、ああ見えて頭が回るようですね」

 

「この前だって、明らかに監視カメラがない場所を狙っていましたもんね」

 

2人の愉しげな、悔しげな口調とは裏腹に貴方にとってはまあまだお行儀の良い手段だなと及第点を勝手にラベル付けする。クラス争いには一切関与するつもり無かったが、もしかしたらと貴方の中の暴が鎌首を持ち上げる。

 

あちら側(一般人)とこちら側(探索者)の大きな違いを挙げろというのなら、そこだ。同じ姿形をしている相手でも、いや相手だからこそ自分の価値観だけを指針にして殺害することも厭わない血生臭い事に慣れてしまったタガが外れたような連中。

 

一言でわかりやすく言うのならひとでなし。

己の目的を果たすためならばどれほど犠牲が重ねても気にすることはない破綻者。

 

「まあそういうのを好むのを集まりますよね」

 

「私は嫌です。巻き込まれないならいいですが」

 

そう考えると龍園の行動は十分、分かりやすいといえるだろう。暴力による恐怖による統制。恐怖というのはわかりやすく人を縛る方法であり裏切りを出さないのには適しているとも言える。

 

だが貴方にとってはその恐怖政治の先が見えてこない。が、どうやら坂柳さんの娘さんが何かに気がついたようだ。本当に面白そうに愉しそうにこの学校で遊ぶのが楽しみな顔に比べて顔を顰める椎名のなんとも一般的な反応のことかと落ち着くだろう。

 

 

「それでは、またお昼に」

 

「はい。苧環くんといきますね」

 

そうして歩き進むこと少し。学校に着いた貴方たちは坂柳さんの娘さんと別れる。今更だが貴方と椎名は同じクラスメイトである。まさかこの学校に来るバスでの一瞬の出会いがまさかここまで長続きするとはと貴方は少し感慨深く感じるだろう。

 

そうして貴方は授業が始まるのを待っていると、後から龍園が入ってくる。隣の席に座っていた椎名がピクリと肩を揺らして警戒しているのに貴方も警戒を少しだけするが向こうはこちらに敵意どころか関心もないことが理解できると同時に貴方の警戒も萎んでいくだろう。

 

「…………大丈夫、ですか?」

 

貴方の鋭い聞き耳が怯えるように揺れるその目でこちらを見ている椎名からの声を聞く。しかしまあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と貴方は心の中で椎名を皮肉りながらも問題ないと首を横に振る。

 

そんな貴方を見て椎名は安心したのか、小さく呼吸を整えると勉強のために心を入れ替えたように見える。貴方はそんな彼女から視線を外して龍園たちを見ると石崎、山田からは心底怯えの色が見える。それに比べて龍園はまだ懲りていない様にも見える。さてはて、どうなるのか。そう考えていた矢先だった

 

「みなさん。おはようございます」

 

チャイムがなるのと同時に担任である坂上先生が入ってくる。

いつも通りの変わらない仏頂面の先生。だが貴方はその顔、或いはその少しだけ張り詰めた様な雰囲気に目を細める。だが思い返してみてもその雰囲気に見覚えはないし、その心を覗き見ようとも失敗した。

 

一体何が起こるのか。

ただ間違いないと言えるのは、これから始まることが血と冒涜で満ちる凄惨なデリブルデイではないという事。だが逆に返せば貴方の直感は、過去は、技能は全てそう言った事にしか真価を発揮できないという一般人とは遠くかけ離れた事柄のためにあると言っても過言ではない。

 

「……ああ、そうそう。本日、これより抜き打ちテストを開始します」

 

そうして特に記憶に置いておく必要もない連絡事項の後に、坂上先生はこの瞬間を待っていたとばかりに試験の告知を行なった。この後一限目から始まる事前告知なしの小テスト。

 

不満の声が上がるクラスに坂上先生は軽く笑いながら今までの復習の簡単な問題のテストのため容易だとフォローを入れた。……どうやらそれについては嘘をついていない様だと貴方は密かに小さく安堵する。

 

「どうしましょう。ビックリしましたね」

 

テスト開始まで少し時間がある間に、椎名が貴方に話しかけてきた。

おっかなびっくり、といった感じに困惑を顔に浮かべて椎名は首を傾げる。まさか抜き打ちのテストがあるとは思っていなかったのだろう。普段から貴方たちは勉強したり放課後に教え合ったりしていたがそれでもテストとなると憂鬱である。

 

そうして準備をしていると貴方は廊下からの音を拾う。

その声に聞き覚えはないがどうやらDクラスの貴方たちと同じ様な困惑の声が上がっているのが聞こえた。柔軟な発想ができる貴方にとってはそれが同じ抜き打ちテストから来る悲鳴だと勘づくだろう。

 

「……どこのクラスも驚いていますね」

 

抜き打ちなんだから当たり前だろうという気持ちと、貴方はそういえばと自分の過去から何かを思い出そうとアイデアを捻る。……ああ、そういえばとクラスでも授業をまともに聞いているというのは数えてわかるほどであった気がする。

 

授業に遅刻しても欠席しても何も言われない。更には、授業中明らかに気を抜いていても、スマホを触っていても何も言われていない現状だけを見れば堕落するのは当たり前か?と貴方は忘却しかけていたここでの周囲を思い出し首を捻る。

 

「多分、私たちは大丈夫ですよね」

 

国主体の学校であるはずなのにこの緩さは貴方の中にある違和感を刺激する。それも椎名の安堵と共に同意を求める声さえもおいて貴方の思考時間に伴い、貴方の知覚する時間が極限まで引き延ばされる。

 

それでも答えは出てこない。何百、何千と振り直そうとも貴方の思考の中からも、天啓的とも言える勘の中からもこの違和感に対する解とも言えるアイデアを導き出せない。

 

「テストを開始してください」

 

貴方はどこか俯瞰した視界のままテストが始まる。テストを回答する手は止まらない。これぐらいの知識なら考えるまでもなく答えが出てくるほどには問題はない、が。貴方は問題を解いている最中に手を止めるだろう。

 

(ああ、なるほど)

 

最後の3問だけは、様子が違う様だ。と貴方の瞳はその異変を見逃さなかった。

今までの問いはただの問題。知識があれば解けるがこの3問だけは解けない。解かせない様にとできている。差し詰め【問スター】というべきだろうか。

間違いなく攻略難易度は大学受験級の問いを今この明らかに意識が緩んでいる抜き打ちテストに持ってきた意味などひとつしかない。

 

(………警告、か)

 

解けなくてもいい。だが学生の本業を忘れるな

といったところだろうか。これを解ける解けないで学校は実力者を明らかにしようとする。ありふれた手段だが、効果的だ。隠れた実力者を炙り出すには最も良くできたやり方すぎて貴方は眩暈がしそうだ。

 

そう、貴方は考え込むように動かす腕を止めその3問を熟考し、わざと間違えるように回答する。貴方はその時、不自然な感覚と共に回答に隠した意思は誰にもバレないだろうという力量の上昇を感じた。…貴方は平々凡々を望んでいる。それが例え届かぬものだとしても

 

「はい。テストを終えてください。これ以降の筆記具の所持はカンニングとして判定します」

 

そうして、貴方たちはテストを終えるだろう。

周囲からは安堵する声や諦め開き直る声、その殆どがテストから解放されたことによる悦びが見て取れる。だがそのどれもが貴方が警戒する様な意図を持つものは居なさそうだと貴方は小さく目を伏せるだろう。

 

「お疲れ様です。苧環くん、どうでしたか?」

 

貴方は手早く片付けながら、隣から声をかけてきた椎名と会話する。

テストが終わったことによる安堵、気になる問題の解答やこれから何をして過ごすのか。そんな事を話していると貴方の耳は1人の足音が近づいてきているのが聞こえた。

 

 

「よぉ、優男。少しお話ししようぜ」

 

 

──────目の前には龍園が立っているのだった。

 

 


 

 

最近は朝が楽しみだと私は、椎名ひよりは1人微笑みました。

勿論その理由などひとつしかありませんが敢えて言葉にし直すというのなら私の最愛の同志という存在が大きいわけです。今までで最も理解の近くにいて遠い彼。緒環くんと同じクラスで隣の席という幸福は今までにないぐらいの充実感と満足を感じています。

 

今朝だってそう。今までは最低限、不自然ではないようにとだけお洒落には興味ありませんでしたが、今ではどれほど緒環くんにお洒落な私を見せられるか。を考えては色々と触れてこなかったファッション紙にも手を出すようになっていました。

 

(ああ、緒環くん……)

 

よく表現としてある女は恋をすると可愛くなる。というのはきっとこういうこと言うのでしょう。きっと誰かひとりに見てほしいから自分を美しく着飾ろうとするのです。

 

……あ、今ふとつまり私もそういうことなのじゃないかという声が聞こえたような気がしますがあくまで私と緒環くんは超親友であり同志であり、魂で繋がれた運命であるというだけです。そんな恋だなんて、それはまた別の話です。

 

「……!苧環くんからですね」

 

毎朝連絡した時に返信が返ってくるタイミングで、大体緒環くんの朝が掴めてきました。いつ起きるのか、いつ何かをしていて手が離せないのか、そしていつ部屋を出て学校に向かうのか。

 

とは言え、素人の探りではおそらく〜やきっと〜が枕詞に入る程度の結論しか出せません。たった数週間の間で連絡したタイミングと返信が来たタイミングを見計らっているだけなのですから。

 

「お、は、よう…ございます…っと!」

 

ですがどうやら運命は私に味方したようです。程よい距離感を保ちつつ親しく苧環くんにとって当然の存在になれるように今日も飾りっ気は無いですが連絡を続け続けます。

 

そんな苧環くんからの返事はどこか堅苦しい、悪く言えば遊び心が無いように見えますが同志である私ならこの言葉に変わらない思いがあるのがもはや感じ取れるようです。

 

「ふふ、今日も」

 

良い1日になりそうですね。

そう口ずさみながら私は髪に手を伸ばす。最近はこうして己を彩る事にも興味を持ち始めました…いえ、貴方に見て欲しいから。貴方に美しい自分を見せたいというのは何よりも大きな変化なのでしょう。

 

この変化を美しい。と思っている私はきっともう逃げられない。1人でいるよりも素晴らしい時間だと、この時間が永遠に続けば良いと思う私は、かつての自分には戻れないのでしょう。

 

 

「……おや、おはようございます」

 

「おはようございます」

 

そうして下に降りて苧環くんを待とうとしたところでした。目の前にはすでに私の()()()()である坂柳さんが立っていました。聞いた話によればいつもなら彼女は周囲に人が居るはずなのですが見当たらない気がします。

 

「今日は私1人ですよ。苧環くんとの貴重な会話時間に誰彼を呼ぶつもりはありませんから」

 

「………そうですか」

 

そう言って微笑む彼女。悪意がないように見えることが何故だか恐ろしいようにも見えて、背筋とも言えぬ私の芯のどこかが恐れるように奮い立つようにこの目の前の少女を強く意識する。

 

坂柳さん…とっても優秀な方だと知っています。Aクラス所属という中でも特に異彩を放つ彼女は脚の不自由というモノがありながらも、そのハンデさえもハンデのならないほどの輝き。そして何よりも

 

私の次に苧環くんを見出したこと、です

 

(末恐ろしい。本当に)

 

「昨夜はとっても良いモノが見れましたね。椎名さん」

 

「………なんのことでしょう?」

 

そんなことを考えていたその時でした。話題を変えるように一歩坂柳さんがこちらに踏み出してくると同時に笑みを浮かべて口にしたその言葉の意味。笑顔とは本来威嚇であるとはよく言ったものです。

 

強く、今もずっと瞼の裏に焼き付いて離れない僅か昨日の事。月のように美しく、そして天女のように華麗に空を踊り、瞬く間にあの3人を叩きのめしてしまう一本の矢のように強く美しい武は、本来なら血生臭くなる暴さえも美しく見えてしまう。

そんなまるで運動した後のような変な興奮に水を指すような坂柳さんの言葉。

 

「おや。隠さなくても宜しいのですよ。…ああ、それともこう言いましょうか?」

 

「…………」

 

ポーカーフェイスは出来ているでしょうか?自分でもわかりませんが、ただ心底面白がっているように全く笑っていない目で笑い声を上げる坂柳さんがまるで耳元から毒蛇が毒を流し込むように小さく、それでも私の耳はとても大きく響くその引き金の音を聞いたのです。

 

「私と一緒の……覗き魔さん?」

 

「………っ。自己紹介ですか?」

 

あの場所には本来、緒環くんと龍園、山田、石崎の4人しかいないということになっています。…が、確かにその場には5人目がいたのです。ですがまさかその5人目さえも知らない6人目がいるとは思いもよりませんでした。

 

苧環くんはこれを知っているのでしょうか?…いえ、知らないはずです。あの場所には本来私もいないはず。だというのにこうして坂柳さんが接触してきたことにはなにか意味があるはず。……落ち着け私、見間違うな。坂柳さんが今の私に近づいてきた意味を探せ。

 

「言い得て妙ですね。…いえ、今回はそんな事を言うためにわざわざ明かしたわけじゃありません」

 

「それじゃ、一体…?」

 

その皮肉を面白そうに笑う坂柳さんの顔。その笑みには一切の邪気が見えないことがあまりにも恐ろしく感じます。清々しい微笑み、まるでそれは……何かに狂った様な全ての価値観が歪められた後のような、そんな恐ろしい笑み。

 

「単純明快に行きましょう。……椎名さん。私たちであの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「神?ですか?」

 

最初、一体誰のことを言っているのか分からなかった。己が天才だと自負があるような人がまさか本当に本心から神という人を超越した存在がいるのだと、あまつさえそれを信仰を広めるなんて嫌なカルトに染まってしまった人みたいなことが口から出るなんて思いもよらな──────

 

……まさか、坂柳さんの言う神というのは

 

「はい。そうですとも神…あれは最早神と呼んで差し支えないでしょう。人智を超越したその力、彼の目の前では千年の芸術品でさえ塵芥と同価値にしてしまう魔性とも言える美貌!それは天才という言葉さえ貶める地上に落ちた神そのもの…いえむしろその名前は“無─────」

 

なに を 言っているのですか?

 

「……あの人は、苧環くんは神さまなんかじゃありません!!」

 

嫌でも理解させられると同時に、何故か頭の中の思考は冷え切って目の前の坂柳さん、いえ。狂信者とも言って差し支えないその顔を観察する。喜悦に染まったその頬も、瞳に宿る剣呑な光と同時に存在する澄んだ輝きも。全て、全てその歪んだ顔に

 

私は、気がつけば自分でも出したことのないような声色と叫びを吐き出してしまった。

いつもの自分とは思えない、いや今自分が吐露してしまったこの激情が自分でも信じられないと、自分で自分に驚いている前で坂柳さんが少し目を丸くした後、同じように嗤う。

 

「…………へぇ。それでは彼は一体何になるのでしょう。天才?怪物?悪魔?…ああ、それとも天使、でしょうか?」

 

「苧環くんは… 苧環くんです。けしてそんな人ではない言い方で片付けて良い人ではありません!」

 

苧環くんは神さまなんかじゃないのだ。

あの人は例え何か特別な力があるとしても平穏を望んで、普通を祈っていたはずだ。私たちはそれを知っている。それを聞いているというのに…!貴女はその上で、苧環くんを望まぬ道へと手まねこうとしている。これは絶対に許してはいけない事だと怒りが胸の中で燃えています

 

「どうやら椎名さん。…私は貴女を高く評価しすぎたようです。貴女にならきっと私の言いたい事を理解していただけると確信していたのですが」

 

「見当の違いですね。……今わかりました」

 

今わかりました。私のこのずっと背筋に走るような悪寒が貴女が私たちの平穏を乱す敵なのだと、目の前で大袈裟にため息を吐く坂柳さんが本気であるということにいやでも理解させられる。苧環くんにこんなところなど見せたくないのは互いに同じなのでしょう。だから朝のこの時間に貴女はわざわざ1人でに接触しに来た。

 

「坂柳さん、いえ。坂柳有栖……貴女は私の敵です」

 

「……面白い。椎名ひより。貴女はきっと私の最後の敵になるでしょう」

 

これは神として、苧環くんを表舞台に立たせたい坂柳さんと…ただのクラスメイトとして日々を共に過ごしたい私との戦いになる。言うなれば信仰の違い解釈違いだ。…これの解決方法は、もはや互いに自分の意見を通し、相手を屈させる以外に方法はない。

 

だからきっと私は今のままではいられないのだと強く実感する。

この時間を、この幸福な時を続けるために今までの私とはおさらばして苧環くんに胸を張れるような新しい自分にならないといけないのだと目の前で不敵に笑う坂柳さんに私の喉が鳴る音がやけに大きく聞こえたのです。

 

 

 


 

 

 

 

「はぁ……ここまで来たけど、失敗だったかなぁ?」

 

そのピンク色の髪を指に通しながら、その少女は教室の窓際に腰掛ける。空を見上げるその少女の美貌はモデルとして今スカウトされても瞬く間に人気者になってしまうほどだ。だがそんな美少女の顔にはどこか憂鬱げな表情で、その青い目は曇りながら空を見上げていた。

 

「一ノ瀬さーん!」

 

「…はーい!どうかしたのかな?」

 

そんな少女のその胸には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がかけられているのだった──────

 

 

 

 






《????????ダイス結果》

綾小路清隆 成功
堀北 鈴音 成功
櫛田 桔梗 成功
龍園 翔  成功
椎名ひより 失敗
葛城 康平 成功
坂柳 有栖 失敗

一ノ瀬 帆波──────



  97 > 致命的失敗ファンブル




ここで、SKPのみなさまにお知らせです▽

名前:椎名ひよりより世界調イデオロギーが確認されました▽

イデオロギー:
決意を開始する。覚悟を入記する
これは私の覚悟です。例えこの先にあるのが深い闇の底であろうとも貴方とのこの幸福な時間を手放すよりきっと、後悔はしないはずですから

これにより世界法ハウスルール:探索者にPC名:椎名ひよりを追加を開始します。▽



名前:坂柳 有栖の称号が変更されます▽

称号:《天才》の奉信者



称号:冒涜天才を盲信せし姫巫女


以上です。▽


引き続きシナリオ『ようこそ熟練探索者が居る教室へ』をよろしくお願いします▽

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