別に更新ペースが加速するとかではないんですが、ゲーム本編でいうオープニング演出みたいなとこで延々と時間も話数も使うのはアレなので……。
とりあえず次回で銀ちゃんが村を出ますよ。筆者も頑張ります。
村を発った銀とシンイの二人は勝手知ったる草原を抜け、すんなりと洞窟の入り口に到着した。
「いやぁ~、実に快適な旅路だった……!」
「まだ洞窟に着いただけじゃないですか、むしろ本番はここからでしょう?」
「おっと、そうだった」
道中、遠目には魔物の姿が確認出来たものの、二人の様子を伺う個体がほとんどで、せいぜい威嚇をする程度か距離が縮まると逃げ出す始末だった。
(前に草原に来た時からずいぶん期間が空いちゃったけど、魔物ってこんなんだったっけ?これじゃ"向こう"の野良猫と大差ないぞ?)
「ギンさん、何か気になることでも?」
陰からこちらを敵意を持たずに、こちらを眺めている牛柄模様の浮遊する毛玉のような魔物を見つめていると、隣のシンイから怪訝そうに声をかけられた。
「ああいや、今日はやけに魔物が大人しいと思って、これも何かの予兆だったりしないかってさ」
「それでしたら恐らく、私たち二人との実力差を察知して接触を避けてるんじゃないでしょうか」
そんなもんなのかな、と返すとシンイは眼鏡の縁を輝かせ――彼にしては珍しく得意げに――力強く頷いた。
「私の火球呪文はともかく、ギンさんの今の実力は相当なものだと思いますよ。草原中の魔物が束になっても勝ち目がないくらいには。まあ、自覚はないんでしょうが……ハァ」
なんだその溜息は。と少々不服に感じた銀だったが、自分を嫌っていると思っていたシンイから意外にも高く評価されていたことを知り、照れくさくなるやら驚くやらで思わず頬を掻く。
「急にどうしたよシンイ、嫌われてると思ってたのにベタ褒めじゃんか!」
「別に嫌っていた訳では……痛っ、痛いですってば!」
数秒前まで上機嫌だったシンイが途端に不機嫌な表情を浮かべたのを見て、銀は慌ててシンイの背中をバシバシと叩く手を止めた。
「全く……そろそろ洞窟に入りましょう、日が落ちるまでには戻るとおばあ様には伝えてありますし」
そう言って表情を引き締めたシンイは洞窟内部に向けてドンドン歩みを進めていく。銀は先程の毛玉のような魔物に手を振って別れを告げ――魔物は全身をこれでもかと言わんばかりに左右に揺らしてそれに応えていた――シンイのあとに続く。
「わかったわかった。にしてもお前歩幅でっかいなあ、転ぶなよ~!」
「転ぶ訳ないでしょう!子供じゃあるまいし!」
◇
その後何度か濡れた岩場で足を滑らせたシンイを助け起こしつつ――一度フォローが間に合わずものの見事にすっ転んではいたが――洞窟内部にしては開けた空間に出た。
「ここまで進んできたことは今まで無かったけど、こんなに広かったんだな」
「そうですね、洞窟探検と言えばこの……石扉が見えたら引き返すことになってましたし。よっ……と」
シンイはアバから預かった鍵で重厚な造りの扉を解錠し、押し開ける。
今にして思えば、洞窟の奥深くに子供だけで進入するリスクを考慮したものだったのであろう村の掟は、同時に最奥部に秘匿された『テンスの花』を守る役割も果たしていたのだろう。
引き続きテンスの花への道筋を探していた銀だったが、先に進む通路とともにその壁面に記された奇妙な壁画を見つけた。
「シンイー、アバさまの歴史講座の内容覚えてるー?」
「また急に訳の分からないことを言って……」
銀に呼び掛けられたシンイはため息混じりに近付き、その壁画を目にした途端に目を見張り、なるほど、と呟いた。
「この世界、『アストルティアにはオーガ、ウェディ、エルフ、ドワーフ、プクリポ、人間の六種族が息づいている』でしたね。」
「そうそれ、おとぎ話の類だと思ってたんだけどさ、こういうのを見るとマジなんだろうなって思わせられるよなー」
「もしかして内容を忘れ……」
「確認だよ確認!こういうのは得意分野だろ、いやー流石シンイくん、頼りになるなぁ!」
例によって繰り出される銀の定型文にシンイは今日イチの大きなため息をつく。
「まあそうカッカせずにさ、この未だ見ぬ五種族に思いを馳せるのも悪くないじゃん?」
「平時なら魅力的な提案なんですけどね、今は果たすべきお役目がありますから」
「そうでした、ハイ」
時折駄弁りつつも歩みを進め、遂に今回の遠出の目的地、洞窟の最奥部と思しき広間に辿り着いた。
真っ先に目に入ったのは、天井の裂け目から漏れる日の光と、それが降り注ぐ地面からは淡く青色光を放つ大ぶりの花が無数に咲き誇っていた。
◇
「ふぅ、やっとここまで来ましたね。早いところあの花を摘んで戻りましょう」
「待った、シンイ」
様子がおかしい、と真剣な声色で注意を促す銀に釣られてシンイは身を固くする。
――静かすぎる。虫一匹の鳴き声すら聴こえてこない。
「ギンさん、これは……」
『ふむ、人間にもなかなかに鼻の利く者がいたものじゃな』
岩陰の暗がりに現れる妖しく光る双眸。そこから発せられた言葉が広間の中を不気味に反響する。
「誰だか知らないけど顔くらい見せなよ、取って食ったりしないからさ」
軽口を叩きつつも二丁の斧を抜き戦闘態勢に入る銀。急変する事態にシンイは動揺するばかりだった。
直後、唐突に肩を掴まれ後方に引き倒される、と同時に鋭い金属音が鳴る。
死角を突くように飛んできた巨大なリング状の刃がシンイの首元目掛けて飛んできていたものを、銀が咄嗟の判断で防いだのだ。
『鈍臭そうな方から片付けてやろうと思ったが、そっちのちっこい方はなかなかに腕が立つようじゃな』
襲撃者が暗闇から姿を現す。深緑の肌、黄ばんだ結膜、その身に纏った魔瘴――魔族だ。
「ほらシンイ、早く立って」
銀は魔族から視線を外さず、半ば強引にシンイを助け起こす。
「ギンさんマズイです、きっとあれは魔族です!」
「やっぱりそうなんだな。確かに草原の魔物とはケタ違いって感じだけど」
瞬間、銀の姿がブレて大量の砂煙が舞い、シンイの視界から消える。
その直後に連続した金属音。
「……でもなシンイ、ここでコイツをどうにかしないと村もアタシらも無事じゃ済まないだろ?」
砂煙が晴れた先から、魔族を蹴り飛ばした銀が現れる。
銀は半身で振り向き、広間のテンスの花を指差す。
(花は任せたぞ、シンイ)
それを見たシンイは頷き花を引き抜く。そして勢いそのままに元来た道へと引き返していく。
『……お前は逃げ出さなくてもいいのか、小童』
「逃げる?なんか勘違いしてるんじゃないか?」
左手に握った斧の刃先を魔族に突き付ける。
「お前が
◇
「そぉ、れっ!」
『ぐ、ぬぅぅぅ……』
銀が袈裟懸けに両の手に持った斧を振るい、魔族の刃のリングを激しく打ち据える。
「いい加減、倒れろぉ!!」
体勢を大きく崩した魔族を幾度も斬り付け、その胴に無数の亀裂を作り出す。
『オォ、冥王ネルゲル様、申し訳ございませぬ……このベドラー、最期に不覚を取りました……』
『しかし、この花と小童だけはなんとしても……』
ベドラーと名乗った魔族の体から噴き出す魔瘴が勢いを増す。
「うっ……まさかお前!」
『ネルゲル様、万歳!』
自爆――盲信とも執念とも言える忠誠心の行き着く先は常に決まっている。
辛うじてバックステップを踏んだ銀は巻き添えを受けずに済んだものの、
(残った花は全滅か……滅茶苦茶やりたがって、これじゃ……)
こうなるとシンイの持った花だけが村の存続の鍵になる。銀は自らの頬を張り、苦々しげに歪めた表情を引き締める。
武器を納め、シンイの後を追う。
(シンイ、みんな、頼むから無事に……)
「――あ」
洞窟を抜けた瞬間にそれは見えた。見えてしまった。村のある方角から濛々と黒煙が上がるさまが。
堪らず銀は走り出す。既に息が上がりつつあるが、それを気にも留めずに全力で地面を踏みしめる。
「ハァ、ハァ……間に合え、間に合えっ……!」
(まだ村のみんなに、恩返しも出来てない!)
「……間に合えええぇぇぇぇぇぇ!!」
(そうだ、みんなを守って、今度こそ!)
(生きて帰るんだ!)
原作的には初のボス戦ですが、どうあがいても彼はチョイ役に過ぎないのでサクッと退場していただきました。ファンの方がいたらごめんなさい。いるのかな?
それとほかのキャラ設定なんかもところどころで"独自の解釈"をしてる部分が今後出てくると思うのでそのうち紹介パートとか作ります。たぶん。