コードギアス―謀略のキヨナガ   作:嫉妬憤怒強欲

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待たせたな(渋い声)


STAGE15「団体戦(鬼ごっこ)」

「―――兵舎内での試験は以上となる。この後、諸君らはいくつかのグループに分かれ、それぞれに実技試験が行われる。試験監督には現役の士官もいる。彼らの手を煩わせるな」

「「「イエス、マイロード!」」」

 

 私、百目木マーヤはマーヤ・ガーフィールドとして、訳あってブリタニア軍の入隊試験を受けていた。

 この前のナリタ連山での戦いでコーネリア軍の多くが命を失い、立て直しのために軍が始めた新兵募集に便乗する形だ。

 一次審査は問題なく合格し、二次試験を此処、ブリタニア軍タチカワ駐屯基地で受けている最中だ。 

 反ブリタリニア活動が活発なエリアにしては受験者は思っていたより大勢いたけど、殆どが立身出世が入隊希望の目的みたいだ。

 ゼロを捕まえれば爵位を貰える。そういう話があるらしい。

 貴族ではない平民には絶好のチャンスというわけで、ライバルは多い。

 

 気を引き締めていかないと………。 

 

 

 

 試験官の案内の下、私達は駐屯基地内にあるグラウンドへと移動する。

 

 さてと、私のグループは………

 

「え?」

 

 周囲を見回していると、そこには意外な人物がナイトメアの傍に立っていた。

 

 

♢♢

 

 オレは今、ロイドに半ば無理やりの形で、ブリタニア軍タチカワ駐屯基地に連れてこられた。

 ロイド曰く、新しいテストパイロットを引き込もうにも、軍のデータベースにある人間の殆どがそれぞれの所属でガチガチで固められているのと、その殆どがナリタ連山で死亡したというのもあり、スカウトの対象を入隊希望者達にしたとのこと。

 

 その入隊希望者達はまだ舎内で試験を受けている最中ということで、グラウンドに来たわけだが……

 

「あっ、どうもどうもダールトン将軍♪」

「ロイド伯爵………貴様、ここに何しに来た?」

 

 何故かダールトン将軍がいて、全然歓迎ムードではなかった。特にロイドに対して。

 

「あ、あの…ロイド伯爵。どのような要件でこちらに?来訪するという連絡は来ていないのですが……」

 

 ダールトン将軍の隣にいた赤い軍服を着た茶色い癖毛の士官が、ロイドに恐る恐る聞いてくる。

 

「ん?そりゃあ、そっちにアポ取ってないからね」

 

 入れてないのかよ。

 

「だってさぁ、例の機体が基地に運ばれたって話を聞いてたから、居ても立っても居られなくなったんだもん」

 

 なんだよ。だもんって。

 

「………はぁ、そんなことだろうと思った。あれはそこにいるアネコージ准尉と関係のある機体だからな」

 

 ため息をつくダールトン将軍の視線の先にあったのは、グラウンド上に駐機状態で鎮座している見たことのないナイトメア一機。

 緑色の装甲の隙間から見える内部のフレームはグレイズのそれに似ているが、外装がランスロットよりだったマリスと異なり、顔は黄色い縦に細長い四角のメインカメラのみ、頭部には鶏冠飾りを思わせるアンテナ、腕部は一回り大きい肩アーマーが目を引く。

 まるで中世の騎士を思わせるシルエットだ。

 

「あれは?」

「”グレイズ・ナイト”。グレイズ・フレームを雛形に、ブリタニア本国のトロモ機関が改造したバリエーション機だよ」

 

 オレの質問にニヤニヤしながら答えるロイド。

 

「トロモ機関?バリエーション機?」

「僕の上司謙スポンサーは特派以外にも研究機関を配下に加えててね。キミの設計思想の有用性を検証するため、こっちとは別に開発を命じてたんだ。言ってなかったっけ?」

「聞いてない」

「アハ、じゃあ今言ったってことで」

 

 コイツに振り回されているセシルさんの気持ちが分かった気がする。

 

「まあ、元々のグレイズの完成度が高かったから、内部のフレームの殆どは流用になっているみたいだよ。基本スペックもマリスと変わらないし……あっこれ送られてきた機体のデータ」

 

 ロイドから手渡された液晶端末を見る。

 装甲をフレーム上のジョイント部に装着してるのか?

 動きに合わせて各部の装甲をスライドさせ、関節の可動範囲を妨げないようにしているのか。

 成程。これなら装甲を増設したとしても可動の邪魔にならないな。

 

「装甲の材質はアンタのと違うな」

「……僕が考えたのは量産化には不向きだってさ。剛性は僕が作った奴の方が上だってのに」

 

 不貞腐れてるな。

 装甲だけ従来既存のよりも少し剛性が高いのを使用しているのか。

 

「……そもそもなんでそのバリエーション機がここにあるんだ?」

「これの実戦データが欲しいってことで、こっちに派遣になったグラストンナイツに供与されたみたいだよ」

「グラストンナイツ?なにかの部隊か?」

「うん。ダールトン将軍の息子五人組で構成されたブリタリニアの精鋭部隊だけど、軍の再編を機にコーネリア総督の特別親衛隊的な役割を担うことになったって。ちなみに、今目の前にいる士官がその一人だよ」

「えっ、それ早く言えよ」

「あははぁ~」 

 

 いや、あははぁじゃなくて。

 

「失礼しました」

「あはは……いやいいんだ。私はクラウディオ・S・ダールトン。コーネリア総督の親衛隊に所属しているが、今はここで入隊試験の試験監督を務めている。ひょっとして……君がキヨナガ・アネコージ准尉かい?」

「はい。オ……自分がそうですが」

 

 え?なんでオレの事知ってるんだ?

 

「ナンバーズ出身で初の新型ナイトメアを設計した名誉ブリタニア人…同じ機体に乗る兄弟達の間でも君の話題で持ちきりさ。すごいな。まさかこんなところで本人に会えるなんて」

 

 なんかナンバーズのオレに友好的だこの人。

 

「まだ数回しか騎乗していないけど、あれは本当に凄いよ。整備の者も言っていた。あれほどのモノを思いつくなんて相当な天才だと」

「自分はそんな大層な人間ではありませんが………でもナンバーズが考えた機体に乗ることに抵抗がないのですか?」

「ん?ああ……確かに軍にはナンバーズに対し良い思いを抱いていない者が多いが、我々は使えるものは使う主義だからね。特に気にしてはいないよ」

「ふっ」

 

 成程。似た者親子か。

 それにしても、新型をわざわざこんな目立つ場所に置いておくのは不自然だ。

 受験生の目があるだろうに………いや待てよ。

 目があるから、敢えて見えるところに置いているのか?

 

「もう少し話をしたいところだが、もうすぐ試験が始まるのでね」

「お忙しいところ失礼しました。すぐに退散します」

「いやいや。せっかくここまで来たんだから、良いデヴァイサー候補を見つけないと。それにせっかくだからあの機体と模擬戦をやって欲しいし…」

「はぁ……そういうことか」

 

 丁度兵舎から受験生達が出てきた。

 その中に見覚えのあるのが一人、こっちに気付く。

 

「キヨナガ?…それにロイドさんもどうしてここに?」

「この天邪鬼に無理矢理連れてこられました」

「天邪鬼だなんて酷いな。やあやあマーヤ君、お久しぶり。君も入隊を希望してたんだね」

「はい…」

「ん?君は……政庁で会った」

「あっ、あの時の……」

 

 どうやらマーヤとクラウディオは顔見知りのようだ。

 

「やはり応募してくれたんだね。嬉しいよ。えっと…」

「マーヤ・ガーフィールドです」

「ガーフィールド?ふむ、どこかで聞いたような…」

 

 ディゼルじゃなくてガーフィールドの姓を名乗ることにしているのか。

 クラウディオだけじゃなくダールトン将軍まで怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「ありふれた平民の家ですので…」

「そうか、まあいい。試験、頑張ってな」

「はい……キヨナガ、後でね」

「えっ、はい」

 

 これ終わるまでいなきゃいけないやつか。

 

「じゃあボクたちは見学させてもらうから」

「おい伯爵、勝手なことをされては困る」

 

 ロイドがダールトン将軍と話をした結果、ダールトン将軍の監視付きの下、オレ達は試験の邪魔にならないように脇で見学することになった。

 

 実技試験で最初に行われているのは、体力及び持久力のテスト。

 シンプルに広いグラウンドのトラックを何周も走らされるものだ。

 体力が基準値に満たないと判断されればそこで失格となる。

 

「まだだ!まだ終わりじゃないぞ。足を止めたら失格だ。しっかり走れ!」

 

 クラウディオの叫びが響く中、既に十六週目(約6キロメートル)で何人かのスピードが落ち始めていたが、マーヤは平然と走り続けていた。時々グレイズ・ナイトの方に視線がいっているのが気になるが。

 

「あらまぁ。マーヤ君、華奢な見た目のわりに結構体力があるんだね」

「……伯爵とアネコージ准尉はあの娘と既知の仲のようだが」

「ん?ああ。彼女、僕のアカデミー時代の後輩の義理の娘で、枢木准尉とアネコージ准尉とは学園の友達ですよ」

「ほう。凄い縁だな……ガーフィールド。確か軍に新型エナジーフィラーを納入している者がそんな名だったな。『DGEコーポ』だったか」

「ええ、その会社の社長、クラリス・ガーフィールド君が僕の後輩ですよ」

「……そうか。ディゼルの研究を引き継いだという……つまり、あの娘はあの”クラッシュハート”の血縁というわけか。面白い」

 

 クラッシュハート?二つ名かなにかか?

 マーヤの素性が分かった途端、ダールトン将軍がクラウディオを呼び出してマーヤのことを伝える。

 

「いかがいたしますか?ディゼル家は上流貴族です。今からでも貴族枠に変更することも可能ですが……」

「かまわん。このまま受験させろ。家柄よりもあの娘自身の実力を見たい。そうだな、少し試験内容に手を加えることにしよう」

「父上、何を………?」

「ふっ……」

 

 マーヤは貴族だったのか。

 ダールトン将軍が笑みを浮かべているが、嫌な予感しかしない。

 

「……アネコージ准尉、暇なら少し手を貸して欲しい」

「えっ」

「あはぁ、なんか面白そうなことやろうとしているみたいだねぇ」

 

♢♢

 

「はぁ…はぁ…!くっ………流石にキツイ………」

「このグループでの脱落者は八名か。優秀だな――では次の試験に移る」

 

 トラックを何十周も走った後に、休みなしで次の試験。

 確か、次は”模擬戦”と言っていたけど………。

 

「だが、その前に試験方法に変更がある」

 

 えっ、どういうこと?

 

 他の面々も困惑する中、ダールトン将軍が前に出てきて口を開いた。

 

「全員、試験に励んでいるようだな。ご苦労である。お前たちの熱意に応じて、この後の模擬戦はナイトメアで行うことにした」

『えっ!?』

『ナイトメアでっ!?』

 

 この場にいる平民枠の受験生全員が驚愕する。当然だ。

 ナイトメアが与えられるのは騎士侯から。どうして平民の試験で………。

 

「私は使える者の出自は問わん主義だ。実力があるのなら、それを認め、徴用する。実力を示せば、ナイトメア部隊への編入も約束しよう。どうだ?またとないチャンスだろう?」

 

 まさか、この試験でナイトメアを操縦することになるなんて………

 チャンス………と考えるべきね。

 

「お前たちの励みに期待する」

 

 ダールトン将軍、か。酔狂な男か、それとも……。

 

 

 しばらくして、私達の前に模擬戦用のナイトメアが運ばれてきた。

 用意されたのは、旧式のグラスゴー。

 その中でも、白いカラーリングの機体が一番目を引く。

 

「そうだ。言い忘れていた。模擬戦の相手はあの白いグラスゴーだ。騎乗している者は何度か実戦経験があり、とても強い。腕は私が保証する」

「えっ」

「安心しろ。C(平民)クラスは全員ナイトメアの騎乗経験が皆無だろうからな。模擬戦の前に、あの者にレクチャーしてもらうと良い」

 

 どうやらあの白いグラスゴーには既に人が乗っているみたいだ。

 ダールトン将軍が推すほどの騎士………クラウディオと同じグラストンナイツの誰かなの?

 

「全員、集まっているな。では―――」

「お待ちください!」

 

 そろそろ始まろうとしていた矢先、待ったをかけた人物達がいた。

 確かA(貴族)クラスの受験生…

 

「君たちは貴族の………」

「はい。ダミアン・ヘムワーズです。ダールトン将軍に具申します」

「よせ。今は……」

「いい。聞こうじゃないか」

「平民………いえ、Cクラスの受験生がナイトメアでの模擬戦を行うと耳にしました。しかしながら、ナイトメアへの騎乗は貴族に許された矜持。それを貴族以外の者が乗るなど、納得ができません」

「ほう。なら、お前はどうしたいと言うのだ。ダミアン」

「はい。我々AクラスとCクラスの団体戦、というのはいかがでしょうか」

 

 成程。要するに私達をダシにして、自分達の実力を示そうって魂胆ね。

 

 ダールトン将軍はダミアンからの提案を吞んだ。

 乱入してきたAクラスは五名。こちらはその倍いる。

 AクラスはCクラスに比べて人数が少ないが、貴族と言う立場上、ナイトメアの騎乗経験がある。

 ナイトメアの扱いには慣れているけど数の少ない貴族と、ナイトメアの騎乗経験はないけど数の多い平民の戦い。

 平民側は最初から勝てないとすっかり弱気になっている。

 対して、貴族たちには根拠のない自信がある。

 

 馬鹿らしい。戦いには経験不足もプライドも関係ない。

 

 必要なのは、勝つ、という信念だけ!

 

♢♢

 

『あはぁ、なんだか面白いことになってきたね』

「面白いというより面倒だろ」

 

 オレは今、グラスゴー・カスタムバージョン2.0(特派仕様)のコックピット内にいた。

 前に使っていたランスロット用の装備の実証試験機をさらに改修した機体で、グレイズ・ナイトの性能を確認するためにロイドがトレーラーで運んできたそうだ。

 アポなしの訪問と色々やらかしてしまっているため、当然クラウディオとの模擬戦は認められず、ダールトン将軍の命令で、受験生達の模擬戦を手伝わされる羽目になったのだ。

 勿論、ランスロットとの模擬戦で使っていた装備は外し、出力と性能も従来のグラスゴーと同じレベルまで調整済みである。

 受験生達を相手にする話だったが、貴族組の突然の横槍で貴族対平民による団体戦に発展した。

 

「将軍。自分はどうしたら?」

『そうだな……Cクラス側に混ざってレクチャーしつつサポートしてやってくれ』

「ただし模擬戦では相手に積極的に攻撃しないように、ですか?」

『ああ、でないと実力を測れないからな。それ以外なら好きにして構わない』

『頑張ってねぇ~』

 

 好きにしろ、ね。

 

「……ある程度やる気を出させるか」

 

 Cクラスの面々がグラスゴーに騎乗したところで回線を繋げる。

 向こうに乗っているのがイレヴンだとバレないよう、カメラはオフ・音声のみにしている。

 

「あー……突然だがお前たちに質問だ。今お前たちはこう思っているんじゃないのか。『ナイトメアは貴族のもの』『自分たちに扱えるわけない』と?」

『え、ええ……』

『まあ………』

 

 成程。殆どがそう思い込んでいるから萎縮してしまっているのか。

 

「……MR1について誰か説明してくれるか?」

『…はい。軍用ナイトメアフレームが民間用に払い下げられたものです』

 

 オレの質問に答えたのはマーヤだった。マーヤの時だけ敬語になると、変に怪しまれるからこの口調のままでいくか。

 

『ブリタニア軍の主力機がグラスゴーからサザーランドへと世代交代する際、旧式化したグラスゴーの一部は武装などを外され、フレーム部分のみが民間に払い下げられました。機体をコンパクトに収納出来るため、運搬に便利な重機として重宝される』

「そうだ。ちなみに搭乗者の地位などの規制は?」

『――特になかったかと』

『あっ』

 

 今の質問の流れで何人かが矛盾に気付き始める。

 

「今全員が乗っているグラスゴーと作業用で使用されるMR1、どちらも同じナイトメアだ。さっきAクラスの一人が『ナイトメアへの騎乗は貴族に許された矜持』と言っていたが、それが必ずしも絶対というわけじゃない」

 

 要らなくなればこうして模擬戦用に使われるか、バラされて民間に払い下げられるか、最悪反ブリタニア勢力に横流しされたりする。

 今オレが乗っているグラスゴー・カスタムも、元は大学で使われていたMR1を買い取って武装を付け直した奴だし。

 

 ナイトメアに乗れるのが貴族だけというのは、あくまでもブリタニア貴族の都合であって自然の摂理ではない。

 

「あえて聞くが、『ナイトメアは貴族のもの』『自分たちに扱えるわけない』は、本当に絶対か?」

『で、ですがこっちはナイトメアに乗ったことがないんですよ。それにあのダミアンは、中華連邦方面軍で名を上げている騎士家系ヘムワーズ家の三男です。そんな奴に勝てるわけが………!』

 

 ああ、それで弱気になっていたか。

 

「確かにナイトメアを扱ったことがあるだろうな。だが実力はともかく、実戦経験がないという点ではお前たちと一緒じゃないか?」

『『『――!』』』

 

 わざわざ入隊試験を受けている時点で、向こうも実戦経験がないのだろう。

 その意味ではCクラスはツイている。

 

「こっちに提案があるが、聞くか?」

 

 それからCクラスの面々に作戦を伝え、最低限の操縦方法を教える。

 

「――――じゃあ、始まったら最初の指示通りに動いてくれ」

『『『イエス、マイロード!』』』

 

 なんかむず痒いな。

 

 

『ではこれより、AクラスとCクラスによる模擬戦闘を始める!勝敗条件はどちらか一方のクラスが全滅させた場合とする。なお、Cクラス側にいる白のグラスゴーは数に含まないため、白のグラスゴー以外が全滅した場合も全滅と判定する』

 

 クラウディオからの号令を合図に、模擬戦が始まった。

 Cクラスのグラスゴーはオレの指示通り交戦は避けて散開、後退する。

 

『後退した!?』

『ふん、平民どもめ。貴族である我々に恐れをなしたか!』

『逃がすか!』

 

 まず最初は鬼ごっこ。

 当然Aクラスの五名――ダミアン、ルベール、マシュー、ノイン、カルバンのグラスゴーが追いかけて来る。

 だが数ではこちらが多いため、バラバラに散ったオレ達を一度に全員を追いかけることは、現実的に不可能だ。

 しかも乗っているグラスゴーのスペックは全て同じだから、序盤に距離を離された時点で全速のローラーダッシュでも、足を止めない限り距離を詰めることはできない。

 

『くらえ!』

『ぐあっ!』

『やられた!』

 

 当然向こうは模擬弾入りのライフルで撃ってきた。

 そのうちの数発が運悪くCクラス側の二機に当たり、撃墜判定となる。

 

 だが許容範囲内だ。

 

「建物の影に入れ」

 

 模擬戦の舞台となっているグラウンドは、ナイトメアの演習場も兼ねているようでかなり広い上、街並みをある程度再現している。

 ところどころにある建物を盾にすることで、他の面々も相手の銃弾を避けることができた。

 

『このまま全員倒してやる!』

 

 ファクトスフィアからのデータでは、どうやらAクラス側の一機が単機で先行してきたようだ。

 そいつに一番近いのは………

 

「受験番号C-029、そっちに一機行ったぞ」

『問題ありません。対処します』

 

 えっ。

 

『噓だ!この私が平民ごときに――うわぁっ!』

 

 なんかマーヤがAクラスよりもグラスゴーを上手く乗りこなしていた。

 カルバン機の銃撃を難なく躱し、建物に突き刺したハーケンの巻きを利用して跳躍。そのまま猫の三角飛びの要領で壁を蹴り、中空からカルバン機へと躍りかかった。

 上からの攻撃にカルバン機は避ける間もなく、全弾命中して撃墜判定された。

 

『おお!あいつ貴族に勝ったぞ!』

『俺たちもやれるんじゃないか?』

 

 マーヤが敵を一機倒したことで、Cクラス側の士気が上がってきているのが通信越しに伝わる。

 ダールトン将軍がナイトメアを使ってまで確かめようとしていたからまさかと思っていたが………

 

『平民どもめ、図に乗るなよ……Aクラスの人間は私に続け!』

『ああ、平民に負けるなど油断しすぎだ』

『私たちの力を見せつけてやろうぞ』

 

 マーヤがカルバンを倒したことでプライドを刺激されたのか、Aクラス側の動きにまとまりが出始めた。

 

 ダミアンが指揮を執っているのか。

 ルベール機とマシュー機、ノイン機とダミアン機の二手に分かれ、各個撃破に回るつもりか。乗りこなしているだけに動きも教本通りだ。

 

「…全機、交差ポイントで合流した後、予定通り指定のルートを通れ」

『『『イエス、マイロード!』』』

 

 こっちはただ闇雲に逃げていたわけじゃない。

 Cクラスの面々には、予めルートを指定してある。

 それらのルートは不規則に見えながらも、必ずどこかのポイントで交わるようにしている。

 最初バラバラに動いていた面々はそこで合流し、行動を共にし、また合流。最終的に一つにまとまる形だ。

 

『合流だと?今さらそんなことをしたところで――!』

 

 受験番号C-017とC-020のグループの後をルベール機とマシュー機が追いかけている。

 

「C-027、C-025。20秒後、進行コースにC-017とC-020が敵を連れて通る。待ち構えて応戦しろ」

『『イエス、マイロード!』』

 

 Cクラスの殆どはナイトメアの操縦に慣れていない。いきなり高速移動しながら精密射撃をするなんて難しい操作をできるわけがない。なら、極力複雑な操作はさせず、その都度単純な指示を出せばいい。

 

「カウントする…3、2、1。スラッシュハーケン射出」

『す、スラッシュハーケン射出!』

 

 初心者に高速で動く相手にハーケンを当てるなんて難しいことはさせない。

 C-017とC-020のグラスゴーが通り過ぎてすぐ、建物の影からC-027のグラスゴーからスラッシュハーケンが二本射出され、向かいの建物の壁に突き刺さった。

 

『なにっ!?横から!?』

『うおっ!?』

 

 

 C-017とC-020を追いかけていたルベール機とマシュー機が、アンカーと機体とを繋ぐワイヤーに引っかかった。

 ロープで相手の足を引っかける悪戯と同じ要領だ。ただし、使っているのはロープではなく、一本でナイトメアフレームの全重量を支えきれるほど頑丈なワイヤーだが。

 

『今だぁ撃てぇ!』

『うおおおお!』

『しまった!ぐわぁ!』

『おわぁ!』

 

 ワイヤーで動きが止まった瞬間を狙い、C-025機が背後に回って一斉斉射する。

 ルベール機とマシュー機は回避する間もなく撃墜判定となった。

 

♢♢

 

『やった!倒したぞ!』

『残りはあと二機だ!』

『このままいけば勝てるぞ!』

 

 散開し後退してからの合流。

 そして敵を誘導してから、待ち伏せて動きを抑えての攻撃。

 

 貴族との実力差を、数的優位と戦略の組み合わせで覆しているのね。

 指示はとてもシンプル……それでいて合理的。

 団体戦が決まってからそれ程時間が経っていなかったというのに、これだけの戦略を立てるなんてまるで………。

 あの白いグラスゴーのパイロット………尋常じゃない。

 だけど、この声どこかで………。

 

『おい貴様ら!』

 

 考え事をしていると、突然Aクラスをまとめていたダミアンからオープンチャンネルで通信が入った。

 

『なんだあの戦い方は!?ナイトメアであんな子供騙しなやり方をするなんて恥ずかしくないのか!?』

「あら?ルールとして提示された覚えはないけど?」

『お前は!カルバンを倒した!――ルール以前の問題だ!騎士の矜持に反する!』

「………あなたは、戦場でもそんなことが言えるの?これが実戦だったら三人とも死んでいる」

『ぐっ………』

 

 喋りながらCクラス側を何機か撃墜してはいるが、貴族といっても大したことはない。実戦で戦った相手(・・・・・・・・)には遠く及ばない。

 

『だ、だとしても!本来お前たちのような平民がナイトメアに乗るなどあってはならない。このナイトメアは、貴族の矜持が形を成したものだ。高貴な血筋が必要なんだよ。お前たちにそれが理解できるか!?』

 

 白いグラスゴーのパイロットからの指示?

 挑発して惹きつけろ?………そういうこと。

 

「よく喋るのね。貴族様は戦場で喋るのが仕事なの?」

『貴様!貴族を侮辱するのか!』

「いいから来い!」

『ええい。ノイン、我々だけであいつらをやるぞ!まずはあの生意気な女からだ!』

 

 狙い通り、私の挑発に乗ったダミアン機が追撃を仕掛けてきた。

 私は銃弾の雨を避けながら例のポイントまで移動する。

 

『ちょこまかと……!』

 

 しっかり後をついてくる二機。

 

 例のポイントに到達したところで私はそこに止まった。

 

『ふん、ようやく逃げるのをやめたか』

「別に逃げていたわけじゃない。私の役目は、あなた達をここまで誘導することだったから」

『なに?』

『だ、ダミアン!四方向から敵機が!』

『なっ!?』

 

 そう。今私達がいるポイントは建物に囲まれた交差点のど真ん中。そこはCクラス全員が集まる最終地点に指定されている。

 ナイトメアは機動性を活かした攻撃が強み。だけど逃げ道を塞がれた上、東西南北からの同時攻撃ともなれば、旧世代機では対応するのは困難。つまりキルスポットだ。

 

「頭に血が上って周りが見えていなかったわね。戦場では命取りよ」

『き、貴様ら……!』

 

 冷静さを欠いては、勝てるものも勝てない。

 

『―――全機、一斉斉射』

『『「イエス、マイロード!」』』

 

 四方向からの集中砲火に、Aクラスは避けることもできず撃墜判定となった。

 

 

『そこまで!この勝負、Cクラスの勝利とする』

 

 クラウディオから言い渡された勝利判定に、Cクラスの面々から歓声が沸き立った。

 

「うおおおお!」

「すごいぞ俺たち!貴族に勝った!」

 

 ダールトン将軍たちの下まで戻りコックピットから降りると、Cクラスの面々がお互いを称え合っていた。

 一つの目的のために協力し合い、そして勝ったことが相当嬉しかったようで、出世のライバルであることを忘れているよう。

 

「ば、馬鹿な………この私が負けるわけがない」

 

 案の定、勝敗に納得できなかったAクラスのダミアンが抗議の声を挙げる。

 

「さ、再戦を申し込む!もう一度やればこんな――」

「――――見苦しいぞ、貴様」

 

 そんなダミアンを、ダールトン将軍が一喝した。

 

「騎士となるならば、戦場で挽回して見せろ」

「くっ………うう」

 

 ダールトン将軍からの言葉に、さすがのダミアンも引き下がるしかなかった。

 

 

 それから、ナイトメアの操縦で将軍とクラウディオから称賛の言葉を頂いた後、周囲を見回してあの白いグラスゴーを探す。

 今回の団体戦での勝利は、あのパイロットの指揮が一番影響している。

 

 あれほどの知略の持ち主がブリタニア軍にいるなんて………

 せめて顔の確認だけでも――

 

「やあやあ。マーヤ君おめでとう!見事勝利したねぇ」

「ろ、ロイドさん!」

 

 突然ロイドさんから声をかけられて思わず声が裏返りそうになった。

 

「で、なんか周りキョロキョロしてたけどどうしたの?」

「あっ、えっと………」

 

 白いグラスゴーに誰が乗っていたのかなんて聞いたら怪しまれる。ここは誤魔化すしか。

 

「あ、あの…キヨナガ、どこ行っちゃったのかな、なんて」

「ん?キヨナガ君?……………むふふ。さあ?どこだろうねえ?」

 

 えっ、なにその含みのある笑み。

 

「まあもうすぐここに来ると思うよ。それはそうとマーヤ君」

「はい?」

「君の配属先についてだけどさ――」

 




新たに登場した機体、グレイズ・ナイト

鉄血に出てきたあれがモチーフです。

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