よう実二年生編がアニメ化しましたね
「マーヤ!?どうして君が?」
サザーランドのコックピットから出てきた人物にスザクは驚いていた。
そういえばマーヤが軍の入隊試験を受けていたこと、スザクに言ってなかったな。
「いやあ。見たでしょ彼女の操縦技術。掘り出し物だったからウチでもらったんだ~」
「はあ………ロイドさん、こういうことは予め教えて欲しかったです」
「はっは~。ごめんね。でもサプライズの方が面白いと思ったからさ。びっくりしたでしょ?」
「しましたけど……」
「オレはなんとなく察していたがな」
「もう、つまんないなキヨナガ君は」
入隊試験で行われたナイトメアでの模擬戦の時、入隊希望者の中でマーヤが一番操縦技術が高かった。クラリスさんの身内とはいえ、この悪戯好きのマッドサイエンティストが見逃さない筈が無い。
ダールトン将軍も目を付けるだろうからコーネリア総督直属の部隊に入る可能性もあったが。
「まさか君が軍人に………特派に配属になるなんて」
「驚いたのはこっちも。技術部って聞いていたから、てっきり二人共戦闘には出ていないと思っていたのに………」
「ごめん。学校の皆には心配をかけたくなくて……」
そう思うのが普通か。変態が主任のいる部署がまともなわけないが。
「別に謝らなくていいよ。私も軍の入隊試験を受けていたこと皆に黙っていたし………それよりも二人共無事でよかった」
「僕のランスロットは傷物だけどね「ロイドさん?」あっはい、ごめんなさい」
「君のおかげさ。あのままだと本当に危なかった。あらためて礼を言わせてほしい。ありがとう」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。私の方もあらためて、これからよろしくね」
そう言って笑顔で返すマーヤ。
こうして生徒会の一員であるマーヤを特派の新しい同僚として迎え入れることとなったが………どうも腑に落ちないな。
さっきの戦いで見せた操縦技術と判断力。
………前者はスザクのように操縦者としての素質があったからで納得できるが、後者の方はそうはいかない。
判断力とは特定の事象を法則や概念のもとに包摂する能力………つまり過去の経験を分析し、観察・思考と組み合わせて状況を正しく見抜く力のことだ。
ゲームをやり込んでいるとしても実戦は違う。
観察力と思考力が高くとも、入隊する前は実戦経験ゼロだった一般人があそこまで動けるのか疑問だ。
あったらあったで隠す必要もない。
必要があるとすれば………
一応今後の動きに注意しておくか。
「えっと、どうしたのキヨナガ?私の顔になにかついてる?」
「ん?すみません」
じっと見すぎたか。
「あはぁ、もしかしてキヨナガ君。マーヤ君のパイロットスーツ姿に見惚れてた?」
「ええっ!?」
「適当なこと言うなもやしプリン」
「も、もやしプリン!?」
確かにナイトメアフレームの搭乗者が身に付けるパイロットスーツは、動きの邪魔にならないよう身体に密着しているタイプだから身体のラインが出てしまうが………。
「キヨナガ、彼女はこれから僕たちと一緒に働くんだ。そういうのは失礼だと思うな」
「スザク君の言う通りよ。年頃の男の子なら仕方ないと思うけど、異性にそういう視線を向けるのは良くないわ」
「だから違いますって」
眼鏡が変なこと言ったせいで居心地が悪くなってしまった。
「………キヨナガのえっち」
「いや、ですから………」
はあ………。
視線にも注意した方がいいな。
♢
ロイドさんからの勧誘でスザクとキヨナガのいる特別派遣嚮導技術部、通称特派に配属され、それほど日が立たないうちに予想外の事態が起こった。
なんでも、この前のチョウフ基地での戦闘がテレビ中継されていて、
それに伴い、副総督の権限でスザクは准尉から少佐に瞬く間に昇進。叙任式を終えて正式なユーフェミアの騎士となった。
特派もユーフェミア傘下の部隊となり、私もキヨナガもユーフェミアの部下という形になるそうだ。
それからしばらくの間、特派の制服に身を包んでスザクの騎士叙勲祝いのパーティに同伴することが私たちの仕事だった。
「名誉ブリタニア人とはいえイレヴン風情が騎士になるとは……」
「しかも少佐だと」
「上手く取り入ったものだな」
パーティと言っても、殆どが貴族や軍の偉い人の集まりで、全員がスザクを本当に祝っているわけではなかった。
名誉ブリタニア人が皇族の騎士になるのは異例中の異例。
彼らにとって、見下している相手が出世するのが気に入らないというのがまるわかりだ。
現に陰口を叩いたり皮肉を込める人ばかりで、スザクに声をかけるのなんて殆どいなかった。
「ユーフェミア様もお年頃とは言え、皇族としての自覚を持って欲しいものだ」
「お飾りなら大人しくしてればいいものを」
「―――そこまでにしろ」
「だ、ダールトン将軍!?」
ついにはユーフェミアの陰口まで叩く連中までいる始末。それを見かねたのか、ユーフェミアの補佐としているダールトンが取り巻きに詰め寄る。
「それ以上の発言をすれば皇族批判として貴様らを処断せねばならなくなる。口を慎め」
「「い、イエスマイロード!!」」
ダールトンに咎められ、顔を青ざめた取り巻き達は蜘蛛の子を散らすように会場から去って行った。あれ?よく見たら入隊試験の模擬戦でいた貴族組の面々だった。
「まったく………」
取り巻きがいなくなったのを確認したダールトンは、今度は私たちのところに来て笑みを浮かべた。
「久方振りだなガーフィールド准尉。アネコージ
「お、お久しぶりです」
「久しぶりです将軍…自分はまだ准尉ですが」
「来週には技術少尉に昇進が決まっているのだ。今呼んでも問題ないだろ」
そう。スザクの昇進に合わせて、キヨナガも軍での階級が一つ上がることが決まっている。ただし騎士侯の爵位が貰えるわけじゃなく、兵器の研究と開発に携わる職種の技術士官としてだ。
セシルさんの話では、特派のパトロンでありロイドさんの直属の上司にあたる人物、ブリタニア帝国第二皇子兼宰相のシュナイゼル・エル・ブリタニアが、スザクの騎士叙勲を機に軍の人事に働きかけたそうだ。
昇進の理由は新型ナイトメアフレーム開発に後見したというもの。
キヨナガが設計した
そのことに当のキヨナガ本人はといつも通り反応が薄かったけど。
「どうした。嬉しくないのか?」
「…いえ、正直あまり実感がわかなくて。自分は大したことしていないというのに」
「大したことないわけないだろ。ブリタニア軍でナイトメアの開発が重視されている中、全く新しいナイトメアフレームを短期間で形にした上、自ら乗りこなしてその有用性を示したのだ。十分大したものだが」
「別にアレを全部一人で造ったわけじゃありませんよ。それにウチの主任に振り回されてできたものですし」
「……苦労しているのだな」
ダールトンがキヨナガに向ける視線が同情的なものに変わった。
特派に入ってそんなに日が経っていないからロイドさんは変わり者ぐらいの認識しかないけど、そんなに酷いの?
ロイドさんの奔放振りはクラリスさんから聞いていたけど…
「まあ、例え成り行きだとしてもだ。私やイシカワへ遠征中のクラウディオも昇進は当然だと思っている。枢木少佐のように騎士には選ばれてはいないが、お前はシュナイゼル殿下の目に留まる程のことを成し遂げたのだ。誇っていいぞ」
「そうだよキヨナガ。それにセシルさん達も言ってたでしょ?『謙遜も度が過ぎると嫌味よ』って。素直に喜ぼ」
セシルさん達特派の面々。そしてダールトン将軍。
キヨナガもスザクと同じく認めくれる人達がいる。
そのことに私も喜んでいるけど…
「――ただ、一つだけどうしても確認しておかねばならないことがある」
先程までとは打って変わって、ダールトンから圧の様なものを感じた。
「確認しておきたいこと、とは?」
「特派に入る以前のお前の経歴が謎のままだ。あの収容所に入ることとなった経緯が特に。こちらで勝手に身辺調査をしたが噂以上の情報が得られなかった」
収容所に入っていた?キヨナガが?それに噂って?
「そのような得体の知れない人間を軍に置いていて何か問題が起こらないかと、コーネリア総督は懸念しておられる。だからこの際本人の口から直接聞きたくてな」
「……つまり、自分が何者か知りたいということですか?」
「ああ。軍にいる以上、身元ははっきりしておかねばならない」
「…ちなみに黙秘とかは?」
「それも構わんが、下手に隠せば今後の行動により制限がかけられる可能性がある」
「………」
ダールトンの半ば脅迫じみた発言にキヨナガはしばらく沈黙し、小さくため息をついた。
「………プライベートが関わるので、あまり人には」
「分かった。場所を変えよう。すまないがガーフィールド准尉はここで待っていてくれないか?」
「あ、はい」
二人はその場から離れ、パーティ会場の外にあるバルコニーへと移動した。
キヨナガが自身の過去をダールトンに打ち明けているみたいだけど、ここからだと会話に内容が聞き取れない。
キヨナガの噂ってなんのことだろう。
よく考えたら私、キヨナガのことまったく知らないや。
「マーヤ・ガーフィールド准尉ですな?」
一人のブリタニア軍人が私に話しかけてき。確か入隊試験の時試験官の中にいたような………。
「はい。そうですが貴方は?」
「パウロ・フォン・オーベルシュタイン少佐です。お初にお目にかかります」
少佐?しかも軍服の意匠からして幕僚みたいだけど………
「えっと、私に何か―――えっ」
質問しようとする中、威圧的で冷徹な印象を抱かせるオーベルシュタインの無機質な眼光がチカチカと赤く光った気がした。私の反応から察したのかオーベルシュタインは自身の両目を手で塞ぐ。
「っ…失礼。義眼の調子が悪いようだ。驚かせたようで申し訳ない」
「いえ、構いません」
両目が義眼………ブリタニアはナイトメアフレーム技術以外にも、肉体と機械を融合させるサイバネティクス技術を実用化しているって話は聞いていたけど。
「あの、戦傷を受けられたのですか?」
「いや、生来のものです。弱肉強食を掲げる皇帝陛下からすれば、障害を負った私なぞ弱者に当たるでしょうな」
「………」
愛想笑いを浮かべながら皇帝の言葉を揶揄した?どういうつもりなのこの人?
「貴官は良き縁をお持ちの様だ」
「縁、ですか?」
「一部を除いても大抵の名誉ブリタニア人は多くの制約により軍に入隊しても出世を望めない。だが枢木少佐とアネコージ技術少尉は違う。特にアネコージ技術少尉は」
えっ
「操縦技量は枢木少佐程ではないが類稀な指揮能力を有し、独自のナイトメアを開発するほどの技術、そしてゼロの思惑を見抜く程の洞察力を兼ね備えておられる。まさに天才と呼ぶに相応しい方だ。優越意識ばかり強い者達には理解しがたいでしょうが」
ブリタニア人であるオーベルシュタインがバルコニーにキヨナガを見据えながら褒めちぎる。
ってちょっと待って。キヨナガが、ゼロの思惑を見抜いていた?
「……そうですか。彼をそこまで評価してくれて嬉しいです」
気になるところがあるけど、下手に反応したら怪しまれてしまう。そしたらブリタニア軍に入った意味がない。
ここは流すのが得策だ。
「………ふ、用心しておられるようだ貴官は」
私に向けて愛想笑いを浮かべるオーベルシュタイン。私を見据えるその眼光が威圧的であるのは変わらない。
正直やりにくい相手だ。
「ん?オーベルシュタイン少佐。貴官もパーティに出席していたのか」
そこへキヨナガとダールトンが戻ってきた。
「はい。ブリタニア軍人である以上出席しないわけにはいかないので」
ダールトンからの質問に淡々と答えるオーベルシュタインは、キヨナガの方に向き直り挨拶をする。
「パウロ・フォン・オーベルシュタイン少佐です」
「……姉小路清永准尉です」
「存じております。この度の昇進おめでとうございます」
「え、あっどうも」
「それでは軍務がありますので私はこれで」
失礼致します、と言って私たちから離れるオーベルシュタイン。
「あの、ダールトン将軍。あの方はいったい………」
「ああ、パウロ・フォン・オーベルシュタイン少佐。元は政庁勤務の情報分析官だったが、先の日本解放戦線のアジトを突き止めた功績で幕僚に昇進した」
日本解放戦線のアジトを……。
「かなり優秀なんですね」
「ああ、かなり頭が切れる男だ。だが癖が強すぎてな。コーネリア総督も扱いに困っている」
あのコーネリアが手を焼く程………そんな人間がブリタニア軍にいたなんて。
それにさっきの皇帝を揶揄するような発言とキヨナガに見せた態度。
主義者………と判断するのは早計かも。
なんにせよ、得体の知れない人物だ。
今後会う時にも注意した方がいいかもしれない。
♢
植民地
ゼロが用意した黒の騎士団のアジトである超大型居住空間付き車両。
その中にゼロがいた。
『―――富士鉱山以来だな。ゼロよ』
「ええ、お久しぶりです。桐原殿」
ゼロは車両内に取り付けられた液晶モニターに映る人物と会話していた。
桐原泰三。
サクラダイト採掘業務を一手に担う桐原産業の創設者にして、枢木政権の陰の立て役者。敗戦後は身を翻し、植民地支配の積極的協力者となる。通称「売国奴の桐原」。
しかしその実態は、全国のレジスタンスを束ねるキョウト六家の重鎮。
そして、旧日本側でゼロの正体を知る唯一の人物である。
「話があって連絡しました」
『大体想像がつく。枢木スザクの件だろう?あの小僧がユーフェミアの騎士になったことには儂も驚いておる』
「いいえ。今回は別件で聞きたいことがあります」
『ん?なんじゃ儂に聞きたいこととは?』
「単刀直入に聞きます―――姉小路清永、彼をご存知ですか?」
ゼロからの質問に、一瞬桐原の表情が強張る。が、すぐに平静を装う。
『………誰じゃ?』
「以前河口湖で起きたホテルジャック事件で、日本解放戦線の人質となっていた日本人です。新聞に名前と写真が載っていましたよ」
『………ああ。サクラダイト分配会議の代表と共に写っていたあの若僧か。日本人でありながらブリタニアに迎合するなど、まったく最近の若い連中とくれば…』
「彼のことを少し調べました。枢木スザクのいる特派に配属される前はとある収容所に隔離されていたと。しかし、どういうわけか収監される際の記録が見つかりませんでした。わかったのはある噂が囁かれていた程度です」
『噂、とは?』
「旧日本政府の一部派閥が設立した人工的に天才を作り出す施設の被験者、だと」
『馬鹿馬鹿しい。そんな都合よく作れるものなら、日本は天才で溢れていたわ』
「つまり、そんな施設は存在しない。根も葉もない噂だと?」
『無論だ』
噂を否定する桐原。しかし、ゼロはその言葉を鵜吞みにはしなかった。
「変ですね。最近私の下に来た元日本解放戦線のメンバーは貴方とは真逆のことを言っていましたよ。一度だけその施設に訪問したことがあると」
『っ!?』
ゼロの言葉に合わせて、後ろに控えていた人物がモニターの前に出る。その人物を見て桐原は目を大きく見開いた。
「お久しぶりです桐原殿」
『と、藤堂!?まさかお主、ゼロに話したのか!?あの施設のことを!?』
「はい。知りうる限りのことを」
『なんてことを!あの施設の存在は外部の者には他言無用という盟約だったはず!お主なら破らないだろうと、枢木首相もお主を信頼して護衛に選んだというのに…!』
(………思った通りだった。枢木政権の陰の立て役者だっただけに、当時の裏事情を知っているか。しかもこの様子からして余程世に知られたくないことらしい)
「その枢木首相は亡くなりました。日本という国もなくなったことで秘密保持契約は無いも同然です」
『よくもそんなことをぬけぬけと……!』
「桐原殿。こちらで掴んだ情報によりますと、姉小路清永は枢木スザクと同じ特派に所属している上、彼と同じくナイトメアに乗っています。ニュースで出ていた赤いナイトメアにです。しかも、それは姉小路自身が設計されたそうですよ」
『なっ、なに!?』
「収容所から出てから数ヶ月で新型のナイトメアを創り出す。先にナイトメアに関する知識と技術を身につけるにしても早すぎる。吸収力が尋常ではない。そんな相手が枢木スザクと共に何度も我々の前に立ちはだかったのです。今後も障害となるでしょう。しかし対処しようにも情報がなくては難しいです」
『……っ』
「責めるなら彼ではなく私に。ですがそれは後でいくらでもできます。今は状況が状況です。なにか知っておられるのなら、どうか彼に関する情報を開示願います」
『………………』
画面の向こうで桐原が沈黙して数秒が経ち………
『……よかろう。そういうことなら仕方あるまい』
事態を重くみた桐原は折れた。
『儂が知りうる限りのことを話そう。そうさな………姉小路清永のことを話す前にまずは施設についてからじゃ』
『施設の名前は………そう、ホワイトルーム。あまりに壮大で馬鹿げていて──そして恐ろしい所じゃ』