式根島に着いて早々、オレ達はユーフェミア副総督の命令で基地司令部の救援に向かうことになった。
軍艦からナイトメアで出撃し、森の中をランドスピナーで駆け抜けて暫く経つと、レーダー画面に幾つもの光点が現れた。
まだ距離が遠く、正面モニタにはナイトメアの影も形も見えないが…
「―――射程内に入った」
木の少ないポイントで止まり、新装備のアサルトライフルを構える。
基本は通常のアサルトライフルと同じだが、スナイパーライフルへと可変でき、長距離からの狙撃が可能になる仕様だ。
狙撃モードに切り替えるとライフルの銃身が伸び、同時に頭部のファクトスフィアが展開。
正面モニタにターゲットサイトが表示され、基地の様子が映った。
無頼の他にチョウフ基地で戦ったのと同じタイプのナイトメアが五騎、あの赤いの、ゼロの機体までいる。
やっぱり黒の騎士団か。
「スザク、基地を襲っているのは黒の騎士団だ。守備隊は全滅している。オレはここから敵の足を止める。何発か撃った後にそっちに合流する」
『わかった。僕はこのまま先行する』
『なら私は基地の防衛に当たるわ』
スザクが先陣を切り、マーヤは防御に。オレは遠距離からの狙撃を。
それぞれの役割を分担する。
数では向こうが勝っているが、やり方次第でどうとでもなる。
サブディスプレイに風速、気圧、微振動ログが表示される。
横風、毎秒約3.2
高度差による変化、+0.4
乱流係数は低い。
安定しているな。
距離も角度も問題ない。
後は風だけ。
先ずは先頭を走る一騎の無頼にロックをかけ、トリガーを引いた。
『おわあ!?』
『玉城またか!?』
『狙撃か!?』
無頼が火を噴いて倒れた。脱出ブロックが起動して飛び去る。
コックピットを狙ったんだが………狙いが左に数ミリズレた。
誤差修正。
すぐ他の機体に狙いを定めるが、すぐには撃てない。
射程距離が大幅に強化されるが、連射が出来ないのだ。その上狙撃モードの時はファクトスフィアを開きっぱなしにして、尚且つ感度を増幅させているからエナジーの消耗が激しい。
だから連射ができないし、ロックに時間がかかる。
それにヴァリス程では無いが、使いすぎれば活動時間がどんどん短くなる。
残量を考えて、後数発撃ってから近接戦に切り替えることにする。
『このぉ!』
何機かがこっちに向けて撃ってくるが、射程外の為銃弾は届かない。
『無駄弾を撃つな!急いで建物の影に入れ!』
『ぐあ!?』
『吉田!?』
『大丈夫だ!脚をやられただけだ!』
『そいつはもう使えない。脱出しろ!』
命中。隠れるのが遅れていた無頼の脚部を破壊した。動きを止めたところで脱出ブロックが飛び出していった。
動いている相手を狙うとなるとズレが起こっても仕方ない。
『このぉ!』
敢えてゼロの機体は狙わず、今度はあの紅いのを狙うが、輻射波動で防がれた。
弾が溶解しながら弾けた。
想定内だ。
連中を少しの間足止めできた。
黒の騎士団が狙撃を警戒している隙に、ランスロットとサザーランド・カスタムが基地に到着した。
『対象を確認。各機第三陣形を取りつつ後退せよ。対象には手を出すな。繰り返す―――』
すると黒の騎士団はランスロットとは交戦せず、後退を始める。
『この司令部は私に任せて、スザクはゼロを追って!』
『だけど………』
『私は大丈夫。早く行って!』
『わかった!』
スザクはゼロを追いかけ、マーヤは紅いのと交戦を始めた。
ゼロの方は………射程外か。
紅いのはサザーランド・カスタムが離れないため狙いにくい。間違えればマーヤに当たる。
となると………
エナジー残量のことも考え、連射モードに切り替えてマーヤの方へ滑走する。
基地司令部の敷地内に入ると、サザーランド・カスタムの左腕が破壊され、紅いのに吹き飛ばされていた。
オレはすぐに紅いのに向けて連射する。
すぐに紅いのは回避して後退した。
「無事ですか?」
『ええ、大丈夫。機体が損傷しただけ………それよりも、キヨナガはスザクの援護に向かって』
「………わかりました」
マーヤの無事を確認した後、オレはスザクの後を追う。
妙だな。
戦力比から見ても、黒の騎士団が逃げる理由がない。
そもそもなんでこいつらはこの基地を襲った?
第二皇子が狙いなら来るまで待てばいい。
それにレーダー画面に映るこの陣形。ゼロを最後尾にすえつつ、後退している。
「……スザク。今すぐ追撃をやめて引き返せ。罠だ」
『でもゼロが目の前にいるんだ!』
駄目だコイツ。ゼロがいると冷静さを欠く癖が出てる。
さて、どうしたものかと考えていると、黒いナイトメアが横から迫って来た。
チョウフ基地の時と違い、大振りの刀を武装している。
峰の側にブースターが付けているのか火を噴いていて、その反動でかなり速度が出ている。
しかもその勢いを利用して刀を大きく振り上げた。
オレはすぐにMVSを取り出し防御に入る。
互いの得物がぶつかり合い、火花が散る。
『姉小路清永君だな!』
鍔迫り合いの中、黒いナイトメアからオープン回線で連絡してきた。
『私の名前は藤堂鏡志朗!君のことを知る者だ!』
ん?
『私は君に一度だけ会っている。ホワイトルームという施設で行われた実戦形式のテストを覚えているか?まだ五歳くらいだった君は複数の大人を再起不能一歩手前まで追い詰めた。一人に止めを刺そうした君を、割って入って止めた男がいたろ?それが私だ』
………ああ、思い出した。通りで見覚えあると思ったら、あの時の奴か。
あの時の男がスザクの兄弟子………偶然って怖いな。
「それで?オレを知っているからなんだ?」
『ホワイトルームで受けた仕打ち、日本を恨んでいることは理解しているつもりだ』
恨む?
『だが、日本をブリタニアから取り戻すためにもここは「どうでも良い」!?』
「なにか勘違いしているみたいだな。オレは日本に対してなんの感情も抱いていない」
そもそも大昔から日本という国が不変であったわけではない。
時代の流れと共に名前も政治体制もその都度変わっていった。
エリア11というブリタニアの植民地になったのもその流れの一部に過ぎない。
人はその流れに適応していくか、淘汰されるかのどちらかを選択する生き物。
オレはまだそのどちらにも選んでいない。
「それに、オレの存在は旧政権の連中には不都合な筈だ。オレの暗殺依頼でも出されていないか?」
『っ!』
「…図星か。なら話は終わりだ」
『ま、待て!』
通信を切り、MVSを後ろに引く。鍔迫り合いが崩れた隙に黒いナイトメアから離れ、弾をばら撒いて牽制しながら森の中へと身を隠す。
恐らく藤堂は足止めだ。
目的がスザクとランスロットの確保なら、何らかの罠を用意しているのだろう。
なにせ輻射波動なんて物騒な物を造る技術者が向こうについているからな。
ランスロットと距離を離されたが、方角から大体の位置は割り出せる。
仕掛けるなら、北西の砂丘地帯か。
狙撃に最適な丘の上まで移動し、そこから周囲を見渡すと、砂の窪地にランスロットがいた。
ゼロの無頼に剣を突き付けた姿勢で動きを止めていて、その足元にスザクと仮面の人物、ゼロがいた。
ランスロットの周囲を取り囲むように妙な円盤機械が配置されている。更にその外側には黒の騎士団のナイトメアがいる。
やっぱりスザクが狙いか。
何かしらの原理でランスロットの駆動を止める手を使ったのか。
ゼロがスザクと何か話しているようだ。
ファクトスフィアを展開して声を拾う。
『前にも言ったはずだ!間違った方法で手に入れた結果に意味はないって』
『では聞こう。今の平和にも意味はないのか?』
『っ!』
『七年前、日本が徹底抗戦を選んでいたらどうなっていたと思う?中華連邦とEUが介入し、日本は三つに分断され、未だに戦い続けていただろう』
日本はサクラダイトの生産量が多い。そのためブリタニアに占領されエリア11となる以前の日本は、これを外交のカードとして駆使する事で、中華連邦・E.U.も含めた3大勢力のいずれにも属さない中立の勢力として立ち回っていたようだ。
ブリタニアが攻めれば他の二大勢力が黙っていないわけか。
『今の平和はいち早く決まった無条件降伏によるものだ』
『………そうだ。父さんの築いた平和を壊さないために、自分は戦って――――』
『違うな。降伏は選挙で選ばれた枢木首相ではなく、彼を殺した何者かが勝手に決めたことだ』
『っ!』
『政府の指揮系統に乱れが起こり、降伏を選ぶしかなくなった。わかるな?人々の意志は奪われたのだ。ルールを破ったひとりの犯罪者の手によって、勝手に!』
『あ………どうしてそれを………』
映像からスザクがかなり動揺しているのがわかる。
ひょっとして、殺したのか?じぶんの父親を?
それをネタにゼロはスザクに仲間になるよう説得している。
その時、基地司令から特派のチャンネルにオーバーライド通信が入った。
『こちらはブリタニア軍式根島基地司令、バイエル中佐だ。これよりテロリストに対し地対地ミサイルを撃ち込む。枢木少佐はその場にゼロを足止めせよ。これは準一級命令である』
足止め……つまりスザクごとゼロを殺すつもりか。離れ小島の司令にしては随分と大胆な。いや、準一級命令とか言っていたな。上からの指示ということか?
『ランスロットを壊す気!?』
そこじゃなくねプリン。
だがスザクはゼロを抑え込んでランスロットのコックピット内に突っ込んだ。どうやら命令を従うつもりのようだ。
「………愚直だな」
もっと見所ある奴と思っていたが、ここまでか。
レーダーで基地から無数のミサイルが飛んでくるのを確認した。
黒の騎士団も気付いたようで、ゼロを守るべく黒の騎士団のナイトメアがそれぞれの武器を空へ向ける。
『飛来するミサイルに対し弾幕を張れ!全弾撃ち尽くしても構わん』
対空射撃が始まり、幾つものミサイルが破壊されていく。
だがミサイルの数が多すぎて迎撃が間に合っていない。
その時、森から見覚えのある青白い光弾が飛び出し、ミサイルをいくつも吞み込み、破壊した。
ヴァリスのバーストモード………マーヤか。
確認すると青い機体、サザーランド・カスタムがヴァリスでミサイルを迎撃していた。
エナジー切れも気にせずに何発も撃ちこんでいき、銃弾が止んだ時には残りのミサイルは全て撃ち落としていた。
これってマーヤが命令違反にならないのか、と考えていた時だった。
レーダーが大きな機影を察知した。
これは…空から?
「は?」
頭上を確認すると、巨大な影が見えた。
「巨大な船が……空を?」
黒の騎士団が空に浮遊する船に向けて射撃を開始するが、ランスロットと同じブレイズルミナスが展開していて、通用していない。
空中艦の下部のでハッチが開く。
なにか赤い光が………。
「は?マジかよ」
二つの赤黒い光。
空に浮かぶ船から降り注いだその禍々しい強烈な光が、オレを含む全てを呑み込んだ。
♢
そこはかつていた白い部屋だった。
白い机と、白い椅子と、そして白い簡素な服を着た多くの幼い子供たち。
身寄りのない孤児、表には出せない隠し子など、皆訳ありでかき集められた者たちだ。
ここではその訳ありの子供たちが教育を受けていた。
あらゆる分野を担当する講師たちは表の世界で問題を起こした連中ばかりで、提示されるカリキュラムも普通の子供では耐えれそうもないものだった。
行き過ぎた教育に音を上げて脱落するものが多く、無事に修了したとしても感情の欠如などの副作用が残る者が殆どだった。
そんな異常な場所に生まれた時からいたオレは時が経つごとに次々と脱落していく子供達を見送った。
一人オレに助けを求めるのがいたが、オレにはどうすることもできなかった。
そして最後には白い空間にオレ以外誰もいなくなった。
最後の1人になったとしてもオレがここから出ることは叶わない。生まれた時から生涯サンプルとしてここに留まることは決まっていた。
オレは一人机の上にあるテスト用紙の解答欄に答えを書き込んでいく。
すると机に影が出来る。誰かが内界に侵入してきたのだ。
「キヨナガ」
「────」
この窮屈な部屋で、オレの名前を呼ぶ者はたった一人だけ。
だがオレは特に反応を返すことはしなかった。
何故男がオレを呼んだのか、何を話そうとしているのか。その全てがどうでも良かったからだ。
「よく覚えておけキヨナガ。『力』を持っていながらそれを使わないのは、愚か者のすることだ」
♢
「……っ」
光が収まり、目を開けてみる。
するとおかしな光景が広がっていた。
「どういうことだ?」
オレはどこかの浜辺に座り込んでいた。
コックピットの中にいたはずなのに、いつの間に外に出たんだ?
それにこの感じ…気候や植生の感じからは式根島からは遠く離れていないようだが、別の島な気がする。
夢、ではないな。海水が冷たい。
これが現実なら……
「何かしらの力が働いて移動…いや転移させられたのか?」
なんてそんなわけ……
「―――ふーん、結構鋭いね」
「っ」
突然誰かに声をかけられた。
後ろを振り向くと、そこには子供がいた。
「まさか初見でそこまで見破るなんて。大抵の人は困惑するだけなのに」
足元まで伸びた金髪。幼いはずなのにやけに落ち着いた雰囲気の少年。
オレはコイツを知っている。
「やっぱり君は普通じゃないね」
ブリタニアが侵攻してきた際、ホワイトルームを襲撃した連中を率いていた…
「久し振りだねキヨナガ。もう五年は経つかな」
オレを連れ去り、そして再びエリア11へと送り返してあの牢獄に閉じ込めた張本人だ。
「ああ、大体それくらい経つな―――V.V.」
新型アサルトライフルはロスカラのクラブの装備です。
狙撃手はスコープからのぞく観測者とイメージがあるため、キヨナガは狙撃ポジションにしました。