ピッ
『昨晩未明、エカテリンブルグ近郊でユーロ・ブリタニアとユーロピア共和国連合軍との衝突があり――――』
ピッ
『KMFリーグ決勝では”クラッシャー”ことソキア・シェルバ選手が最高得点を獲得し――』
ピッ
『フクシマ、コウチ、ヒロシマ………エリア11各地でイレヴンによるテロ活動が発生しました。これは先日のゼロと名乗る仮面の人物の登場による影響と見られ――――』
ピッ
『容疑者であった名誉ブリタニア人、枢木スザク一等兵の護送を指揮していたジェレミア・ゴットバルト代理執政官によるゼロの逃亡幇助に関して、一部で収賄や謀反の疑惑が上がっており―――』
ピッ
『――これにより、いくつかの式典は中止に。引き続き、テロへの警戒が呼びかけられています』
釈放されてからすぐのこと。セシルさんが手配してくれたホテルの一室で一夜明けた。翌朝、部屋に置かれていたテレビで番組を見ていた。
こういった世俗関係の物には生まれてから一度も触れたことがなかったため、こうして間近にあるのはなかなか新鮮だ。
コンコン
「ん?」
リモコンを色々操作していたら、廊下に続く扉からノック音がした。
扉についているドアスコープを覗くと、扉の前にロイドとセシルさんがいた。
ロイドには昨日のことで言いたいことがあるが、取り敢えず扉を開けて挨拶しておく。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようキヨナガ君。ゆっくり休めたかしら?」
「はい。シャワーやベッドが快適すぎて変な感じでしたが」
「囚人生活が長いとそういう違和感を覚えるのは無理もないか。もっとも、キミの場合生まれてからずっとだけど」
まあ、あそこでもある意味囚人だったか。
「それで、外に出た感想はどうだい?」
「感想もなにも、出てまだ半日しか経っていないんだが……まあ強いて言うなら、今まで一度も触れたことのない物に実際に触れることができて新鮮だ」
「今までって……ひょっとして旧日本時代から?」
「あそこでは俗世間をくだらないものと切り捨てられていたので」
「あはは、とんでもない箱入り娘ならぬ箱入り息子だね。テレビを見て”薄い箱の中に人がっ!?”ていうリアクションを取ってくれたら面白かったんだけどなぁ」
「なんだそれ」
それ原始人かなにかの反応じゃないか?
「ところで、昨日の話についてだが……」
「ん?ああ、ランスロットのデヴァイサーの話だね。ゼロがテレビでクロヴィス殿下を殺したのは自分だって宣告したからね。あんなことがあった後で法廷が強引に枢木一等兵を有罪にするのはできなくなったわけだ。法廷に手を回していたジェレミア代理執政官があんなことを仕出かしちゃったわけだしね」
「法執行機関も体裁を気にするか……」
「たぶんだけど…逃亡後法廷に出頭したスザク君は取り調べの後釈放されると思うわ」
「自分を有罪にしようとしていた法廷に出頭って…」
いったいどういう神経しているんだソイツ。
法執行機関そのものが腐りきっていると分かりきっているというのに…
…………いや、分かり切っているからこそか。
そのままゼロと一緒に逃げ切ってしまえば、ゼロと共犯者と思われてしまう。
それに、旧日本最後の首相枢木ゲンブの息子である枢木スザクが逃げてしまっては、ブリタニアの警戒心が高まり日本人への弾圧が強くなる可能性が高い。
それにゼロが自らが真犯人だと全国中継のニュースで名乗った後ともなれば、法廷は体裁を気にして無罪にせざる得ない。
ある意味、枢木スザクの行動は全ての日本人と自分自身を守ったということだろう。
「というわけで、ランスロットにはまた枢木一等兵に乗ってもらうから。ざぁんねぇんでした!世界でたった一つのナイトメアに乗れなくてがっかりでしょ?」
「ん?いや別に」
「スーパードライだね」
だってスカウトを受けたのは外に出るための手段で、ランスロットというロボットに乗ることはあくまでも二の次だったし。
「それで、枢木の代わりだったオレはお払い箱か?」
「うーん……そうなるか「ロイドさん?」あっいや、取り敢えずサブデヴァイサーになるかなぁ。枢木一等兵にまたなにかあった時のね。あっ、でもそのなにか起こるまでキミ暇になるね。予備パーツとか無いから二号機なんて用意できないし」
「あっ、でしたら彼には第五世代の機体でランスロット用に開発する装備の実証実験を担当というのは?第七世代であるランスロットをベースに量産機を開発するためにはまだいくつも課題がありますし」
「あー…そうだね」
なんか話がどんどん進んでいくな。
「なあ……その第五世代とか第七世代っていうのはいったいなんなんだ?」
「ん?そっか。
そこはセシルさんに丸投げか。
眼鏡が部屋を出た後、セシルさんが手元にあったタブレット端末を操作して人型ロボットの画像を見せる。
「それじゃあ説明するわね。まずKMFは一言で言えば人型ロボットなんだけども、設計の始点は『局地的状況における生命保持を主眼に置いたサバイバルコックピット機構』というものなの。つまり、
成程。兵器として運用するなら、乗り手の安全性を重要視するのは必定か。
「初期に開発された第一世代は、コックピットに足が付いただけのものだったけど、それに
「KMF同士の戦闘を想定………ああ、他国も真似してKMFを開発したらという前提の話か」
「そういうこと。導入はされているみたいだけども、今のところブリタニア製に匹敵するのは出てきていないという話よ」
今のところは、か。
「第6世代では新機軸の技術開発を目指していくつもの研究が行われたけど、具体的な方向性や成果を得ることができず、実用化には至らなかったの。それでも独創的なアイデアはあったから後の第7世代機の一部にそれが活かされる予定よ」
「予定?」
「まだ実証実験中といったところかしら。第7世代に関しては………ランスロットを直接見せた方が早いわね」
ちょうどロイドが戻ってきて、共にホテルを出てしばらく歩くと、駐車場にあるかなりごつい感じの大型のヘッドトレーラーの前に着いた。
「それじゃあご対面~」
ロイドがトレーラーを操作すると後部のハッチが開き、中に格納されていたものが姿を現す。
全高約4.5m。戦闘兵器らしからぬ白のカラーリングと金色のラインが施された機械仕掛けの騎士がそこにあった。
「これが僕が造った「私達が」あっはい。僕達が造った第7世代機ランスロット!ナイトメアフレームの動力源として使用される『ユグドラシルドライブ』の核であるコアルミナスに大量のサクラダイトを使用することで、これまでのナイトメアとは一線を画す高い運動性と火力を獲得することに成功したんだ。まだ殆ど丸腰だけど、これから革新的かつ強力な装備を搭載されるんだ。どう?凄いでしょ?」
ロイドが楽しそうに自分の作品を自慢する様子はまるで無邪気な子供のようだ。
「ちなみにこれがこの前のシンジュクで得た実戦データよ」
セシルさんが見せてくれたランスロットのスペックデータと、軍で配備されているKMFのスペックデータを見比べてみる。
数値だけ見ても、ランスロットが前世代機とは段違いの性能を誇っているということは大体わかった。
ん?
「…この開発費用の見積もり、他の機体よりかなり高いみたいだが」
「ああこれね。ハイスペックに拘ったから運用コストが非常に高いの。開発費自体も特派の年間予算の殆どがこれ一機につぎ込まれるぐらい」
「うっ………」
「そのうえ性能の上昇のみに重点を置いて開発されたから、スザク君以外のパイロットだと機体出力に振り回されて満足に操ることすら出来ない問題が発生して……」
「ぐっ…」
「極め付けに多数の新システムを積むことを優先したからコクピットの緊急脱出装置が外されているの」
「…………とんでもない欠陥機だな」
「がはっ!」
単機としては最強だろうが、このまま量産してもブリタニアが赤字になるだけだし扱える乗り手がいないという欠陥機。
汎用性と運用性、生産性を考慮が後の課題になるとか順序が逆な気がする。
結局のところ、マッドな開発者が後先考えずに自分たちのやりたいことである先端技術の開発を優先した結果、今に至るわけか。
まあ、それでオレは外に出れたわけだからこの現状に感謝すべきか。
「それで、オレにはそのランスロット用の装備の実証実験をさせたいのは、将来的に次期主力量産機への転用が可能になるようにするのも考慮に入れていると?」
「そういうこと。だから貴方にはランスロットとは別にその検証実験用の機体に乗ってもらいたいの。ただ問題が一つ残っていて………」
「というと?」
「今のキミはナイトメアに乗れないよ」
セシルさんの代わりにロイドが答える。
「ナンバーズがナイトメアに騎乗することをブリタニアが禁じているからね。それ以前にキミ、名誉ブリタニア人じゃないし」
「名誉ブリタニア人?」
「エリア出身者を名目上ブリタニア人として扱おうっていう制度だよ。ブリタニアの支配地域では様々な制約を課されるから現地の人間は不便な生活を強いられてしまうけど、名誉ブリタニア人として市民権を得れば、それらの制約は緩和あるいは取っ払われ、正規のブリタニア人と同等の生活水準を享受することが可能になって、軍なんかの公職にも就くことができるんだ。当然武器や通信機の所持を禁じたり、ナイトメアフレームの操縦者に必要な『騎士』の称号も貰えないなんかで制約が全くないわけではないけどね」
当然か。ブリタニアに対して反発心を心の奥に抱いているかも分からない相手が乗れてしまったら大変だしな。
「だが枢木スザクはランスロットに乗れたんだろ?」
「ランスロットをまともに動かせるのは彼だけだったからね。特例として認められたよ」
「よく認められたな」
「そりゃあ凄く偉い人が後ろ盾についているからねぇ」
こんな変人の後ろ盾になるなんて、いったいどんな物好きなんだ?
「そろそろサミットも終わる頃だろうから、キミを名誉ブリタニア人として登録するのと、ナイトメアの騎乗資格についてかけ合うよ」
サミット?
「許可が下りるまでの間は…そうね。シミュレーターで操縦訓練をするといいわ」
そう言ってセシルさんはオレにランスロットの脇にある、『No.001』という文字が書かれた大きな箱状の物体について説明する。
「これは?」
「ナイトメアのコックピットを模して作られた騎乗訓練用のシミュレーターよ。コンピューターに記録されている仮想空間でのナイトメアの操作からパイロットとしての能力を判定するわ。スザク君を選んだのも、軍のデータベースを調べていた時にシミュレーターの成績で高い数値を出していたことを知ったからなの」
「騎乗経験ゼロであれだけの性能を引き出せたんだからね。彼、パイロットとしての素質があるんだろうね」
生まれながらの素質か。
オレとは大違いだな。
「それと使う機体をモード選択ができるの。第4世代のグラスゴーや第5世代のサザーランド、グロースター…色々なのを使ってみて自分に合った機体で慣らしていくといいわ。操縦で分からないことがあったら遠慮なく聞いてね」
「わかりました」
「頑張るんだよ」
「そっちもな」
「…ねぇ、ずっと気になってたんだけどさ。なんでセシル君には敬語なのに僕にはタメ口なの?」
「あー…上下関係?」
「なんのさ…僕一応セシル君の上司なんだけど」
眼鏡がなにかぶつくさ言っているが気にしないことにして訓練を始めることにする。
後部のハッチが開き、中から座席がスライドして出てくる。
それに座ると前方にスライドし、中に入ると目の前にはモニターや操縦桿、なにかの計器等が設置されていた。
説明書の通りにコンソールを操作し、使用するナイトメアを選択する。まずは無難に第4世代のグラスゴーからだ。
ホワイトルームで教わることがなかった人型ロボットの操縦。まったく未知の分野にオレの力がどこまで通用できるか。
ひょっとしたら、ここではあそこで学べなかったことを学べるかもしれない。
そんな期待を胸に、訓練開始の合図と同時にモニターに映し出された仮想の戦場の中を駆け抜けてゆくのだった。
◇
数日後。
ランスロットのテストパイロット枢木スザクが釈放されるという情報が舞い込み、オレはロイド達に連れられる形で共に彼を迎えに行くことになった。
「遅れちゃったなぁ。待っててくれてると良いけど………」
携帯で連絡できないんだから待ってるも何もないだろ。
「それで、確かなのか?枢木スザクが証拠不十分で釈放されるにしてもやけに早いと思うが」
「新しく着任した副総督がちゃんと捜査をするべきだって口添えしてくれたみたいでね。まあ、ゼロの件ではたっぷり取り調べられたみたいだけど」
「新しい副総督が?」
ナンバーズに対して随分とまともな対応だな。どういう奴なんだ?
「あれ?なんで……」
「えっ」
「ん?」
ロイドのセシルさんの視線の先を追うと、枢木スザクと思しき少年が少女と肩を並べて歩いているのが見えた。
桃色の髪を腰まで伸ばしたその少女に二人はかなり驚いている。
「どうしてあの方がスザク君と?」
「あの方?知っている子ですか?」
「知っているには知っているけど……いやまさか」
誰なのか聞いても適当にはぐらかされ、そのままトレーラーで枢木スザクと謎の少女の尾行が始まったのだが……。
いわゆるデートと言うやつなのか。
枢木と少女が楽しそうに街を歩き回ったり、出店でクレープという食べ物を一緒に食べたりと、甘々な光景を長い時間見せつけられていた。
「…………いったいいつになったら声をかけるんだ?」
「我慢してよ。あの方の邪魔をするような真似するわけにいかないし」
天邪鬼なロイドが他人に配慮するなんて珍しい。
伯爵よりもかなり高い位の人間なのか?
まあいいや興味ないし。
それより……窓越しから街を眺めてみたが、道を歩く人間のほとんどがブリタニア人ばかりだ。
一応日本人らしき人間をちらほら見かけるが、ブリタニア人と面倒になるのを避けるためか脇道を俯きながら歩いている。
「おら、何とか言ってみろよイレヴン!」
「お前もテロリストなんだろ!」
「ち、違う…僕は……がぁ!!」
「口答えしてんじゃねえよイレヴン風情が!」
隅っこで小さな出店を出していた日本人がガラの悪い連中から暴行を受けている光景も見えた。周りの人間は関わりたくないのか見て見ぬ振りをしている。
「まったくもう…やめなさい!」
その光景を見かねたのか、セシルさんがトレーラーから降りて注意する。
「おいあれ軍人だぜ」
「逃げるぞ」
軍服姿のセシルさんを見てガラの悪い連中がその場から立ち去った。
「貴方、大丈夫?」
「は、はい……えっ、ブリタニアの軍人?い、いらっしゃいませ!カリフォルニアドックはいかがですか?」
「えっ」
暴行を受けていた日本人はセシルさんの軍服を見てペコペコしだした。
「…成程。これが今の日本、いやエリア11の現状か」
「ああいうのはよくあることなんだよ。キヨナガ君も租界の街を歩く時は気を付けた方がいいよ」
「わかっている」
外出は控えめにしておくか。
セシルさんが長いソーセージをパンで挟んだものを三つ買ってトレーラーに戻ってきて、三人でそれを食べることになった。
カリフォルニアドックという食べ物は、セシルさんが差し入れしてくれるおにぎりよりも美味しかったのは口に出さないでおく。後が怖いから。
それからも二人の尾行が続き、日が傾き始めた頃にはシンジュクゲットーという場所にまで行っていた。
ゲットーという場所はまさに廃墟だった。
最近戦闘でもあったのか、銃弾や爆発の痕跡、瓦礫にこびりついた血の跡がそこら中に見える。
「ここでいったい何があったんだ…?」
「テロリストが軍から毒ガスを盗んだ後ここに逃げ込んでね。クロヴィス殿下の指揮でテロリストの殲滅が行われたんだ。ゲットーに住んでいたイレヴン達の殆どはその巻き添えさ。老若男女問わずね」
「巻き添え…」
二人がいる場所をよく見ると、誰かの墓のようなものがいくつも並んでいるのが見えた。
テロリスト殲滅とはいえ、これはやりすぎだ。
イレヴンの命なんて人以下としか見ていなかったのか、或いは盗まれた物に関する情報を秘匿するためだったのか…いや、その両方か。
「ん?」
「どうかした?」
「いえ……」
気のせいか。黒いスカートと黄色いジャケットを着た黒髪の少女が二人を避けるように駆けていったのが見えた。一瞬だったが、顔つきからしてブリタニア人か?
ドゴオオン!
その時、遠くから爆音のような音が聞こえた。
「な、なに!?」
「ひょっ、ひょっとしてテロリスト!?」
セシルさんが慌ててトレーラーについていた通信機を弄ると、スピーカーから声が出てきた。
『ジェレミア!クロヴィス殿下殺害犯を取り逃がした責、その身であがなってもらうぞ』
『卑怯な、キューエル。ゼロ発見とは偽りか!』
「えっ、これって………」
「純血派の内輪揉め?」
トレーラーを二人の下まで走らせ、セシルさんが窓から枢木に声をかける。
「スザク君!ここは危険よ。乗って!」
「セシルさん!」
「純血派の内ゲバなんだよ。とっとと逃げよ。ああそれと、釈放残念でした。また付き合ってもらうよ」
「待ってください!」
「ん?」
「ランスロットの戦闘データを取るチャンスではないんしょうか?」
「えっ」
「ほほう」
何言ってるんだコイツ?
まさか内輪揉めに介入する気か?相手が自分を陥れた連中だというのに?
頭おかしいんじゃないのか?
「あの………ところで、彼は?」
「ん?ああ。彼は予備のデヴァイサーとしてスカウトした子だよ」
「…………姉小路清永だ」
「僕は枢木スザク…よろしく」
ロスストのマーヤたん可愛い。
特にメイド服姿が。
ああ…脳が震える。