コードギアス―謀略のキヨナガ   作:嫉妬憤怒強欲

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さあ、とうとう来ました。
混ぜるな危険の二人がとうとう出会ってしまいます。


STAGE20「神根島での邂逅」

 時はスザクがユーフェミアの騎士に選ばれた時期まで遡る。

 あまりの異例のことに、宰相兼特派の支援者であるシュナイゼルがエリア11へ赴くことが決まった頃。

 

「ロイド伯爵からの報告から私なりに分析したところ……」

 

 静かな執務室でカノン・マルディーニが端末を閉じる。

 

「ナリタ連山や他の作戦での行動………主観的ではありますが、傾向は一致しています。“無駄がない”“壊れない”――そして」

 

 カノンは一泊置き、告げる。

 

「“相手の思考を読んでいるよう”」

 

 デスクに座るシュナイゼル・エル・ブリタニアはカノンの言葉を静かに聞いていた。

 

「黒の騎士団とコーネリア軍双方の、かね?」

「まるで戦場そのものをチェスの盤面として見ているかのようです」

「君もそう思うか。技術者寄りかと思ったら、まさか戦略家の一面もあるということかな」

 

 わずかに笑みを浮かべるシュナイゼルを確認しながら、カノンは続ける。

 

「技術者といえば、つい先程例の結果報告がきました」

「見せてくれ」

「はい、こちらです」

 

 カノンが提出した端末に複数の試験機データが並んでいた。

 各研究局が提出した次世代ナイトメア案。

 

『姿勢制御破綻』

『高機動域で操縦負荷急増』

『一般兵適応率二十二パーセント未満』

 

 対して特派のグレイズ・マリスカスタムの波形だけが異様に安定している。

 

『操縦負荷、 従来比二十八パーセント低下』

『一般兵適応率、 現行試験群中最高値』

『姿勢制御安定性も良好です』

 

「………結果が芳しくないね。トロモ機関やミルビル卿が苦戦していたからある程度予想はしていたが、まさかここまでとは」

「ですが一つだけ例外が」

 

 カノンが次のデータを表示する。

 

「これはバトレー将軍が率いる研究チームの………」

「例の実験機と同じ操縦システムを採用した機体です。これのみ異常な安定性を示しています」

 

 表示される数値。

 明らかに一機だけ違う。

 

「偶然………で済ませるには結果差が大きすぎるね」

 

 シュナイゼルは画面を見つめる。

 インナーフレーム技術を特派以外の各研究機関で再現・応用できるか試してみたが、どの純軍事研究所も兵器としての最適化に失敗。それに対し、バトレー将軍のみが成功していた。

 

 なぜこれだけ噛み合った?

 

 提出された資料には、『骨格(フレーム)自体が駆動部を持ち自重を支える、可動骨格と強度部材を統合した内骨格構造』とだけあった。

 確かにムーバブルフレームは、ロボット(MS)の可動骨格と強度部材を統合した構造。装甲に依存せず内部骨格で機体自重を支えるため、関節の可動範囲拡大、軽量化、コックピット等のブロック換装(汎用性)が容易になり、メンテナンス性やパイロットの生存率向上につながる点で、兵器として極めて合理的だった筈。

 

「この結果に関してバトレー将軍の分析によると、”このフレームは兵器ではない。まるで人間を拡張した器のようだ”との報告が」

 

 人間を拡張した器。

 兵器ではないということか。

 偶々そうなったのか。

 

「――――どうやら前提条件が間違っていたようだ」

「殿下?」

 

 シュナイゼルはゆっくり椅子へ背を預けた。そして柔らかく微笑む。

 

「……一度、 会ってみたい」

「彼にですか?」

「ああ。どんな人物か見定めるには直接観測するに限る。せっかくだから艦のテスト飛行も兼ねてね」

 

 シュナイゼルは立ち上がり、窓の外を眺めながら告げる。

 その声には、はっきりとした興味があった。

 

 

 何もない一面白の場所の空気が、普段より薄い。

 そう感じたのは、環境の変化ではない。

 人の気配が減っている――ただそれだけの事実だ。

 扉の先にある廊下は、普段と同じ無機質な白のはずだった。

 だが今日は、足音の数が明らかに少ない。

 遠くで、何かが崩れる音がした。

 

 爆発音。遅れて、振動。

 

 この施設では想定外の現象だ。

 だが、異常というほどでもない。

 

「外的要因か」

 

 独り言は、誰にも聞かれない。

 次の瞬間、照明が一瞬だけ明滅した。

 非常電源への切り替え――訓練で何度も経験している。

 違うのは、その“頻度”だ。

 規則性がない。つまり、制御されていない。

 

 扉の向こうで、足音が止まる。

 

 複数。だが、訓練された動きではない。

 

 銃声。

 短く、無駄がない。

 

 だがここにいる側のものではない。

 

 扉が開く。

 そこに立っていたのは、見知らぬ兵士ではなかった。

 

――子供。

 

 いや、外見だけだ。

 同年代くらいに見えるだけのそいつは静かに微笑んでいた。

 

「やあ」

 

 軽い声音。場違いなほどに。

 

「初めまして、僕はV.V.。君がホワイトルームの最高傑作か」

 

 視線が合う。

 観察されている。

 評価されている。

 それだけは理解できた。

 

「施設は制圧したよ」

 

 V.V.は続ける。

 

「思ったより簡単だった。拍子抜けだ」

 

 V.V.の背後で、何かが引きずられる音がする。

 人間の重さ。

 血の匂いが、わずかに混じる。

 

「君の“父親”もね」

 

 言葉の意味は理解できる。

 だが、優先順位は低い。

 重要なのは、目の前の存在だ。

 

「君は、どうする?」

 

 問いかけに聞こえる。だが選択肢は提示されていない。

 オレはわずかに視線を動かす。

 

 出口。人数。距離。武装。

 

 すべてを把握し、そして結論だけを出す。

 

「……従うのが最適だ」

 

 一切の感情を含まないオレの言葉に、V.V.は一瞬だけ目を細めた。

 

「ふーん」

 

 興味。

 V.V.の眼から純粋なそれが、そこにあった。

 

「いいね」

 

 そう言って、彼は手を差し出す。

 

「じゃあ来なよ。君にはその価値がある」

 

 オレはその手を見ながら考える。

 

――危険。

――不確定要素。

――しかし、生存率は高い。

 

 判断は終わった。

 その手を取る。

 

 背後で誰かが倒れる音がしたが、振り返る理由はない。

 

 ここから先は、未知の領域だ。

 だがそれは、

 ただ“環境が変わる”だけの話に過ぎない。

 

 

 波の音が一定のリズムで続いている。

 その単調さの中で、イレギュラー(V.V.)がいた。

 

「久しぶりだねキヨナガ」

 

 相変わらず場にそぐわない、軽い声。

 

「外に出ていたらしいね。びっくりしたよ」

「偶然その機会が訪れただけだ」

 

 説明にはならないが、事実ではある。

 

「オレを連れていっては、送り返して収容所に閉じ込めた張本人がオレに何の用だ?」

「ひょっとして怒ってる?」

「いや。多少不満はあったが」

「僕も本意じゃなかったんだ。ただね、君の扱いに困ってたんだよ。君は他の子達と違って完成され過ぎていて”歪み”がなかったから。けど排除するには惜しかったから、ひとまず隔離・観察というので妥協したんだ」

 

 妥協、ね。

 オレの利用価値について悩んでのことか。

 

「………で、またあそこに閉じ込めに来たのか?」

 

 

 オレの問いにV.V.は笑った。

 

「ううん、そのまま自由にしてもいいよ」

 

 ん?

 

「見逃すってことだよ。君はもう“収容物”じゃない」

 

 オレの目の前に再び姿を現したのは偶然じゃない。

 わざわざさっきの言い回しを考えても、ただ手放す筈がない。

 

「……その見返りにオレにどうしろと?」

 

 V.V.の口角がわずかに上がった。

 

「至ってシンプルだよ。実はある女の子を探していてね。名前は”C.C.”っていうんだ。もし彼女を見かけたら捕まえてほしい」

 

 風が一瞬だけ強く吹き、潮の匂いが濃くなる。

 オレは、わずかに目を細めた。

 

「理由は?」

「僕が欲しいから」

 

 即答だな。嘘ではない………だがそれだけじゃないだろう。

 

「拒否した場合は?」

「自由はそのまま。君に強制はしない」

 

 条件としては破格だな。探しているのなら自分でやればいいのに………そいつに警戒されているとかか?

 いずれにせよコイツにとってそのC.C.にはそれだけの価値があるということか。

 

「……確認したいことがある」

「なんだい?」

「オレに監視がついたりは?」

「つけないよ」

 

 即答だな。コイツの出任せかもしれないし、保証もないがそもそも必要もない。

 

「………見かけたら、な」

 

 承諾とも拒否とも取れない言い方に、V.V.は楽しそうに笑う。

 

「いいねその答え方。じゃあ契約成立、でいいかな?」

「………」

 

 当然返事はしないでおく。

 契約なんてものもあってないようなものだ。

 

 次の瞬間、突然風向きが変わった。

 低く、重い振動が空気を押し潰すように広がっていく。

 波音が乱れ、木々の葉が一斉にざわめいた。

 上を見上げると、雲の切れ間、その向こうに大きな影が差した。

 羽根を付けた船の様なシルエットに見覚えがあった。

 

「邪魔が入ったから行くね。それじゃあ頼んだよ」

「おい、せめてオレをこの島から出せ」

 

 視線を戻すと、V.V.の姿が既になかった。

 さっきまでそこにいたはずなのに、綺麗に消えている。

 気配も消えている。

 足跡すら残っていなかった。

 まるで最初からここにいなかったかのように。

 接触してきたタイミングからして、オレをここに移動させたのはあいつの仕業の様だな。

 どういう仕掛けかは知らないが。

 

……自由にしてもいい。

 あの男はそう言った。その代わり、『C.C.を見かけたら捕まえてほしい』とも。

 目的が分からないが少なくとも、ここで何かが起きているのは確かだ。

 

「さて……」

 

 今はこの島から出るのが必須だが、インカムを失って連絡手段が取れない。

 オレは砂を踏みながら歩き出す。まず必要なのは情報。現在地や地形。

 潮の流れと風向きからして、本土からそこまで離れてはいないはずだ。

 それらを把握する前に動く理由はない。

 

 上を見上げる。

 

 あの飛行艦が静かに、しかし圧倒的な質量で空を滑って移動している。

 

 形状からして、戦闘や指揮を前提にした艦に見える。

 ブリタニア軍……か?

 だとすれば、この島は既に作戦区域になっている可能性が高い。

 あの男が現れた直後というのも気になる。

 偶然とは思えない。

 オレは目を細める。

 飛行艦は一定方向へ移動していた。

 捜索か。

 何かを追っているようにも見えた。

……C.C.。

 さっき聞いた名前が頭をよぎる。

 

 無関係ではないか。

 まだ判断材料が少ないな。

 オレは海岸から視線を外す。砂浜を移動し続けるのは悪手だ。見通しが良すぎる。森林内部は情報が減る。

 

「なら――」

 

 崖沿いか。遮蔽と視界を両立できる。

 オレは足場を選びながら斜面へ向かった。上へ行けば、この島の構造も見えてくるはずだ。

 

 砂浜を離れて数分。

 足元の砂は徐々に岩混じりになり、傾斜が強くなる。

 オレは木々の間を抜けながら上へ進んだ。

 湿った土の感触。葉擦れの音。遠くで鳥が飛ぶ気配。人の気配はまだない。

 

 だが、完全な無人島とも思えなかった。

 地面に折れた枝がある。自然に折れた形じゃない。誰かが通った跡か。

 オレはしゃがみ込み、断面を見る。

 新しい。数時間以内。少なくとも、この島には他にも人がいる。

 当然か。

 あの飛行艦が動いている以上、何もない島というわけじゃない。

 再び歩き出す。

 上へ。

 視界が開ける場所を探す。

 やがて木々が途切れ、岩場へ出た。

 海が見える。

 かなり広い範囲まで確認できた。

 島全体の輪郭までは無理だが、地形の傾向は分かる。

 中央部は森林が濃い。高低差も大きい。洞窟や崖地形も多そうだ。隠れる場所には困らない。

 逆に、人を探す側には面倒な地形だな。

 オレは岩陰へ身を寄せながら空を見る。

 さっきの飛行艦はまだ遠くを飛んでいた。

 一定高度を維持している。

 捜索範囲を広く取っているのか。

 

 あるいは――

 何かを見つけるまでは降りるつもりがないのか。

 オレは視線を移す。

 

 海岸。森林。崖。

 

 もし自分が捜索する側なら、まず人が集まりやすい場所を押さえる。

 

 水場。洞窟。開けた地形。遭難者も、逃走者も、結局は動きやすい場所へ流れる。

 その時だった。

 遠くで、かすかに音がした。

 草をかき分ける音と人の声。

 オレは反射的に身を低くする。

 風向きからして、そこまで離れていない。

 

 複数人か。

 軍か、それとも別の勢力か。

 どちらにせよ、迂闊に出る理由はない。

 オレは気配を殺したまま、音の方向へ視線を向けた。

 

 

 木々の隙間。

 人影が二つ。

 一人は白い服。もう一人は――拘束されている。

 オレは目を細めた。

 拘束している側の顔に見覚えがある。

 

「スザク………」

 

 どうやらスザクもこの島に転移していたようだ。

 だが問題は拘束されている方――

 

「どういうことだ?」

 

 カレン・シュタットフェルト。

 アッシュフォード学園の生徒で生徒会メンバー。何度か顔を合わせて話をしたことがある。

 

 オレは無言のまま観察を続ける。

 カレンの両手は後ろで拘束されていた。

 その上学園で見ていた姿とは別人に見えた。

 

 病弱設定。控えめな態度。大人しい振る舞い。

 今ここにあるものとは一致しない。

 

 スザクに見せている目つきや姿勢、雰囲気からわかる敵意。

 

 なるほど。

 学校での方が演技だったか。

 そう考えると色々辻褄が合う。

 そして、この状況。拘束。島内での行動。偶然ではない。

 少なくとも一般生徒ではない。

 反ブリタニア側――黒の騎士団のメンバーか。

 

 可能性としては十分ある。

 スザクの方は複雑そうな顔をしている。友達と思っていた相手がテロリストだったからか。

 オレが入ってこの盤面を動かすわけにはいかない。

 

 

 二人の様子を十分観察し、その場を離れる。

 日はすでに傾いていたが、暗くなる頃には艦に追いつくことができた。

 ちょうど島の中央部の位置で艦は地上に降りていた。

 

 どうやらここが到着地点らしい。

 

 問題はここからだ。

 

 遭難者として保護してもらうにしても、相手を慎重に選ぶ必要がある。

 特に真上からランスロットごとビームを撃ってくる相手には…・

 

 しばらく動きを見ると、光が見えた。

 投光器………いや整備灯か。

 その近くに人影がある。

 

 軍服ではない。白衣に近いシルエット。目を細めると、滅茶苦茶見覚えのある奴だった。

 

 オレは木陰から出る。音で向こうもこっちに気付いた。

 

「あれ、キヨナガ君?どうしてここに?」

「それはこっちが聞きたい」

 

 銃を持った兵士が出てきたが、ロイドがいたことで難無く治まった。

 ロイドにはあいつ(V.V.)のことは黙っておき、気付いたらこの島にいて船を見かけたから追いかけたと説明を簡潔にした。

 

「まさか君がここにいるなんて……スザク君とユーフェミア皇女も生きてここにいる可能性が高いね」

 

 ん?スザクだけじゃなくユーフェミアも?

 聞くとあの命令を聞いたユーフェミアが暴走し、ナイトメアに乗って砂地までかけてきたらしい。自分が巻き込まれる危険性があれば命令を撤回できないかと考えていたみたいだが…。

 

「道中二人を見かけたりしなかった?」

「いや、全然」

 

 ユーフェミアの方はだが。ユーフェミア捜索に動けばどこかでスザクを見つけるだろう。

 

「ところで、この飛行艦はなんだ?」

「ん?ああ、アヴァロンって言ってね。新開発の浮遊推進機関『フロートシステム』を実装した世界初の浮遊航空艦だよ」

「フロート?」

「プロペラや推進運動無しに物体を浮遊させる技術だよ。ヒッグス場の限定的中和で質量を封じ込ませることで自重を軽減させて、自在な空中浮遊を可能にするんだ」

 

 つまり重力制御を可能にする装置か。またとんでもないものを……。

 

「ちなみに理論を構築したのは僕らだよ」

「だろうな」

「……少しは驚きなよ」

「ちゃんと驚いている」

 

 頭のねじが結構外れていることに。

 

「あんなのがあるなんて聞いていないぞ」

「僕もさっきまで知らなかったんだよ。実用化はデータを取ってからって聞いていたし………」

 

「―――君らが作る物は、皆興味深いからね。つい実現したくなるんだよ」

 

 

 艦の中から会話に割り込む人物がいた。

 声のした方向を向くと、そこには派手な衣装を着た金髪の男が立っていた。

 

「初めまして。君が姉小路清永君だね」

「あっ、はいそうです」

「貴様、第二皇子殿下に対して無礼だぞ!」

「良いよバトレー」

 

 男の後ろに控えていた二人の片割れ、肥満体で禿げ頭の中年男性がなんか怒りだした。

 それを金髪の男が制し、柔らかい声自己紹介を始める。

 

「初めまして。私はシュナイゼル・エル・ブリタニア。ブリタニア帝国第二皇子で帝国宰相で…特派のスポンサーをやっている者だ。」

 

 こいつが………。

 

「姉小路清永君。君とは前から話をしたいと思っていた」

 

 まるで旧知の相手へ話しかけるような自然さだった。

 オレは軽く一礼する。

 

「もし良かったら、中で少し話を良いかな?」

「問題ありませんが…」

 

 状況的にみてコイツがあの命令を出したみたいだが、そこは触れない方が良いか。

 ここは警戒しながら流れに身を任せる。

 

 

 アヴァロン艦内に入ったオレが案内されたのは執務室のような場所だった。

 

「座ってくれて構わないよ」

 

 促され、 向かいへ腰を下ろす。シュナイゼルは穏やかに笑った。

 

「ロイドから、君の話は聞いているよ。面白い少年がいる、とね」

 

 どこまで話したんだ。たぶん誇張されている。アイツは面白がると話を盛る。

 

「インナーフレーム構想、 非常に興味深かった」

 

 シュナイゼルは机上の端末を操作する。

 壁についていた大型モニターに試験機データが表示された。

 

「で、殿下!?そのデータは………」

「大丈夫だよバトレー」

 

 

 なんだこれ。神経電位接続試験機グレイズ・J(ジーク)

 グレイズのフレームと同じなのに四肢だけ長さが違う。

 全体的により人間に近付けているようだ。

 

 それに下側に表示されているデータ。

 

 神経反応波形。

 生体同期率。

 操縦補助ログ。

 

 そして操縦者もとい被験者の名前――――

 

「これは神経電位接続方式というシステムを採用した実験機でね。人体反応を直接制御補助へ反映することで、パイロットの思考を機体にダイレクトに反映させ、機体を生身の身体のように扱う。まさに『機体とパイロットの一体化』を前提にした機体だ」

「そうですか」

「その返し、この方式は知らなかったようだね」

「ええ。 初めて見ました」

 

 特に噓つく理由はない。正直に答えると、シュナイゼルは少しだけ目を細めた。

 

「実は君の考えた内骨格フレーム構想を他の研究機関でも再現できないかテストしてみた。トロモ機関のグレイズ・ナイトもそれに含まれる」

 

 確か中身はそのままに、外装を変更、展開装甲を追加しただけだったか。

 

「結果はどれも芳しくなかったよ―――この機体だけ除いて」

 

 ん?

 

「それで、なぜこれだけ噛み合ったと思う?」

 

 探るような視線。これオレ疑われてるのか?

 いや、試されている。技術の話をしているようで、 本当に見ているのは思考の方だ。

 

 後ろにいるロイドの方をちらりと見る………援護は望めそうにない。

 変に誤魔化すのも危険か。

 

「人間の動作を効率化した結果生まれた必然です」

「ほう?」

 

 

 オレがナイトメアの基礎知識を調べて思ったこと。

 

 従来のナイトメアは関節ごとの駆動、出力ロス、姿勢遅延などがある。

 だが人体は違う。

 人間は背骨、骨盤、肩甲骨、腱などを連動させて動く。

 つまり全身で力を流している。

 

 ナイトメアが人型ロボットなら、フレームの構造もそういう風にすれば良いと考えた。

 オレにとって重要なのは”自然さ”。

 無理なく動き、力が流れ、姿勢が繋がるなど。それを機械でもできるよう動作と構造を最適化させただけだ。

 重心が崩れず、無駄がなく、滑るように動けるようにも気を付けて。

 だからオレの内骨格フレームは、人体模倣というより力学的合理化の形をとっている。

 

 オレが「機械側を自然へ寄せる」なら、こっちはその逆の「人間側を機械へ合わせている」だ。

 

「動作最適化構造か………」

「元からこう動く方が合理的です」

 

 シュナイゼルは黙って聞いていた。否定も肯定もしない。ただ整理している。

 

「なるほど。嚙み合ったのは必然か」

 

 静かな返答。シュナイゼルはそこで、少しだけ目を細めた。

 数秒、 沈黙が落ちた。シュナイゼルは静かにこちらを見る。その視線で分かった。こいつは、技術だけを見ていない。

 

「君は人間をよく観察しているんだね」

「機械より不安定ですから」

 

 その瞬間、シュナイゼルが少し笑った。だがその笑みは、単なる愛想ではなかった。

 興味。観察。理解。そういう種類の視線。そして彼は、ふと思い出したように言った。

 

「では、少し別の質問をしよう」

 

 嫌な予感がした。この人は本題を途中で変えるタイプだ。

 

「君にとって、国家とは何かな?」

 

 静かな問いだった。だが、 空気は変わった。技術の話じゃない。人間を見る質問だ。

 

 オレは少しだけ考える。とはいえ、 答え自体は難しくない。

 

「人間集団を維持するための管理構造です」

 

 そう答えた。シュナイゼルは黙る。否定も肯定もしない。ただ、 こちらの言葉を整理している。

 

「管理構造、か」

「ええ」

「人間だけでは秩序維持に限界がある。だからルールと強制力を持つ組織が必要になる」

「では、 国家そのものに善悪は無い?」

「それはトップの運用次第です。管理効率を優先するか、構成員保護を優先するかで形は変わります」

 

 シュナイゼルは少しだけ目を細めた。興味が深くなったのが分かる。

 普通なら正義、愛国、自由を語る話題。だがオレは構造として説明している。

 

「面白い考え方だ」

 

 後ろの二人が困惑する中、シュナイゼルは小さく笑った。

 

「では、 人とは?」

「環境へ適応する生き物です」

 

 今度は即答した。

 

「適応?」

「はい。所属する環境で、行動原理や価値観が変わる。利益と損失で行動を調整する傾向があります」

「理想ではなく?」

「理想も、 行動を最適化するための理由付けです」

 

 言った瞬間、部屋が静かになった。

 シュナイゼルはしばらく何も言わなかった。

 その沈黙に、圧迫感は無い。だが、観察されている感覚だけは強かった。

 やがて彼はゆっくり椅子へ背を預ける。

 

「君は、随分と現実的なんだね」

「現実は変わらないので。なら、先に理解した方が合理的です」

 

 その返答へシュナイゼルは静かに笑った。

 

「なるほど」

 

 短い言葉。だがその目は鋭い。この人は答えそのものより、そこへ至る思考を見ている。

 そしてたぶん今ので理解しただろう。

 オレが理想主義者でも愛国者でも革命家でもないことを。

 

「君は面白いね」

「そうですか?」

「ああ」

 

 シュナイゼルは微笑む。

 

「少なくとも私の周囲には少ないタイプだ」

 

 社交辞令には聞こえなかった。本当に観察対象として興味を持っている。そんな声音だった。

 数秒の沈黙。

 そしてシュナイゼルはふと思い出したように言う。

 

「君は今のブリタニアをどう思う?」

 

 試されている。しかも今度はかなり直接的に。ナンバーズ出身者へ向ける質問としては悪趣味な部類だろう。

 だがこの人は反応を見たい。怒るか。誤魔化すか。迎合するか。

 オレは少しだけ視線を上げる。

 

「………効率的な国家だと思います」

 

 シュナイゼルの目が、 わずかに細くなる。

 

「ほう?」

「強者基準で統一されている。上昇競争も機能している。軍事力も高い。ですが………」

 

 そこで一度区切る。

 

「損耗率も高い」

 

 部屋の温度が下がった気がする。

 

「ナンバーズ政策は短期支配には向いています。ですが長期的には反発と摩耗が蓄積する。構成員を消耗品として扱えば当然維持コストが増える」

 

 シュナイゼルは黙って聞いていた。

 

「つまり?」

「非効率です」

 

 そう答える。

 沈黙。そして次の瞬間、シュナイゼルは小さく笑った。本当に楽しそうに。

 

「成程」

 

 その笑みを見て少し分かった。

 この男はオレの答えに怒っていない。

 むしろ。

 

”予想以上だった”

 

 そう感じているようだった。

 




ブリタニア軍側の研究機関は兵器としかみないと思うので、ちゃんと理解できずに再現に失敗したという感じです。

失敗の原因は解釈の違い。

鉄血ででてきたシステム、コードギアスのあれに似ているのでコードギアス風に出せました。
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