コードギアス―謀略のキヨナガ   作:嫉妬憤怒強欲

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昔のロボットアニメ見てみたら、フルメタルパニックに出てくるコダールというロボットがコードギアスの月下に似ててビックリしました。


STAGE25「九州戦役・其の肆」

『……キヨナガ、君は――』

「スザク、話は後だ。目の前のことに集中しろ」

『………うん』

「それと、もう向こうからの通信には出なくていいぞ。どうせ同じことを言うだろうし」

 

 基地内の地上に大量のガン・ルゥの部隊がひしめているのが見えた。

 この規模を考えると、はっきり言ってランスロットにとってきついな。

 ランスロット持ち前の突破力があったところで、銃弾の雨の中を正面から進めば、回避や防御で無駄なエナジーを消費するのは確実だ。そこにエナジー消費の激しいフロートユニットが加われば尚の事。

 だから稼働時間内にランスロットが敵司令部にいる澤崎を捕らえなければならない。

 そのためにも、先に撹乱して突破口を開く必要がある。

 

「道を作る。合図を待て」

 

 それだけ伝えてスザクとの通信を切った。

 オレはライフルを構え、機体をさらに前へ進める。

 基地の防衛線が近づいてくるが、まだ撃たない。

 もう少し、敵が予定していた地点へ集まるまで。

 照準の先に、ガン・ルゥの部隊が見えた。

 その数は多いが、問題ない。

 数で上回っていても、必ずしも有利とは限らない。

 問題は数ではなく配置だ。

 

―――ここだ

 

 ライフルの銃身下部アンダーバレルに取り付けられたグレネードランチャーを使う。

 しかし狙いは敵機ではない。

 

バシュ

 

 発射されたスモーク弾が放物線へ描きながら地上へ落下していく。

 着弾したポイントで白煙が一気に周囲に広がった。

 

『な、なんだ!?』

『何も見えない!』

 

 他の地点にもいくつか発射し、防衛線を煙で覆い尽くす。

 

「今だ。行くぞ」

『了解!』

 

 オレの合図に合わせて、ランスロットが加速し、煙の上を通過する。

 煙から無数の弾が飛んでくるが、どれも狙いが定まっておらず、掠りもしない。

 視界を遮られた状況では、狙いがつけられない上、連携もまとまらない。

 関門海峡でそれは立証された。

 今回は陸の上だが同じこと。

 

 発射しては装填し発射を繰り返して進路コースの安全を確保していく。

 だが目眩ましだけじゃ不十分だ。

 

 オレはランスロットの随伴を止め、進路を少し外した。

 

 煙幕が薄い箇所を旋回する。

 思っていた通り、向こうは食い付いてきた。

 オレに集中砲火を浴びせようと、ガン・ルゥが部隊が隊列を組んで追いかけてくる。

 

 狙い通りだ。

 

 狭い区画まで引きつけたところで、腰部にマウントしていた金属製の筒を取り投下。

 腕力で投げ上げる必要すらなく、ただ重力に従って、密集地帯の頭上へと吸い込まれていく。

 

『け、ケイオス爆雷だ!』

『退避!退避!』

『ちょっ、邪魔だどけ!』

 

 何を投下したのか気付いたようで、前方にいる機体が急停止。後ろの機体は動けなくなる。

 退けばさらに後ろの機体とぶつかり、空間が狭い分逃げることさえ困難になっていた。

 渋滞になっている間に、爆雷は空中で展開し、次の瞬間には無数の弾丸が降り注いだ。

 

―――ババババババババッ

 

 直後、爆音を置き去りにするほどの凄まじい金属音が、空間を支配した。

 上空で炸裂した『ケイオス爆雷』から放たれたのは、文字通りの『弾丸の豪雨』。指向性を無視し、ただ狂暴な制圧力だけを追求した散弾の嵐が、逃げ場のない狭路に降り注ぐ。

 

『ぐわあああああっ!』

 

 薄い装甲を容易く貫通した散弾が、ガン・ルゥの機関部を次々とハチの巣にし、地面を穿っていく。

 一機が爆発すれば、狭い道の中でドミノ倒しのように後続が巻き込まれ、身動きの取れない鉄の棺桶へと変わっていった。

 

 煙が晴れ、激しい銃撃音が静まり返った谷底。

 そこに残されていたのは、反撃の弾一発すら放てぬまま、ただ一方的に蜂の巣にされ、互いに重なり合って炎上するガン・ルゥたちの無残な瓦礫の山だけであった。

 

 ガン・ルゥは前脚2本と後ろの支持アームで身体を支える前傾姿勢の機体だ。ただでさえ旋回や後退の小回りが利かない機体が狭い通路や谷間に密集して誘い込まれると、前後の機体が閿(つか)えて完全に身動きが取れなくなる。

 密集していた敵には逃げ場がない。一機が退けば、その後ろの機体とぶつかる。左右へ逃げようとしても、隣の機体が邪魔になる。

 単機が弱い分、人海戦術でカバーしたつもりだろうが、狭い通路ではそれが仇となった。

 面制圧の範囲外にいた連中が血相変えて後退していくが、追撃はしない。

 敵を全滅させる必要はない。

 ランスロットが司令部に到達して澤崎達を捕えれればこっちの勝ちだ。

 それまで攪乱で時間を稼がせてもらう。

 

♢

 

 フクオカ基地の上空に一機の黒いナイトメアが浮遊していた。

 通常のナイトメアよりも一回り大きいそれのコックピットは複座式となっており、二人のパイロットが搭乗していた。

 

「あの白カブトと紅いの、ランスロットとグレイズとかいう名前だったか?相変わらず無茶苦茶な戦い方だ」

「ああ、しかし今回はバックがいるようだ」

 

 前席に緑髪の少女。後席にゼロが座っており、内部のモニターでフクオカ基地での戦況を観ていた。

 

「たった二騎で本陣を攪乱し、イレギュラーをつくる。失敗してもコーネリアは動きやすい……」

 

 この策………シュナイゼルか?

 ゼロの脳裏に一人の人物が思い浮かぶが、これが彼一人だけのものかはっきりしない。 

 

 先に関門海峡の防衛線を崩壊させ、地上部隊がブリタニア軍の上陸を阻止に動いてからのランスロット投入。

 基地への突入にスモークを使っての目潰しで、紅いナイトメアが包囲に持ち込まれないようにガン・ルゥを攪乱したりと、ランスロットに有利な状況を作っている。

 式根島でスザクごとゼロを葬ろうとしたシュナイゼルの人物像と完全には一致しなかった。

 

(まさか、シュナイゼルがあいつを使っているのか?だとしたらかなり厄介なことに………)

「それで、どうするんだ?」

「ん?」

 

 考えている最中に、緑髪の少女から話しかけられる。

 

「あの調子なら敵の司令部に辿り着きそうだぞ。わざわざ私達が出向く必要なかったんじゃないのか?」

「いや、あるさ。黒の騎士団の立ち位置を全世界に伝える為にな。ブリタニアが報道するわけないとだろうが、噂程度でも効果はある」

「黒の騎士団は正義の味方だと示す為か?」

「皆大好きだろ?正義の味方は」

「フフッ、どう見ても正義の味方の顔ではないな」

 

 緑髪の少女が後ろを振り返ると、仮面を外したゼロの口角は大きく上がっていた。

 

♢

 

「………向こうからの通信に出るなと言っておいただろ」

『す、すまない』

 

 司令部まであと数十メートルの地点にある武器庫で、一度スザクと合流した。

 澤崎からの安い挑発で舌戦に持ち込まれ、気が逸れたところを銃撃を喰らってヴァリスを破壊されたそうだ。

 

「フロートの方はどうだ?」

『少し当たったけど……なんとか飛べるよ』

 

 ランスロットとマリスカスタムは小破だが、作戦行動に支障はない。

 ここまでの道を瓦礫で塞いだことで、敵は容易に入ってこれない状況にある。

 この隙にオレ達は装備とエナジーの補給を行う。

 

 ただでさえフロートユニットの使用でエナジー消耗が激しい上、弾薬も無限じゃない。

 甘く見積もっても、普段通りの装備では司令部まで到達するのにどれも足りないのは目に見えていた。

 エナジー切れで動けなくなれば、今度はこっちがハチの巣にされる。

 そうならない為に、合流地点を補給のできるここに選んだ。

 

 事前に集めておいた情報通り、武器庫にはナイトメア用の装備が揃っていた。

 

『枢木スザク!!』

『えっ、ユーフェミア様?』

 

 お互いのエナジフィラーを交換している最中、スザクの方に政庁からプライベート通信が入った。相手はユーフェミアのようだ。

 

『枢木スザク!わたくしを好きになりなさい!』

『はい!!………え?』

『その代わり、私があなたを大好きになります!』

 

 いきなりとんでもないことを言い出すなあの人。

 文字通りプライベートのことのようだったため内容は聞かないで作業をすすめる。

 

 エナジーが満タンになり、装備のチェックが終わったところで通信が終わった。

 

「もういいのか?」

『うん。今は作戦中だからね』

 

 モニターに映るスザクの表情は、出撃前に比べて晴れやかだった。

 

「なら告白の続きは帰ってからか」

『ぶふぉ!?い、いや…そうじゃなくて…その…』

「違うのか?」

『いや、違わなくてえっと………』

 

 一歩前進といったところか。

 まずはここを切り抜けるのが先だが。

 

「行くぞ」

『う、うん!』

 

 オレ達は武器庫を出て、司令部を目指して前進する。

 

 戦い方はいつも通りだ。スザクがメインで、オレはバックアップ。

 スモーク弾で目くらましをしつつ、ランスロットの進路上に次々と沸いて出てくるガン・ルゥをライフルで狙撃。

 撃ち漏らしたのをランスロットが持ち前の機動力で距離を詰めていき、MVSで切り伏せていく。

 

 密集隊形で近付いてきたところで、武器庫にあったバズーカを使う。

 密集している中央を狙って放てば、爆発に複数のガン・ルゥが巻き込まれ、隊列が完全に崩れた。

 

 その隙に敵の防衛線を突破したランスロットは、そのまま基地司令部へ向かって加速していく。

 

「予定通りだ」

 

 オレは機体を旋回させ、追撃しようとするガン・ルゥへ向き直る。

 その時だった。

 

 pipi

 

「ん?」

 

 戦場に、新たな機体が現れた。

 基地上空から接近する黒い影。

 識別信号を確認すると、それは神根島でゼロが強奪したナイトメア、ガウェインだった。

 

『キヨナガ、あれって………』

「ああ。見えてる」

 

 このタイミングで黒の騎士団が乱入か……。予定になかったな。

 戦場へ進入したガウェインの両肩に設置されたハドロン砲が展開し、次の瞬間赤黒いエネルギーの奔流を放射。

ランスロットを包囲しようと動いていたガン・ルゥの部隊が次々に爆発四散していく。

 圧倒的な火力。ハドロン砲は未完成だとロイドから聞いていたが、収束できているようだ。

 ランスロットが突破するための機体なら、ガウェインは戦場そのものを制圧するための機体だ。

 

 迎撃に来たヘリ数機も一瞬で撃墜した後、ガウェインがオープン回線で話しかけてきた。声からしてやはりゼロだった。

 

『枢木よ。私は敵の司令部を叩く』

 

 このタイミングで?

 ずっと見計らっていたのか。

 

『残念だけどゼロ……お前の願いは叶わない。自分が先に叩かせてもらうよ』

 

 ランスロットとガウェインが一直線に司令部へと向かう。

 中華連邦の部隊が、二機の前に次々と立ち塞がるが、ランスロットの突破力とガウェインの火力にまるで歯が立たない。

 白と黒の二機を阻めるものは存在しなかった。

 

 これ、もうオレいらないじゃん。

 

『ゼロ!お前達は日本を憂える同志ではないのか!?』

『我ら黒の騎士団は、不当な暴力をふるう者全ての敵だ』

『不当だと?私は日本のために――』

『日本のために、ホワイトルーム創設にも手を貸したのか?』

『なっ』

『単なる優秀な子供を育てるための英才教育施設ではなく、人間の才能を人工的に引き出し、教育によってその能力を極限まで高められることを証明するための実験施設………と聞こえはいいが、その実態は身寄りのない子供達を幼少期から徹底的な管理下に置き、過酷な環境で肉体的にも精神的にも追い詰めるといったもの。教育課程についていけず脱落した子供の殆どは、普通の生活もままならない程の障害を負った。日本人の子供たちの意思も、自由も、普通の生活さえも顧みられなかったそうだな?それだけじゃない。ホワイトルームでしていることが公になれば日本人だけでなく世界中から猛烈な非難を浴び、関係者は確実に破滅するレベルの国家的大スキャンダルになる。だから確立するまでの間、外部に漏れないように隠蔽工作も徹底していたのだろう?』

『何故それを…誰からその話を聞いた?まさかキョウトが………話したのか?』

『質問に答えろ。お前は、その施設の創設に関与していたのか?』

『………あの計画は、日本の未来を担う優秀な人材を育てるためのものだった。国家が生き残るためには、時として非情な決断も必要になる』

 

 その言葉を聞いたゼロは、間を置いてから告げた。

 

『つまり、認めるのだな。実験サンプルとして同じ日本人の子供たちから自由を奪い、彼らを一つの目的のために作り変える。それを日本の未来のためだと言い張る。お前は今、その行為を正当化した』

『曲解するな! あれはブリタニアに対抗するために――』

『ブリタニアに対抗するためなら、何をしても許されるというのか?』

 

 ゼロの声が、通信回線を通じて響き渡る。

 

『ならば、ブリタニアが日本人の自由を奪うことも、国を支配することも、強者が弱者を犠牲にすることも、すべて正当化できるはずだ。勝者となるためならば、犠牲となる者の意思など考慮する必要はないのだからな』

『違う!我々とブリタニアを同列に扱うな!』

『何が違う?』

 

 ゼロは即座に問い返した。

 

『お前は日本人の尊厳を取り戻すと語りながら、その日本人である子供たちの尊厳を踏みにじった。自由を掲げながら、彼らには自由を与えなかった。未来のためだと称して、未来を選ぶ権利そのものを奪った』

『い、いや………だからそれは……日本のために必要な………』

『では澤崎。お前が解放しようとしているのは、日本なのか?それとも、日本という名の下にお前が望む国家なのか?』

『……っ』

『日本を解放するという言葉を、己の行為を正当化するための免罪符にするな、この鬼畜外道が!』

『澤崎さん……日本のためといい、酷いことをしておきながら、中華連邦に逃げた貴方を皆は認めはしない!』

『こ………この青臭い子供が!』

 

 スザクも会話に便乗し、澤崎を激しく責める。

 通信している間も、ランスロットとガウェインの前進は止まらない。

 建物の頂上までフロートで一気に上がり、そして―――

 

『澤崎さん!』

『ここまでだな』

『馬鹿な!キュウシュウ最大の要凱を!』

 

 逃走を図ろうとしていた澤崎達をヘリポートで押さえ、キュウシュウの戦いに決着がついた。

 

 

♢

 

 それからコーネリア軍の攻勢で、日本軍を名乗る中華連邦の軍は一気に瓦解。

 本拠地が陥落し、澤崎を捕獲されたことで、派兵の大義名分を失った残存部隊は撤退を開始した。手を貸していたキュウシュウのテログループも、既にコーネリア軍に殆ど制圧されたらしい。

 

 澤崎がホワイトルーム創設の関係者だったり、ゼロが最後に乱入してきたりと、色々と想定外の事態が起こったが作戦は問題なく終了。

 

 後の事後処理はコーネリア軍に任せ、オレ達はアヴェロンでトウキョウ租界へと帰投した。

 本当はそのまま拠点に戻りたいところだが、政庁にいるシュナイゼル殿下に報告をしないといけないということで、オレとスザクはロイドとセシルさんに連れられて向かうことになった。

 

「シュナイゼル殿下、任務完了のご報告に参りました」

「ああ。皆が無事に戻ってきてくれて良かった」

 

 政庁の執務室に入ると、シュナイゼル殿下は柔和な笑みを浮かべてオレ達を迎えた。

 その表情には、戦いを終えた部下を労う上官としての穏やかさがある。

 

「特に二人とも、ご苦労だったね。君たちのおかげで、こちらもずいぶん助かった。まずはゆっくり休むといい」

「勿体無きお言葉………ありがたく存じます」

 

 隣に立つスザクが敬礼する。

 オレもそれに倣い、軽く頭を下げた。

 

「お心遣い、感謝します」

「ははは。そう堅くならなくてもいい。もっと楽にしてくれていいよ」

 

 殿下は楽しげに笑う。

 一見すると、何の変哲もない労いの場だったが、オレは警戒を解かなかった。

 言葉の裏にどんな意図が隠されているのか、簡単に判断できる相手ではない。

 ゼロと共同戦線をとったことを咎められるか。それとも…

 

「ところで、姉小路技術少尉」

「はい」

「例の通信ログを聞かせてもらった」

 

 やっぱりその話か。

 ロイド達の視線がオレに集中する。

 オレがどのような環境で育ったのか、詳しく話したことはなかったからな。

 

「実に興味深かったよ。まさか日本を救うと主張する人物が、子供たちを過酷な環境に置く施設の創設に関わっていた。しかも、君がその施設の出身だったとはね………しかし、なぜ君はこの記録を私に送ったんだい?」

 

 予想していた質問だった。

 シュナイゼル殿下は通信の内容だけでなく、オレがどのような意図でこの記録を送ったのかも気になっているだろう。

 

「端的に言えば、自分の身を守るためです」

「ほう?身を守るとは、誰からかね?」

「無論、旧日本政府の残党から。連中の中にはホワイトルームの存在を日本の汚点と捉える人間もいるでしょう。既に崩壊してはいても、一部の日本政府が関わっていたことが知られれば、連中の掲げる日本独立の士気に影響が出てしまう。秘密がイレブンやブリタニアに知られるのは断固阻止したいはずです。どうも黒の騎士団に自分の暗殺を依頼したようでしたし…」

「そんな……キヨナガは被害者なのに」

「向こうにはそんなこと関係ないんじゃないかな、スザク君」

 

 時期的に考えて、オレの生存を知ったのは、おそらく河口湖のホテルジャック事件に関する記事でオレの顔が載ってからだろうな。それから調査に時間がかかったろうが。

 

「いつ襲ってくるかわからない暗殺者を、自分は待つつもりもなかったので、向こうが嫌がっていることをこっちからやろうと考えていました」

「それは、ホワイトルームの実態を明かすことかな?」

「はい」

 

 施設そのものは既に崩壊している。

 今さら存在を隠し続ける必要もない。

 むしろ、その情報を利用した方が得られる利益は大きい。

 その機会がすぐに訪れたのは予想外だったが。

 

「ただ、自分みたいな子供では誰も聞く耳を持たないでしょう。なので適任な人間に代わりに喋ってもらう必要がありました」

「なるほど。だから君は直接問い詰めることなく、彼自身に語らせたのか……確かに、彼のように旧日本政府の要職についていた人間の言葉の方が効果的だね。しかし、彼が計画の存在を否定する可能性もあっただろう?」

「その場合は、別の質問をしていたと思います」

 

 オレの答えに、殿下は小さく笑った。

 今、シュナイゼル殿下はこの情報の価値を測っているところなのだろう。

 澤崎自身の口から、ホワイトルームの計画を正当化する発言を引き出したことで、奴の掲げる日本解放の大義に疑問を投げかけることができる。

 それどころか、エリア11におけるイレヴン達のテロ活動の正当性を弱めるための有効な手段になるだろう。

 

「君の意図はわかったよ………もうひとつ聞いてもいいかな?」

「何でしょうか」

「君は―――日本を憎んでいるのかい?」

 

 憎む、か。

 オレを含めた子供たちに過酷を強いたホワイトルーム。

 その施設が日本の政治家によって作られたものなら、オレが日本に恨みを抱いていても不思議ではない。

 少なくとも、普通の人間ならそう考えるのだろうが………

 

「いいえ。特に何も抱いていません」

 

 オレは素直に答えた。

 

「……何も?」

「はい」

 

 嘘は言っていない。

 

「オレをホワイトルームに入れた人間と、日本という国は別でしょう。仮に澤崎が創設に関わっていたとしても、それだけで日本人全員に責任があるとは思いません。そもそも、オレは日本という国に何かを期待していたわけでもありませんから」

「期待していなかった?」

「オレにとって重要だったのは、与えられた環境で結果を出すこと。それだけでした」

 

 もちろん、ホワイトルームで過ごした日々が幸福だったわけではない。

 だが、だからといって、その経験を日本への憎悪に結びつける理由もなかった。

 オレは日本という国に救いを求めたこともなければ、裏切られたと感じたこともない。

 最初から、何かを期待していなかったのだから。

 

「では、澤崎についてはどう思う? 自分をそのような環境で育てた施設の創設に関わった人物が、日本の解放を掲げて戦っていたと知っても、何も感じないのかな?」

「特にありません」

「彼の行動を許せるということかい?」

「許すも何も、オレは彼を裁く立場ではありません。罪があるのなら、証拠に基づいて判断すればいい。それだけの話です。俺個人の感情は、関係ないと思いますが」

 

一瞬、室内が静かになったのも束の間、シュナイゼル殿下はやがて小さく笑った。

 

「ははは……。確かに、その通りだね」

 

 その笑顔は変わらない。

 だが、オレには分かった。

 殿下は、オレが日本への憎悪を抱いているかどうかを確認したかっただけではない。

 オレが自分の過去をどのように捉えているのか。そして、澤崎という人物を政治的に利用するつもりがあるのか。それも含めて見極めようとしていたのだろう。

 

「君のような立場の人間なら、故郷を憎んでいても不思議ではないと思ったのだけれどね」

「オレにとって、どこが故郷なのかは重要ではありませんので」

 

 そう答えると、殿下は少しだけ興味深そうな表情を浮かべた。

 

「それはまた、興味深い考え方だ」

 

 オレは返事をしなかった。

 故郷という言葉に、特別な意味を見いだせない。

 ただそれだけのことだった。

 





かなりの駆け足になりましたが、キュウシュウ戦役はこれにて終了です。
学園祭に入る前に、少し間の話を入れようかロスストのサイドストーリーを見ながら考えています。
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