帝都ペンドラゴン―――ブリタニア大陸西岸に神聖ブリタニア帝国の首都の中央に、ブリタニア皇族が住まう巨大な宮殿が存在する。
帝国における政務の中心地であるその宮殿の一室に、鮮やかな金髪と整った顔立ちを持つ美青年が手元に握るとある書類に目を通していた。
「ふむ……これは……」
「いかがされましたか殿下?」
「ロイドから電文が送られてきてね。まったく新しいナイトメアフレームの製作許可を求められてきたよ」
補佐官に渡した書類に書かれているのは、内骨格フレームを使用したナイトメアの構造から新素材の装甲、オプション装備の内容までをまとめた仕様書だ。
「…相変わらず突飛なことを思い付きますねロイド伯爵は」
「いや。どうもそのフレーム構想を考えたのはロイドではないようだ」
「え?では彼の補佐を務めているセシル嬢で?」
前に佇む中世的な顔立ちをした美男子、カノン・マルディーニは知っている人物の名前を挙げるが、書類を握っていた宰相にして第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアは首を横に振る。
「考えたのはキヨナガ・アネコージという元イレヴンの少年とのことだ」
「確か殿下がサミットに出席されてる間、ロイド伯爵がランスロットの予備デヴァイサーにと、枢木准尉とは別にもう一人引き抜いたと記憶してますが…」
「ロイドの報告では学習能力が非常に高い少年のようで、一週間でナイトメアに関する基礎的な知識をものにしたらしい」
「僅か一週間で…ですか?」
あまりにも短い日数に、何かの冗談かとカノンは耳を疑ってしまう。
「――――これはロイドが向こうで耳にした噂だけどね」
「?」
「エリア11が植民地化する前、政府の一部の派閥が極秘裏に人材育成機関を設立、外部と隔離したそこに何人かの子供をサンプルとして集め、徹底した英才教育を施すことで人工的に天才を作り出す教育システムを確立させようとしていたらしい」
「人工的に天才を生み出す?そのようなことが可能なのでしょうか?」
「さあね。施設そのものが実在していたかも定かではないし……でもね、その施設にいた最優秀成績者がその特殊な才能故、貴重なサンプルとして保護という名目で収容施設の特別隔離区画に入れられているという話はずっとまことしやかに囁かれていたそうだ」
「彼がその噂の施設の子供だと?」
「ロイドはそう思っているみたいだね」
カノンは口に出さなかったものの、そんな眉唾な噂を鵜吞みにするマッドな開発者に呆れていた。
「――もしそうなら興味をそそられるじゃないか」
「え?」
「人工的に作られた天才……ずっと外との繋がりがなく生きてきた人間が、これから世界にどんな影響を与えるのか。この新型ナイトメアはほんの始まりかもしれないよ」
ブリタニアの宰相を務めるシュナイゼルの口から出た言葉に、カノンは困惑を隠せない。
「殿下。流石に考え過ぎでは…」
「フッ、かもしれないね……まあなんにせよ。彼には枢木准尉と共に今後特派で働いてもらうよ」
「ということは…」
「ああ、承認したよ。特派にはランスロットとは別にこの新型開発の予算を回すことを既にロイドに伝えてある」
この時、カノンの目には普段からゆったりとした笑みを浮かべているシュナイゼルがどことなくウキウキしているように見えた。
♢♢
「えっと…なにやってるのキヨナガ?」
「…オレが聞きたいです」
「こーらキヨポン!そこは『お帰りなさいマーヤお嬢様』でしょ!」
「会長それ喫茶店で言う台詞じゃないですか」
「てゆうかキヨポンって……ぶふぅ」
生徒会室に入ってきたマーヤ達が困惑するのは無理もない。
なにせ今オレは燕尾服――いわゆる執事服というのを着ているのだから。
「いやあ、実は前に
「まあ、確かに…」
「それで考えたの。キヨナガ君をアッシュフォード家が新しく雇った使用人見習いで、ナナリーのお世話をしに来てるってことにすればいいんじゃないかって!」
「あっ成程。それっぽく見えるように服を着てもらっているということですね」
「そういうこと。ナイスアイデアでしょ」
「とか言って、半分は面白いと思ったからなんでしよ?」
「フフン、まあね」
「えぇ…」
面白半分だったのかよ。
まぁミレイ会長のアイデアは悪くない。悪く無いんだが一つ気になることがある。
「ところで、ミレイ会長が用意してきたこの服……妙にオレにぴったりなんですが、サイズ伝えましたっけ?」
「え?咲世子さんが仕立てたけど、採寸とかしてないの?」
「いいえ」
「…まあ咲世子さんだからな。そのくらいお手の物なんだろう」
なんでルルーシュは当然のように言う。
いったい何者なんだ、咲世子さん……
「にしてもすげえ様になってんな」
「ねー。背筋もピンとしていて全然違和感ないしすごく似合ってるよ」
「そうねぇ、まあでもシャーリーとしてはルルーシュの執事姿も見たいんじゃない?」
「なっ、か、会長何言ってるんですか!?」
「着ませんよ会長」
顔を真っ赤にして慌てるシャーリーを小悪魔のような笑みを浮かべてからかうミレイ会長に呆れるルルーシュ。
この状況を見たオレは確認のため、スザクに小声で話しかける。
「なあスザク、ひょっとしてあれって……」
「あぁ、キヨナガも気づいちゃったんだ」
「本人自身が気付いているかは知らないけど、まわりの人間からすればバレバレだよな」
近くにいたリヴァルも小声で会話に入る。
「好意を向けられている本人は?」
「気付いていないみたいだね」
「あいつ頭は良いくせにそういうことに鈍いもんなぁ…ナナリー第一だし」
シャーリーは前途多難だな。
「?お前達さっきからなにコソコソ話してるんだ?」
「う、ううん別に…」
「何でもないよなー」
こういう話は本人に言わないのが暗黙の了解なのだろう。空気を読んでオレも適当に誤魔化しておく。
「…まあいいか。見てくれはともかく、実際に仕事できないと意味ないのでは?」
「うーん、確かにそうね」
「形だけでもできてればいいんじゃないかしら。あっ、ねえ。ちょっと執事がやるお辞儀してみて?」
「えっ、はい」
カレンに言われて礼をする。
右手を胸に当て、身体を少し傾ける。それから身体を起こす前に、上目使いに目を合わせる。これは目上の人、初対面の人などに更に敬意を払う際のジェスチャーだ。
「「「おおっ……」」」
「なんかそれっぽいな」
「それっぽいというより、まんまね。あっじゃあ今度はそこの紅茶淹れてくれない?ミルクを多め、砂糖は一つで」
「はあ…」
今度はミレイ会長に言われた通りに傍にあったカップに紅茶を入れる。
マグカップにティーバッグを入れ、熱湯を注いで2、3分蒸らしたらスプーンを使ってティーバッグをギュッと絞って取り出す。
ミルクを注ぎ、砂糖はこぼれたり飛び散らないように入れる。
「どうぞ」
「ありがとう」
カップは取っ手がミレイ会長の右側にくるようにテーブルに置く。カップの正面は取っ手が右に来た位置にするのを忘れない。
「…すごい。淹れ方からティーカップの置き方まで完璧じゃない。実はこっちが本職だったんじゃないの?」
「いえ殆ど見様見真似でやっただけですが」
「見様見真似って…まるで見たことのあるような言い草だな」
ヤバ。
「なにかの番組でやってたのを真似しただけです」
オレの世話係をしていた松雄の真似をしたとか言う必要もないため誤魔化しておくと、ルルーシュは「そうか」とそれ以上詮索してこなかった。
「意外だったな。キヨナガにこんな特技があったなんて……」
「特技と言うほどでは…」
「謙遜だなぁ。これなら軍を辞めても絶対こっちでやっていけるんじゃない?」
「マーヤの言う通りよ。あっもし良かったらその時は
軍を辞めた後の人生か。
「…考えておきます」
ナイトメアに乗って戦うよりは安全だな。そういう選択肢も用意しておくのも悪くない。
「それで、会長が言っていた楽しいお知らせってこのことだったんですか?」
「あっ、ううん。それとは別よ」
まだなにかあるのか。
「え~皆さんにお知らせがあります。なんと今度の休日、生徒会メンバーの親交を深めるために河口湖に一泊二日の親睦旅行を予定しているので~す!」
「明後日って…会長それ初耳なんですが…」
「当たり前よ。今言ったから」
「はぁ……」
副会長のルルーシュも知らなかったようだ。
なんだろうな。どこかのプリン主任とどことなく似た感じだ。
「河口湖って確かトウキョウ租界の外にあるんでしたっけ?」
「そうよ。河口湖にはコンべーションセンターホテルっていうリゾートホテルがあって、多くの観光客が押し寄せるくらい人気なの。皆で湖を泳ぐわよー!」
「会長!私参加します!」
「ニーナも行くでしょ?」
「えっと、私は…」
「あ~、俺ちょうどその日バイトが入っているんだった……」
リヴァルは「せめてもっと早く言ってくれればシフト調整できたのに……そうすれば会長の水着姿を拝みながらキャキャウフフと」と物凄く悔しそうに小声で愚痴っていた。
「ルルーシュは?」
「すみません。その日はちょっと外せない用事がありまして」
それを聞いてシャーリーが少し残念そうにしていたのが見えた。
「カレンさんはどう?」
「……ごめんなさい。身体が弱いので遠いところへ行くのは難しいかと」
身体が、弱い?十分健康体に見えるが。
「それでマーヤはどう?」
「えっと、すみません。その日は用事が…」
ん?今一瞬ルルーシュがマーヤに目配せしたような……。
「スザク君は?」
「僕は軍の仕事が入っていて……あっでもキヨナガは大丈夫だと思いますよ」
おいスザク。なにちゃっかりオレを差し出してるんだ。確かに今オレ用の機体は一から部品を製作している最中だからその間暇だが。
「よ~し。これで荷物持ちの男一人確保できたわね」
「あの、行くとは言ってませんが…」
「でも行けるんでしょ?」
「……後で上司に確認を取ってみます」
この後セシルさんから即了承を貰い、断る理由が見つからずに荷物持ちとしてミレイ会長達に同行することが決まった。
♢♢
「ごめんなさいスザク君、友達に旅行に誘われていたのに…」
「んぐ……い、いえ仕事ですから仕方ありません。また別の機会に誘ってくれるみたいですし…」
「そう?」
差し入れのブルーベリージャム入りのおにぎりをなんとか飲み込んでから、セシルさんに今日の仕事内容を確認する。
「今回はランスロットの新しい装備のテストをしてもらいたいの」
「装備って…もしかしてこれが?」
僕の目の前にあるコンテナが開き、ナイトメアが扱うサイズの銃身の長い青いライフルが露わになった。
「可変弾薬反発衝撃砲(ヴァリアブル・アミュッション・リバルジョン・インパクト・スピリット・ファイアー)、通称
「?えっと…」
「要するに種類の異なる弾を撃ち出すことができるってこと」
「ああ、成程」
セシルさんから受け取った取扱説明書に目を通す。細かい原理はちんぷんかんぷんだったけど、とにかく凄いというのはなんとなく分かった。
「今日はこの武器の試射をやる予定だけど、その前にスザク君にはこっちのテストをして欲しいの」
そこに在るのは、右腕だけ外装を外され、内部のフレームを剥き出しにしたグラスゴー・カスタムだった。
「あれ?あの右腕、なんか前と形が違うような……」
「あれはキヨナガ君が設計したフレームの一部よ」
「キヨナガの?でもなんでグラスゴーに?」
「まだ全体ができていないから、これから組み上げていく部分も動作試験を順次行う事ができるよう、既存パーツを新造したパーツと置き換えれるかの確認もかねて接続部の規格を他のナイトメア同様共通化したの」
セシルさんの話では各部の動作試験と組み立てを並行して行うスケジュールをプレゼンのあとすぐに立てていたらしい。そこまで考えて設計してたなんて…。
「右腕単体での出力データはもう取っているけど、実機に装着しての動作実験はまだなの。動かすだけの簡単なテストなんだけど、お願いできる?」
「わかりました」
それくらいなら僕でもできる仕事だ。ナイトメアの設計とかは完全に専門外だけど。
「んじゃあ動作テスト始めるよぉ」
ロイドさんの掛け声で、周囲で作業していた整備スタッフ達が離れてゆく。
跪いた状態の機体のコックピットに乗り込み、操縦桿を握る。
「まずは指の動作からね。はい、ピ-スして」
「わかり――はい?」
えっ今なんて言った。
「あの…すみませんロイドさん。もう一度指示をお願いします」
「だからピースだって。知ってるでしょ?」
「それくらい知ってますけど……なんで?」
「はあ……あのね。指の動作を確認するんだからハンドサインをやってみた方が手っ取り早いでしょ?」
「あっなるほど」
「これくらい常識でしょ?」
常識から外れてるあのロイドさんが呆れながら常識を口にしていることはひとまず置いておいて、僕は指示通り操作してピースサインをする。
「はい、次はグー、チョキ、パー」
じゃんけん?じゃんけんしてるのこれ?
「パーの状態から親指を曲げて」
――カシャ
「人差し指から順番に一本ずつ曲げて」
――カシャシャシャシャ
「今のがSOSのサインねぇ」
へ、へえそうなんだ。
「うん。指の方はいいね。次は手首を一回転」
ギュイィィン
「次は肘を曲げてからのぉ~」
ガシャン
「サイドチェストぉ~」
○ディビルダー?
取り敢えず指示に従ってサイドチェストを決める。
「いいねいいね。キレッキレっだよぉ~」
いや、ナイトメアにキレとか関係ような気が……
「肩を回してのダブルバイセップス~」
他の部位動かしてない?
「最後にぃ~アドミナブルアンドサ―あいたっ!」
「遊び過ぎですロイドさん……」
バシぃっと音がしてコックピットから出てみると、補佐であるセシルさんの手にはハリセン。そして痛そうに頭を抑えるロイドさん。ふざけ過ぎてセシルさんにハリセンで叩かれたんだな。
「スザク君も変なのに付き合わないの」
「す、すみません……」
「あははは。まあまあ、十分なデータが取れたからいいじゃないの」
ああ、あれでちゃんとデータ取れてたんだ。
「関節の可動域だけではなく駆動効率、反応速度の向上……上手くいきそうですね」
「ランスロット程じゃないけれど、コーネリア総督たちが使うグロースターよりも上だねこれ」
第五世代のナイトメアよりも上って……本当に凄いのを設計したんだキヨナガは。
「この調子で他の部分もどんどん作ってテストしちゃおうか」
この調子でって…またボディビ○ダーのポーズ取らされるのかな。
「しゅ、主任!大変です!」
「ん?どうしたの?」
コックピットを降りた時、スタッフの人が物凄く慌てた様子で駆けてきた。
「て、テレビを点けてください!」
「テレビ?」
セシルさんが格納庫にあったモニターの電源を入れ、回線をテレビ番組につなげるとニュースが流れていた。
『こちら河口湖のコンベンションセンターホテル前です。ホテルジャック犯は日本解放戦線を名乗っておりジェームス議長を中心とするサクラダイト配分会議のメンバーと居合わせた観光客および数人の従業員を人質にとっています』
「え……?」
河口湖?コンベンションセンターホテルでホテルジャックって……?
『これが犯人から送られてきた映像です。ジェームス議長の他学生の姿も見受けられます』
「「「……っ」」」
映像を見て、思わず頭が真っ白になってしまった。
アドミナブルア――じゃなかった。
両手を頭の後ろに乗せている人質たちの中に、ミレイ会長とシャーリー、ニーナ、執事服を着たキヨナガの姿があった。
「っ、そんな…キヨナガ君」
「なんで執事の恰好をしてるの?」
ロイドさん、そこ重要じゃないでしょ?
執事服は以前書いた最初のよう実クロスオーバー作品から流用しました。
次回から主人公達のデビュー回です。