ダウナー男とサキュバスの話。   作:バンバ

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 大変長らくお待たせいたしました。
 そしてあけましておめでとう()

 これも全部スト6が悪い……いや作者の怠慢か。




 あれから一週間が経った。

 あの後、アーク*1の事情を最低限聞いて、取り敢えず『居候』という形で我が家に居てもらうことにした。

 

 ……ぶっちゃけ、考えても仕方ないことだし、何より“戸籍無し、非人間”という観点から、病院やら市役所やら警察やらを頼れないと気が付いたときは頭を抱えたものの、それはそれ。

 

 オレが仕事で外に繰り出している間、彼女には家事をしてもらう。家事が終われば、基本的には自由時間。オレは彼女に衣食住を提供する。そういう約束で。

 

『け、契約にしませんか?』

 

『いやほら、私がその約束を破ったり、家財やお金とか! 持ち逃げするかもしれないんですよ?』

 

『私の、そう、魔法の力を使った契約にすれば、そういうものを破った時に即時に罰を与えられます!』

 

 アークからはそう持ちかけられたものの、「そういうシガラミで頭抱えそうなのは仕事だけでお腹いっぱいです」とやんわり断った。

 気持ち的には、嫌な言い方になるが捨て犬猫を拾った側なのだ。その辺りは自己責任である。

 

 それに、なんだろうか。不思議なことに「別に、そうなってもいいかな」とも思ってしまうのだ。

 ……あれだけ、美味しそうにオレの作った料理をパクパクと食べて破顔する彼女に、絆されたというのが実情なのだけど。

 

「アシー! チェンブロ用意しとけー!」

「へーい! あ、ワイヤーそこ置いときまさぁ!」

「あーよ!」

 

 直殺し*2された軸受けのボルトをガスカットしているリーダーから指示が飛んできた。新しいロールの測定を後輩にお願いして、その場を離れる。

 

 クレーンのオペ*3を呼んで台付けワイヤーにシャックルを通して、チェーンブロック*4を引っ掛けつつ、思うのはアークのことだ。

 ……心配だけど、オレもオレでやるべきことをやらねば。

 

 今日の晩飯は鶏肉を使おう。そこまで考えて仕事に集中する。今日も今日とて現場仕事だ。

 

 

 

『冷蔵庫にお茶漬けの具材と、温玉サラダが入ってるので温めて食べて。後で感想も是非』

「……ま、またやらかした……」

 

 午前11時半過ぎ。まどろんでいた意識が時計を見た瞬間に、全身の毛穴が開く感覚と共に覚醒するのを実感した。

 次いで、どうしようもない居た堪れなさ。いや待ってほしい。ソウジさんのお見送りくらいはしたいと、目覚まし時計も六時にセットして、この無様。

 

 誰に言うわけでもないけれど、言い訳させてほしい。あの人は私にとって、…………そう、木陰の陽だまりなのだ。居るだけで安心して、緊張感が抜けてしまう。……いや失礼が過ぎるだろう。

 

 口約束くらいの効力しかない縛りのないそれで私を住まわせてくれている、自暴自棄に陥って死にそうだった私を助けてくれた、恩人に報いたい。

 

「……はあ」

 

 取り敢えず食べよう。それからだ。

 冷蔵庫に貼られたホワイトボードの指示に従って、取り出した皿に乗せられた魚のほぐし身*5と、何だろう、僅かに黄色を帯びた、擦り卸された何か。かかったままのラップを少しめくってにおいを嗅いでみれば、爽やかでスパイシーな香りが。

 

「あ、確かショウガ!」

 

 何日か前に食べさせてもらったショウガ焼き。あの料理の味を思い出して顔が綻ぶ。甘辛く焼かれたお肉に、微かに走る辛み。お肉そのものが持つ旨味が合わさって奏でられるオーケストラ。その立役者。

 

「えへへ……あ、えーっと? 『ポットにお湯を入れておいたので、深めの器にご飯とお皿のものを入れたら、ポットの脇に置いてあるお茶漬けの素を入れて食べて。お好みで梅昆布茶でもいいよ』……梅、こんぶ?」

 

 ご飯をよそった器に魚とショウガを移して、迷う。

 ソウジさんも私も、朝、というか寝起きはそんなにご飯が入らない。だから、この一食は替えが効かない。

 前に、ジジババたちからお茶漬けを頂いたことはある。あれは本当に美味しいものだった。

 けど、梅昆布……お茶? 梅と昆布はわかる。ただ、お茶に結びつかなくて、当惑してしまう。

 

「いや、ソウジさんが不味いものを紹介するはずもないか」

 

 好奇心と信頼で、梅昆布茶の袋を開けて、器に入れて、ポットのお湯を注ぐ。

 ほくほくと湯気が立ち昇って、そこにショウガの存在感が確かにいた。

 

「……よし。いただき、ます」

 

 イスに座って、スプーンを手に、お辞儀。

 熱々のお湯で火傷しないように、よく混ぜたそれに息を吹きかけ、一口。

 

「――――~~~~~~!」

 

 酸っぱい! 旨い! キリっと! 華やか!

 一瞬、舌が、というか、頭の理解が追い付かなかった。まず主張したのは酸味。前に食べたことのある梅干しのそれだ。

 次いで、魚とショウガがほぼ同時に来た。ほぐれた魚の身から溢れた塩気と滋味深い味わい。ショウガの思いの外スパイシーな辛み。それぞれが熱気で押し上げられて鼻を通り抜ける。

 それをまとめて受け止めている、何とも言い難く、けど心地よい旨味。これがきっと昆布だ。

 

 しかし、まだだ。まだいるのだ。

 

 お皿にかけられたラップを外す。冷蔵庫で冷え切った、瑞々しいサラダ。彩りのように添えられた、カリッカリに炒められたお肉*6と、その中央に鎮座する、白玉のような玉子。

 

 もう、視覚から叩きつけられる暴力だ。目がハートの形になりそう*7

 これ、ドレッシング無しが一番美味しそうかも。まずは玉子を割らずに、野菜とお肉だけ。フォークでまとめて刺して、パクリ。

 

「はああぁ……おいっし」

 

 我ながら気の抜けた声が出た。

 シャキシャキと青い野菜の爽やかな苦み。カリカリに加熱されたお肉の塩気と旨味。これだけで幸せが訪れる。

 ソウジさん、本当に凄いなあ。肉体労働しながら家に帰ってきて、私が来るまでは家のこともやって、自炊して……その自炊が凄いレベルなのが本当に凄い。

 凄いと言えば、自分の手を見る。一週間の間に、骨と皮しかないようなそれだったのに、既にうっすらと肉付きと、肌艶が戻ってきている。サキュバスの体はそこそこ頑丈なのはよく知ってるつもりだったけど、ここまで早く復活するなんて思ってもなかった。

 ……す、好きな人からの手料理だから、みたいな効果もあるのかな。

 

 顔が赤くなるのを、誰にも見られていないのに誤魔化すように、玉子も割って全部混ぜて食べて、また一瞬固まった。

 なにこれ美味しすぎない?

 野菜の苦みとお肉の旨味。それをトロっとした黄身のコクとまろやかさが優しく受け止めて、より一層『美味しさ』を引き上げ――あ!*8

 

 食べかけの、少しご飯がふやけてきたお茶漬け。食べかけのサラダを、交互に見る。

 ……サラダを、お茶漬けに、放り込んだ。

 混ぜて、混ぜて。ソウジさんには申し訳ないことをしていると思いながらも、手は止められない、止まらない。

 

 スプーンで、混ぜたそれを、一口掬って、食べる。

 

「フへぇ」

 

 トンだ。間違いなくトンだ。それだけでいい。旨い。それだけ。それだけでいい。幸せだ。

 この後正気に戻った私は、時計を見て大慌て。食器を洗ってから大慌てで家事に奔走した。

 あの味を思い出して、にやにやしながら作業をして、お風呂場の鏡を見て我ながらドン引きしたのは、ちょっと内緒。

 

 

 

 

「ただいまー」

「おかえりなさーい! 今お風呂沸かしますねー!」

「ありがと」

 

 仕事はあの後、後輩が0.5mm読み間違えて大惨事になりかけたが事なきを得て定時で上がれた。

 スーパーに立ち寄って、鶏肉を買ってそのまま帰宅。

 男女兼用のジャージに身を包んだアークに迎えられて、そのまま台所に立つ。

 今日は、鳥の照り焼きにしよう。

 

 

 

*1
さん付けをしていたら「私のことは呼び捨てで構いません」と言われたのでそれに甘えることにした。

*2
ボルト、ナット等を直接溶接固定してしまうこと。

*3
天井クレーンの運転手のこと。オペレーター。

*4
遊戯王ではない

*5

*6
ベーコン

*7
本人は自覚無しで本当になってる。

*8
アークちゃんに電流走る。




篠屋宗治
 職場での様子がちょっと出た。
 料理上手。
 契約のことを『いやでも態々束縛したいわけじゃないしな……』&『契約云々とか仕事の絡みだけでお腹いっぱいだ』とガンスルーした。

アーク・テレデジータ
 三食昼寝付き、テレビ見放題の職場を手に入れた()
 胃袋を掴まれてるし疑似読心能力で自分に向けられてる感情に悪意が一切ないので警戒心がゆるっゆるになってる。
 無事(?)に体重が増えてきた。
 以下、契約の時の内心
『何でもします』
『奴隷にだってなります』
『だからお願いします、私の好きな人』
『捨てないで』
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