クシャルダオラがその場所に着いた時。
ガムートとティガレックスは、十分な間合いを取って睨み合っていた。
何をされた訳でもない。何をした訳でもない。ただ、邂逅してしまった以上、牙を向けずには居られない。
敵意のない殺意。一切の私怨なく向けられる、不自然な程に純粋な殺意。
空気が張り詰めている。それぞれの脳内が、これまでの経験と照らし合わせてフルに回転している事が分かる。
他のガムート達は、クシャルダオラの背に乗っていてもぽつんと見える遠くにまで避難していた。それは、ティガレックスと、この臨戦態勢に入ったガムートにも同等に恐れを抱いているからだと思えた。
ティガレックスが、ガムートを中心とする円を描くようにゆっくりと練り歩く。冬が終えつつある今でも固く踏み均されて氷のような強度を持っているような雪原の上で。
ガムートがそれに対して、体を僅かに動かす。正面を向き直すように。
「……」
唐突に、小さな風が俺と子供を包んだ。
『呼吸はしておけ』
呼吸すら忘れていた事に気付いた。
そしてクシャルダオラは十分に距離を取った場所から、同じく見ているネルギガンテとメル・ゼナの方へと向かった。
*
ティガレックスは、ガムートの周りを何度も練り歩いた。一定の距離を保ったまま、ひたすらにどこまでも緻密に観察するように。
ガムートはそれに対して、自ら何かを仕掛ける事もなく、ただ正面を合わせ続けた。
ティガレックスの持つ攻撃手段は多くない。炎も吐けず、体に棘や刃といったものも生やさず、空を飛ぶ事も辛うじて滑空するのが精一杯だ。また、似たような体格を持つナルガクルガのようにスピードに長けている訳でも、ベリオロスのようにテクニックに長けている訳でもない。
ティガレックスにあるのはパワーだけ。だがそれは、全体動作の強靭な安定性とも言い換えられる。
硬い岩盤にさえ爪を突き立てて体を安定させる事が出来る。それどころか岩壁に張り付く事すら出来る。そしてそこから、溜めもなしに長い距離を跳躍する事が出来る。時に同等以上の体格を持つ竜の突進さえその身の一つで受け止めてみせる。そのどれもが、ナルガクルガにもベリオロスにも出来ない事だ。
そんな長所が、己の牙を敵の急所へと確実に届かせるものだと理解したティガレックスは、敵の揺らぎを見逃さない。
ディノバルドの一閃の間合いを理解した上で、その外側から一跳びで組みついて詰みへと持っていけるだろう。ブラキディオスに対し、粘菌の一つも身に受けないままに背後を取れるだろう。
そして、このティガレックスはそれをどこまでも理想的に体現して見せる。
ガムートの持つ頑強さに比肩する者は、古龍を含めてもそう多くないだろう。ただ、頑強さだけしか持たないのならば、それは木偶の坊と変わらないと思われても仕方ないが、勿論ガムートはそうではない。
踏みつけるだけで致命的な一撃となる重量を持ちながら、暴れ回る事も可能なその巨体は、大地を揺れ動かしながら自身も派手に動いて来る。そしてその巨体に備わる肺活量もまた、それだけで凶悪な武器足り得る。
狩人……竜ですらも、その吸い込みを間近で受けたら、体の内側から空気を奪われて絶命するだろう。そんな至近距離でなくとも、生半可な重みでは地に足をつけている事すら能わず、体の自由を奪われ、転がり、踏み潰される事に疑いはない。
近寄る事自体が致死的なリスクである。そしてまた、距離を取ったとしてもガムートは多彩な攻撃手段を持つ。その長い鼻を使った投擲はまともに受ければやはり致命的であるし、肺活量を活かしたブレスは普通の竜の何倍もの飛距離を誇る。
そして、このガムートはその巨体をどこまでも成長させた到達点である。
どれだけの時間が経ったのか分からない。
ティガレックスはゆっくりとながら、もうガムートの周囲を十周はしているように思えた。
多分、勝負は一瞬で終わるのだろう。それぞれが磨いてきた牙の鋭さは、どちらも一瞬で命を奪える事に疑いはない。
ただ。
ティガレックスが不用意に攻撃を仕掛けても、ガムートの巨体に圧し潰されるだけだろう。
ガムートが不用意に攻撃を仕掛ければ、その隙間を縫ってティガレックスが牙を届けるだろう。
シンプルにして極限。
ずっ。
音がした。それは、すぐ近くから、ネルギガンテが体を起こした音だった。
『来る、らしい』
予兆をいち早く察したのがネルギガンテだった。身を乗り出している。
ティガレックスに正面を合わせる為に、足を小刻みに動かし続けているガムート。
その巨体故に、咄嗟に振り返る事も難しく、また竜の太い尾のように抵抗する手段も持たない。ガムートが背後からの攻撃に弱いのは良く知られている事だった。
だが、これほどの巨体となれば、そして一対一となれば背後を取る事など不可能だ。
……そう思っていたが。
ティガレックスが唐突に駆けた。ガムートはそれに反応が遅れた。
何度も何度も小刻みに足を動かしていたガムートの、足が着いた瞬間……最も次の足が遅れるタイミングに、ティガレックスは合わせた。
ガムートは、けれど焦らなかった。振り向くより後ろ足に組み付かれる方が早いと断じると、的確に鼻を伸ばし、ティガレックスの居るであろう位置にブレスを飛ばした。
ティガレックスはそれを背後まで回り込む事で回避し、同時にガムートは後ろに向かってバックステップ、後ろ足を蹴り上げる。
「うおあ」
声が出ていた。
それだけの所作が、きっとこれから忘れる事はないだろうと思う迫力があった。
ガムートの桁違いな巨体が派手に動く様から激しく噴き上げられる雪は、余りにも破滅的だった。翔虫を持っていても逃げ切る事は不可能な程に。そしてその雪に圧し潰されたら、念入りに雪と共に踏み固められるのを待つしかないだろうと察する程に。
しかし、それは人間の話だ。
ティガレックスは前脚を地面に叩きつけ、雪の塊をぶつける事でその雪崩を相殺した。そして、目の前にやってきてくれた後ろ足に組み付き、一気にガムートの背中にまで駆け上がった。
そこにガムートは、自らの背中へと向け直した鼻で、一気に息を吸い込んだ。
軽く息を吸うだけで、幾多の人間を気絶させた呼吸。その全力に、けれどティガレックスは意思を保ったままだった。
『あいつ……私の空気を奪う術に、抗える方法をずっと模索していたのか?
口はともかく、目も、そして鼻の穴も閉じている』
鍛えたからといって能動的に鼻の穴を閉じる事なんて出来るのか? ティガレックスはそんな事も元から出来るのか?
そんな疑問が脳裏を掠めた時には、ティガレックスは背中に突き立てていた爪を離していた。意識を喪ったのではなく、自らの意志で。
ティガレックスですらも引き寄せる吸気に、身を任せ。ふわりと浮き上がり、ガムートの前面へと。
ガムートが、ティガレックスが意識を喪ったのではないと理解したのは、その鼻に爪を突き立てられた時だった。
そしてその場所は、ガムートの首の間近だった。
ティガレックスは口を開けた。もう片方の前足を首筋に突き立て、がっちりと固定した。
ガムートが、鼻をティガレックスに向けようにも、突き立てられた片腕がそれを容易に許さない。
だが。
「……!?」
とうとう首に噛みついたティガレックスは、その頸椎を噛み千切る事が出来なかった。
竜の骨だろうと容易く噛み千切ってしまうその咬合力でも、ガムートの桁違いの大きさ、その頭を支えるのに必要な頚椎の頑強さはそれを上回っていた。
その隙にガムートの鼻がティガレックスにとうとう巻きつき、首から引き離され、地面へと叩きつけられた。
「ギィアッ?!?!」
ティガレックスはその衝撃で、体をがくがくと震わせていた。口からごぼぉと血を吐き出して、雪原を赤く染め上げていく。翼腕の先がへし折れ、尻尾も途中で変に折れてしまっていた。
「バルルッ……」
そしてまた、ガムートの受けたダメージも甚大だった。噛み千切られるまでいかなくとも、罅でも入ったのか、立っている事すら難しいように、全身を震わせていた。
けれど、でも。
それぞれは戦う事を止めなかった。ティガレックスは、少しずつ体勢を整えようと血反吐を吐きながらも体を起こそうとしていた。ガムートは震える全身を、派手な動きをした瞬間にぼきりといってしまいそうな頚椎に細心の注意を払いながらも、ティガレックスを踏み潰そうと前へと足を踏み出した。
どちらも、致命傷に違いはなかった。放っておいてもすぐに死ぬだろう。
しかしそれでも、自分の牙で、身体で、止めを刺さないと気が済まない。
そして。
ガムートはこのままではティガレックスが起き上がり直るまでに間に合わないと判断したのか、勢いよく後脚を蹴って、ティガレックスを踏み潰そうとした。
ティガレックスもまた、それを避けようと必死に後脚を蹴るものの、一瞬遅く。
ガムートの前脚が、ティガレックスの前脚を捉えた。
「ギャ」
ティガレックスの悲鳴は、そのまま崩れ落ちるガムートの轟音で掻き消された。
雪が吹き上がり、その二匹は白に包まれた。
……。
撒き上がった雪が頂点を迎えた。
…………。
雪煙が少しずつ風に吹かれて散っていく。
……………………。
その白の下から、様々な色が見え始めた。
ガムートの巨体の、特に隠れていた上半身が見えてきた。
その首筋にティガレックスが噛み付いていて、血がそこから溢れんばかりに流れている。
また、そのティガレックスの前脚の一つは千切れていて。
ガムートは倒れた衝撃で首が折れたのか、もう微塵も動かなかった。
ティガレックスがそれを確認すると、口を離し残る片腕で体を持ち上げ、勝鬨を上げようとして。
けれどその前に力を失い、ごとりと頭をガムートの首筋に落として。
同じくもう、微塵も動かなかった。
「……キュルルッ、ギュララッ?」
メル・ゼナが何か、我慢しきれないように鳴いた。
「……何と言ったのか俺も聞いて良いか?」
『これで本当に彼等は満足したのか? と』
「…………。まあ、満足したかどうかは置いておいても。
そうする以外の道などなかったんだろう」
連れてきた子供の方を見ると、子供は未だにその二匹の末路を食い入るようにじっと見ていた。
ここで起きた事の残滓まで残らずその目で焼き付けようとしているようだった。
*
剥ぎ取りなどする気にはなれなかった。自分自身で狩った竜でもないというのも当然あるが、二匹の戦いは、死に様は、死んだ後でも邪魔してはいけないような強い感覚に襲われたからという方が余程強かった。
程なくしてガムートの一匹が恐る恐るというように様子を見に来たが、相打ちになったその結末をその目で見ると、群れの仲間達に伝えるでもなく、ただただ立ち尽くしていた。
あの群れにはサブリーダーのような存在は、ざっと見た限りでは居ない。このまま時が過ぎていくのならば、各地を更地にしながら巡る程の、巨大な群れの形は自然と消滅していくだろう。
それがあの村にとってどのように働くかまでは分からないが、畏敬ばかりなそのガムートへの信仰は薄れていく事ばかりは予想出来る。
ネルギガンテも特段それを腹に収めようとはせず。クシャルダオラに乗って、共に村の近くまで自然と帰る事となった。
子供は、隣をメル・ゼナやネルギガンテが飛んでいようとも口を開かず。
また村に着いてからも暫く口を開かないままだった。
両親の元に返す前に、その両親に何があったかを軽く説明した。
「息子は、これからどのような道を進むのでしょう?
もう……私達とは全く違う世界を見ているようで」
「それは俺にも分かりませんが、見たい世界を彼が示してくれたら、俺は彼に対して、道半ばで倒れるような事などはないように鍛え上げるつもりです」
「……よろしくお願いします。
それともう一つ。その戦いは貴方にとっても、衝撃的なものだったのですか?」
「そうですね、きっと俺も、あの戦いを忘れる事はないと思います」
村長達には、ガムートもティガレックスも死んだ事だけを端的に伝えた。
何があったかを事細かには説明しなかった。
それは俺の口からではなく、子供が自然と口を開いてから、きっと何時間もまくしたてるであろうそれを聞いた方が余程説得力があるだろうと思えたからだった。
ただ、一つ言われた。
「私達は、これからどうすれば良い?」
他人任せなその言葉に、少し苛立つものを覚えた。
その全員が狩人のように竜に立ち向かえる力を持っていないとしても、変わる時代に引っ張られてただ悲鳴を上げているばかりのような、その様子に。
「……良い事教えてやろうか?
クシャルダオラは、あのガムートと何度か会話をした。結果分かったのはな、あのガムートも若い頃は、あのティガレックスと似たような存在だった、って事だ。
この世には自分か他者しか居ない。
自分の道を邪魔する者を許せない。
その信条に則って動き、己を研鑽し続け、他者の命をどれだけ踏み躙ろうとも何も思わない。
自然と反省したとは言え、本質はそういう奴だった。
何が言いたいか分かるか?
…………。
あのガムートはな、寿命を察してクシャルダオラに介錯を頼んだ程に高齢なガムートはな……介錯を頼めるような古龍が居なかったら、あのティガレックスと殺し合いも出来なかったら。
狂って、この村をも更地にしても全くおかしくなかったんだよ。
その上で、だ。
別に、やってきた俺に感謝しろって言ってる訳じゃねえ。あのガムートが居なくなったからと言って、その拠り所をそのまま俺に向けて来るんじゃねえと言っている。
だから今も生きているなら、出来る事をまずは考えてみれば良い。
それに対して、間違っている部分の指摘や、より良い方向を指し示すくらいはしてやるから。
竜という脅威に対して俺に頼る事はしても、全体重までは預けて来るな」
*
人間二人を返した後。
王に、少し付き合えと言われた。
そして、ネルギガンテも居る場所で、何度か言いあぐねるような所作を挟んでから、意を決したように口を開いた。
「俺はな……正直に言ってしまえば、俺の命が潰える事を非常に恐れている。お前なんかよりも、よっぽどな。
俺は復讐する為に、こんな古龍を主食とする奴を見つけてしまうくらいに、結構広く色んな場所を巡って俺自身も鍛えてきたつもりだったのだが、狂っていない同族には会えた事はなかったからな。
狂っていて唯一戻せた奴に至っては、あろう事か再び自ら狂いに行ってしまった。
……俺は、俺が死んだら、メル・ゼナという種族そのものが潰えてしまう事を強く恐れている。
だからな、ああやって自身や血族の命より優先するものがある奴等の事を、本質的には理解出来ない」
王は生い立ちが不幸だったからこそ、王になった。
そして復讐を自らの手でも果たし、自分とは相容れない生き方を見たからこそ、これから先を直視する気になった。
「やはりな、俺は同族が欲しい。きちんと子を為して、未来へと種を繋ぎたい。
古龍としてこれからどれだけ生きるとしても、それを満たさない限り、俺は前へと進めない。
そう確信したよ」
「私にも旅に付き合えとでも言うのか?」
「いや、そこまで頼もうとは思っていない。ただな……その前にやっておきたい事があってな」
王とネルギガンテが唐突に私の方を向いた。
「……な、なんだ?」
「一つ、答えて貰う」
「私は、いつの間にか何か悪い事でもしたのか?」
「いや、そんな堅苦しい事ではない。ただ単純に、お前のあの人間との出会いを聞いて、俺もこいつも気になった事があってな」
王とネルギガンテは、私に悪戯をするような目をしていて……。
命に関わる事はされないのだろうと思いつつも、酷い悪寒がした。
「お前は、あの人間が、身に持てる道具だけで登ってきたのに。
そして、他の人間やらキリン亜種やらも、途中まで何の助けもなしに登らせておいて。
お前だけ、ずっと口の周りに風を集めていたんじゃなかろうな?」
……………………。
「い、いや、そもそも、そもそもだ。王やネルギガンテには分からんかもしれんが、私にとってこの風を操る力は呼吸をしているに等しいのだ。だから」
「自分だけは呼吸が楽でも問題ないと?」
「そ、そうだ! 何が悪いのだ!?」
「いや、悪くはないが、俺達から見たら情けないよな。なあ?」
ネルギガンテも頷いて付け加える。
「あの人間は、お前が古龍だからというところで別に何とも思ってないようだが、俺達からしたらなあ。
俺達だったらまず、何の助けもなく登れるまで、俺達の矜持ってやつが許さねえよなあ」
「わた、私は、あな、貴方達のような脳筋ではなくっ」
「聞くところによると、ただの竜でさえ何の助けなしに登頂したようじゃないか」
「……………………」
逃げられない。
*
『あの、また付き合ってくれないか?』
「どうした急に」
『脳筋古龍二体に挟まれて、風を使わずに登頂出来るまで他に何も出来なさそうだ』
「…………後からでも良いか? 色々起きた事とかきちんと共有しておかないといけないから」
『出来るだけ早く来てくれ』
唐突に独り言を言い始めた俺に、友人が聞いてきた。
「また何かあったのか?」
「いや、まあ大した事じゃない」
『大した事なのだが?』
「…………」
*
*
*
*
雪解けもすっかり終われば、もう夏が少しずつ近付いてきていた。
今日も霊峰からは二つの咆哮が聞こえて来る。
メル・ゼナとネルギガンテが、空気の薄い場所での鍛錬に今日も精を出していた。
霊峰の形が、来た時と比べたら明らかに様変わりまでしているのに、クシャルダオラは付き合いきれないものを見るように眺めている。
最初こそは村人達も不安がる目で見ていたものの、折れたネルギガンテの棘や、剥がれ落ちたそれぞれの鱗やらを拾い集めるだけで大金になると知ってからは、出来るだけ長く続く事を誰もが願っている始末だった。
今日も今日とて俺は、結局まだこの場所に留まっている友人とその棘や鱗を拾い集める作業をしていると。
「それで、あのメル・ゼナはいつ番を探しに行くんだ?」
「さぁ……」
完全に順応出来るまではここでどかんどかんと音を立て続けるのだろう。そして旅立つ時にはもうきっと、英雄と呼ばれるような狩人達に肩を並べていてもおかしくない。
それ以外は平穏な日々。
また長旅をしに行っても問題はないのだろうが、流石にそれを出来る程に村人達は、あの二匹による抑止力や、村を襲わないという事を信じられる訳でもない。
俺やクシャルダオラでは、あの二匹への抑止力にはなれないとしても。
未だ雪が深く残る高所の、この荒れ果てた雪原に目を凝らすとベリオロスが見つかる。心なしか一回り大きくなっているようだった。
ジンオウガ亜種は結局あれから見る事はなかった。けれど死体までは見つかっていない。
トビカガチ亜種もまた、あれから見てはいない。
麓を眺めると、本格的に狩人を目指し始めた子供とネルギガンテの子供が一生懸命に走っているのがぽつんと見える。湖の方を見るとドスバギィが別のバギィを連れていた。寄り添っている様子を見ると、番かもしれない。
本格的に群れを持つなら、俺の元には来れなくなるだろう。
「そろそろ戻るか?」
「そうだな」
それぞれポーチを一杯にした友人と共に下山し始める。これだけで村の一月分の稼ぎをゆうに超える。
ざむ、ざむ、と。段々と雪が泥混じりになっていく中を下っていく。
その帰路の途中。
「なあ、そろそろ、俺も帰る事にするよ。ここに長居し過ぎると、俺も常識が歪みそうでな。
それに街が少し恋しくなってきている」
「まあ、そうだろうな」
「ま、また長旅に出るとかになったら連絡を寄越してくれ。俺もここは結構気に入ったからな」
「どうも、助かる。
……なあ。一つ聞いて良いか?」
「何だ?」
「自分の終わり方って、想像付くか?」
「変な質問だな。……まあ、老後に子供や孫に囲まれながら寿命で死ぬっていうよりは、いつかどこかで、竜に負けて殺されるんだろうなあ、って方が近いだろうなとは思ってるが」
「……そうか。俺は、どうなるんだろうな?」
「それは……想像つかねえな!」
「だよなあ?」
「ただ、それは悪い事じゃねえだろ?」
「……かもな。ま、俺はこの先どうなるのかも、後どれだけ生きるのかも全く分からなくなった訳だが。
出来る事って言ったら、結局立って歩くしか無えからな。そうしていくよ」
「へいへい。頑張ってな」
「どーも」
そう言えば、俺がこれからどうなるのか、キリン亜種のところに聞きに行かねえとなあ。
クシャルダオラは嫌がるだろうが。
そんな事を思いながら空を眺めると。
「……ん? 雪?」
季節外れの雪が降ってきた。
キリン亜種がまた来たのだろうか。いや、その場合だったら村にも前置きが来るはずで……。
嫌な予感がし始める。
『山の方を見てみろ』
言われるがままに見てみると、クシャルダオラと似たすらりとした、四つ足と翼を併せ持つ、青色の……。
『避暑ついでに、友に会いに来たらしい』
「…………」
今年の夏は、寒くなりそうだ。
銀嶺越えガムート vs 荒鉤爪越えティガレックスは、生きていた時間という点では僅差でティガレックスの勝ち。ガムートも、首が折れる事を覚悟の上で頭を踏み潰せなかった時点でそれを理解している。
クシャルダオラは、イヴェルカーナも霊峰の頂上まで登らされるだろうなあと思いながら何もイヴェルカーナに言いませんでした。
また気が向いたら何年後かでも続きを書いたりするかもしれないので、完結扱いにはしないでおきます。
それと新春けもケに出る予定のメル・ゼナアンソロに、この原初様の過去を書くつもりです。
要するに、狂ったメル・ゼナを介抱して元に戻したものの、裏切られる話ですね。