嵐と共に過ごす徒然とは程遠い日々   作:ムラムリ

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ドスバギィって最大14mになるの!?
ぶっちゃけ脳内ではジュラシックワールドのブルーくらいのイメージで書いてましたよ。
同じジュラシックでもティラノサウルスだとは全く思ってませんでしたよ!
……うるせー! 最小金冠じゃ!!
…………え? 最小金冠でも9m?
いや、ちょっと待って、ウルクススが最小金冠5mなの見るに、これ立った時の高さじゃなくて、頭から尻尾の先までの長さだろ? そうっぽいな。まあ……それならギリギリ。
でもベッドで一緒に寝ようとしたら、キングサイズのベッドじゃないと一緒に寝れないだろうし、そうなると男は一人で寝る時そんなキングサイズのベッドで寝てるんですかね。
でもワールドとかのマイハウスのベッドってかなりでかくなかったかな。


嵐が手下を欲しがりまして

「狩人になりたいんだけど、どうしたら良いですか」

 ドスバギィに慣れるどころか、ドスバギィが背中に乗せるにまで共に慣れた村の子供の一人が、ある日おずおずと聞いてきた。

 一応、この村には俺以外にも狩人は居る。ただ俺以外の狩人は全員下位の初心者で、要するに実践経験を安全な場所で積んでいる身であって、重要な事はまだ何も任せられない。

 ついでに言うと、多分俺のドスバギィにも負ける。ドスバギィには死なないように多少は訓練も積ませたしな。動く的に睡眠液を当てる訓練とか。

「乗り人でも良いんですけど」と付け加えたその子供に、俺は少し悩んで言った。

「んまあ……体力を付けておく事かな」

「……」

 余りにも抽象的というか、単調な返答にその子供は返す言葉を失ったようで、俺は補足する事にした。

「どれだけモンスターに吹っ飛ばされようとも、焼かれようとも凍らされようとも、身体が動くならば動かさなければいけない。

 時に目に止まらぬ速さで背後を取ってくるようなナルガクルガや、まともに喰らえば文字通りに身体が弾け飛ぶティガレックスやブラキディオスの猛攻を何十分も凌ぎつつ、淡々と傷を与えて動きを鈍らせ、命を刈り取る一撃を狙い続ける。

 そんな事を実現するにはまず、いつ如何なる時だろうと身体を思う通りに動かせる事が前提なんだ」

「…………」

 どうにも腑に落ちない様子だった。

「まあ、別に狩人になりたい動機なんてどうだって良いんだけどさ。俺だって小さい頃は同じようなもんだったし。

 でも、本当に狩人や乗り人になりたいなら、もう少しそれらに関して深く知ってからでも遅くはないと思うぞ。

 俺は……それでも憧れが勝ったから色々頑張ったんだ」

 その結果が、狩人という職業を職業としか見なくなった今の俺というのは、何か色々とアレなんだが。

「……じゃあ、色々と聞いても良い?」

「まあ、参考になるかは保証しないけれどな」

 いや、本当に。

 

*

 

 最近山の上の方が荒れているので、調査に出た。

 雪崩がどかどかと起きていたのが麓からでも見えたし、俺が雪崩に巻き込まれる可能性も高いとなると気乗りもしないのだが、ぶっちゃけて言うと巻き込まれてもクシャルダオラが助けに飛んで来てくれるだろうと言う楽観的な気持ちもあり、ただ一人だけ下位の狩人と、それからドスバギィを連れて行く事にした。

 流石に、下位だろうと多少は踏み均された道を登っていくだけで疲れはしない。

「ここから先……ベリオロスの縄張りですよね?」

 木に付いた、古めの傷跡。スパイクによる、並行な引っかき傷。

「そうだな。まあ、生きていればの話だが」

 この山に登るのはなんやかんやで巫女が来て以来半年振りくらいだったので、あれからあのベリオロスがどうしているのかは殆ど知らない。

 別に麓にまで降りてくるような事もなかったし。

 ただ、木が鬱蒼と茂る高度を超えて雪が深く降り積もっている高原へと出ると、そこには最近にも雪崩でぐちゃぐちゃになった光景が広がっていた。

 多分、自然発生したものではないその雪崩の光景。

 ベリオロスの痕跡もその雪崩の跡からは見当たらない。

 ビクビクしているその下位の狩人に俺は言った。

「辺り一帯にベリオロスも何も痕跡は無いからまだ安心しとけ」

「クシャルダオラの力ってやつです?」

「……そうだな。後ろのドスバギィのトサカの位置も分かるぞ。ほら、こんな感じでな」

 後ろに手を回して正確に撫でてやると、こそばゆいように背中を突っつかれた。

 風による感知の範囲はエリア一帯という広さでは全くないのだが、目に見える範囲でも生き物の痕跡は全く見当たらない。ここからかなり先まで見える山の上までも、雪崩が起きた痕跡が見えるばかり。

「うーん……。逆に言うと、ベリオロスがまた山の上に逃げたのかな」

「どういう事です?」

「前にキリン亜種の乗り人と山を登った話をしただろ? そん時にここらを縄張りにしていたベリオロスは山の上に逃げたんだよ。で、最悪な事にそれは俺達が進む方向だったからベリオロスは更に上に逃げ続けて、最終的に酸欠になって、クレバスに落ちかけた。

 その時はクシャルダオラにキリン亜種が居たから雪崩なんて起こしたら間違いなく殺されるって分かってたんだろうけど、そうじゃない相手なら遠慮なく雪崩を起こして潰せる訳だ」

「上手くは行ってないようですけどね」

「そうだなあ」

 ベリオロスが戻ってきていないという事は、そういう事だ。

 こんな状態の山を登るのも難しいので、それ以上の調査は切り上げて帰る事にしたが、正直余り良い予感はしない。

 ……この頃はヤバい奴も来ていないし、俺の身体が鈍ってないかきちんと確認しておくか。

 

*

 

 冬が深まってくると、湖も凍りつく程の寒さになる。

 近くに良く見られるアオアシラやらトビカガチの亜種は冬籠りをしたのか見かけなくなり、俺の背丈もとうに越して久しいドスバギィが大きな顔をしている。

 その凍りついた近くの湖は、俺が来るまではイソネミクニ亜種が時折やってくる場所だったようなんだが、俺が来てからは殆ど見かけず、氷に穴を開けて釣りをしたり、子供達の遊び場に出来る程になっていた。

 これまで討伐されなかったのは、前の狩人が、その原種より段違いに強いという亜種を自信を持って討伐出来ると断言出来る程の実力ではなかったから、というのと、遠方から討伐出来る狩人を呼んで来るまで被害も金銭的余裕もなかったから、だそうで。

 まあ、俺に挑んで来ないという事は、段違いと言えど、常軌を逸した強さでもなければ、戦闘狂でもないのだろう。

「時々歌が聞こえてくるのがなくなったのは、それはそれでちょっとばかり寂しいけれどね」

 でも、こうして釣りが出来る方がよっぽど良いけどね、と付け加えながら言われた。

 釣果は上々のようで、多分これから暫く魚尽くしなんだろうな。

 ポポを多く出荷してからというものの、タンシチューが遠ざかっているのが寂しい。

 

 一応、辺りを調べてみれば、そのイソネミクニ亜種の痕跡らしきものが少しだけ見つかった。

 来ても歌わなくなっただけで、全く来なくなった訳ではないらしい。

 

*

 

 暗雲が立ち込めてきたかと思えば、激しい吹雪が幾日も続いた。

 けれどこんな吹雪もものともしない竜やらは幾らでも居るので、見回りは欠かさない。

 外に出ようとして扉を少しでも開ければ、激しい風が屋内に入り込んでくるが。

「……ホットドリンクは必要なさそうだな」

 あんまり飲む気にならなかったホットドリンクはそのまま置いて、見回りに出る事にした。

 

 クシャルダオラの影響を受けて寒さにもある程度耐性が付いてきているが、この暴れる風の中でも竜を感知出来る訳ではない。俺の操れる風はまだその程度だという事だ。いや、別にこんな暴風を引き起こせるようになりたい訳でもないんだが。

 吹き荒れる雪は、最早白い闇と言っていい程に視界を白く埋め尽くしている。流石に竜と言えどこんな視界の中で敵を感知出来る事はないだろう。クシャルダオラなら出来そうだけれど。

 ただ、問題は山を荒らした竜が近くに来ていたらという事で。

 こんな中、そんなレベルの高い竜と戦えと言われたら、多分負ける。雪に足を取られる影響が、人間の方が強過ぎる。人間から小回りの良さを取ったら本当にただの的に過ぎない。

「……急に恐ろしくなってきたな」

 こやし玉も携えてはいるが、そもそもこんな暴風の中きちんと顔面にぶつけられるかって話も。

 村のすぐ近くなのに、心細くなって仕方がない。けれど、俺がここで逃げ帰っていたら責務を放るという事だ。

「…………」

 何事もない事を、祈るしかない。

 

 ……そう思っていたのに、何かの存在が近くに居る事を感じてしまっている。

 俺の感覚が、この吹雪の中でも何かを捉えている。微かな臭いでも俺は捉えているんだろうか? それとも、この暴風の中でも多少は風による感知が働いているんだろうか?

 そう言えば、クシャルダオラには嗅覚はどのくらいあるのだろう? あの、鼻先だけ血が濃く通っているように茶色くなっているのがこんな時に限ってとても気になり始めた。

 いや、そんな事は今はどうでも良くて。手足の感覚を確かめながら、少しでも雪に足を取られなさそうな場所を探そうとしていると、何か軽い足取りで雪をかき分けながら俺に駆けてくる青いカタマリが。

 暴風に紛れてちりんちりんと鈴の音が微かに響いた。

「お、おお」

 ドスバギィだった。鈴付きの首輪を付けている、俺のドスバギィだ。

 ついでにその親友のドスフロギィがくっついてきた。ドスフロギィは俺から少し離れた場所で、俺に警戒したまま。

「やっぱり何か居るんだな?」

 ドスバギィが頷く。

「イソネミクニ亜種か?」

 そう言うと、変な顔をされた挙げ句にさっさと帰れというように俺を村の方に押してきた。

「何だ何だよ?」

 意図が分からず、聞いてみる。

「俺を案じてくれているのか?」

 違う。

「……俺が邪魔なのか?」

 そうだ。

「……。まさかお前等で倒そうとしているのか?」

 頷かれた。

「勝算は?」

 きちんとあるようだ。

 でも、幾ら眠らせられる、毒漬けに出来ると言えどなあ……、こいつらにはそもそも、大型の竜を仕留められる鋭い牙がないだろう。

 聞いてみる。

「……そのドスフロギィ以外に味方も居るのか?」

 何か変な目つきをされた。居ない訳じゃないようだが……。いや、まさかな?

「イソネミクニ亜種?」

 そのまさかだった。なら、戦力的には足りてるのか。

「……その首輪、外しておいた方が良いか? 鈴は色々邪魔じゃないか?」

 別に問題ないらしい。

 ……へぇ?

「じゃあ……死ぬなよ? 俺が言うのはそれだけだ。お前もな」

 道中食べようと思ってたこんがり肉をそれぞれに渡して、俺は帰る事にした。

 

 翌日、変わらず吹雪の中に見回りに行くと、ドスバギィが無傷で出迎えた。

 倒したのかと聞くと、ドスバギィらしい凶悪な笑みを浮かべてきた。

「……良い顔するようになったじゃないか」

 首を撫でてやるとそんな凶悪な笑みが一気に消えたのがとても可愛らしくて愛おしい。

 ……クシャルダオラが俺を見る気持ちもこのようなんだろうか?

 嫌って訳じゃないけど。

 

 そして吹雪が終わり、湖に再び釣りに行くとドヤ顔をしたドスバギィが出迎えて、俺を引っ張ってくる。

 何だ何だと思って着いて行くと、最近派手に砕けた氷の下にゴシャハギの溺死体が出来ていた。

 うつ伏せに、半分くらいが氷漬けになってぴくりとも動かない。

「お、おお……」

 随分とえげつない事を……。多分、直接牙やらを交わらせる事はしなかったのだろうけれど、湖の氷を砕いて溺れさせるというのは、ドスバギィが考えたんだろうか? 元々悪知恵が働く方の種族だし、俺と一緒に長く居て賢さも段違いだろうし。

 釣りに来た村人達もざわざわと集まってくると、ドスバギィがそんな村人の手にとにかくナデナデされ始める。

「……この死体、貰っていいか? 友達にも見返りは色々渡すからさ」

 そう言って了承を貰い、氷を砕いて引きずり出して、仰向けにひっくり返せば。

 イソネミクニ亜種が美味しいところだけ貪っていったように、腹が空っぽになっていた。

「肝が一番高いってのに……」

 落胆した村人達だったけれど、それを除いても吹雪で何も出来なかった時の稼ぎ分を何倍も上回る事は明らかだったので、まあ仕方ないかという空気の中、粛々と解体された。

 

 イソネミクニ亜種は、結局それ以後も俺の前に顔を出したりも、聞こえる場所で歌う事もしていないが、この近くに棲み続けているのは確かだった。もしかしたら、この湖の氷の下に潜んでいるのかもしれない。

 それと……このゴシャハギが、ベリオロスを追い回した奴だとは正直思えていない。

 

*

 

『貴様がいつも美味そうに食しているポポのタンシチューを食してみたい』

「え、ええ?

 いや、あの……そもそも、食べられるのか?」

『……貴様、私の肉体が一から百まで全て鋼で出来ているとでも思っていたりするのか?』

 若干呆れたような口調。

 ……まあ、そりゃそうか。

「それで、いつ頃、どれだけ持っていけば良い?」

『いつ頃、どれだけ持って来られる?』

 急くような言い方だな?

「聞いてみないと分からないけどな……女将さんが仕込んでいなかったら半日くらいは掛かるぞ」

『そんなに掛かるのか!?』

 あの、今までの何よりも驚いたような口調なんですがね?

「工程を一つ一つ言おうか? まず、ポポのタン……舌の皮を剥いで、塩や香辛料を揉み込む。それからまず表面を焼いて……」

 俺でも作れたりしねえかな、山の上でも食えたりしねえかなと思って聞き、即座に諦めたレシピを諳んじる。

「……そこにポポの骨から別途煮出した出汁を注いで、数時間アクを取りながらじっくり煮込んで、最後にバターでとろみを付けて、塩を調整して完成」

『……貴様の言っている半分も理解していないのだが、正直に言っていいか?』

「え、ああ」

『今まで人間を真に恐れた事は、猛き炎個人に対してしかなかったのだがな。今、同じ感覚を人間全体に覚えている』

 いや、流石に、そこまでなのか?

「ついでに言うと、俺が今身につけているような防具とかの中には、年単位で作業を要しているものもあったりするんだけどな」

『は?』

「竜の皮を加工しやすくするだとか、毒を抜いたりする為に、色んなものに漬け込んだり、蒸したりだとか色々しているっぽい」

『……それが、人間の強みというものなのか』

 飯と一緒にするのもそれはそれで何か違う気がするんだが、まあ……似たようなものではあるか。

「それじゃあ、まあ、出来るだけ早く持っていけるように交渉しておく」

『それで頼む。…………あ、そうだ。それと、水の入った革袋を持ってきてくれ』

「……? まあ、お安い御用で」

『頼んだぞ』

 違和感の理由が分かった。

 何か、ポポのタンシチューを食べてみたいという以外に目的があるような言い方だったんだ。

 

 最早公然と言っても差し支えないクシャルダオラの事を一応ぼかしながら、そいつがポポのタンシチューを食いたいと言っていると伝えると「まあまあまあまあまあまあまあまあ」ととにかく驚いた言葉を一分以上続けながら、下処理だけは済ませてあったタンシチューを早速仕上げに掛かった。

 そして2時間くらい後に「出来れば一晩寝かせたほうが良いんだけどね」と言われながら、クシャルダオラのでかい口でも数口分はありそうな量のタンシチューの鍋を布に包んで、それから革袋に入った水を持っていつもクシャルダオラが待っているであろう場所まで歩いて向かう為に村を出て、人の縄張りの境目を通り過ぎ。

 程なくして異変に気付いた。

 異変、と言っても森がいつもより静かだというだけなのだが、肌がヒリつく感覚がする。一応、鍋は背負っているし、両手は使えるようにしているが、出来ればその背負った鍋すらも置いていきたいと思うほどに、俺の五感はその異変を訴えかけてきている。

 こんな時に、ではなく、だからこそクシャルダオラはポポのタンシチューを持ってきてくれと言ったのだろうけれど、正直あんまり真意が見えない。特に水の入った革袋なんて何に使うんだ?

「……まあ、さっさと行くか」

 

 クシャルダオラが俺に会いに来る時に着地する場所。

 村から程よく離れたその場所は、クシャルダオラが風を使って木々すら引っこ抜いて均してあるが、その龍脈とやらが地表近くに現れているのか、冬だと言うのに雪をかき分けて新芽が生えるし、クシャルダオラの好む鉱石が樹木のように目に見える勢いで伸びてきていたりもする。

 その中央で、クシャルダオラは姿勢を正して座っていた。

『ああ、革袋はその辺りに置いておいてくれ。うむ、ここから目に見える隅の方に、だ』

「はぁ」

 良く分からないがその通りにして、ポポのタンシチューをクシャルダオラの前に置く。

「前も言った通り、ポポは結構出荷しちゃったんで、何度もくれって言われてもそこまで渡せないけど、今回限りで大丈夫なのか?」

『多分、な』

 俺が何かしら察している事を、クシャルダオラは特に追求してくる事もない。

 鍋から布を剥がし、蓋を開ける。濃厚な匂いが一気に流れ出る。

『やはり……私にはそこまで美味そうとは思えないな』

「鉱石は美味いのか?」

『上質なものは、貴様がこれを食している時の感情と似たようなものだ。

 特に生えている鉱石をそのまま食すのは新鮮そのもので良い』

 ……鉱石に新鮮とかあるんだ。

 クシャルダオラが、鍋に直接舌を付けて、ひと掬い。それで一気に四分の一は消えた。

 頬を僅かに動かして、舌の上で転がして。

『…………やはり、私には分からぬな』

 その言葉を聞くや否や俺は、片手剣を手に取っていた。そんな勿体ない事をするクシャルダオラの怒りではなく、何かとんでもないものが近付いている事を、俺の五感が察知して自然と。

『恐れなくて良い。貴様では勝てぬが、私はここに座ったままでもソレを無力化出来る』

 近くに居るその何かに伝えるかのように、クシャルダオラは龍の力を広範囲に飛ばすかのように話す。

『私はな、エルガドの王に扱かれて、扱かれて……その中で一度だけ、エルガドの王を気絶させた事があった。

 その時は無意識で、偶然も重なっての事柄だったのだがな、今や私はそれを当然のように扱える』

 ……俺の推測が合っているなら、水袋を持ってこさせた理由は。

『……通じているだろう? 大型の竜は、特に優れた力を持つ竜は、龍の力を多く身に秘めている。

 己が身で自在に使えなくとも、私の声を受け取る事は可能なはずだ。

 合っているならば、逃げない事を勧める』

 ドスバギィは、多分クシャルダオラの声を聞ける事はないのだろうと思いながら、聞く。

『私は、風を操る事が出来る。言い換えるならば、空気の濃淡を操る事が出来る。

 具体で言えば、貴様が山に登って呼吸すら出来なくなるような世界の再現など容易く、またここらの大木を根本から引き抜いて霰のように貴様に落とす事も可能だ。

 そして、その力を極めた先にあるものを見せてやろう』

 クシャルダオラから龍の力が溢れたかと思えば、いきなり物が弾けた音がした。俺が遠くに置いた水袋が内側から破裂したかのように弾け飛んでいた。

 急激に、水袋の周囲の気圧を下げたのだと分かった。

『そして、さて。

 殆どどの生物にも、この水袋のような器官があるな? 貴様にもきちんと二つある器官だ。分かるか?

 …………。

 返事が無いから言うが、分かるだろう? 目だ。

 貴様が今潜んでいる場所でも、この力は届く。逃げようとしたならば、分かるな? その目が内側から爆発四散する。

 嫌ならば、ゆっくりとこちらにやって来い』

 そうして出てきたのは、翼腕の先を青く染めた……荒鉤爪という二つ名を持つティガレックスだった。

 その姿を見ただけで雪崩の原因はこいつだと確信する。

 更に俺が四人居て、三人を犠牲にしてどうにか勝てるかどうかまでの実力を感じさせるそのティガレックスは、しかし見るからに怯えていた。

 いつでも目を爆発させる事が出来ると宣告され、せめて抗おうと目をとても細めている。

 クシャルダオラがそこまで隔絶した強さになっていたとは、俺も知らなかったのだが……。

 そのクシャルダオラが立ち上がると、少し歩いてティガレックスの前に止まった。

『死にたくないのならば三つ、私が言う事を理解しろ』

 ティガレックスが神妙な気持ちでクシャルダオラを見る。

『この人間とその周囲には手を出すな』

『この先に住む巨大なガムートには手を出すな』

『時々、私に付き合え』

 怯えていたティガレックスの口がぽかんと開いた。多分、俺の口も。

 単純に手下にしたかったのか、と分かればティガレックスの緊張も少しだけ和らごうとして。

『理解したか? もし守らなかった場合は、貴様の目と鼻と耳を潰し、そして舌を焼いて、貴様の世界を暗黒に染め上げる。

 それを、貴様がどこまで逃げようとも探し出し、為してみせよう』

 そんな言葉に、無茶苦茶な身振りで理解した事を伝えた。

 そして、こちらを振り向いたクシャルダオラは。

『それでは、これは食していいぞ。良いよな?』

「……俺にゃ何も言えませんよ」

 俺が鍋の隣からクシャルダオラの隣まで身を動かせば、ティガレックスは恐る恐ると言うように鍋に近付く。こんな時でも涎を抑えきれずに口からはみ出しているのが見えた。

 ……キリン亜種か原初を刻むメル・ゼナか、どっちの王様に感化されたのかはまあどれでも良いんだけど、問題はこいつが、圧倒的な力で捻じ伏せられないと大人しくならないタイプ、今まで大抵自分の力で目の前の障害を捻じ伏せてきたような生粋の猛者ってところなんだよな……。

 餌付けなんぞどだい不可能、交流を求めようとしてもこのようなクシャルダオラのような圧倒的な力の差が無ければ無理。雌か雄か分からんが、雄だったら暴力を以てヤリ捨てるタイプでそれが正しいと根っこから信じ切っているような奴。

 ……こいつが隣人ならぬ隣竜に加わる訳? いや、マジで?

 そんな俺の不安がクシャルダオラにも通じたのか。

『大丈夫だ。ここらの奴等とは共存出来る位には躾けておく』

「……」

『それに、何とかなるだろうとは思わないか?』

 そう言って、クシャルダオラはティガレックスを見る。鍋に顔を突っ込み、分厚い舌でシチューをこそぎ取ろうとしている。更にガルクのように尻尾をブンブンと振っていて、余程味を占めたのか先程まで脅されていたのに最早こちらの事など意識の外に置かれているようだった。

 鍋が割れてしまえば、その破片の一つ一つにまだこびりついているシチューを丁寧に舐めていく。

「いやぁ、どうだか……。アレに掴まれたら古龍だろうとどうしようもないんじゃないか?」

 脳筋のネルギガンテやメル・ゼナだろうとただでは済まないと思う。

『それでも首を折られる前に、肺から空気を抜き取るくらいは出来る』

「そう、なのか?」

 その言葉に少しだけ違和感が。

 ……多分、肺から空気を抜く事は出来ても、流石に目玉を爆発させる事までは出来ないんだろうな。ティガレックスにした脅しは多少なりとも嘘が交えられている。

 まあ、肺から空気を抜けるだけでも十分に恐ろしいんだが。しかもそれは確実に、瞬時に出来る。

『だが……貴様と会ったばかりの私では、アレを手下にするどころか、近付こうとも思えなかっただろうな。

 ただの竜如きに恐れを為した事を否定したいが、近付く事さえも恐れてしまう。その結果、ひたすらに遠方より嵐で鏖殺しようと画策し、そしてか細い勝機を手繰られて逆転を許す、そんな末路を迎える事を否定出来ん……いや、かなり可能性の高い事象として想像出来てしまう。

 いつか貴様が言っていた事は正しかった』

 そんな事も話したっけな。ただ、その時は荒鉤爪までは想定していなかった気がするけれど。

「……とにかく、まあ。けれど、やはり、俺には……今のアレを置いて旅へと行こうとは思えない」

『……ふむ?』

「俺は、貴方より長くも生きてないし、屠ってきた竜の数も比べ物にならないだろうけれど。

 竜と正面から向き合った回数は、確実に俺の方が多い。

 だからこそ分かる。アレの本質は、障害を全て自らの力で打倒してきた、そうしないと気が済まない。いや、自分の力でどうにもならない存在を許す事が出来ない。

 だから、多分アレはすぐにでも自分を鍛え始めたり、貴方を観察し始める。目を爆発させるという嘘も程なくして看破するに違いない。

 手下にしたとしても、虎視眈々と。

 そして勝てると思えたのならば、きっと約束などまるで最初から無かったかのように襲い掛かってくる」

『…………そう、なのか?』

 目を爆発させるという部分を否定しなかったところを見るに、やはりそれは嘘らしい。

 だが、クシャルダオラは開き直ったかのように言葉を続けた。

『まあその時は、私より遥か上に居る奴等を、借りを作ってでも連れて来るとしよう』

「え、えぇ……」

 それって、メル・ゼナですよね? ネルギガンテも付いてくる可能性もありますよね??

 シチューを舐め尽くしてしまった悲しみを表すかのように、振るわれなくなった尻尾を眺めるしか出来ない俺は、今までにない無力感に苛まれていた。

 

*

 

 ベリオロスは意外な事に生きていた。どうにも高所に少しずつ適応しているらしく、ひたすらに登り続ける事でティガレックスから逃げ延びたらしい。

 そしてそんなベリオロスをひたすらに追いかけ、薄くなっていく空気も相まってとうとう逃げ切られてしまったティガレックスはその時点で飢餓にまで陥っており、それでも命からがら戻ってきて、餓死は免れた。

 それから体調がある程度戻ってきたタイミングで、ポポを飼っているこの村を見つけた。

 生態としては、美味いポポを追い求めてこんな寒冷地まで足を運ぶ、縄張りを持たない普通のティガレックスではあるのだが……才能か血筋か、とにかく強く成れる素質があって、その生態をとにかく愚直に遂行出来てしまった、という印象だ。

 実際、クシャルダオラが丁度来ていなかったら、俺が対峙して……クシャルダオラが来るまでの間持ちこたえられたとしても、この村はぐちゃぐちゃになっていただろう。

 山神様もこの村の人間から崇められている事などどうでも良いというか、特にこの村の事は大したものだとは思っていないらしく、ティガレックスが現れた後ですら、この近辺でガムートを見かける事はない。

 またティガレックスの方も今のところは約束を守っているようで、クシャルダオラも躾けようと色々試行錯誤しているようだが、クシャルダオラなんかよりよっぽどヤバい奴が近くに住み着いてしまったという事実は、ここらの雑魚な竜やらにとっては中々耐えきれるものでもないようで……。

 

 そうして単純に獣や竜の数が減ってめっきり静かになってしまった森を、今日も見回りで歩いていると、ドスバギィがやってきた。

 こいつは今日も変わらず元気だ……と思ったら余り元気ではなさそうだった。

「どうしたんだ?」

 どうにも寂し気にしている様子から、俺は察した。多分、ドスフロギィが去ってしまったのだろう。

「……今日は俺と一緒に過ごすか?」

 そう言えば、元気無さ気にしながらも付いて来る。

 ざむ、ざむと雪を踏みしめる音が四つになる中、のんびりと歩く、薄氷の上の平和な一日。

 そんな冬も、半分が過ぎていた。




荒鉤爪ティガレックス:
男が出会った時のクシャルダオラより強い。
実力も戦闘IQもとても高く、自分の目の前の障害は何であれ基本打ち倒してきた。
それもあって自己完結度合いがかなり高く、ラージャンと同じ位の危険性を持つ気質。そしてそのラージャンすらも顔面を掴んで握り潰せるパワー持ち。一箇所に留まっていたら普通に討伐依頼が張り出されるレベル。
なので、ベリオロスを逃した事は実はかなりショックな出来事。
で、更にそこからクシャルダオラに初めて命の危険を覚えさせられて、同時にシチューを味わって。
でも現状では本質は微塵も変わらず、頭の中はベリオロスにどうやったら追いつけるのか、クシャルダオラをどうやったら倒せるのか、そしてあのシチューはどうしたらまた食べられるのか、ずっとグルグルしている。
約束もクシャルダオラを倒せないから守ってるだけ。

荒鉤爪ティガレックス出したいけれど、それだけ強くなったティガレックスなんて、まずそもそも生態的に唯我独尊だろっていうところで、出したとしても殺すしかなくないか?? とどうにか生存ルートを捻り出したキャラ。

イソネミクニ亜種:
残ってる中では一番強い方。
人間と仲良くする気もないし、クシャルダオラを見たりしてみたいとかも思ってない。
ティガレックスが来てもまだ残ってる。

ゴシャハギ:
ぼちぼち実力があって、ちょっかい出してみるつもりが、
鳥竜どもに湖の上に誘導され、イソネミクニ亜種に氷を割られて水の中に引き摺り込まれ、溺死した上で腹の中をイソネミクニ亜種に食われた。

クシャルダオラ:
多分どちらかと言えばキリン亜種の手下みたいなのを、自分も欲しがった。
出来れば飛べる奴が良かったけれど、弱い奴も嫌だし、毒のある奴なんて以ての外だしなあ、みたいなところで丁度見つけた荒鉤爪ティガレックスを手下にする事に決めた感じ。
調教を試みているが、男からすれば無理だろうという認識。
シチューはあんまり美味しく感じられなかった。

空気を奪う技
A: エリア一帯を対象としてスタミナ消費を増やす
B: 自身の周りの広範囲を対象として、スタミナ消費を増やし、同時にスタミナ回復を遅くする
C: 自身の近くの狭い場所を対象として、そこに居る生物を確定で気絶させ、そのまま真空に近い状態まで持っていき、その肉体を沸騰させながら窒息死させる

原初様にも最初の一回だけ通じた。
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