「あのー……」
『……何だ?』
「流石に、そのティガレックス、ここらに置くには他の全ての精神衛生がとんでもなく悪くなるようで。
もう少し遠ざけてくれないと厳しい……」
『む……。少しは気をつけていたと思うが、それでも駄目か』
「だなあ。ポポも体調を崩しているのが多いし、竜もここから逃げてもうすっかり静かになっちまって。
やっぱり、あんたが抑えつけているとはいえ、そのティガレックスの本質がどうにかならない限りは、誰かと共存するというのはとても厳しいな」
『……そうか』
クシャルダオラは観念するかのように空を見上げると。
『王様のところに連れて行くとするか』
「場所は分かってたり?」
『風の便りによれば、あの地下の洞穴にまた暫く籠もっているそうだぞ。
どうにも、ネルギガンテが増殖したとか』
「え?」
『あの棘は生殖器官でもあるらしくてな、ガイアデルムに突き刺さった幾つかの棘がガイアデルムを栄養にして元気に産声を上げたそうだ。
だから、正直行くのは本当に気が進まぬのだがな……。こいつを本当に手下にしたいなら、あの王による調教が必要不可欠なら、仕方ない、行くとしよう』
「……随分とこのティガレックスを気に入っているんだな?」
『よくよく考えてみればな、私の種族のように決まった縄張りを持たず、各地を放浪するような生き方をしており、そして己の本能から来る衝動に理性もかなぐり捨てたりはしない。そのような竜は他に余り思い当たらぬのだよな。空を自在に飛ぶ翼を持っておらずとも、その共通項は私自身が好ましく思っているようだ』
「んまあ…………そうか」
否定したいようで、否定出来ないような間だな。それには同意するが。
このティガレックスは、理性というものを軸に据えずとも十二分に覇者として君臨する程の素質がある。それでいてその理性の殆どを敵をどのように倒すかだけに特化させた上で軸に据えているのだから、ここまでの化け物になっている。
あの悪神堕ち間近のガムートには流石に敵わないだろうが、このまま成長を続ければそれと同等にまで登り、そしてそこが限界でもないだろう。
『決まれば、行くとしよう。春にまでは戻って来る。私の背に乗って海を渡る準備をしておけ』
「あ、はい」
『楽しみにしてるぞ』
早速ティガレックスを呼び、共に行く事にした。
誇示されている縄張りのどれを通ろうとも、その全てで縄張りの主はティガレックスに襲い掛かって来ない。私ならば、物珍しさに視界に入ってくる事くらいはあるのだが、このティガレックスに関してはそれすらも微塵もない。
身を潜める事に特化したナルガクルガは縄張りすら投げ捨てたかのように気配すら微塵も感じられず、ジンオウガの群れやタマミツネの群れも全員が一斉に避難する始末。翼を持つリオレウスなども空を飛んで姿を見せる事すらなく、イビルジョーにも相応する程の凶暴さを持つはずのディアブロスも地中から姿を現す事はなく、天敵のガムートですらポポを放って逃げ出す始末。
甚振るような趣味は持っていないようで、別にそれを追いかけたりするような素振りは微塵も見せないが、いざ腹が減ればそんな広範囲に全ての竜を脅かすような威圧を完全に引っ込めて、その目立つ金と蒼の体でナルガクルガ顔負けの隠密さを発揮して悠々と獲物を仕留めて喰らいつく。
また、私と少し距離が離れた際にバゼルギウスがちょっかいを出していた事があった。
そのバゼルギウスも本当に高所から爆鱗を落とすだけで実際に戦おうとは思っていなかったのだろうが、その途端ティガレックスは周囲で爆発しまくるその爆鱗に怯んで、尻尾を巻いて逃げ出したものだから調子に乗って追いかけ。そうして狭い谷間へと誘導されたバゼルギウスは、崖を登って高度を稼いだティガレックスに飛び掛かられて、翼を食い千切られ、引き千切られて墜落死した。
また、ラージャンが最初から闘気硬化をした全力の勢いで襲い掛かってきたが、光気弾をするりするりと避けた上で顔面を掴み、地面に叩きつけた上で握り潰していた。
そんな姿を見て、私は最早確信してしまう。
このティガレックスは、種としての土台から積み上げた研鑽の量は私よりも遥かに多い。それどころか、王様にも匹敵する。
また、男が言う事が正しければ、それを生きる上の当然として積み上げてきている。
私がこのティガレックスより上に居るのは、種族的に勝っているからに過ぎない。
……劣等感。
それを、ただの竜に覚えるとまでは、私は想像すらしていなかった。
*
ティガレックスとクシャルダオラが去って、ポポの調子も少しずつ戻ってきているのが確認出来て、ほっと一息。
森にも張り詰めた空気感がなくなり、何事もなければ竜も戻って来るだろう。
そんな中、訓練用の武器を手にした新人達を、ドスバギィと軽く戦わせている。
ランスを構えて受け身に回る新人に対して、ドスバギィは注意深くその周りを歩き、いきなり高く跳躍して背中を取れば、新人が振り返るより先にタックルを仕掛けて押し倒し、踏みつけた。
太刀を構える新人の間合いを把握し、その少し外で睡眠液によるちょっかいを掛けながら。唐突に背中を翻して長い尻尾で間合いの外から転ばせて、その頭を踏みつけた。
「普通のドスバギィって、こんな強いんですか……?」
「……すまん、俺も分からんわ。でもまあ、上位の先に行けば、狩人の事を理解した竜なんて普通だろうよ」
「え、じゃあ、このドスバギィはマスターランク……」
「いや、それはない」
ドスバギィは多少不満げな顔をするが。
「鳥竜でそれに行けるのは……あの戦闘狂を除いての話になるが、群れの長になろうとも更にそこからの競争を更に勝ち抜いてきたような、本当に一握りだろうよ。
こいつは狩人を他の竜より知っているってだけで、スペックは平凡だよ。それにドスバギィに成ったと言えど、まだ若くて小さいし」
「そうですかー……」
「でもまあ、こいつに負けなければ上位までの鳥竜には……本当にあの戦闘狂を除けば、苦労はしないだろうな」
色んな災難に遭っているベリオロスは、何故かあの縄張りを捨てていない。
あのティガレックスにも逃げ切れた事により、霊峰を登れば逃げ切る事が出来ると踏んだからか、また調査に行けば新しい痕跡が残っていた。それと、何かと戦って勝利したような痕跡も。
それを追ってみれば、傷だらけで角の一本が折れたり、甲殻がボロボロになっているジンオウガ亜種が見つかった。
あのキリン亜種の配下か? と一瞬思ったが、大きさからして巣立ちしたての初々しい個体だった。
ティガレックスが去った事によって後釜狙いでもしようとしたのかもしれない。そしてそれより確実に弱いベリオロスの縄張りを奪おうとして、それすら返り討ちにされた、と。
俺が近付いてきた事で、弱っている体に鞭打って更に逃げようとしていたので、まあ放っておく事にした。
村から遠く、別に害も及ぼさないだろうし、下位と言っても差し支えなく、討伐したところで金にもそこまでならなさそうだし。加えて言えばキリン亜種の配下の、その子供だったりしたら、討伐してしまったらちょっと嫌だなというところもあったりと。
危険度で言えば、通常のジンオウガの上を行くはずなんだけどなあ。
キュウキュウと言うような弱々しい声を隠さず、足を引きずって逃げていくジンオウガ亜種を見て、そんな事を思いながら下山した。
ドスバギィと、今度は俺が手合わせ。
偶には別の武器を使うかという事で、ヘビィボウガン。俺が山登りに目覚める前のメイン武器の一つ。
訓練用と言えど、一発一発が当たったら結構痛いやつ。頑丈な銃身で竜の攻撃を受けながらカウンター気味にぶっ放す部分はランスとある程度似ている部分もなくはないが、そのどデカい銃身から遠距離でも強烈なダメージを与えて、時にリオレウスですら地に墜として見せるのは他の武器では得られない快感だ。
ボンッ、ボンッ、と重い音を立てながらドスバギィの行く先を読んで弾を当てにいく。ドスバギィも不規則に動いて被弾を抑えようとするが、どうにも被弾が避けられずに小さく悲鳴を上げる。
するとランス相手にやったように、唐突に俺を飛び越えて背後を取りに来た。その瞬間俺は前転して距離を取り、その上で振り向きざまに一発……と思ったら、飛びかかってきたドスバギィの胸にその銃身がどづぅ、と当たった。
しかも銃床を地面に固定していたもんだから、自身の勢いがそのままダメージとなって返ってきて。
「ギャッ?!?!」
ドスバギィは暫くのたうちまわっていた。
「すまんすまん」
骨まで折ってしまったかと冷や汗を少し掻いたが、そこまでは大丈夫そうでほっと一息。
意外と腕は鈍ってなかったと思うが、でもまあ、ラージャンやらを相手にしても勝てる感覚はない。
そもそも、一人で立ち回れる武器でもないんだよな。
*
谷底の洞窟に警戒心を露わにするティガレックスを脅して強引に連れていく。
聞いた限りによれば、王様はまたあの棘塗れな古龍を喰らう古龍と一緒に居るのだとか。
王様から聞いた限りでは、美味そうかどうかより、本能的に腹が立つかどうかで獲物を決めているというのと、私には今のところ腹が立たないという事で捕食対象にはなっていない、との事だが、何にせよ王様に会いに行くのならばそれとも会わなければ行けないのは、私としても気が滅入る。
そこまでこのティガレックスを配下にする事に価値を感じているのかと自問してみれば、それも微妙ではあるのだが、ここまで来てしまえばただの意地のようなものである。
風が辿るがままに暗闇の中を先導する。以前来た時と何も変わっていない道中。強いて言えば、私とあの、自らガイアデルムの元に下ったメル・ゼナの血の臭いが……しない。
代わりにネルギガンテの棘やらが落ちていて……ネルギガンテが血も残さず食したのだろう。
それから程なくして、その青い光が輝いている最奥まで辿り着く。
報せの通り、王様とネルギガンテが共に居て、そしてネルギガンテは私を見ても食欲のようなものを向けては来ないが、それよりも……。
棘も生えたばかりのような小さなネルギガンテが一匹、私に駆けてきたかと思えば、足に噛みついてきた。
……。
私の鋼を噛み切れる訳もないが、牙はその甲殻にしっかり跡を残す程。
王様もネルギガンテの近くにも小さなネルギガンテが数匹ずつ群がっていた。
「子供なんて放っておいたら育つもんだろ? って言ったらこの王様、その途端に俺の角を砕きやがった」
「こんな洞窟の最奥で生まれた右も左も分からない赤子が、そもそもここから出られる訳も無いという事にすら想像が及ばない程の馬鹿だとは思わなかった。
自分の生態すら理解してないのだ、この脳筋は。
己が傍に居たら成体に成れない事を知らずに懇切丁寧に子育てをしていたシャガルマガラとそっくりだ貴様は」
何匹も居るネルギガンテの子供。そして、ガイアデルムの干からびた死体の側に大量に転がっている、ネルギガンテに成れなかった、歪に膨らんだままの棘の数々。
ティガレックスは、こんな古龍ばかりの空間でどうしたら良いのか分からないまま隅でじっとしていたが、私はそれよりもまず、聞いた。
「これら全てを育てるのか?」
ネルギガンテは素っ気なく答えた。
「分かんね」
本当に困っているようで、言い訳するかのようにネルギガンテはそのまま自身の生い立ちを喋り始めた。
いや、俺の一番古い思い出って言ったら新大陸で何かの屍肉食ってるところで、そっからあの場所で会った蒼い星にボコボコにされるまで特に何か深く考える事もなかったんだぞ?
正直、俺がこうやって考えている事自体褒めて欲しいもんなんだけど、おい、お前はこの話をする度毎回そんなクソを見るような目で見てくるんじゃねえよ。
とにかく、何度も蒼い星にリベンジしてもその度にボコボコにされて。別に全力出した上で負けたんだから死んでも悔いはなかったんだけどな、何故か毎回毎回気付いたら目が覚めてるし。蒼い星も途中からそれも織り込み済みで、なーんか良い練習相手みたいな感じで俺の事を扱い始めて。
流石にそんな扱い受けりゃあ、俺でもどうやったら勝てるかって考えるようになって。目の前に蒼い星が居たら、俺はこう殴って、そうするとこう避けられて俺の目を潰されるな、とか。この場所だったら逆に背中に乗ってくるな、とか、顔に飛びついてきた挙げ句に壁にぶつけてくるな、とか。
で、そういう事考え始めて、もう何度目の事か分からんかったが、やーっと、運も色々味方して倒して。でも何度も負けてた俺が偶然一度だけ勝ったようなそれでこいつ食らうの嫌だなーって思って送り返したらすっげえ驚いたような目で見られて。
それからまあ、普通に時々殴り合う仲になった後、こいつがやってきた訳。それで色々喋って、もうちょっと物事を深く考えるようになったけど、でもまあ、とにかく、なんだ。俺の小さい頃の思い出なんてねえし、俺の親がどういう奴かも、そもそも俺がどうやって生まれたのかすらその蒼い星に教えて貰って、知識として知っていただけなんだよ、悪いか馬鹿で。
でもな、俺はそんな本能のままに生きてたって言っても、あのラージャンやらイビルジョーやらバゼルギウスやらイャンガルルガやらと同類と見られるのは嫌でな。
古龍の味が好きだって言っても、全員追いかけて食ってた訳じゃねえし、見境なくどいつにもこいつにも喧嘩を仕掛けて殺し合いしてた訳でもねえ。ま、そんなだったらあの蒼い星は俺が絶対に再生出来なくなるまで細切れにしてただろうし。
ジジョーサヨーってのを蒼い星は俺に教えてきたけど、別にそんな事俺も考えた事すらねえし、そんな理解してもねえけれど、ただ俺自身何も考えずに生きていた時から俺は、俺が食える奴が生きているから、生きていられるって事くらいはきちんと理解していたし、だから世界は俺か俺以外しか居ねえって面してる奴の事がすっげえムカついて喰わずにはいられなかった。
それで、だ。あのティガレックスもまんまそんな奴に見えるが、俺の飯にする為にでも連れてきてくれたのか?
「……いや、出来れば手下にしたいと思ったのだが」
王様が返した。
「やめておけ。こいつの言うように、アレの世界には自分か自分以外しか居ない。
ここまで来たという事は、色々教えようとしても無駄だったのだろう?」
「……」
「本質というものは如何様にしても変わらん。ラージャンが動くもの全てを破壊するように。イビルジョーが動くもの全てを食すように。ガイアデルムがキュリアを使役して太陽の元に這い出ようとするように」
「ティガレックスは全てが全てそんな生態ではないと思ったから、まだ見込みはあると思うのだが、それでも、なのか?
それにあいつは、人間のポポのタンシチューも美味そうに食っていてな。……あ、私と共鳴している男が持ってきた代物をな」
そう言えば、王様は私を見て呆れるように大きく溜息を吐いてから。
「少しくらいは、共存出来るようになるかどうか、見ても良い。ただ、何かあったらすぐに殺す。それでも良いか?」
「……見てくれるのか?」
王様はティガレックスの方を見て、目を細めながら言った。
「一応な、俺はあの泣き叫ぶガイアデルムを問答無用で殺した事に、何も思っていない訳でもない。
親に成り代わろうとしたあの屑は、ガイアデルムがキュリアを撒き散らしながら外の世界に出る事を望んでいたのだろうが、きちんと矯正すれば共存もあり得たかもしれない。
そうしなかったのは、俺の……ただの私怨だ。干からびた死骸となっても見てしまえば無限に湧き上がってくる程にどす黒い私怨だ。俺は、ガイアデルムという種がこの世に存在している事自体を許せなかった。
赤子に等しいそれがどれだけ泣き叫んでも、俺は殺さずにはいられなかった。そんな俺自身を、汚く思ってもいる」
今度は、ネルギガンテが王様を呆れたような目で見ていた。
そんな複雑な事を考えている事自体を呆れているようだった。
「私は、何かここでした方が良い事でもあるか?」
そう言えば、ネルギガンテが返した。
「飯持ってきてくれ。干からびたガイアデルムばっかり食うの飽きた。
それ以外なら何でも良いから」
「はぁ……」
「鉱石なんて持ってきたらぶっ叩くからな」
「…………」
*
この頃、少し思うことがある。
「俺、もっと強くならなきゃダメなのかなあ」
もう、一人の狩人としては十分過ぎると思っている、というか一人でラージャンを倒せるならその通りなのだけれど、この鱗を持つ……古龍と共鳴してしまった狩人としては、その程度はスタートラインにすらならないのかもしれない。
そして今の俺は、あの原初を刻むメル・ゼナやらカムラ、エルガドの民に揉まれて、スタートラインから漸く走り出せたばっかりくらい。
あのガムートやティガレックスに手も足も出ないのならば、せめて抗えるくらいにはなっておかないと不味い。
「……いや、マジで言ってんのかそれ」
片目の分厚い眼鏡に手を触れる。もう成れているとは言え、遠近感は以前より少しばかり掴みづらくなっている。
隻眼の狩人も少なくないし、ついでに言えば敢えて片目を封じる事で加護を得た武具とかもあるらしいが、試してみる価値もあるのだろうか?
……とにかく、このまま俺が愚直に鍛えたとしても伸びしろはたかが知れている。
更に言ってしまえば、この村の近くには闘技場やらもないし、そしてここに来る獣竜は極端に強いか弱いかの両極端。
クシャルダオラが出かけた今、またティガレックスみたいな竜が来たら、俺は狩人としての責務を全うして、数秒稼いだ後に潰されるしか選択肢が無い。
「…………俺、こんな場所に来たの間違ったのかなあ」
見回りの度に、そんな事で一人溜息を吐くようになってしまった。
取り敢えず、出来る事はしようという事で、訓練場に籠もる時間は増やした。
体に馴染んで久しい各種の技を何度も何度も、いつまでも放ち続ける。
極度の緊張の中でも体を正常に動かせるように。真夜中でも僅かな光を基に弱点を狙い穿てるように。
疲れ果てるまでが準備運動で、そこから先が本番。無駄にある体力を使い果たすまでに半日以上。そこから更に何時間も。
狩人を目指していた子供はそんな俺を見て自ずと走る事を始めたし、まだまだ新人の狩人達も俺と一緒に訓練所に籠もる時間が増えた。
でも、指一本動かす事すら億劫になる程に体力を使い果たす事を何度繰り返そうとも、訓練用の武器を二桁ダメにしても俺の中の何かが変わったような気はしない。
……本当に、あのティガレックスは共存出来るように矯正出来るのだろうか?
どちらにせよ、クシャルダオラや、もしかしたら帰って来るティガレックスに、手合わせをして貰う必要がありそうだった。
いや、ティガレックスは矯正されたとしても手合わせは出来ないだろうけれど。ふとした力加減のミスで俺が弾け飛ぶ未来しか見えない。
そんなくたびれ果てる日々を無為に過ごしていれば、冬も少しずつ、少しずつ終わりを迎えようとしてきているのを体感する。
後一月程で、雪解けが始まるだろう。そして、そこからもう一月程でクシャルダオラと長旅に出かける。
ティガレックスがクシャルダオラに連れられてある程度の時間も経ったからか、新しい弱い竜がぼちぼちとこの近くを住処にし始めて、その中の一匹のアオアシラが早めに目覚めたトビカガチ亜種に引き摺られて行った痕跡が見つかった。
それを後から追っていったような、別のアオアシラの足跡。
……多分、返り討ちにされているだろうな。
夫婦か親子か、揃ってトビカガチ亜種の飯にされて、きっと春先まで二度寝を貪る事だろう。
湖まで行けば、釣りをしている村人たち。新人達が辺りの哨戒から戻ってくれば、湖の底でイソネミクニ亜種が泳いでいるのを見つけたとか。
「俺の前には一度も顔を出してきた事がねえのに。ドスバギィとも仲良くやってるみたいなのに」
そう愚痴れば。
「それだけ先輩を強いって認めているって事でしょう」
「逆に言えばあんた等はまだ舐められているって事か」
「態々僕達を傷付けるような事言わないでくれます?」
「あー、悪い悪い」
……俺、ストレスでも溜まってんのかな?
そういや近い内にクシャルダオラと一緒に旅をすると言っても、まだ誰も登った事のないような山や、未開の地に行くって事は久しくしてないな。地底に行くってのも何というのか、色々とトラブル続きだったし。
その先の予定も少し立ててみるか。
*
ん? 何だ? 何故あのメル・ゼナに何度も俺が負けてもヘラヘラしてるか聞きたいって?
別に悔しいとか微塵も思ってねえ訳じゃねえんだけど、いや、まあな……俺、アイツみてえになりたくねえもん。
アイツの事見てれば分かると思うけれど、俺にとっちゃつまんねー事にも悩んで、ずーっと自分の事を追い詰めて、いつからそんな事やってんだって、多分お前が生まれる前からずーっとそうだぞ。
俺は考えるのメンドーだし、別にサイコーな戦い出来りゃあ、死んだって良いくらいだし。いや、今はちょっと死ぬのは嫌かな。ガキなんて出来ちゃったし、流石にこいつら死ぬの嫌だし。
まーとにかく、アイツの事上回ろうと思ったら、俺が俺じゃなくなる位の努力が必要だからな。別に良いかなって。
何だよその顔。理解できねーって。ん? 強くなる事以上に重要な事があるのかって?
そりゃあ、当たり前だろ。いや……俺も前まではそう思ってたかもしれねえけど、いや、でも、聞かれたら頭ん中で本当にそうか? って少しは思ったかもな。
お前も色々説教されてきてるだろ? この世は繋がりで出来ているって。色んな奴等が、色んな事をして、この世はぐちゃぐちゃに絡み合って出来ているって。
そういう中でお前はお前だけで生きてきて、別に寂しいとか何にも思ってねえからずーっと今のお前を貫いたままなんだろうけどな、でもな、結局一匹だけで出来る事なんて限られてるんだよ。どれだけ強くなろうが、何に生まれようがな。
俺と俺の子供がむしゃむしゃ食った、今じゃ生きてる姿がどんなのかも分かんねーあいつもそうだ。
アレがでっかくなったら、俺達古龍ですら狂わせる虫を数え切れねえ程放つクソヤベえ奴になる。でも、地上に出たそれは人間達に狩られた。
後、あの青白い光を放ってる繭も、龍脈を弄って火山から雪山まで同じ場所に好きに作り上げるヤベえ奴に育つ。俺はそういう場所で生まれ育ったから、まあ、アレは俺にとって親みてえなもんなんだよな。
でも、アレも人間に狩られた事がある。人間だけじゃねえ、多分俺やメル・ゼナが知らない場所でそういう事はたっぷりと起きてると思うぞ。
で、何が言いてえかって言うと。えーっと、そうだ。
アイツを殺す為だけに生きてきたようなあのメル・ゼナですら、赤子のアイツを殺すのに俺に協力するように頼んできた。
そして赤子なのに俺だけじゃ厳しい位に強かったアイツは、俺とメル・ゼナによって殺された。
結局な、どれだけ強かろうと、どれだけ強い種族に生まれようと、一匹で出来る事なんてたかが知れてるんだよ。だからティガレックスにしては相当に強くなったお前が、そんな事すら分かってねえのは、どーせその内一匹でいる限界がとっくに来た事も知らないまま惨めに死んでいくだけな結果になるだけだから、哀れ過ぎて今ここで俺達の腹の中に収まっても変わんねえよなって事だな。
「……何か変わったような気がするが、一体どんな説教をしたんだ?」
「…………俺じゃない。ネルギガンテがお前馬鹿だろ、みたいな事言ったらしい。
面倒臭がって何を言ったのか教えてくれないのだが」
王様は、今まで見てきた中で一番悔しそうな顔をしていた。
賢そうなヤツに上から理詰めで啓蒙されるより、自分と似たようなバカみてえなヤツにお前バカだろって目線を合わせて言われる方がよっぽど効くやつ。
……で、いつになったら旅に出るんですかねぇ。
ネルギガンテ:
子供が沢山出来た。放って置けば育つだろって言ったら原初様にぶん殴られた。
原初様よりは弱い。積んできた努力が違うのと、後単純に原初様の方が強いんじゃねえかなって思ってる。
ネルギガンテが龍封力と再生力に回している分の龍の力も、原初様は完全に肉体強化に回しているであろうという点で、龍封力の分が完全に無駄になるから。
ネルギガンテ自身もそこ辺り自覚してるけど、あんな毎日張り詰めて生きてるような原初様の事を、ああはなりたくねえなあって思ってるし、それにそこまで積み上げてきているこいつになら負けてもいいかくらいに思ってる。でも何だかんだで気は合ってる。
性格とかは正反対だけど、本質は一緒だから……っていうの、漫画では犬猿の仲だけどいざというときは息がバッチリっていう関係じゃね?
後、解説short流し見していたらネルギガンテは自分以外の全て敵だと思ってるとか、そんなのが流れてきたんだけど、
ラージャンとかイャンガルルガとかと同格だとは思いたくねえなー。