「本当に、クシャルダオラに乗って旅しに行ったんだな、あいつ……」
霊峰の先へと消えて行ったその男を見て、独り言ちる。
起きてきた新人の狩人の二人が後から出てきた。
「……行ったんですか?」
「やっぱり怖いか」
「ええ、まあ……そりゃあ。その気になったら、この村なんか問答無用で木っ端微塵に出来る存在ですよ? そんなのと友好を結んでいるあの人には内心恐れている人も多いですよ。それはあの人も分かっているようですけど」
「それは、そうだな。確かにそうだ。ただ、同時にな、古龍だろうと生きている事には変わりない。それぞれに大切なものがあって、それぞれに意思がある。
それが時に人と相反して色々な……時に大規模な災害にまで発展してしまう訳だが、その根底の部分を忘れてしまってただの脅威と見做してしまえば、勝手に自分の世界が驚くほどに狭くなっていく。
誰もが生きている。一人一人、アイルーもメラルーもガルクも竜人も竜も古龍も、それぞれ別に歩んできた軌跡が存在している。忘れてしまいがちな事だけどな。それは誰しもが等身大なんだという事は忘れてくれるなよ?」
「まあ……それはそうですけど。ぶっちゃけそれって理想論ですよね?」
「ん……それを言われると返す言葉もないんだが。
まあ、俺は気付いたらあいつと一番親しい仲になって、クシャルダオラの事も一番聞いている身にはなっているんだけどさ。そのクシャルダオラと面と向かって会った事もないし、帰って来たら会ってみても良いかもな。付き合うか?」
二人は凄く難しい顔をして、回答を保留した。
*
見ている世界が、違う。根本的に。
飛行船に乗った事も多少はあれど、こんな速度で空を飛ぶなど経験した事もない。
いつまで経っても見飽きない、高速で流れていく地上をぼうっと見ていると。
『まだまだ速く飛べるし、この位の速度は人間も出せるぞ』
「銃槍使いなら?」
『そうだ』
「……別に真似したくはないなあ」
『そうなのか』
少し景色が色褪せた。
クシャルダオラの飛ぶ景色にもやっとこさ慣れてきた頃。
「そう言えば、やっぱり俺はもっと強くなった方が良いんだろうなって思って」
『あのティガレックスの事か?』
「まあ……。貴方が来てなかったら、俺は職務を全うしようとして十中八九死んでたので」
『とは言え、貴様の人間としての限界は程遠くない場所にある、と』
……まあ、予想していた事ではあったのだが。この後に返してくるであろう事も。
『私の与えた力を、大して訓練もしていないだろう? まだ力の総量としては僅かにも程があるが、精密に扱えば、目に異物をぶつけたりだとか、鼻から空気を多少でも抜いたりなど、地味な嫌がらせは幾らでも出来るはずだ』
「人間としての限界は近い、かあ」
『それでもただの人間としては強くなった方だと思うぞ?』
「そりゃ、どーも」
……ま、仕方ないのか。
受け入れるしかない。薄々分かっていた事が、確信になっただけだ。
『慣れてきたのならば、こちらの話もしようか。
新大陸の話を色々聞いてきてな。聞くだけならば色々と面白かった。
例えば、イヴェルカーナ。貴様も洞穴から出た時に一度だけ会ったろう? アレが新大陸から出てきた理由はな、青い星に半端に知恵を与えられたネルギガンテが幼児のように全ての物に興味を持ち始めたのが原因らしくてな……』
*
……長らくどっか言ってたと思ったら、お前、どこで子作りしたんだよ!? イヴェルカーナもなんか現大陸の方で見かけるとか入っているし、なんかメル・ゼナとか言う奴と一緒に空を飛んでいたとかも聞いたから、そこから聞きたいもんだけど、いや、あの、何で俺に渡す訳? 俺が拒否しようとする事をそんな訳分からねえ顔で見るんじゃねえよ、あー……もう。
何となくお前が思ってる事も分かるけどさあ、まず聞くが、俺達がこいつらを御せない、こいつらは俺達にとって不利益だって判断したら殺しても良い訳? そこ辺りはまず了承して貰うが。
……あっそ。はー……。別に最近は落ち着いてるけどなあ。研究者達も大体は喜ぶと思うけど。……料理長だけは心配だから育てるとしてもセリエナになるか……うーん。
……いや、俺だけは落ち着いていないんだけど。ん? こっちの話。俺だけの話。どーせお前に言おうが忘れちまうんだから。
うん、まあ俺だけちょっとな。疲れる出来事があって。内容はお前に話しても分かんねー事だから黙らせておいてくれ。
それでさ。導きの地なんだけど。お前が居ないから好き勝手してる奴ら結構出てきているぞ。俺が行けば基本大体の奴らは黙るけど、ムフェト・ジーヴァが居たにせよお前の場所なんだしさ、分不相応に粋がっているような奴等はぶちのめしておいてくれよ。別に俺が仕留めたり捕獲しようとも、正直何にももうならないくらいに素材も研究としてのサンプルもたっぷりだしさあ。それならお前の腹に収まる方が良いだろ。
ほら、さっさと行った行った。こいつらは顔合わせしておくから。
…………はー……。
それで、おい、お前ら。人に噛み付いたらその時点で首を落とすからな? ……うん、この調子だったら大丈夫そうだな。よーし着いて来い。良い子だ。
うん……良い子過ぎるな? 調教されたかって位に良い子だなお前等二匹。
…………狩人なんぞに置いていくあんなのが親で、お前らどう思ってるんだ? まあ、人間の言葉までは流石に分からんか。でも、あんな粗雑な親だって適当に喋りかけてたらその内少しずつ理解し始めたんだ。お前等も研究者達に好き勝手話しかけられ続けるだろうから、すぐに理解するだろうよ。
*
『寝ても良いぞ?』
「う、ん……、あ、俺、寝てた?」
『そうだな。暫く前から私が話しかけようとも変な返答しか返ってきていなかった』
「おかしいな……別に疲れが溜まっていたはずでもないと思うんだが」
『気付いていなかったのか? 今の高度はあの山の山頂より更に上だ』
「えっ……そうなると、俺は無意識で空気を集め続けていたのか」
『これも貴様が強くなる修行だ。本望だろう?』
突っ込む気力もない。
『それに、私にとっても空気が薄いと速く飛べる。あの彗星には微塵も及ばないにしてもな』
「俺、寝ても大丈夫なのか?」
『足りなくなったらその時は私が風で包もう』
「……言葉に甘えようかな。……そう言えば、クシャルダオラに限らず古龍ってそんな寝なくても問題ないのか?」
『その気になれば何日も起きては居られるが。疲れたら眠くなるし、眠らないと段々風を操る精度も落ちていく。
ただ、三日程度なら別に寝なくとも全く問題ない。飛び続ける事も大した問題ではない。人とは違うのでな』
「あっ、はい。……それじゃ、うん……もう、寝ます…………」
すぐに男が深い眠りに就き始めたのを感じて、前を向き直す。
……ただ。私も死にかけの状態から一瞬で元通りになる薬を食して戻れたとして。
そこからまた同じように立ち回れるかと問われたら、私には出来ないと断じる。わざと骨を折ったりだとかして痛みに慣れる訓練もすると聞いたりしたが……、そんな事が出来るのは竜の中でも小柄な鳥竜くらいか、そして体の小さい人間だけの特権なのだろう。
かと言って。鳥竜が狩人のように道具を使えたところで、狩人に及ぶとも考え辛いが。
私達は、莫大な力を持つ。莫大な暴力に、莫大な体力、そして莫大な肉体。だがそれ故の弱点を、優れた狩人は正確に突いてくる。
この男にもそうなって欲しいかと問われれば、否、なのだよな。
……あの王様すらも膝をつかせるあの猛き炎と呼ばれる男。新大陸であのネルギガンテを何度も殺した青き星と呼ばれる男。他、各所で英雄と呼ばれる狩人は、どれもそれらに等しいのだろう。
遠目から見ただけで、これには敵わないと分からされるような感覚。私などがどれだけ策を講じようとも当然のようにすり抜けて牙を届かせてくる事を確信する程の恐怖。
それを、この男には抱きたくはない。
*
あのー、それは何でしょうか? ネルギガンテと組んで何かやっていたのは察しているし、それはきっと調和という観点からくるものだと俺はお前の事を信頼してはいるけれども。
だからと言ってこれは……。
きちんと調教した? 手に余るようなら殺して構わない?
だとしてもさあ、だとしてもさあ……。少し考えさせてくれないか?
どうせ暇だろう? いや、それは図星なんだけど。
そもそも別に調和って点ではもうここらはそんな困ってねえんだよ。
あんたが啓蒙して回ったからか、キュリアへの対処もすっかり慣れてるし、ゴア・マガラどころかシャガルマガラも出没するけれど、それもあんたが啓蒙したからか狂竜ウイルスへの対策もなんか竜の方もある程度理解している節があるし。
なんかここらの事を別の場所から来た人は魔境だって言うけど、別にそんな自覚もなかったんだけど、まあ……あんたが城塞高地の一帯を縄張りにしてから流石に俺もそうだなって思うようになったよ。
こっから人の足で行ける距離に、古龍にすら仇なせるような竜がどれだけの種類居ると思うとさ。
ええっと、まずはマガイマガドとラージャン、それから各種ヌシ。特にアマツマガツチにも牙を剥いたジンオウガ。エスピナス亜種にタマミツネ希少種にそして金銀火竜。ラージャンを除くにせよそれぞれ、あんたが調和を教え込んでる。ある程度の古龍も含めて。
そこにこのネルギガンテを外から加える必要あるか? 俺が居なくとも、ここら一帯の調和はもうじゅ〜〜〜〜ぶんに保たれるだろ。
イブシマキヒコ? ナルハタタヒメ? 今度来たらヌシ達が結託して殺すだろうよ。
シャガルマガラに至ってはさっきも言った通り、そもそも竜の方が狂竜症に対処出来つつあるし。
ガイアデルムもあんたが啓蒙した古龍達が力を組むなら、過去のような痛み分けにもならないだろうし。
アマツマガツチは……流石に厳しいだろうけど、ただどうにもならない気はしねえしなあ。
そいつらどれも、百年にどれかが一回来るだけでもヤベー奴ばっかりなのに。それでも不安っていうならそれはお前が心配性なだけだよ。
それにネルギガンテなんて呼び寄せるよりあんたが雌でも探して番って子作りすりゃ良かったじゃんよ。
…………いや、すまん。なんかあったのか。……すまん。
それはそれとして? ん? おい、何がそれはそれとしてなんだ?
え、おい、どこ行くんだお前? 用事がある? 俺はお前に用事があるんだが? おい、ちょっと、こいつら置いていくなよ!? おい、おーーーーい!!!!
……。
…………で、どうします? この二匹。聞いた話からは想像もつかないくらい取り敢えず手の掛からない子っぽいですけど。
……。
そうですよねえ。あんまり無碍には出来ないですよねえ。
*
目が覚めたらクシャルダオラが海の波打ち際でちょいちょいと海水に触っていた。
少しずつ錆び始めているその全身。潮風を浴びるという事そのものを楽しんでいるような感じだった。
そんな様子は普通の竜からしても物珍しいようで、岩陰からルドロスが恐る恐る様子を見ていたり、海の遠くの方で頭の先だけ出しているラギアクルスだったりが居た。
海の近くまで来たという事は、地図からすると……もう半分は確実に過ぎている。
人が数月を掛けて行けるような距離を数日でかあ……。このクシャルダオラが備える龍の力の強さもあるのだろうけれど、本当に古龍というのは見ている世界が違う生き物だと実感する。
「う、ん……」
背伸びをすれば、ついでに腹が鳴る。
『起きたか。私が雑に背中から下ろしても寝っぱなしだったからな。
常日頃からも全く使っていなかったな? 折角の私の力だというのに』
「一応人の中で暮らしているものなので……」
『そうか……』
すっごく残念そうにするのやめて欲しいんだけどな。
ここからどうするんだろうなあ、俺。行って帰って。また時々旅をして。それを繰り返せたらまあ別に後悔はないと思うのだけれど。そこにクシャルダオラとの共鳴という要素が入ってくると本当にどうなる事やら。
海を眺めながら携帯食料を取り出してモサモサと食べる。
そう言えば、海を見たのいつ振りだろうか? えっと、クシャルダオラに引っ張られてエルガドで修行した時以来だから、まあ数年振りってところか。
『それだけで腹は足りるのか?』
「いや。ヤオザミかガミザミでも獲って塩茹でしたの食いたいって思ったけど、そんなでかい鍋なんて持ってきてねえからなー。
まあ、適当にアオキノコとかでも探すか」
『そう言えば、過去にあの黄色だったり紫色の、見るからに毒毒しいキノコを生で食している狩人を見た事があるのだが。
あれは見間違いか? と今でも少し思い返す事があるのだが、何か知っていたりするか?』
……あー。
「俺達狩人の防具って、竜や古龍の力も多少は借りたりする事も出来るくらいには色々手が込んでてさ。まあ、その中にキノコを生で美味しく食べられるっていうものがある」
『オオナズチくらいしか食さないような下手物なキノコでもか?』
「そうだな。物好きは基本そのスキルを身につけて、いつでもキノコを食ってたりするな。馬鹿に思えるかもしれないが結構有用なんだ」
『……貴様は食さないでくれ。こんな事言うのも何だが、食しているその感覚が伝わるだけでも不快になりそうだ』
「まあ、そもそも貴方の影響で刺激物が段々好きじゃなくなってるんだけども」
『なら良い』
そうですか。
「そう言えば、その内俺も鉱石でも食えるようになったりするのか?」
『流石にそこまでは分からぬ。でもそうなったらきっと、龍の力をよりその身に取り込めるようになるだろう』
「……やっぱり近い内にあのキリン亜種にまた会いに行くべきだな」
『そうか……』
すっごく不満そうにするのやめて欲しいんだけどな。
気紛れにクシャルダオラが風を強めたかと思えば、遠くで頭だけ出してこちらを観察していたラギアクルスの周囲に唐突に竜巻が出来る。
そして何をする間もなく周りの水ごと巻き上げられて、そして大きな水飛沫を上げて再び海の中へと落ちていった。
そのまま潜って逃げていったらしく、姿を見せなくなれば。
『力を見誤るな。馬鹿者が』
……やっぱり錆びている事がストレスになっているのは変わらないらしい。
*
飯を食って起き、見回りをする。採集もこなして小遣い稼ぎ。イビルジョーに食われかけたトビカガチ亜種とやらは結局見ない。イソネミクニ亜種は湖の氷の下から顔を見せてきた。
事前情報から鑑みるに、俺は脅威ではないと? 認めたくないがなあ……。
ドスバギィと手合わせをする。新人に指南をする。
それを見ている狩人志望の少年。
「狩人になるのに、一番大切な事って何ですか?」
……これ、あいつにも聞いた事だな? 比較しようとしてんのかなという所まで察しながらも、真っ直ぐに答えた。
「自分を弁える事だな」
しっくり来ない少年に続けて言った。
「誰だって英雄になりたいんだよ。狩人の黎明期に初めてリオレウスを討伐した狩人然り、ティガレックスを、クシャルダオラを、アマツマガツチを、黒龍を討伐したという狩人然り。
憧れるのは結構だが、それで自分の実力を見間違えればすぐに死ぬ。
……時に実力とはかけ離れた相手に立ち向かわなければいけないとしても、出来ない事を弁えなければ時間を稼ぐ事すらも出来ずに無駄死にするだけ。
だから、憧れるにせよ、きちんと一歩一歩出来る事を増やしていこうな、って事だな」
「……どうして狩人になったんですか?」
「それはあいつとそう変わらないさ。狩人の事を格好良いって思ったからだよ。
こんな、時に人の身そのものを超える大きさの得物を担いで、どでかいモンスターを倒す姿。憧れない訳がないじゃないか」
「憧れた自分に成れたんですか?」
「……随分と困る質問をするねえ。
いや、別に失礼じゃないから答えるけど。うーむ……。成ってはいるんじゃないかな。
別に元々英雄になりたいとまで大それた思いもなかったし、リオレウスを一人で討伐した事もあるし。
だからと言って今の俺が、もう成長しなくて良いって思ってる訳でもないが。
ああ、そうだな。憧れた自分に成れたとしても、その後も人生って続いていくんだよな。俺が完成した、なんて事を言うつもりはないが、満足はしているんだろうな。
そんな回答になる。
……君はどういう狩人に成りたいとかあるのかい?」
「それが……あの人が来なかったら、あの人や貴方みたいに、リオレウスを一人で狩れるような格好良い……普通の狩人に成りたいって思ってたと思うんですよねー。
悪い事じゃないと思うんですけど」
「あー……」
悪い事じゃないとは思うけれど、何と言うか、何と言うか……。
「あの人みたいに成りたいって訳でもないんですけど、うーん。何か成りたい自分みたいのがあるような気がするんですけど、どうにも、うーん、ぱっとしないというか」
「あいつが帰ってきたら、俺と一緒にクシャルダオラに会ってみるか?」
少年は少し悩む振りをしつつも、ワクワクを抑えきれないように頷いた。
青い星:
死亡した事を無かった事にするミラボレアスと定期的に戦っている。多分もう2桁討伐してる。
喋っても忘れられる。
猛き炎:
ヒマ。
ネルギガンテ:
青い星と言葉を交わすようになってから、幼児のように何故何故を繰り返すようになってイヴェルカーナはそれが原因で逃げた。
原初ゼナ:
実は殺した同族は番にしたかった。
ラギアクルス:
クシャルダオラが原初ゼナにしばかれる前だったらもっと酷い目に遭ってた。
ワイルズで何か書きたいなーって気持ちもなくはないけど、書くとしても相当後になりそう。
アルシュベルドが各地を旅する話とか良いなーって思ったりしたけど、自分のモンハン歴はワールドからだからなあ。今から過去作やっても挫折する未来が強そうなんだよなー。