嵐と共に過ごす徒然とは程遠い日々   作:ムラムリ

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この一話で一区切りとしようと思ったんですが、一万文字普通に超えそうだったので分割しました。


嵐と共に出迎えまして

 それにしても改めて見ると……とんでもない顔ぶれだな。

 古龍を喰らう古龍であり、自浄作用の化身としての顔を持つネルギガンテ。

 そのネルギガンテのように飛ばせる武器として扱えるようなものすらも持たず、再生能力すら持たずに完全に肉体のみで戦う、原初を刻む……というよりかは本来のメル・ゼナ。

 それらには一歩劣るものの、同族の中でも並外れた能力をクシャルダオラと、更にそこから一、二歩劣るものの、並の古龍では相手にならない程の力を持つティガレックス。

 今、この瞬間だけは、この地は新大陸よりも、カムラ、エルガドよりも魔境と言って差し支えない。

 また何よりも幸いなのはどれも賢く、古龍達に至っては、人の観点から見ても善に属していると言って良いというところだろう。

 本能のままに生きる存在ではなく、人と等しい意志を持ち、悪戯に他者を傷付ける事まではしない。

 ……そう言う点で言ってしまえば、一番異常なのは、復讐の為だけに己をここまで鍛え上げつつも、人なんぞより真っ当過ぎる生き方をしているメル・ゼナなのだが。

 

 何やら話し込んでいる最中に、ネルギガンテの子供がティガレックスの背中から降りてきて、俺の方に歩いてきた。

 もうガルクよりかはよっぽど大きく、ドスバギィはおろか、トビカガチ亜種でも肉体そのものでは勝てないだろうと思うくらいにはどっしりしているのだが、体に生えている棘や角はまだまだ控えめなのもあって、威厳というものは感じられない。

 言ってしまえば、でかいハリネズミみたいな印象だ。

 そんなネルギガンテの子供は初めて見る人間に、興味津々といった顔だが、警戒心を示すように距離は程々に離れている。

『体は強くないが、頭は良い奴、だそうだ』

「……他の場所に送った子供はどうなのか聞いても良いか?」

『新大陸にはきちんと真っ当に強くなれそうな奴を。カムラには頭も体も優れている奴を。

 こことキリン亜種の元には、体は強くはないが、頭は良い奴を。

 そして残りは人の元には到底置けないような暴れん坊らしい』

「要するに……問題児は自分で見るのか」

『元々ネルギガンテは子育てをしないみたいだが、王がそれを許さなかったようだ』

「へぇ……」

 そして、会話が終わったのか、全員はどこかに行こうとし始める。

『ガムートの元へ行ってくる』

「……何故?」

『王が、もしかしたら自分よりも長くに生きているそのガムートから、話を聞いておきたいそうだ』

「……なるほど? 分かった」

 そうなんだよな。このメル・ゼナ、復讐の為に生きてきたにしては、人から見ても正し過ぎる道を歩いているんだよな。生来の気質なのか、自らの意志でそう在ろうとしているのかまでは分からないが、傍から見れば息苦しささえ覚えるくらいに。

 ティガレックスもネルギガンテの子供も付いていくのを見送ると、程なくして俺だけがこの場所に取り残された。

「何か……突風のようだったな」

 ひとまず帰る事にした。

 

*

 

 ガムートの事を王に伝えると。

「別に俺は万能でもないし、俺だって分からん。

 ただ、貴様にも思いやりというようなものがあるのだな。見直した」

「……」

「貴様は短命の価値観にも慣れ親しんだという事だ。

 群れで過ごし、数多くの子を産み、その中の一匹でも生き延びれば僥倖な竜。

 また矮小で短命でありながら、世代を経てまで知見を積み重ね上げて行き、時に俺達よりも上に行って見せる人の、な」

 褒められているのか、貶されているのか。

「貶してなどない。長命である俺達古龍の中で一番先に死んでいくのは、そういう奴等の事を同じ生命だとも認めてすらいないような奴等だからな」

 先んじて言われた。

 

 歩きながら、ふと聞いた。

「そう言えば。これから王は共にネルギガンテの子供を育てるのか?」

「それを聞くのか」

 明らかに不快そうな声で返されたものの、それは気に障ったというよりかは……。

「……気付いたらな、それ位しかやる事が無えんだよ。

 思うように生きろ? やりたいように生きろ?

 俺はな……俺の生き方はな……俺の生き方までもがな、ガイアデルムに支配されていたんだよ。

 俺はな、ガイアデルムが居なければどのように世界を見れば良いのか、俺という存在がどこに収まれば良いのか、それすらも分かんねえんだ。

 だったら、ひとまず目の前の事をやるしかねえだろうが」

 ……その目の前の事っていうのが、ネルギガンテの子供を育てる事だと。

 ネルギガンテも、相変わらずそんな王の事を呆れた様子で見ていた。

 王も、これから先の道筋を欲している。しかし、私なんぞより余程聡いからこそ、加えてその身には自浄作用の如き強い本能も何もないからこそ、他の誰のようにも生きられない。

「正直な。今となれば、解放されたのに再びガイアデルムに寄生される事を選んだアレの気持ちも少しだけ分かるんだよ。

 一度、己の世界が何かに染まってしまったならば、それは多少不便だろうと不快だろうと、失せた後も恋い焦がれてしまうものなんだ、とな。

 ……そんな驚いた顔をしてくれるなよ。

 俺は、縛られたままずっと生きてきて、それが当たり前になっていた世界で。

 そして……寄生から助けられた唯一の同族もあんな事になって。

 ほとほと困っている」

 そうやって悩めるようになった事自体が手に入れたものの一つではないのか? という事が思い浮かんだが、今の王を見てそれを返す程、私は無神経でもない。

「俺も貴様みたいにもう少し、人にでも寄ってみるか。それとも新大陸やら、更にその先にでも行ってみるか。

 その位は考えているがな、どうにもな……」

 もしかすると、王はガムートの話を興味から聞きたいのではなく、教えを乞いたいすら思っているのではなかろうか。

 

*

 

「改めて……ティガレックスは、クシャルダオラの言う通り、見違えるように穏やかになっていたんだが……それでもやっぱり不安は消えねえんだよな」

 途中でドスバギィが迎えに来たので、それに乗って独り言を呟く。

 ドスバギィは特に振り向いたりしないが、耳を立てて聞いている事は分かる。

「……多分な。少し見た限りなだけでの、ただの俺の憶測なんだが。

 ティガレックスは、心の底から自分を入れ替えた訳じゃないと思うんだよ。自分よりよっぽど強い古龍に囲まれて、諭されて、それで物事の新しい見方を手に入れただけ。

 まー……それだけでも大き過ぎる一歩だとは思うんだけどな? ただ、あのティガレックスがどれだけの歳なのか知らんが、少なくとも今までの生き方を捨てるまでは出来てない……いや、していないと思う」

 ドスバギィは振り向いた。それで? と言うように。

「あのティガレックスが居るだけでポポがストレスを受けたりだとか、ここらの竜やお前の友達も逃げ去ってしまったような、そんな惨状にはもうならないと思うがな。

 結局、備え続けなきゃいけないし、ティガレックスを放置してクシャルダオラがどこかに行く事は止めて欲しいって事だな」

 

*

 

『一度、己の世界が何かに染まってしまったならば、それは多少不便だろうと不快だろうと、失せた後も恋い焦がれてしまうものなんだ、とな』

『ただ、あのティガレックスがどれだけの歳なのか知らんが、少なくとも今までの生き方を捨てるまでは出来てない……いや、していないと思うと思う』

 …………。

 ティガレックスを、ガムートに会わせるとどうなるのだろう?

 私達が居るのならば、いきなり襲い掛かるまではしないとは思う。ただ、このティガレックスに在る、これまでの闘争に染まった生き方はきっと、落ち着く事など出来ない。

「……」

「どうした?」

 王が、目敏く私の不安を察する。

 私はそれに返す代わりに、ネルギガンテの方を見た。

「何だよ……ああ、そういう事か。ま、なるようになるしかねえだろ」

 ネルギガンテは馬鹿だと王は何度も言っているのだが、種族的なものなのか察しは驚く程に良い。

 そして王も、遅れて私の不安の正体を理解した。

 後ろから、今もネルギガンテの子供を背中に乗せて歩いているティガレックスには、誰も目を合わせず、気付かれないように。

 王は遠い風景を見るように空を見上げた。

「貴様は先に行って、話を付けて来い。奴がどうしても拒むと言うのならば、その意志に従っておこう」

「分かった」

 私は高くに飛んで、先を見る。まだ距離が遠く離れているここからでも、一際巨大なそのガムートの姿が微かに見えた。

 

 すぐにガムートの元にまで着く。

 このガムートに比べてしまえば、他のガムートが小型に見える程のその巨体。

「最期の客か」

 相変わらず、そんな自ら死に急ぐような事を言う。

「これからもう少し客が来るのだが、拒みたいなら構わない」

「随分と、でかいだけの私を尊重してくれるのだな」

「……。

 前に話した古龍の二体と、そのティガレックスだ」

「そうか。……そうか。

 先日、私に、貴方は聞いたな? 『貴様は、自らの生に満足したのか?』、と。

 その時、私はこう答えた。『私は、私として生きた。これ以上生きても、その私らしさが失せていくばかりだ』、と。

 ただ……私はそれからも考えた。私らしさを失うとしても、叶えたい事はないのか? と」

「……」

 これからこのガムートが言う事は、ほぼほぼ察せてしまっていた。

「私がこれ程の巨体になってからは、私の縄張りを犯す者などティガレックスであろうと存在しなかった。

 飛竜だろうと容易く撃ち落とす事が出来る程だったからな。

 しかし、そうなるまでは……白状してしまえば、私は貴方の言うティガレックスとそう変わらない生き方をしていた。

 いや、違うな。時にはあの健啖の悪魔のように、飢餓に狂って辺り一帯を更地にした事もある。幾つもの竜の縄張りも、また人などの住む村も含めてな。

 …………私の言った、その私らしさに、その部分は含まれていない。それは恥ずべき過去だったから。

 けれども、やはり。それも私の一部分である事には変わりないという事を、私は理解しつつある。

 ……私は、そのティガレックスの話を聞いてから。その恥ずべき過去が唸りを上げているのを感じている。

 そのティガレックスがこの私を見て、戦意を失わないのならば。

 叩き潰したい、踏み潰したい、皮も骨も血肉もないまぜに草の葉程にまで平たくしたくなる衝動を抑えられないだろう。その結果、飢餓に陥って今まで築き上げてきたものを台無しにしようとも、きっと私は後悔しない。

 それ程に、私はもう私自身が沸き立とうとしているのを止められていない」

 いつも静かだった、落ち着いていた、しんしんと降るばかりの雪のような声だったのに。

 いきなり、竜の命すら時に奪いかねないような吹雪の如き感情が乗せられていた。

 驚いていると、ガムートは続けた。

「貴方は、それを止めるのか?」

 私は、それに対して聞き返す。

「……前も聞いたが。小さい頃に、ティガレックスに殺されかけたような事など無いのだろう?」

「そうだ。私がティガレックスに抱く思いは、気に食わない、ただそれだけだ」

「その感情の為だけに、今まで積み上げてきたものが崩れても構わないと」

「そうだ」

 ガムートは、きっぱりと返してきた。

 ……私には、それを真には理解出来ない。

 私には、命に代えてでも守りたいような意地などない。

 だが、ネルギガンテも、王をもそれは理解するだろう。

 そしてティガレックスはこのガムートを前にしても怖気づく事はない。王や男が言うように、元々の気質故にどのようにしたら勝てるか……殺せるかを考える。

 止める事は出来る。だがそうしたところで、ティガレックスは不満……まではいかなくとも、腹の底に燻るものを抱えながら生きる事になる。

「私の方が稀有なのだろうな」

 いや、生まれつき強い力を持つが故の傲慢か。

 ティガレックスも共に付いて来る事を許した時点で、選択肢ももう無かったのだ。

「……仕方ない。

 そして、貴様がティガレックスに負ければそれで終わりだが。

 貴様が勝って、そして飢餓に陥った時には。私が貴様の命を終わらせる。

 それで良いのか?」

「私が貴方の配下を殺したいと言っても、そこまでしてくれるのだな」

「……私は、敵対しない者の意志まで縛る程、傲慢でも陰湿でもなくなっただけだ」

「ありがとう」

 

*

 

『ティガレックスとガムートが争う事となりそうだ』

「……何だ、いきなり」

 そう言いつつも、そこまでは驚かなかった。

『ガムートも元はあのティガレックスとそんな変わらない生き方をしていたようでな。

 会ってしまえばきっと闘争本能を抑えられないだろうし、そしてそれを望んでいるとの事だった。

 ティガレックスにも聞けば、同じようになる事を否定出来ていなかった』

「……そうか」

 おい村長。あんたらが崇めていたガムート、あのティガレックスと同等だったんだってよ。

『見に来るか? 貴様は訪れる顛末を知っておいて損もないだろうし、私が急げば間に合うだろう』

「……そうだな。そうして貰おうかな」

 傍から見れば、危ない独り言を言っていると。

「また何かあったのか?」

 呆れたように友人が聞いてきた。

「どうにも、ティガレックスとガムートが戦う事になりそうなんだってさ。

 荒鉤爪と銀嶺の、下手な古龍より上を行く奴等の殺し合いだ」

「え、何で……って、まあ、多分予想出来る事なんだろうが」

「そうだろうなあ」

 どれだけ強くなろうと、どれだけ賢くなろうと気付きを得ようと、本質はそのままだったって事だろう。

 外敵を真っ向から打ち倒し続けてきた竜の矜持は、和を以て共同生活を営む人間からすればかけ離れたものではあるが、そのような竜にも向き合い続けてきた狩人なら分からなくもない。

「クシャルダオラが見ておくか? と聞いてきて、迎えに来るみたいだから、また行ってくるわ」

「おう、後で教えてくれ」

 その時。

「あ、あの」

 狩人志望の子供が意を決したように。

「何だ?」

「僕も、連れて行って貰えませんか? 見たいんです」

「……理由は?」

「僕が本当に狩人になるなら……見ておかなきゃと思って」

「んまあ……何となく理由まで聞いてしまったが、別に相当悪趣味じゃなきゃ何だって良いんだ。

 それよりも、クシャルダオラが背中に乗る事を許すかどうかだが。

 ……今回は許すってさ」

「は、はい!」

「じゃ、行こうか」

 

 いつも合流する場所にまで急いで来たとほぼ同時に、クシャルダオラはやってきた。

『……ふむ。子供だからか? それとも私の事を知っているからか?

 畏れを抱いていないな』

「両方だろう」

「何て言ったんです?」

「よくもまあ、怖がらないなって」

「いや、だって、格好良いじゃないですか!!」

 こいつ……早死するか、大成するか、どっちかだな。

『きちんと育て上げるんだな』

 心做しか調子の乗った声。

「ま、さっさと乗ろう。ガムートのところまでひとっ飛びだ」

「はい!」

 クシャルダオラの背中に乗るのにも全く躊躇をしなかったのが、またクシャルダオラを調子に乗らせた。




理性や知性というものを信じ過ぎていないか? と振り返って最近思うんですよね。
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