「ってことが昨日あったんだよ」
複数の箇所でインクブスが出現した次の日。
起こったことの情報交換のため別棟の屋上にて昼食を取っている。
昨日は広範囲にネームドと思わしきインクブスが出てきたので2人一組で行動し対処していたのだがまさかそんなことが起こっていたとは。
それしても・・・
「黒いウィッチか」
「知ってたりする?」
私のつぶやきに全員がこちらを見るが残念ながら対した情報は持っていない。
「たまにファミリア越しに・・・それもかなり遠くから見かける程度だ」
しいて言うなら、彼女は他のウィッチの近くで見ることが多いぐらいだが今は関係ないだろう。
それよりも1つ気になることがある。
「名前は分からないのか?」
ウィッチの名前が分かればインターネットなどで簡単に情報が手に入るだろう。
そう思い尋ねるが・・・
「聞こうとしたんだけどね〜」
「それがな〜・・・」
なんでも人質だった少女を預けまたどこかに行こうとしたところをゴルトブルームが追いかけようとしたらしいが追いつけずあっという間何処かへ行ってしまったらしい。
「嵐のようなウィッチだったのう」
「しかり」
2人の言葉を彼女たちのパートナーが肯定する。
だが、黒いウィッチの正体は依然として不明のままだがある程度特徴を知れた。
このあと田中くんにでも聞いて彼女について知るとしよう。
「それにしても、インクブスの薬が効かない体質かー」
「本当だと思いますか?」
「かなり嘘くさいな!」
「でも、本当なら凄い体質だにゃぁ」
どんなに優れたウィッチでも媚薬の効果が全く効かないということはありえない。
そんな常識の中、大量の媚薬が直撃する中でも問題なく行動し、戦闘を継続できるとは私がいうのもなんだがかなり非常識なウィッチであることに間違いはないだろう。
「その体質も凄いですけど聞いた限りだと戦闘力も凄まじいものですね」
「しかり」
「マジックだけじゃなく戦い形も凄かったしな」
出ている情報だけでも彼女の凄さが伝わってくる。
しかし、このままでは彼女の話だけで情報交換が終わってしまいそうだ。
そう思い、別の話題にしようと口を開きかけた時・・・
ガチャ
めったに開かない屋上の扉のドアノブが回った。
「あと、なんと言ってもこの場面では・・・」
「あ~、はいはい分かった分かった、そのテンションやめろ。うっとうしい」
扉が開くとやたらハイテンションな田中くんと・・・整った顔立ちの男子が入ってきた。
虫食いの私の名簿から名前は思い出せないが確かクラスメイトだったはずだ。
「無理ですね!なぜならウィッチ特集ですから!」
「たかが5分位の特集だろ。それくらい録画じゃだめなのか?」
「駄目です!
どうやらテンションが高い理由はウィッチについての特集が原因らしい。
田中くんの返答に隣の男子があきれてこちらを指差す。
「でも、一回落ち着いたほうがいいかもな」
「なぜで・・・」
指の差された方向を見てようやくこちらの存在に気づいたらしく表情が固まる。
そんな姿を見て呆れたような表情をした彼は改めてこちらを見ると首を傾げ口を開く。
「あれ?6人しかいないのか」
「ここはあまり人が来ないところですから」
「いや、そうじゃなくて・・・」
彼の質問に大和撫子の猫を被った金城が答えるがどうやら質問の意図が違ったらしい。
てっきりこの屋上にいる人数が少ないことかと思ったが違うらしい。
だが、彼の言葉は予想もしていなかった言葉だった。
「のじゃだったりにゃあだの聞こえた気がしたからもう何人かいるものかと」
一瞬彼の言葉の意味が理解できなかった。
どうやら彼は私たちとパートナーの会話が聞こえていたらしい。
だが、私たちだって無警戒に会話していたわけではない。
なぜ聞こえて・・・いや今はどうごまかすかを考えるべきだ。
「いや~、聞かれちゃってたの?ちょっと罰ゲームでね、語尾にいろいろつけてたにゃん!」
私がどうごまかすか考えていると黒澤さんが代わりに返答してくれる。
「あ~、だからか」
どうやら納得してくれたらしい・・・表面上はだが。
彼に僅かだが違和感を覚えた。
表情は笑っているように見えるが目の奥に何処か恨みを抱いているようにも見える。
「ここには先客がいたし、とりあえず別の場所行くぞ」
「え?ここでもいいじゃないですか」
「お前がウィッチに関係すること見たり話してるの見てると共感性羞恥すげえから嫌なんだよ。ほら、行くぞ」
「ああ、引っ張らないでください!」
そう言って田中くんの腕を掴むとかなり強引に引っ張って屋上からでていった。
屋上の扉が閉まり階段を降る足音が消えたのを確認し私は沈黙を破る。
「さっき、田中くんともう一人の・・・」
「クラスメイトの
虫食いの生徒名簿からどうにか名前をひねり出そうとしたところを御剣さんが補足してくれる。
「2人がどうしたの?」
「いや、実はーーー」
星影くんに感じた違和感を念の為だが共有しておいたほうがいいだろう。
そう思ったのだが学校のチャイムが鳴り会話が中断されてしまう。
「え?後10分?」
「とりあえず、情報交換はまた後で」
話すのに夢中で半分も昼食を食べれてなかったので慌てて私たちは残りのおかずを食べ始める。
結局、そのままお昼休みが終わっていまい黒いウィッチ以外のまともな情報交換は出来なかった。
◆
闇の中に浮かぶ異界の円卓。
厄災のウィッチにより優勢であった現状を崩された事によりここ最近は今まで以上に集会が開かれるようになり、それぞれの種族の長もほとんどが出席し空席もまばらしかない。
その空席も厄災による被害を表す指標の1つであった。
「また顔ぶれが変化したか・・・」
「厄災のウィッチめ!」
シリアコ卿のつぶやきに新たにオーガ族の長が反応し円卓に拳を叩きつける。
その他の長も大きく態度には出さないが表情や組んでいる腕に力が入るなど怒りをおのおのが抱えていた。
「皆、よく集まってくれた」
「それで、今回の集会の目的はなんだ?」
皆が怒りを抱える中、全てのインクブスをまとめる影が空席であった席に姿を表す。
そして円卓に座る面々を一瞥し1つの空席が目に入ると身にまとう雰囲気が変化する。
「ヴラドは今回も来ていないか」
「ヴァンパイアの奴らは自分勝手な奴らが多い。そんな奴らの長だからそんなもんだろ」
影が視線を止めた空席はヴァンパイア族の席であった。
体型は対して人と大差ないが蒼白い顔をし口からは僅かに鋭い牙が見えている。
そして何より今までファミリアの侵略を
協調性に難はあるもののその実力はインクブスの中でも高い種族、それがヴァンパイア族。
「今回は来いと行ったはずだが・・・まあ、良い。今宵集まってもらったのは他でもない。厄災のウィッチの住処、ニホンの侵攻についてだが・・・」
「いや~、すまんすまん遅れたよ」
影がその場を仕切り、集会の題目を告げようとしたタイミングで扉が開く。
所々に金の装飾がされているタキシードに身を包んだヴァンパイア族が遅れたことに全く反省が込められていない謝罪をしながら入って来る。
「ヴラドよ・・・何度言ったら遅刻癖は治るのだ?」
「治るまでかな~」
僅かながらも怒りが込められた言葉を適当あしらうとヴラドと呼ばれるヴァンパイア族の長はドカッと自身の席に腰を下ろす。
「で?俺に絶対に参加するように行った理由は?俺も暇じゃないんだけど」
それは誰もが一緒だ。
その場にいるインクブスの心境が一致する。
が、誰もそのことを口に出さない。
そんなことでいちいち苛立っていてはこの男と付き合うのは不可能だからだ。
「・・・ニホンへの侵攻についてだが今回はウィッチを含む少数精鋭、そして分散し叩いてもらおうと思う」
「リスクが高くねーか?前も同じような作戦で全滅したぞ」
ヴラドに対し呆れた表情を一瞬浮かべた後、何事もなかったかのように円卓の中央に向け作戦を告げ、それに対してライカンスロープの長が反論する。
影はその反論は予想していたのかどこからか地図を出し
円卓の中央に広げる。
「前回は向こうの地形、建造物について情報がなかった。だが、条件が変わった。そして今回は人どもの重要な建物の周辺を狙う。それにあたって・・・」
何千、何万もの犠牲を出しようやくできた厄災を討つ
無駄にするわけにはいかない。
地図に注目している長が多い中、天井を眺めているヴラドの方へ向くと影は強い口調で命ずる。
「今回はヴァンパイア族にも協力してもらおうと思う」
「おいおい、俺たちは別に現状でも十分なんだ。なんでリスクを払ってまでお前たちに協力しなくちゃいけねーんだよ」
今までの集会に一度も顔を出さず、今回も遅刻してきたにも関わらず図々しくヴラドは円卓に足を乗せ不服そうに反論する。
「それともなんだ?それ以上のメリットを出してくれるってのか?」
「・・・今回の侵攻の主な目的は厄災のウィッチの殺害ともう一つある」
「それがどうした?」
影の発言に対して全くと言っていいほど興味を示さず自身の鋭い爪を見ながら適当な相槌を返す。
「厄災とその周囲のウィッチによって減らされた隷属化したウィッチの補給だ」
「へー」
「今回の侵攻に参加すれば貴様に侵攻によって手に入ったウィッチの半分をやろう」
「「「な!?」」」
たかが一度の侵攻に協力するだけで手に入るとは思えないほどに影によって提案された報酬は過剰であった。
だが、それと同時に今回の侵攻にはヴラドの力が重要であるともいえる。
不服ではあるもののまだ納得はできる内容であった。
そう、まだ納得できる。
「3分の2」
「は?」
「だから、3分の2だったら協力してやるって言ってんだよ」
だからこそヴラドが提示した条件は納得のできないものであった。
「調子に乗るなよ蝙蝠風情が!」
「わざわざリスクを負わなきゃいけねーん
だ。これくらいメリットがあってもいいだろ」
訓練された兵士も逃げ出すオーガの長の激怒だが、ヴラドにとってはただうるさいだけの雑音にしか聞こえないのだろう。
「で、どうする?端数は要らないけど」
「分かったそれでいいだろう」
「な!」
明らかにこちらを足元に見た提案を影は承諾した。
もちろん、反論しようとする長はいたるがそれを手で制するとヴラドのの方へ向き睨見つけるように言う。
「だが、失敗は許さぬぞ」
「はいはい、分かった分かった」
それだけ言うと席をたち出口へ向かう。
「待て、作戦について・・・」
「お前らの作戦とか俺は興味ないから」
シリアコ卿が出て行こうとするヴラドと呼び止めるが歩きを止めることもなく適当な返事が返って来る。
そして扉の前で振り返と、他のインクブスたちの方を向く。
「どうせ、俺がいれば絶対に勝つんだから」
そう言い放つとそのまま部屋の外まで行き、赤い霧と共に姿が消える。
やがて正しい姿を思い出したかのように扉が閉まり、円卓には静寂が残った。
今回も4000字超えちゃった(・o・;)