(遠い目)
5分という長いようで短い時間が過ぎた。
インクブスどもはもう少しでウィッチ達に追いつきそうな場所まで迫っている。
呼び寄せておいたファミリアたちにテレパシーを送り陣形を整えさせる。
「始めるぞ」
「分かりました」
傷付いている彼女をこれ以上戦わせるのは心苦しいがこの異常事態では少しでも戦力とその幅が欲しい。
「では、作戦通りに」
「ああ」
私が頷くのを見ると彼女は腰に据えてある剣を持ち上げマジックを唱える。
「
光が武器の全体を覆い、剣の面影が残る銃へと姿を変える。
そのまま屋上から飛び上がり逃げ惑うウィッチの前に着地しインクブスの行く手を阻む。
「ゴォオオ!」
「ゲギャギャ!」
「
不気味な叫び声を上げるインクブスの群れの中に淡々とマジックを唱え引き金を引く。
普段のインクブスならば回避や防御といった選択をする場面だが・・・
「ブギャ」
「クギュ?」
凶暴化しているインクブスどもにはそこまで知能が残っていないのか全てのマジックが的中する。
頭部や腹部に当たったインクブスはそのまま体を真っ二つに分断され絶命していく。
しかし・・・
「ガアァァ!」
「やはりこの程度では止まりませんか」
手足に被弾したインクブスは何事もなかったかのように直進を続ける。
そしてそのまま最短距離でウィッチたちとの距離を詰め丸太のような腕を振り下ろす。
だが、その動きは
「ガァア?」
ウィッチの意識どころか生命すら刈り取るであろう一撃が割り込んできた黒い巨体によって防がれる。
割り込んできたもの正体はクロカタゾウムシを模したファミリアだ。
「ゴガァ!」
「グゴゥ」
他のインクブスも次々と攻撃を仕掛けていくが倒すどころか傷一つ付けることすら叶わない。
それもそのはず、原種の段階で車に踏まれても無傷という、昆虫の中でもトップクラスの防御力を誇る生物だ。
それがエナによって強化されたことによりほとんどの物理攻撃が効かない最硬の外骨格を持つファミリアとなっている。
「
動きが止まった一瞬の隙を逃さずインクブスの腹に銃弾が撃ち込まれその無駄に大きいその体が内部から破裂する。
「オンアァァァ!」
「うるさいです」
ときおりファミリアたちの横を抜ける個体もいるが頭部や胴体を撃ち抜かれたどり着くことなく絶命していく。
統率も取れていないのであれば、上がった身体能力も宝の持ち腐れだ。
「にしても何が起こったのでしょうか?」
「余裕があったなら詳しく調べたいところだが・・・」
残念ながらそんな余裕は無い。
ただ、この調子で何事もなく数を減らしていけば彼女の
何も無ければの話だが。
「ウガアァァァ!」
突然、一体のオークが叫びだし大気を揺らす。
そしておもむろに側にいたゴブリンを掴み頭部を喰らった。
しかも、一度ではなく何度も手当たり次第に掴んでは次々と喰らっていく。
「止めるぞ!」
「ええ!」
何が起こっているかは不明だが止めなければまずい。
そう認識した私たちはすぐさま動き出す。
「周りをお願いします!」
「分かった」
こんな状況でファミリアの被害を気にしている場合ではない。
待機させていたシボグモやヌカカを突撃させ、周囲いるインクブスの数を減らしていく。
「
黒いウィッチは武器の形状を変形させつつ、ファミリアたちが作った道を駆け抜け問題のオークへ接近する。
「
彼女が首元に渾身の一撃を入れようとした。
その時だった。
「グウゥン!」
オークの上半身がブレる。
次の瞬間、隣のビルに何かが激突し粉塵が辺りに舞う。
「は?」
一瞬の間に起こった事が理解出来ず呆気にとられてしまう。
目の前で起こった事自体は単純だ。
オークが丸太のような腕を振るい、彼女が吹き飛ばされた。
ただそれだけのことだ。
それが目にも留まらぬ速さで行われたというだけで。
「おい!大丈夫か?」
瓦礫に埋もれる彼女に声をかけるが動き出す気配はない。
もともとの怪我も合わさっておそらく気絶してしまったのだろう。
「グオォー!」
共食いと一斉攻撃のおかげでインクブスの数は残り1体だが、状況はかなりまずい。
先程の攻撃で待機させていたファミリアの4割程を失ってしまった。
おまけにこちらは逃げている2人を含めた3人のウィッチを守りながら戦わなければいけない。
「グン!」
「攻撃来ます!」
もう少し考えていたいところだが許してくれないらしい。
足元にあったコンクリ片を拾いこちらに向け投げてくる。
「くそ!」
すでに場に出ているファミリアに攻撃の指示を出し、私は横のビルに飛び移る。
移動した瞬間、元々いたビルの屋上が削られ消えてなくなる。
元々強化されていた身体能力が共食いによってさらに強化されているらしい。
「5分も保ちそうにありませんね」
「分かっている」
攻撃に仕向けたファミリアたちからのテレパシーが次々と消えていく。
大型種も呼んでいるが先にファミリアが全滅しそうだ。
もうすでに無事なファミリアは3割を下回っている。
「ここからどうしますか?」
「ひとまず彼女を助ける」
ここから先も彼女の力は必要だ。
半分ほど無事な階段を下り、瓦礫の上に飛び降りる。
しかし、先ほどの呼び掛けに返事も無かったことから嫌な予感が頭によぎる。
「お~いこっちだ」
着地した瓦礫から少し外れた場所の棚の下から声が聞こえる。
倒れている棚を何とか立て直すと意識を失った彼女が出てきた。
「とりあえず命に別状はねーな」
胸のあたりが上下に動くことを確認し息があることを確認する。
嫌な予感は外れたらしいが・・・
「復帰は・・・無理そうだな」
「ああ、すまんな」
ただでさえ大怪我を負っている状態だったのだ。
むしろ、命に別状がなかったことが奇跡に近いだろう。
しかし、彼女が動けない以上練っていた作戦も組み直さなければならない。
「誰が無理だって?」
話が聞こえたのか彼女が意識を取り戻した。
服についている砂埃を払い体を起こす。
しかし、怪我を庇って動いていることが丸わかりだ。
「お前だわ」
「さすがに今回は休んだ方が良いかと」
それでもなお動こうとする彼女を私のパートナーまで加わり止める。
素人目から見ても彼女の体はボロボロだ。
これ以上の行動はただの無謀だろう。
「もう休め」
「後、もう一つだけ試してから休ませていただきます」
だが彼女にはまだ考えがあるらしい。
首に掛かっているネックレスを掴みその場に立ち上がる。
「トラバント、あれやるよ」
「はあ!?お前正気か?」
パートナーの警告をよそに彼女は口元まで剣の持ち手を近づける。
尋常ではないその様子に思わず口を挟む。
「あれとは何だ?」
「見てればわかる」
微笑みながらそう言うとインクブスの方に向き直りマジックを詠唱する。
「権能を限定開放・・・
マジックを唱えた終わった次の瞬間、黒い影が建物の中から飛び出し、オークを軽々と蹴り飛ばした。
「出来ればこちらは使いたくなかったんですけどね」
先程までオークがいた場所に立っている彼女は荒々しい激流のようなエナをまとっていた。
「後5分・・・いや3分で終わらせろ!」
「分かってます」
「絶対、絶対だからな!」
パートナーが焦っているのに対し彼女は不気味な程冷静であった。
「
武器を変形させると先程までとは比べ物にならない速さで肉薄しインクブスと対峙する。
「ガァ!」
「遅い」
先程は回避できなかった攻撃を避け、いなし、時より生まれる隙に乗じ、淡々とダメージを与えていく。
だが、決定打に欠けている。
与えたダメージもすぐに再生されてしまいこのままでは先に3分過ぎてしまうだろう。
とはいえ、あの高速戦闘の中で問題なく動けるファミリアは今はいない。
どうしたら・・・いや、出来ることはある。
思いついた策を実行するためファミリアを動かし準備を整える。
「ゴガッ!」
「っく!」
戦場の様子を確認するとインクブスの振り払いを回避しきれず剣の腹で受けてしまっている。
彼女の消耗もみるみるうちに増していき額に浮かぶ汗も多くなっている。
「出来ました!」
「よし!」
焦る私にパートナーの声が届く。
どうやらファミリアたちは間に合わせてくれたらしい。
あとは彼女にその場所までインクブスを動かしてもらうだけだ。
「3時の方角!隣の道まで!」
建物の中から顔を出し彼女に向かって叫ぶ。
叫んだ後、言葉足りていない説明であったことに気付く。
が、これ以上の言葉は要らなかったらしい。
その証拠に彼女は微笑を浮かべている。
「
彼女はインクブスの拳を剣で受け流すと円を描くように回転し、インクブスの腹部に蹴りを入れた。
「グガァ!?」
巨体が揺れ僅かな隙が出来る。
当然彼女がその隙を見逃すはずも無く・・・
「
エナの暴風を纏った彼女の一撃を受けたインクブスは建物にぶつかった程度では止まらず1つ隣の道路まで吹き飛ばされる。
そして、その体は地面に着くことなく宙に固定された。
「これでチェックメイトだ」
インクブスが飛ばされた場所には蜘蛛の巣をはっておいた。
それも瓦礫ごとインクブスを捕らえ、その巨体をいとも簡単に拘束できるよう通常よりも頑丈な糸で作らせたものだ。
本来ならば逃走した個体用の罠なのだが急遽作り直させた。
無茶な注文に応えてくれたファミリアたちには感謝しなければいけない。
「ガアァ!?」
「無駄だ」
僅かに動く手足をバタつかせるがその程度では糸が外れるわけもなくさらに雁字搦めにされていく。
事前対策もなくこの拘束から抜け出せるインクブスはいないだろう。
つま先から頭頂部まで全身を糸で包んだタイミングでようやく暴れなくなった。
「はぁ、はぁ」
「無茶しすぎだバカ」
インクブスを無力化したこと確認した後、元の大通りに戻ると彼女は剣を地面に突き刺し肩で息をしていた。
最初からあのマジックを使わなかったのは体力の消費が多いのもあるだろう。
「私1人では対処しきれなかった。感謝する」
「いえ、それはこちらも同じです」
両方の力がなければもっと時間がかかり被害が出てしまっていただろう。
特に最後のインクブスは私のファミリアだけでは倒すのにどれだけの時間と犠牲が必要なのかわからない。
「そういえば、1つ聞いてもいいか?」
「なんでしょうか?」
深呼吸をして息を整える彼女をみて1つ思い出した。
いつもは向こうから言ってくれていたため聞くことを忘れてしまっていた。
「差し支えなければ教えてほしいのだが名前は何だ?」
そう、今更だが
彼女は少し驚いたのか一瞬止まった後、笑顔を浮かべ口を開いた。
「わたくしの名前はルューゲシュテルンと申します。以後お見知り置きを」
そう言って丁寧に礼をした。
ぶっきらぼうな私とは異なり行動の一つ一つがとても丁寧な動作だ。
「いい名前だな」
「ええ、わたくしの存在を表す名前ですからね」
そう言って笑う彼女の影には少し影を感じた。
それも最近感じたものに近い気がする。
新たに生じた疑問を聞こうとしたが先に相手が口を開いた。
「こちらからも1ついいですか?」
だが、彼女に聞かれたのは予想していなかったことだった。
「ステラルクスというウィッチをご存じないですか?」
「ステラルクス?」
聞いたこともないウィッチの名のため思わず聞き直してしまう。
少なくともナンバーズではなさそうだが有名なウィッチなのだろうか?
「あ、ご存じないないのなら大丈夫です」
私の反応から知らないことを察したのかそのウィッチについて聞く前に話題を変えられてしまった。
「後もう一つだけ・・・」
「おい、そろそろだぞ」
彼女の胸元のパートナーが不機嫌そうに会話に入って来た。
見ると輝いている宝石が残り僅かになってしまっている。
「すみませんが時間らしいので」
「そうか」
まだまだ聞きたいことはあったが彼女の体調も考えるとこれ以上は難しそうだ。
手に持っていた武器を腰にしまうと、マジックで作った足場を飛び登りビルの上まで登った。
「今日はありがとうございました」
「じゃ、またな〜」
最後に振り返り、別れの言葉だけ告げると
◆
静寂に包まれた住宅街。
自分の家の屋根に降り立ち、開けてある窓から部屋の中に入る。
そして胸元のネックレスをつかみ変身を解除する。
「は~、疲れた」
「無茶しすぎだバカ野郎」
全身をまんべんなく怪我している為、倒れるようにベットに突っ伏す。
さすがに今回は無茶しすぎた。
「にしてもあんな化け物がいるとはな」
「どっちの話だ?」
「両方だよ」
凶暴化したインクブスにそれを抑え込んだファミリアの軍勢。
どっちも変わらず化け物に違いない。
「今回も収穫なかったけどどうするんだ?」
「いや、種は蒔いた。後は収穫するだけだ」
自分のウィッチネームとあいつのウィッチネームも教えた。
予想が正しければ明日あたり
「いつまでやる気なんだか。毎回こんな感じだろ」
「あいつの仇を討つまでだ」
何度聞かれたかは分からないパートナーの言葉にこれまた何度言ったか分からない返しをする。
心が壊れたあいつがこれを望むとは微塵も思っていない。
今やってることはただの自己満足。
その為だけにあいつからウィッチの力を奪った。
一度やると決めた以上もう止まれない。
「フッ。まあ、いくらでも付きやってやるよ・・・」
こちらの覚悟を見透かしたのか口は悪いが世話焼きなパートナーが笑う。
「異魂の相棒」
それだけ聞こえて
次回 マジック解説(予定)!デュエルスタンバイ!