幼馴染はアイドルなんです   作:水漏れ老舗

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 そして、数週間後。

 

 「っ、つ、つかれたー!!」

 

 汗でびっしょりの愛姫は、店のカウンターに突っ伏して、身体を休ませていた。

 

 憔悴の原因はレッスンにある。アイドルになるためには、日々のレッスンが欠かせないらしい。歌や躍りはもちろん、基礎体力を鍛えるトレーニング。具体的にはよく分からないが、それらをぶっ倒れるくらい長時間やらされるらしい。

 

 体力に自信のある愛姫でも、こうして疲れるレベルなのだ。過酷なのは想像に容易いだろう。

 

 テレビで見る、光輝くアイドル達もみな影ではこれ程、否、これ以上の努力をしているのだと思うと、私は世のアイドル達に尊敬の念を抱かざるを得なかった。

 

 「はい、お疲れ様。これ奢り」

 

 カウンターから、私はデザートを差し出した。ホイップやフルーツが乗っている王道のプリンアラモード。目の前に置いた瞬間、愛姫は目をキラキラと輝かせた。

 

 「いいの?」

 「いいよ…ってもう食べてるじゃないか」

 「あひがと」 

 

 一生懸命にプリンを頬張る。口元にホイップを付けたまま喋るから、少しおかしい。それだけ腹が減っていたのか。私は愛姫に紙ナプキンを渡した。

 

 「まあ、ホントは食事制限あるんだけどねー…」

 

 自分の口元を拭きながら、愛姫は吐くように言った。

 

 「別のが良かった?」

 「あ、ううん! 甘い物は別腹、ここのご飯は治外法権! だからカロリーは無視しても平気だよ!」

 

 そんな訳はない。

 

 「…前から新メニューを増やしたいってお父さんにせがまれてて。だから次回以降、ロウカロリーの物も考えておくよ。寒天とか」

 「寒天いいねー。あたし、ホイップとかアイスクリームとかトッピングしたの好きー」

 「ロウカロリー?」

 

 結局、意味が無いのではなかろうか…。

 

 「それで、今日は最上のおじさんは?」

 

 愛姫はキョロキョロと店内を見回す。店内は閑散としており、二人の他に誰もいなかった。商売上がったり。 

 

 「なんだったか。友人の葬式だとか言って、昼前に外出てった。喪服も着ずに」

 「今日は馬かな? 船かな?」

 「たぶんパチンコ。昨日、新台が出るとか喜んでいたし」

 「なら…勝たなきゃだね!」

 「無理だろう。あの人、致命的にギャンブル運が無いんだから」

 

 汚れた皿を入念に洗いながら、私はふんと鼻を鳴らした。

 

 父の座右の銘は乾坤一擲(けんこんいってき)。つまりギャンブル狂い。借金まではこさえないものの、時間さえあれば、すぐに賭博場へと向かうような人だった。やれ友人が急病、やれ友人の親が亡くなっただの何かと理由を付けて。友人に不幸起きすぎだろ…。ばれていないと思っているのが驚きだ。

 

 「それで…さっきからなにしてる?」

 

 プリンを食べ終えた愛姫が自分の頬に両手を当て、口元を動かしていた。

 

 「笑顔の練習。日頃から表情筋を鍛えておいた方がいいんだって。そう言うの、マネージャーさんが」

 「ふーん。アイドルらしいかも、それ」

 「む。現役アイドルですけど。これ大変なんだよ。疲れてても、四六時中しなきゃだし。でも笑顔の練習といってもなー。アキトシ君的にはどう?」

 「どうとは?」

 「あたしのこの笑顔どう? 感想は? あるよね?」

 

 愛姫は口元に手を当てながら、パチパチと目くばせを送った。何かを催促している様子だった。仕方なく私はそれに答える。

 

 「えーと。イツキは、素の笑顔でも十分かわいいから無理しなくてもいいんじゃないかな」

 「ようし! その言葉が聞きたかった! 合格だあ!!」

 

 愛姫は満面の笑みと共に、親指をおっ立てた。

 

 なまいきな奴…。

 

 「んじゃ今日は、ここの珈琲でも目一杯頂こうかな!」

 「…かしこまりました」

 

 

 日常が、しばらくは続いていた。

 

 

 






短いですけど、続きます!


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