彼女は「シンデレラ」と名乗った。それは誰もが知る童話の登場人物の名前であり、それが本名かどうかは分からないが、少なくとも彼女が自分をそう呼んでほしいのだということだけは理解できた。一方で、俺は「ネフィリム」と名乗った。これが今の俺の名前であり、今後どう呼ばれるかを考えれば、それで十分だろう。
お互いの名前を交わしただけで、特別深い話はしなかった。ただ、「ああ、こう呼べばいいんだな」と、互いの呼び名を認識しただけのことだ。
「お前、どうしてこんな場所で倒れてたんだ?」
「……私は、宇宙から落ちてきたの。」
シンデレラは、クレーターの中心を見つめながら静かに語り始めた。その表情には、過去を思い返す憂いとわずかな誇りが混ざり合っているようだった。
「私たちは軌道エレベーターを上り、宇宙ステーションにいるクイーンを倒すために戦ったわ。でも、簡単なことじゃなかった。途中で……仲間たちが……。」
彼女の言葉が一瞬途切れ、握りしめた拳が小さく震える。
「仲間たち?」
俺が促すと、シンデレラは目を伏せながら続けた。
「私にはヘンゼルとグレーテル、セイレーンという第二世代フェアリーテイルモデルの仲間と私たちの開発者のエイブがいたの。彼女たちは私と一緒に軌道エレベーターを上って、クイーンを倒すために戦ってくれたわ。でも……。」
彼女は深く息を吐き、拳を強く握りしめた。
「途中で、クイーンの攻撃を受けて、彼女たちは宙に放り出されてしまったの。私が宇宙ステーションにたどり着く前に。」
「……それじゃ、お前は一人で宇宙ステーションに行ったのか。」
「宇宙ステーションにたどり着いた時、中にはラプチャーが一体もいなかったの。」
「……ラプチャーがいなかった?」
俺は思わず問い返した。その言葉は想像していた状況とあまりにも違いすぎた。ラプチャーのクイーンというぐらいなのだからその身を守るラプチャーがそばにいるはずだと思っていたからだ。
「あれだけのラプチャーが軌道エレベーター周辺を守っていたのに、宇宙ステーションの中には一体もいなかったの。静かで、不気味なほどだったわ。」
シンデレラはかすかに眉を寄せながら続けた。
「それで、私はそのままステーションの先へと進んだの。そこに……クイーンがいたわ。」
シンデレラはかすかに視線を伏せながら語る。その声には、当時の光景を思い返すような緊張感が滲んでいた。
「彼女は壁に繋がれた女性の上半身のような姿をしていたの。その体からは無数のケーブルが伸びていて、宇宙ステーション全体に繋がっていたわ。」
その異様な光景を思い描こうとしたが、俺の想像力では追いつかなかった。それほどまでに現実離れした存在だったのだろう。
「私はクイーンに攻撃した…けれど、それはほとんど効かなかったの。」
彼女は少し間を置き、苦々しそうに続けた。
「……ものすごいビーム攻撃が私に向かって放たれたわ。回避しようとしたけれど……私はそのまま宇宙に放り出されてしまったの。」
「宇宙に放り出された……それで、どうしたんだ?」
俺の問いかけに、シンデレラは微かに笑みを浮かべた。その表情には、わずかだが達成感が見えた。
「クイーンを直接倒すのは無理だって、宇宙に放り出された瞬間に悟ったわ。でも、それでも何かしなきゃいけなかった。だから、宇宙ステーションの一部を切り離して、クイーンを隔離したの。」
「隔離?」
「ええ。彼女が地球に干渉できないようにするためよ。それだけでも、あの戦いに一矢報いたと言えると思う。」
彼女の言葉には、確かな誇りが込められていた。だが、彼女はそれだけでは終わらなかった。
シンデレラは自分の体を軽く見下ろし、微笑みを浮かべた。
「私は宇宙に放り出されたのよ。あんな過酷な環境下で、クイーンの攻撃を受けても地球に戻ってこられた。これもエイブのおかげだわ。」
彼女はそう静かに言い切った。その言葉には、誇りと感謝が込められているようだった。
彼女の話を聞けば聞くほど、その壮絶さに圧倒される。
「でも、まだ終わっていないわ。エイブや仲間たちを探さなきゃ。彼女たちもきっと無事に生きているはずだから。」
その言葉に宿る確かな信念が、俺の胸にもかすかに響いた。シンデレラは、信念と誇りを抱えながら、次の一歩を踏み出そうとしていたのだ。
「……話してくれてありがとう、シンデレラ。」
「それで、ネフィリム。あなたは私に会いに来たんでしょ?目的は何だったの?」
彼女の問いに、俺は少し考え込んでから口を開いた。
「俺の目的は、人類が今どうなっているのかを知ることだ。それを知るためにアナキオールに会いに来たんだ。」
「人類の現状を知りたい……?」
「ああ。俺は4年以上眠っていたんだ。ラプチャーの侵攻以来、目が覚めてからは誰とも会っていない。アークとかいう地下シェルターに避難しているみたいだが、俺には何も分からないままなんだ。」
シンデレラの表情に、わずかに驚きの色が浮かんだ。それを確認しながら、俺はさらに続けた。
「それで、ここまでの旅の中で『アーク』って名前を何度も目にした。アークは人類を歓迎します、なんて看板もあってさ。だから、俺たちはそこに向かおうと思ってる。」
シンデレラは一瞬目を伏せ、考え込むように沈黙した。それから顔を上げ、俺をまっすぐに見つめた。
「アークに行ったことはないけど、その名前は知っているわ。ラプチャーの侵攻が本格化した時、三大企業が建設した巨大な地下都市、敗北した人類の最後の生存領域、それがアークよ。」
彼女の目がわずかに輝く。
「そして、そのアークを守るために戦っているのがゴッデス部隊。人類の希望、勝利の女神とも呼ばれている伝説の部隊よ。」
「ゴッデス部隊……?」
「彼女たちは、アークの入り口を防衛するために今でも戦い続けていると思うわ。アークガーディアン作戦、ラプチャーから人々を守り、アークへの避難を助ける作戦。ゴッデス部隊は今でもラプチャーの猛攻を受け止め、アークを防衛しているはずよ。」
彼女の声には、はっきりとした憧れと敬意が混じっているのが分かった。
「アークガーディアン作戦で彼女たちがラプチャーの主戦力を引きつけていたおかげで、私たちは軌道エレベーターに近づくことができたのよ。」
「…それほどの連中がいたのか。けど、今もその部隊は無事なのか?」
俺の問いに、シンデレラの表情が少し曇る。
「正直なところ、分からないわ。アークがどうなっているのかも、ゴッデス部隊が今どんな状況にあるのかも。だけど……彼女たちが簡単に負けるような存在じゃないことは確かよ。」
「それだけ信頼してるってことか。」
「信頼しているし、憧れているわ。彼女たちは、美しいもの。」
シンデレラの声には、はっきりとした敬意が込められていた。その表情を見ていると、彼女がどれだけゴッデス部隊を大切に思っているかが伝わってくる。
「…だったら、俺たちと一緒にアークへ行こう。」
俺は彼女を見つめながら静かに言った。
「アークがどうなっているのか、ゴッデス部隊がどうしているのか、確かめるためにもさ。それに、お前が探している仲間たちの情報だって得られるかもしれない。」
シンデレラは少しの間黙り込み、考えるような表情を浮かべた。その瞳には迷いが見える。
その時、頭の中にケイオスの冷静な声が響いた。
【シンデレラの体はまだ万全ではありません。完全に回復するには時間が必要でしょう。単独行動を続けるのは、彼女自身にとっても危険が大きいと判断されます。】
「……だよな。」
俺は小さく息を吐き、シンデレラに向き直った。
「お前の体もまだ完全じゃないんだろ。無理して動き回るのは危険だ。だから一緒にアークに行こう。そこなら情報も得られるし、体を治療する設備だってあるはずだ。」
「……でも、私は仲間たちを探しに行かなくちゃいけないの。」
シンデレラは困ったように眉を寄せながら答える。その強い言葉に、一瞬俺も言葉を詰まらせたが、すぐに説得を続けた。
「仲間を探すにしても、まずは情報が必要だろ?手がかりもなしに動き回っても、危険が増えるだけだ。それなら、アークで情報を集めてから動いた方がずっと効率的だと思う。」
彼女は俺の言葉をじっと聞いていた。そして、深く息を吐いた。
「……確かに、あなたの言う通りね。情報がない状態で無理に動くのは無謀だわ。それに、アークまで行けば何か手がかりが得られるかもしれない……。」
そう言った彼女の声には、迷いが混じっていたが、それでも一緒に行くという決断が伝わってきた。
「分かったわ、ネフィリム。一緒にアークに行きましょう。ただし、アークで情報を得たらすぐに仲間を探しに動くつもりよ。」
「それでいいさ。お前が目指してるものを邪魔するつもりはない。」
俺は少し笑みを浮かべて答えた。
「ありがとう、ネフィリム。」
シンデレラの言葉には、どこか柔らかさが混じっていた。その言葉を聞きながら、俺はもう一度深呼吸をして、次の道を思い描いた。
こうして、俺たちはそれぞれの目的を抱えながら、アークを目指して共に歩み出すことを決めた。
なんというか、なんかシンデレラの口調がつかめないな、という感じです。喋り方に特徴があるキャラってどんなのがあったかなと思い返してみたのですが「~ですよん」のポリぐらいしか思いつきませんでした。
それと、時代的にはまだ本編ヘレティックたちが居ないので主人公が全然戦えないですね。OVER ZONE終わったらREDASHか本編前インディちゃん相手に渾沌に呻いてもらおうかな。
次からはたぶんOVER ZONEです。