眠れ女神よ、勝利は遠く   作:ちしかん

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OVER ZONE その1

瓦礫と枯れた大地が延々と続く道のりを、俺たちは数日間歩き続けた。

途中、朽ち果てた建物や割れた道路を越えるたびに、シンデレラの浮遊能力が羨ましくなった。

 

「……お前、それ、ズルいよな。」

 

俺は瓦礫に足を取られながらぼやいた。前を滑るように進むシンデレラの背中に視線を向ける。

 

「何がズルいのかしら?」

 

シンデレラが軽く振り返り、柔らかい笑みを浮かべた。

 

「お前のその浮いてるやつだよ。」

 

俺は軽く毒づくように呟いた。シンデレラはそれを聞いて振り返り、わずかに口元を緩めた。

 

「これ、飛んでるってほどじゃないのよ。浮いてるだけ。」

 

そう言いながら、彼女は数メートルほど先へ滑るように移動する。その姿は軽やかで、地面に足をつけている俺とは明らかに違う動きだった。

 

「浮くだけでも十分だろ。俺はその瓦礫を乗り越えるのにひと苦労だってのに。」

 

俺は足元の瓦礫を指差し、ため息をついた。シンデレラはふっと笑いながら、軽く地面に降り立つ。

 

「いいじゃない、ネフィリム。地に足をつけて歩くのも悪くないわよ。浮遊するのも意外とエネルギーを使うんだから。」

「そうかよ。それでも楽そうに見えるけどな。」

 

俺がぼやくと、シンデレラは肩をすくめてみせた。その軽妙なやり取りが、緊張の続く道中にわずかな安らぎをもたらした。

 

「俺にもその能力があったらなぁ。ケイオス、どうにかならないのか?」

【浮遊能力は搭載されておりません。必要であれば別途対応が求められますが、私たちの身体構造では効率が悪いと判断します。】

「だよな、はぁ…」

 

俺はため息をつき、黙々と歩き続けるしかなかった。

 

───────────────────────────────────────────────────

 

歩き続ける中、ふと、数日前のやり取りを思い出していた。シンデレラは自分の専用武装「ガラスの靴」を磨いていた。何度も何度も。まるでそれが美術品であるかのように、慎重に手を動かしていた。

 

「これが美しくなければ、私の美しさも引き立たないもの。」

 

そう言って磨き終えると、彼女は鏡に向かって自分の姿を映していた。その様子は、戦士というよりは、舞踏会に向かう貴婦人のようだった。

 

「今日は美しさが足りないようね……。」

 

そう呟くシンデレラに、俺は軽く眉を上げた。

 

「美しさが足りないって……鏡に映った自分とにらめっこしてる暇があるなら、少し休めばいいだろ。」

 

シンデレラは振り返り、片方の眉を上げながら俺を見つめた。

 

「ねえ、ネフィリム。」

「なんだよ。」

「人間の顔には、右と左で美しく見える向きがあるって聞いたわ。あなた、どちらが美しいか分かる?」

 

その突拍子もない質問に、俺は一瞬言葉を失った。

 

「どっちも変わらないだろ。顔は顔だ。」

 

そう返すと、シンデレラはため息をつきながら頭を振った。

 

「美しくない返事ね……ちゃんと見てくれてない証拠だわ。」

「そもそも、俺に美しさが分かると思うか?」

「いいえ、全然思わないわ。」

 

バッサリ切り捨てられて、俺は言葉を詰まらせた。その後も彼女はしばらく鏡を覗き込んでは、「笑った時に先に笑顔になるほうが美しいらしいの」だの、「私は右と左、どちらが美しいかしら?」だの、独り言を繰り返していた。

正直、面倒くさい性格だと思ったが、でも不思議と嫌いにはなれなかった。

 

───────────────────────────────────────────────────

 

そんなやり取りを繰り返しながら、俺たちは少しずつ目的地に近づいていった。瓦礫を越え、壊れた看板を通り過ぎ、数日が経過した頃――たどり着いた丘の頂上から幾つかの建造物と閉ざされた黒鉄色の扉を見つけることができた。

 

「……あれがアークの入り口か。」

「ええ、間違いないわ。」

 

シンデレラは俺の隣に立ち、目を細めながらそれを見つめる。

 

「人類の最後の砦……アーク。」

 

その言葉にはわずかな感慨が込められていた。俺たちは互いに視線を交わし、再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

───────────────────────────────────────────────────

side スノーホワイト

 

砂塵が絶え間なく舞う荒野を見下ろしながら、スノーホワイトは監視塔から目を凝らしていた。その表情は冷静そのもので、長時間の警備に疲れを見せることはない。

 

「……」

 

遠くの瓦礫の間に、二つの影が映っている。最初はかすかな点のようにしか見えなかったが、徐々にその姿がはっきりしてきた。

 

「……ニケ?」

 

彼女は小さく呟き、スコープを覗く。全身真っ白な人影と真っ黒な人影。白い人影の持つ巨大な武装や黒い人影の頭から生える角がそれらは人間ではないと主張していた。

 

「ドロシー!」

 

スノーホワイトは背後に声をかけた。彼女の言葉に応じて、すぐに静かな足音が近づいてくる。

 

「どうかしましたか、スノーホワイト。」

 

スノーホワイトは振り返らず、スコープを覗いたままだ。

 

「遠くからこちらに向かってきている二人組を捕捉した。最初はニケか避難民かと思ったが……一人は見覚えがある。」

「見覚え?」

 

ドロシーは少し眉を寄せ、スノーホワイトの指さす方角を見た。

 

「……アナキオールだ。」

 

その名を口にするスノーホワイトの声には、警戒の色が混じっていた。ドロシーもその名を聞くと、目を細め、静かに息を吐いた。

 

「…わかりました。すぐに紅蓮とラプンツェルを呼んできます。」

「ああ、頼む。」

 

───────────────────────────────────────────────────

 

荒野の中を進む俺たちの耳に、鋭い声が届いた。

 

「止まれ!」

 

その声は冷たく響いていた。俺は立ち止まり、シンデレラに目を向ける。

 

「……歓迎されてないみたいだな。」

 

俺がぼそりと呟くと、シンデレラは微かに笑った。

 

「当然でしょうね。私がどう思われているか、分かっているもの。」

「お前がラプチャー側にいた時のことか。」

「そういうこと。」

 

彼女は軽く肩をすくめ、そう言った。

建物の向こうから、3つの人影が現れる。大きな杖を持つ金髪の女性、今時珍しいような剣を持った女性、そしてそのその中央に立つリーダー然とした人物。

 

「彼女たちがゴッデス部隊か?」

 

俺が小声で問いかけると、シンデレラは小さく頷いた。

 

「ええ、間違いないわ。中央に立っているのがドロシー。でもゴッデス部隊はもう二人いるはずよ、私がいると知れば出てくると思ったのだけど。」

 

シンデレラの視線がその女性――ドロシーに向けられる。その目はどこか尊敬のようなものも滲んでいた。

 

「アナキオールですね。リベンジに来たのですか?その割にはラプチャーも呼んでいないようですが。」

 

シンデレラはその言葉に、軽く肩をすくめた。

 

「リベンジ?そんなつもりはないわ。私はただ、情報が欲しいだけ。」

「情報?」

 

ドロシーの目が細くなる。背後で紅蓮が剣を軽く構え、スノーホワイトも視線を鋭くする。

 

「ならアークに近づく理由を説明していただきましょうか。あなたの言葉だけで信用するほど、私たちは甘くありませんが。」

 

シンデレラは小さく息を吐き、一歩前に出た。その動きに反応して、紅蓮が剣を振り上げる。だが、ドロシーが軽く手を上げ、彼女を制した。

紅蓮は一瞬だけ目を細めたが、剣を下げて一歩後退した。

 

「話は聞きましょう。ただし、あなたが敵意を見せれば、即座に排除します。」

 

ドロシーの冷静な声が静寂を切り裂く。その言葉を受け、シンデレラは微かに笑みを浮かべた。

 

「ありがとう、ドロシー。私が話す内容を信じるかどうかはあなたたち次第だけど、聞いてもらえるだけで十分よ。」

 

彼女は視線を巡らせ、ゴッデス部隊の面々を順に見つめた。その目にはどこか覚悟の色が見える。

 

「まず最初に言っておくけれど、私は敵じゃないわ。ラプチャーと手を組む気もないし、あなたたちを傷つけるつもりもない。」

「その割には、半年ほど前に襲撃しに来たばかりだっただろう。」

 

スノーホワイトが冷たい声で言う。

 

「その通りよ。」

 

シンデレラは微笑みを浮かべたまま、その言葉を受け入れた。

 

「あなたたちに負けた後、私はヘレティック研究所に運ばれたわ。そこで、アンチェインドを投入されたの。」

 

その言葉に、ゴッデス部隊の面々が微妙に反応を見せる。ラプンツェルははっと何か気づいたようなそぶりを見せ、問いかけた。

「アンチェインドというものは聞いたことはありませんが、それはもしかして侵食を食い止めるような性質を持つのですか?」

 

シンデレラは静かに頷いた。

 

「アンチェインドは、侵食を無力化し、ニケを元に戻す物質よ。私に施されたのは、その実験だったの。」

「そして、私がここに来た目的なのだけれど…」

 

シンデレラの言葉に、ゴッデス部隊の面々がそれぞれ反応を見せる中、俺は突然背中に冷たい感覚を覚えた。周囲知覚が何か異様なものを捉えたのだ。

 

「待て、何か来る。」

 

俺はシンデレラの言葉を遮り、空を指差した。その声に全員が一瞬動きを止め、俺の示すほうを向いた。

 

「空中から……巨大な反応だ。」

 

その一言で、場の空気が一変した。

 

「全員ハイド!」

 

ドロシーが叫ぶと同時にゴッデス部隊は建物の影や点在する巨大な瓦礫に、俺とシンデレラはガラスの靴の陰に隠れる。瞬間、耳をつんざく轟音とともに、流星のような何かが大地を抉るように落下してきた。衝撃で砂埃が巻き上がり、地面が震える。

俺は衝撃波に耐えながら、周囲を探った。砂埃の中に立つ影……それは明らかに人ではなかった。

 

「……あれは?」

 

シンデレラが微かに眉をひそめ、視線を砂埃の中心に向ける。

砂埃が徐々に晴れていく中、現れたのは大きな異形の翼を持つ存在だった。ラプチャー特有の機械的なフォルムとともに、生物的な頭部や尻尾を備えている。そして、その体の胸にあたる場所には巨大なコアが輝いている。

 

「来ます!」

 

ドロシーが叫び、ゴッデス部隊が即座に戦闘態勢を取る。俺もその場に踏みとどまり、シンデレラと並んで前方を睨んだ。

 

「準備はいいか?」

 

俺はケイオスに問いかけると、すぐに冷静な声が返ってきた。

 

【いつでも対応可能です。】

「よし、やるぞ。」

 




今回の話はだいぶ無理やりな気がします。
シンデレラとゴッデス部隊はたぶん今後本編のストーリーで描写されると思うのですが私にはうまい具合には思いつきませんでした。
それと前の話を書いてから次の話を考え始めるといった形で書いているのでここ変だな、と思ったら感想なり評価のコメントなりでいただけると幸いです。
というわけでオリヘレティックを登場させて「話の途中だがワイバーンだ」展開とさせていただきました。
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