漆黒の竜は頭を振り、その青い角を輝かせながら、再び翼脚を振り上げた。地面に叩きつける衝撃で砂埃が舞い上がり、続いて黒い鱗粉が空中に漂い始める。
「これは…!」
ドロシーが警戒の声を上げた。その黒い鱗粉はただの装飾ではない。散布されると空気中に拡散し、周囲に広がっていく。それを吸い込んだ者の体に異変をもたらすことは、すでに目の前で証明されていた。
「紅蓮、大丈夫ですか?」
「……ああ、少し動きが鈍いだけだ……!」
紅蓮は刀を握りしめ、苦しげに息を吐く。だが、その顔色は明らかに悪く、鱗粉を吸い込んだ影響が出ていることは明白だった。
「紅蓮、ラプンツェル、あなたたちは下がってください。ここは私が何とかします!」
ドロシーが鋭く命じると、二人は渋々後退し、安全な位置に移動する。その間も、ドロシーはアサルトライフルを構え直し、竜に向けて引き金を引いた。
「私が引きつけます。シンデレラ、援護してください!」
「任せて。ガラスの靴、行って。」
シンデレラが微笑みを浮かべながら、ガラスの靴を操作する。ビームが拡散して放たれ、その翼膜をたやすく貫くがその傷は猛スピードで修復されていく。
竜は翼脚を振り上げ、地面を叩きつける攻撃を繰り返してくる。そのたびに黒い鱗粉が舞い上がり、爆発が連鎖的に発生する。
「厄介なものを撒き散らしますね……!」
ドロシーは鱗粉を避けるようにステップで竜の攻撃を回避しつつ、反撃を続けた。アサルトライフルの弾丸は竜の甲殻に次々と当たり、火花を散らすが致命傷にはならない。
シンデレラがガラスの靴からビームを放ち、竜の青い角を掠める一撃を加えた。その瞬間、竜は頭を大きく振り、苦しげに自らの角を引っ掻く仕草を見せる。
「……苦しんでいる?」
ドロシーは一瞬の違和感を感じ取り、射撃を中断して様子を見守った。その直後、竜の右側の甲殻が音を立てて崩れ始める。
「甲殻が……崩れて…」
崩れた甲殻の下から現れたのは、虹色に輝く新たな表面だった。その光は鮮やかで美しいが、同時にどこか不気味で、圧倒的な存在感を放っていた。
「これは……まるで、脱皮しているよう…」
シンデレラが驚きの声を上げるが、竜の動きは止まらない。虹色の甲殻が完全に露出したその瞬間、竜は再び翼脚を振り上げ、地面に叩きつけた。
「――!」
その動作に合わせて、ドロシーの足元で突然爆発が起きる。咄嗟に跳び退るが、続けざまに足元を狙うように爆発が連鎖していく。
「爆発の位置が変わった!? 足元を狙っているのですか!」
ドロシーは息を切らしながらも素早く周囲を見渡し、状況を把握する。アサルトライフルを撃ち続けるが、虹色の甲殻は黒い甲殻よりさらに固いらしくほとんど傷がつかない。
「この距離では埒が明かないですね……!」
彼女はアサルトライフルを下ろし、大きく深呼吸をした。
「私が近づいて直接叩きます。」
「ええ、分かったわ。でも無理はしないで。」
シンデレラはドロシーを援護する態勢を取る。
ドロシーは一度下がりアサルトライフルをラプンツェルに渡す。そして、地雷のような爆発を警戒しつつ、異形の竜に向かって一気に距離を詰める。
竜が翼脚を振り上げ、叩きつけてくる。ドロシーはその攻撃を冷静に見極め、側面に回り込むようにステップで回避し、
「はっ!」
彼女の強烈な蹴りが竜の虹色の甲殻に直撃する。その甲殻には小さなひびが入り、竜が苦痛に満ちた唸り声を上げた。
続けざまに腕を振り上げ、全力の一撃を甲殻に叩き込む。衝撃が体を揺らし、その動きがわずかに鈍った。
しかし、竜は再び翼脚を広げ、全身から黒い鱗粉を撒き散らす。その鱗粉がまたしても足元で爆発を引き起こす。
ドロシーは異形の竜に果敢に攻撃を仕掛け続けた。アサルトライフルを使わずとも、彼それ以上に強靭な腕と足から繰り出される打撃は甲殻に確実にダメージを与えていた。
「ふっ!」
振り下ろされた翼脚を見極め、横へ大きく跳び退る。そして、その反動を利用して地面を蹴り、間合いを詰めて頭部へ一撃を叩き込む。
「効いている……!」
ドロシーは短く呟き、次の攻撃に移るために体勢を整える。異形の竜は苦しげに角を揺らしながら、一気に口を開いて鱗粉を集め始めた。
竜が吐き出した黒いブレスは一直線にドロシーを狙う。しかし、彼女はその軌道を読み切り、ギリギリのタイミングで跳び退ることで直撃を回避した。
ドロシーは竜の攻撃が止む隙を見逃さず、一気に接近すると、拳を握りしめてその角を狙う。
渾身の一撃が角に直撃し、硬い音を立てて青い角が欠ける。その瞬間、竜は大きく唸り声を上げ、バランスを崩したように体を揺らす。
「やった……!」
ドロシーが勝利の手応えを感じたその時――。
「ドロシー、後ろ!」
シンデレラの叫びが響いた。
「な……!」
振り返る間もなく、先ほど放たれたブレスがドロシーの背後から迫っていた。竜が吐いたブレスは一定距離進んだのちに滞留し、反転して彼女の後方に回り込んでいたのだ。
ドロシーは気づいた瞬間に防御の姿勢を取ろうとするが、間に合わない。そのブレスが彼女の体を直撃し、大きく吹き飛ばされる。
「ドロシー!」
ラプンツェルの悲鳴が響く中、ドロシーの体が勢いよく地面に叩きつけられる。
「……大丈夫、まだ……動けます!」
土煙の中からドロシーの声が聞こえた。その姿は傷だらけで、その服はところどころ焦げているが、彼女の目はまだ戦意を失っていない。
「まだやれる……!」
彼女は自らを奮い立たせ、再び竜に向き直る。しかし、その瞬間、体にかすかな違和感を覚えた。
「……何ですか、これ……?」
紅蓮やラプンツェルが感じていた不調が自分にも襲ってきたのだ。頭が重く、体の動きが鈍くなる感覚が広がる。
「鱗粉……!」
そう理解したが、目の前の異形の竜がまだ動いている以上、後退する余裕はなかった。ドロシーは歯を食いしばり、動ける限りは前進することを決意する。
竜が咆哮を上げ、三度ブレスを放つ。その攻撃をステップでかわしながら、彼女は体勢を整える。しかし、動きが鈍くなったせいで、回避がギリギリになる場面が増えていく。
「まだです……!」
彼女は攻撃の隙をついて拳を叩き込むが、その一撃は以前ほどの力を発揮していない。焦りが胸をよぎるが、次第に体に異変が起こり始めた。
「……これは……?」
さっきまでの鈍さが徐々に消え、逆に力が湧き上がってくるような感覚が全身を満たしていく。
「体が……軽い……?」
ドロシーの動きが明らかに鋭くなり始めた。足の踏み込みは以前より力強く、拳を振るうたびに確かな手応えを感じる。
竜の翼脚が再び振り下ろされるが、彼女はその軌道を完全に読み切り、華麗なステップでかわした。
「終わりです!」
湧き上がる力の最高潮に達したドロシーは、竜の頭を狙って渾身の拳を叩き込む。その一撃は青く輝く左角を完全に破壊した。
「――!」
竜は苦悶の咆哮を上げ、その巨体が大きく揺れる。そして、膝を崩して地面に倒れ込み、全身から黒い靄を放ち始めた。
「私の……勝ちです……!」
ドロシーは息を切らしながら、竜を見据えた。その巨体は黒い靄に包まれるたびに小さくなり、徐々に竜の姿が消えていく。
黒い靄が消え去った後、そこに横たわっていたのは漆黒の竜ではなく、人の形をしたネフィリムだった。その姿を見て、ドロシーを含む全員が無言で立ち尽くした。
ドロシーは拳を握りしめたまま、荒い息を整えつつネフィリムを見下ろしていた。
「とりあえず、このまま放っておくわけにはいきませんね。ラプンツェル、治療は可能ですか?」
ラプンツェルが静かに頷き、ドロシーと傷つき倒れたネフィリムの隣に座り、祈る。
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体中が重くて、何かに縛られている感覚がした。柔らかいベッドの上にのせられているような――それに、自分の体を覆うぐるぐる巻きの鉄線。
「……何だ、これ。」
ぼそりと呟くと、近くから声が返ってきた。
「目覚めましたか、ネフィリム。」
その声はドロシーだった。体を動かそうとしても、鉄線がきつくてまったく動けない。
「これ……俺、どういう状況?」
「あなたが暴走していたのを抑えたあと、こうして寝かせています。」
「寝かせてるって……まるで監禁じゃないか。」
軽口を叩いてみせるが、ドロシーの表情は真剣だった。
「あなたが再び暴走したら、私たち全員が危険に晒されてしまいます。それに、その鉄線も気休め程度のものですし。」
俺は少し考え込む。暴走――確かに、あの時の記憶は断片的だ。黒い竜の姿になり、バルファルクと戦っていた。そして、そのあとの記憶は曖昧だが……角を叩き割られた時の感覚は覚えている。
「……それで、今の俺はどうなってるんだ?」
「外見なら少なくとも今は人間の形に戻っているわ。」
横から聞こえてきた軽い声に目を向けると、シンデレラが手元のガラスの靴を磨きながら微笑んでいた。
「暴走してた時のあなた、まあ派手だったわ。でも、少し調整が必要そうね。暴れているだけじゃ美しくないわ。」
「……そりゃどうも。」
軽く肩をすくめるが、正直なところ、体中が鉛のように重くて反論する気力も湧かなかった。
「それで、これからどうするかが問題です。」
ドロシーが腕を組み、こちらを真剣に見下ろしている。その視線には、俺の次の動きに警戒しつつも、少し期待しているような色が見えた。
「俺としてはこの拘束を解いてくれると嬉しいんだが。」
「そうですね。見たところは理性を取り戻しているようなので拘束を解いてもいいのですが、その前にあなたには少し話を聞かせてもらいます。」
ドロシーの声に、俺は目を閉じたまま答えた。
「話って?」
「あなたが暴走する前に何が起きたのかはラプンツェルから聞きました。それに、シンデレラの目的も。だから私たちが聞きたいのはあなたの正体や巨大化したときに使っていた力の正体についてですね。」
「……まあ、分かる範囲でなら。」
鉄線に縛られたままの俺は、体を少し動かそうとするが、結局は抵抗を諦める。
「ああ。何でも答えるさ。」
俺は静かに息をつき、次に来る問いを待った。
以下、本作品における狂竜ウイルスの設定です。まだあんまり設定が固まってないです。
主人公の知覚能力を補助するナノマシン。レッドシューズに手が加えられる前の原初の侵食コードを含み、発症するとニケとラプチャーの思考回路に作用して破壊衝動を引き起こす。
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100年後の主人公はどのような形態がいいですか?
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シャガルマガラ
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渾沌に呻くゴア・マガラ