「では、お聞きしましょう。」
ドロシーが腕を組み、鋭い視線を俺に向けてきた。その目には警戒と探求心が入り混じっている。
「シンデレラが言っていた、ヘレティックの力、それをどうしてあなたが使えるのか。そして、あの黒い鱗粉の正体は何なのかです。」
俺は軽く息を吐いた。これまでに散々自問してきたことを、今度は他人に説明する番だ。
「まず言っておくが、俺が普通のニケじゃないことは分かるだろう。」
「当然でしょう。あの竜の姿を見たら誰でもそう思います。」
ドロシーの冷静な返答を受け、俺は自嘲気味に笑った。
「俺がこうなった原因は、第一次ラプチャー侵攻の時だ。あの時、瀕死の重傷を負った俺を救ったのが……奇特なラプチャーだった。」
「ラプチャーがあなたを救った?」
ドロシーが眉を少し寄せる。その疑問を予想していた俺は、話を続けた。
「ああ。俺はこいつを『ケイオス』と呼んでいる。俺はあいつと融合したことで、命を拾ったんだ。」
「融合……。」
ドロシーの目が鋭くなる。俺は少し間を置いて、さらに続けた。
「そうだ。それ以来、ケイオスは俺の中にいる。時々アドバイスをくれるし、俺の力にもなっている。」
俺はドロシーの目をまっすぐに見た。
「さっきの暴走しちまった時も、ケイオスの提案だった。制御できるか分からない力だが、少なくともバルファルクとやらは撃退できるってな。実際、どうにかなっただろ?」
「ええ、私たちにも襲い掛かってきましたが。」
「そうだな、それはすまなかった。俺の意思で竜になったのに制御出来なかった俺の責任だ。それと、詳細は俺にも分からないが俺の場合は巨大化というより、二つの姿を切り替えているような…感じだ。」
ドロシーはしばらく黙って考え込んだ。そして、再び視線をこちらに向ける。
「いいでしょう。それで、あの黒い鱗粉の正体は?」
「…それも…正直に言えば、完全には分からない。ただ、一度使ったからか、ぼんやりと感覚が残ってるんだ。」
「感覚ですか……?」
「そうだ。竜になっていた時、鱗粉を撒き散らす感覚や力の流れ……それが本能的にというか、何となく分かる気がする。」
ドロシーの目がさらに鋭さを増す。彼女は俺の言葉を真剣に受け止め、次の言葉を待っている。
「詳しく説明するよ。あの力が何だったのかを。」
俺は軽く息を整え、頭の中であの時の感覚を言葉にする準備を始めた。
「それで、あの力についてだが……。」
俺は深く息を吐き、記憶をたぐり寄せるようにして話し始めた。
「あの黒い鱗粉の正体は、ナノマシンだ。俺の体から散布されたナノマシンが周囲に充満すると、ああやって目に見えるようになる。」
「ナノマシン?」
「そうだ。普段は俺の知覚を補助するために使われている。俺の目は見えないが、ナノマシンが散布されれば、それが周囲の状況をまるで目で見るように俺に伝えてくれるんだ。」
「知覚を補助するため……。」
ドロシーが腕を組みながら考え込む。その反応を見ながら、俺はさらに続けた。
「それと初めて知ったことだが、竜の形態の時は触角を頭に生やすことで、ナノマシンの操作能力がさらに高まるんだ。それで鱗粉を精密に制御できる。」
「具体的には?」
「散布した鱗粉――つまりナノマシンは、俺の知覚能力を高めるだけじゃない。相対した者に障害を引き起こすこともできる。例えば、動きを鈍らせたりするんだ。」
ドロシーはわずかに眉をひそめた。
「そして、もう一つ……」
俺は少し言葉を詰まらせた。この部分は自分でも完全には理解できていないからだ。
「ナノマシンとは別に、俺は……何か、謎のエネルギーを知覚できるようになった。」
「謎のエネルギー?」
「そうだ。そのエネルギーが何なのかは分からない。ただ、触角が生えて能力が大きく高まっていたから知覚できたんだろう。そして、ナノマシンがそれを補助して、俺はそのエネルギーを使って爆発を引き起こすことができるようになったんだ。」
ドロシーが驚きを隠さずに目を見開き、しばらく考え込んだ後、静かに言った。
「つまり、鱗粉はナノマシンによる補助と敵への干渉。そして、ナノマシンを通じて、謎のエネルギーを操作して爆発を引き起こすことができる……そういうことですね。」
「爆発以外にも何か出来そうだが、そんなところだな。」
俺は軽く肩をすくめた。
「それで……そうだ、俺はシンデレラと一緒に人探しをしてる。そのために情報を得ようと思ってアークを目指していたんだ。」
俺がそう話すと、ドロシーは軽く息をつき、冷静に頷いた。
「その話なら、あなたが寝ている間にシンデレラからもう聞きました。」
俺は少し驚いたが、すぐに納得した。シンデレラにとっては、目覚めてすぐに探そうとするほど大切な仲間なのだ。
ドロシーは少し考え込むように視線を落とし、それから再び俺に向き直った。
「彼女は仲間たちがもしかしたらこの臨時監視所まで来ているのではないかと思っていたようですが……残念ながら、アークガーディアン作戦が始まって以来、第二世代たちやエイブという名を聞いたことはありません。」
「……そうか。」
俺はその言葉を受けて、胸の奥が少しだけ痛むのを感じた。
「それでも、ここまで来た意味がないわけではありません。」
ドロシーの声が少しだけ優しく響いた。
「アーク自体の位置は秘匿されているけど、この臨時監視所の場所は看板やアークを目指した人の流れからも確認できます。人探しや合流地点としては、ちょうどいい目印になるでしょう。」
その言葉に、俺は小さく頷いた。
「確かに、これだけ目立つ場所なら仲間がここを目指してくる可能性もあるな。」
「彼女が探しているエイブたちがこの場所を目指しているかもしれないですし、ここで一度待つというのも悪くない選択肢だと思います。」
ドロシーの提案は的を射ている。確かに、ここに留まることで次の手が打てる可能性は高まる。
「……なら、しばらくここに留まるのも悪くないか。」
俺がそう答えると、ドロシーは頷き、話を続ける。
「それに、ここに留まるのはあなたたち自身のためでもありますけれど、私たちにとっても意味があります。」
俺が首を傾げると、ドロシーは一瞬だけ視線を落とし、それからまっすぐこちらを見つめた。
「……先の戦闘で仲間のピナが侵食されてしまいました。シンデレラはアンチェインドを投与され、侵食を打ち破りました。だから、アンチェインドを探すため、私はシンデレラに案内してもらってヘレティック研究所に向かう予定です。」
「ヘレティック研究所?」
思わず眉を上げる俺に、ドロシーは小さく頷いた。
「ええ。シンデレラが侵食を克服した場所。そこなら、まだアンチェインドが残っている可能性がある。」 「でも、研究所に行くには車でも数日かかります。だからその間、私が抜ける代わりにここを守る人が必要です。」
「なるほど、それで俺に話が回ってきたわけだ。」
俺は納得しつつも、責任の重さを感じた。この場所が敵にとっても重要である以上、ここを防衛するのは簡単なことではないだろう。
ドロシーは再び口を開いた。
「アークの完全封鎖まで、あと2週間。私たちが研究所から戻るまでの間、この臨時監視所の防衛を手伝ってほしい。あなたたちの力を貸してください。」
俺は少し考え込んだが、すぐに結論を出した。
「分かったよ。どうせ俺は行く当てもないからな。少しの間あんたたちの助けになるなら引き受ける。」
「ありがとう。でも、無理はしないでください。アークを守るためには私たちが生きていることが重要ですから。」
「了解。」
ドロシーは少しだけ肩の力を抜いたように見えた。そして、穏やかな口調で続ける。
「ありがとうございます。シンデレラと私は明日にはここを離れる予定です。ヘレティック研究所までの道は長いし、できるだけ早く出発しなければなりませんから。」
「そうか。」
「ひとまず、今日は休んでください。あなたの体もまだ完全には回復していないでしょうし、私たちも準備を整える必要があります。そして明日からは、ここに残るスノーホワイトの指示に従って働いてください。」
「わかった。」
俺が肩をすくめると、ドロシーは「それでは」と立ち上がり、部屋を出ようとする。
だが、その瞬間、俺は自分の状況を思い出した。体中を巻いている鉄線の感触が嫌でも主張してくる。
「ああ、待った!」
ドロシーが振り返る。
「何でしょう?」
俺は鉄線で巻かれた自分の状態を示すように身じろぎしてみせた。
「この拘束、解いてもらえないか?さすがにこれで寝ろって言われるのはちょっと勘弁だ。」
ドロシーは一瞬だけ唖然とした表情を見せた後、小さく吹き出した。
「そうですね……もう危険はなさそうだから、解いてあげます。」
「ありがとう。」
そう答えると、ドロシーは笑みを浮かべながら鉄線を緩めてくれた。その手際は素早く、それでいて丁寧だった。
「これでよし…と。ではしっかり休んで、明日からの働きに備えてください。」
俺は肩を回しながら軽く笑った。
「言われなくても、そのつもりだよ。」
ドロシーが軽く頷き、部屋を出て行く。その背中を見送りながら、俺は久しぶりに体を自由に動かせる感覚を味わいながら、ベッドに横たわった。
100年後の主人公はどのような形態がいいですか?
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シャガルマガラ
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渾沌に呻くゴア・マガラ