魔法少女さんは変身の代償で淫魔化するらしい   作:かい11

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第2話(前) 赤い二人は復讐したいらしい

 

「ショッピングモール」

「……失礼、もう一度。あなたがこのラストチョーカーを手に入れた経緯は?」

「ショッピングモールで偶然拾った」

 

 機関の担当者による質問はただひたすら退屈だった。

 先生についてボクが話す訳がないんだから、どうせならテオラと会話していたかったな。ボクを機関の支部に連れて行った後は別の仕事に向かっちゃった。

 こんな夜まで仕事なんて大変だね。

 

 よく考えたらボクも先生についてあまり知らない。

 でも親が蒸発したボクを拾ってくれた恩人だ。本人から自分のことは他人に言うなと言われているから、恐らくクリーンな人間じゃないんだろうけど。

 

「では、どうして変身を?」

 

「淫魔と戦ってみたかったから? たぶん深い理由はないですよ」

 

 そもそもあの頃のボクを拾ったり、こんな危険なアイテムを与えたり……気まぐれな人なのは間違いない。

 でもこんなに怪しまれるのなら何か根回しでもしてほしかったですけどね。

 

「はぁ……現場判断、不可能。司令官を呼ぶので少しお待ちを」

「そんなに怪しいですか?」

 

「当ッッッたり前でしょ!! 前からいる野良が漸く捕まったと思いながら聞いてたら! 今日初めて変身した未確認ー!? ふざけんなって話よ!」

 

 うーん、仕事ご苦労様です。どうやらこの街にボク以外の野良魔法少女が前からいるらしい。

 ストレスって人の知能を下げる効果があるのかな。怪しい存在だと認識している相手に言うべきでない情報なのはわかる。

 

「おまけに経歴不明、出生届も無い! こんなわかりやすい不審者をそう易々と通せるかーっ!」

 

 そう言えばボクの扱いってどうなるのかな。魂も精神も昔と変わらないけど、肉体が完全に女の子だし。

 今日新しく誕生したのか、今までのボクが変化した姿なのか。一つわかるのは昔も今もボクは鎮羽望奈であることだけ。

 

「まあ蹴ってもいいよ? 暴れ出すかもだけど。個人的には大人しく管理下に置かれに来たんだから、素直に登録するのがおすすめかな」

「んああ……正論なのが余計に腹が立つ」

「それにボクは淫魔を倒してテオラを助けたよ? 本人から聞いてないの?」

「悠胡さんだから不安なんだけど!」

 

 しばらく担当者の人をからかいながら待っていると、扉が開き新たな人物が入ってくる。

 その人は軍人のような……それもかなり階級が高そうな服装だ。今まで担当してた人が咄嗟に立ち上がったことからもボクの予想は当たっている筈。

 

 しかし若い。男だった頃のボクと同じか、ちょっと下くらいかな? ボクは15歳だから世間的には高校生、或いは中学生くらいの年齢に見える。

 何よりの特徴は、その人は男性ということ。国軍ならともかく、機関の人間は淫魔に魅了されるのを少しでも減らすため女性ばかりで構成されていると聞いていたので驚いた。

 

「篝司令官、このような時間に申し訳ありません。ですが私共には手に負えず──」

「問題ない。……しかし幸運だな。結論は既に決まっている」

 

 今までの担当者が後ろへと下がり、司令官と呼ばれた男性がボクの前の椅子に座る。

 凍えるように凍てついた目。流石のボクも少しだけ狼狽えた。

 

「さて、鎮羽望奈と言ったか。オレの名は(かがり)棟也(とうや)。単刀直入に言えば我々はキミを受け入れる。今日からよろしく頼む」

 

「あ……よろしくお願いします」

 

「え、ええ!? はや、早くないですか!? そんな簡単に入れていいものなんですか!?」

 

 それはボクも思った。あまりにも簡単すぎる。

 想定では多少は疑われるのは仕方ないとしても、ボクに敵意がなく貴重な戦力として働けるのを証明しろだとか言われると思ってた。

 

「同意ですね。ボクのような得体の知れない存在をこんなにあっさりと」

「その得体の知れない存在がオレ達の管理下に入ると言うんだ。拒む手はあるまい」

 

 それでも尚心配する担当者の人を無視し篝司令官は続ける。

 

「……後の手続きはオレがやっておく。彼女にホテルを用意してやれ」

 

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 

 おおー、広い部屋。ふかふかのベッドに眺めの良い窓、快適なソファ。

 ボクが知るものより相当大きなテレビに広いお風呂。

 部屋の隅も、床も、トイレも全てが綺麗な最高の空間がボクの前に広がっていた。

 

「ほんとにここで毎日暮らせるんですか! 魔法少女最高!」

 

「オレが知る限り最高クラスの部屋だ。魔法少女はその気になれば何でもできる……不満を抱かれないよう、扱いは慎重にならざるを得ない」

 

「ここで生活できるなら何体でも淫魔を殺せますよ」

 

 ボクは勢いよくソファに寝転がる。

 気持ちいい。今までの簡易的なホームとは比べ物にならない魅力がこの部屋には詰まっていた。

 国家権力、味方になるとこういうのが素晴らしいと思う。

 

 そんなボクを見た篝司令官は周囲を確認した後、扉を閉めて話し出した。

 

「ところで、先程の部屋の会話記録は全て録音されているんだが……この部屋は完全にプライベートだ。その上で質問したい。キミは人間か?」

「仮にボクが淫魔でも人間だと答えるでしょうね」

 

 

「質問が悪かった。──キミは元々、男だったのではないか?」

 

 凍えた。

 な、に? ボクにバレる要素があったとは思えない。

 名前でバレた? 違う。そもそも鎮羽望奈という名前は先生からもらったもので、本名ではないのだから。

 読心能力を持っている? 違う。魔法少女でもないのに現実的に考えてあり得ない。

 知っていた? 最初から。違う。ならばわざわざ情報を開示しない。何も知らないのを装ってボクを泳がせておけばいい。

 カマをかけている? それだ。きっと。でも、ならどうして──。

 

「その反応、どうやら真実らしいな。安心しろ。オレはキミがよく知る人物から情報を与えられている」

 

「……先生か。心臓に悪い。無駄に驚かせないでください」

 

「こう言わないと話さないだろう?」

 

 そもそも疑いを持つのがおかしい、と言われれば確かに反論できない。

 こんなことを聞いてくるのなら既に知っていたと考えるのが妥当か。さっきは焦って気づかなかった。

 

「淫魔の力を宿す魔法少女システム……その代償は既に知っているか?」

「変身する度に淫魔へと近づき、最終的には淫魔化してしまうんでしたっけ」

 

 淫魔化、ねぇ。どうもボクには理解できないな。

 

「そうだ。肉体が変わるに連れ、やがて精神も侵されていく。だが、ある研究者はこう考えた。淫魔化するのは女の魂のみ……男の魂であれば淫魔化を防げると」

 

「……」

 

「その後の紆余曲折はキミには関係のない話だ。オレが言いたいのは、キミが淫魔化する可能性は殆ど無い。同時に唯一信頼できる魔法少女となる」

 

 確かにボクが淫魔化するとは思えない。

 そうか、この機関は根本的に魔法少女を信頼していないんだ。淫魔化する危険性があるから。

 

 その中で淫魔化しないボクは貴重なキーカード。

 篝司令官に伝わっているということは、先生がボクの情報を渡した方が良いと判断したからだと思う。

 同時に先生が信頼した篝司令官はボクの方も無条件で信頼できる存在。

 

「要するにボクは色々と特別って訳ですか」

「ああ。淫魔化した魔法少女は他の魔法少女の淫魔化を促進するようだが、キミには効かないだろう。よって任せたい、淫魔化した魔法少女を処理する役目を」

 

 なるほど。先生の意図を漸く理解できた。

 他の魔法少女と協力して淫魔の撲滅。お役御免となり、やがて淫魔化してしまう運命を辿る魔法少女の根絶。

 それで"全員殺してきて"か。わかりにくい。

 

「元よりボクはそう命じられてここにいます。そのミッション、遂行してみせましょう。どんな相手だって必ず殺す」

 

「……まあ、今はこの街にいる魔法少女はまだ淫魔化していない。しかし疑わしい奴がいてな。最初の仕事はその女の状況調査──場合によっては処理だ」

 

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 昨日、篝司令官から与えられたミッションは二つ。

 現状では淫魔化に最も近いと予測されている魔法少女と会い、その実態を見極めること。

 表向きは新人であるボクが他の魔法少女の仕事内容を見学するという名目。

 

 そして……もし既に淫魔化しており、それを隠しているのなら必ずボクに尻尾を出す。その場合ここで殺すこと。

 

「殺すだけなら簡単だったのに」

 

 スマホでこれから合うのは魔法少女の資料を見る。

 魔法少女オヴェリア。本名、鬼咲(きさき)莉華(りか)

 裕福な家庭に生まれたお嬢様だったが淫魔によって家族を惨殺され、同じ境遇の姉と共に魔法少女に志願したらしい。

 ただ淫魔が女性である母親はともかく、男性である父親も惨殺した意図は不明。その後周囲の家数軒を巻き込んで家は全焼、遺体も焼失している……か。

 

 ボクとしてはそんなことより、最も淫魔に近い魔法少女があのヴァリゼではないことに驚いた。

 機関も司令官もまずはあいつを大人しくさせるべきじゃないの、と思いながらも口出しはしない。命を受けたボクがすべきなのは意見ではなく行動。

 

「ここ、かな?」

 

 大きな屋敷でその魔法少女は待っているらしい。それらしい建物を見つけたので、ボクは中へ入ろうと──いや、止めておこうかな……。

 外見があまりにも古い。雑草は乱雑に生えてるし建物もヒビが入っているように見える。

 

 こんな所の筈がない。

 ……そう信じて引き返そうとしたものの、屋敷から漂う濃厚な魔力がボクを引き止めた。同時に暴力的な気配が激しく自己を主張する。

 

「うわ。やだなぁ……」

 

 仕方なく、本当に仕方なくボクはその屋敷へと入った。

 

 

 

 暗い。中に入ったボクをまず出迎えたのは昼だと言うのに光が差し込まない暗黒と、数多くの首吊り死体。

 ……首吊り死体とは言っても全部ぬいぐるみだけど。

 

 そしてその全てかヤギのぬいぐるみや、ヤギをモチーフにしたキャラクターのぬいぐるみで構成されていた。

 

「ようこそ新人さん。あたしは魔法少女オヴェリア。今は機嫌がいい……多少の無礼は許してあげる」

 

 闇から現れたその魔法少女こそ今回の調査対象であるオヴェリアだった。

 いかにも高級そうな衣装を纏い、コツコツと足音を響かせながらこちらへと近づいてくる。

 

「ちょっと。このあたしが先に名乗ってやったのよ? さっさと名乗りなさいよ」

 

「ん、ああ……そうだね」

 

 ボクは昨日変身したばっかりで魔法少女名が無かった。

 本来なら機関によって予め決められているが、ボクの場合はそれもない。だから昨日の夜、篝司令官から与えられたんだっけ。

 魔法少女としてのボクの名前を。

 

「ボクの名前は──魔法少女エネア。今日は仕事内容を見学に来たって話だけど、場合によっては動くかも」

 

「ふーん。ま、淫魔の場所はもうわかってるし、後は外から叩くだけよ」

 

 そう言うとオヴェリアは屋敷の外へ歩き出した。

 ボクが小声で最初からそこで待ち合わせすればいいのに、と呟くと蝿がいる所は嫌いなの、と返ってきた。わかるようなわからないような。

 

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 

 

 街中をボクとオヴェリアは歩く。

 人通りは少ないものの完全に無人ではなく、通行人は何かから逃げているように感じる。これは……魔法少女(ボク達)がいるからこの辺りの人通りが少ないのか?

 

 でも、変身してもないのに避けられるものなのかな。

 それにボク達より何か別の存在を避けているような雰囲気だ。

 

「そう言えば、テオラと既に会ったらしいじゃない。だとすれば面白い光景が見られるかもね?」

「……どういうこと?」

「これから向かう飲食店にはあたしのお姉様とテオラが来てる筈なのよ」

 

 あー。オヴェリアの姉とテオラが何か目立つようなことをしているからか。

 面倒なことにならなければいいんだけど。

 

 でも現時点ではオヴェリアが淫魔化しているかと問われれば首を横に振る。オヴェリアから感じられるのは人間でも淫魔でもない魔法少女の気配。

 もし既に淫魔化しているなら屋敷に入った時に攻撃を仕掛けてきても違和感はない。

 

「ここ辺りが妥当ね。変身(クライムアップ)

 

 足を止めたオヴェリアは唐突に変身した。

 そして近くのビルの屋上へと一飛び。ボクも慌てて変身して追いかけた。

 

変身(クライムアップ)。目的地はここ?」

「向こうに見えるラーメン屋がそうよ。今からあれを破壊するわ」

 

 掌を向け、魔力を溜めるオヴェリア。

 

「……理由は?」

 

「あの中にお姉様とテオラがいるの。そして淫魔も潜伏している。わざわざ探し出すなんて時間の無駄でしょう? 馬鹿共と一緒に淫魔を吹き飛ばしてやるのよ」

 

「でも民間人もいると思うけど」

 

「はっ、もしかしてテオラに何か言われた? あんなうざいの無視でいいわ」

 

 うーん、理解した。ボクはやっぱりこういうのがやりやすい。

 即座に出現させたナイフでオヴェリアの腕を斬り落とす──つもりだったけど闇が溢れて止められる。その場で回転を加え腕を蹴ることでラーメン屋への魔力球を上空へと逸らすことに成功。

 

「っ、邪魔する気!?」

「司令官はボクを信頼すると言った。民間人を巻き込むのを見過ごせばボクの評価が下がっちゃう」

 

 民間人ごと殺そうとした。これだけの状況証拠があれば充分。

 ただ、オヴェリアは淫魔化した訳じゃない……と思う。既に幾らか悪影響は出てそうだけど、今ならまだ性格がやばいだけで済む。

 

「あんたには床とキスしてもらおうかな。命までは奪わないから安心安心」

 

「こっちも殺しはしないわ。自殺したくなるくらい無様な目に合わせてやる!」

 

 その声と共に、周囲が暗転。陽光は完全に消失……ボク達の周りは夜へと変化した。

 同時に闇に覆われたのを理解する。

 恐らくオヴェリアは闇に関する能力を使う。このカラクリは闇によってこの辺り一体を覆い、夜になったように見せかけていると言った所かな。

 

 なら何も問題はない。

 先程と同じく超スピードでオヴェリアの腹へとナイフを突き刺した。

 肉を刺した感覚、ゼロ。固まった粘液を刺したような何とも言えない手答えから、ボクはオヴェリアの実態を推測する。

 

 きっと闇に何か関係があるんだ。

 あの屋敷が光を拒んでいたのも、周囲を夜にしたのも光を遮断するため。

 しかしボクは光るものを持っていない。じゃあ光以外の弱点を考えないと。

 

「速いだけで最強と勘違いする愚考……このあたしに噛みつく誤謬……後悔は済んだ?」

 

 闇の中から複数のオヴェリアが巨大な斧を持って突っ込んでくる。更に闇の塊らしき翼が生え、空中を自在に動き回っているようだ。

 数体の斧をナイフで受け流した後、ボクも空へと跳ぶ。足を狙って斧が振るわれたのが見えたから。

 

 しかし、その選択は大凶。

 

「空が安全な時代はとっくに終わったの」

「──やばっ」

 

 三人に分裂したオヴェリアが斧をギターのように持ち替える。

 一瞬わからなかったその意図は音波攻撃の三重奏で身を持って味わった。地面へと弾き跳ばされるも着地には成功、だが被弾の代償として次の攻撃を避ける手段が存在しない。

 

「『ロードオブミルキィ』」

 

 闇の翼から放たれた閃光をボクは避けられなかった。

 しかしそれは痛みを伴うものでなく──?

 

 困惑するボクを前に、オヴェリアは一人へと戻りしたり顔でボクの前へと現れる。

 

「ふふ、当たった。お前の人生も終わりね」

「……? 勝った気でいるのならまだ早いよ」

 

 

「まだわからない? お前はこれからぶちまけるのよ────魔力でできた母乳をね!」

 

 は?

 確かに胸は何かむずむずする、けど。そんな気持ち悪い魔法がこの世に存在するの……?

 

「『ロードオブミルキィ』に当たった者は胸から魔力……いえ、母乳を出し続ける。魔法少女の場合は変身解除まで、淫魔の場合は死ぬまで。変身解除すればこの魔法も解除してあげるから……精々踊りなさい」

 

 

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