キヴォトスの塵塚さん 作:装甲アッサム春雨
ゴトゴトとオンボロトラックに揺られて、今日も貧乏暇なしな二人は仕事へ向かう。
「いやー、隊長。今日は大口で助かったね」
「ああ、まさかまさかの万魔殿からの依頼とは、こりゃ結構入ってくるかも」
ハイウェイを降り、下道に入ればこれぞゲヘナと混沌とした古きと新しきが混在したトリニティとは違う街並みが広がっている。
「はー、すご……。トリニティっぽい煉瓦造りの隣にビル建ってるし、その隣は廃墟だ……」
「好き放題、好き勝手。一応、ルールはあるけどそれでもか」
トリニティなら一発で何かしらの法に引っ掛かって取り壊しになりそうな街並みを抜けると、そこはまた違った顔を見せてくる。
「うわ、今度はこれオフィス街っやつ?」
「その癖、廃墟じみた建物あるし意味わからんな」
赤信号で停まっている間、街並みをキョロキョロと車窓越しに見渡し、トリニティとの違いに驚く二人。
「とりあえず無節操だね隊長」
「ああ、それに……」
通り二つ程離れた場所で爆発が起きた。
今日、ゲヘナに入って大体二時間程、この短い時間で四回爆発を見ている。
これがゲヘナかと二人は戦々恐々としながら、トラックを走らせ目的地へと向かう。
そこはゲヘナ学園、トリニティ総合学園とは犬猿の仲であり、この毎日事件が起きるキヴォトスでも最多の事件数を誇る学園だ。
「毎度、塵塚ダストシュートです」
「ああ、入校証を」
「これで」
塵塚は端末に事前に送られてきた電子入校証を、裏門の受付に見せた。
「通っていいよ。今日はよろしくね」
「お世話になります」
それを見て手元の端末を確認した受付は、端末を操作し門を開ける。
「これまた……」
「豪勢というか豪奢というか……」
遠目からも確認はしていたが門を潜り、全貌が視界に入ると二人は圧倒される。
トリニティ総合学園の校舎とはまた違う威容。
これをどう表現するか。
「王宮とか宮殿かな隊長」
「成る程、それだわ」
トリニティ総合学園が神殿や聖堂なら、ゲヘナ学園は王宮や宮殿と言うべきだ。
似通った部分も多々あるが、全体的な威圧感はトリニティで言われる悪魔の館に相応しいものだ。
トリニティが荘厳ならゲヘナに豪奢、それもあまり嫌味の感じない絶対強者が放つ雰囲気だ。
「はー、すっごい。けど、あれ……」
「なんだろな? あれ」
その絶対強者の雰囲気の中に堂々と天を突く金色の像がある。
あれは確か、塵塚の記憶に間違いがなければゲヘナ学園総首長の羽沼マコトだと思うのだが……。
「なんであんな世紀末覇者な見た目に?」
「威厳とか、なんかあんのかな?」
謎に厳つい像を横目に、依頼時の指示通りにトラックを校舎の近くに停める。
時刻は午前9時半、予定より若干早いが問題は無い。
「隊長、この扉の細工とか直せって言われたら、逃げる自信があるよ」
「逃げるな逃げるな。しかしまあ、気持ちは分かる。アタシもちょっと勘弁してもらいたいな」
豪奢な金細工に、これはまさか螺鈿ではないだろうな。
いや、まさかそんな事はあるまいと、恐る恐るドアノブを回せば、二人が頭痛を覚える絢爛豪華な廊下が出迎えた。
「隊長、怖い」
「これとか割ったら、破産確実だろ……」
トリニティではティーパーティーの校舎以外で、早々無い高級な調度品が廊下の端々に飾られ、これでもかと存在感を主張している。
トリニティの然り気無く鏤める景観ではなく、見せ付け圧倒する力こそパワーな廊下だ。
「やっぱり、三大校って金あるよね……」
「そりゃなあ……」
この絨毯も踏んでもいいものかと、おっかなびっくりしながら廊下を進み、指定された扉の前に辿り着く。
その扉もまた、絢爛豪華な細工が施されながらも使い込まれた艶のある木目と細工だった。
「……失礼します。ご依頼により参上しました。塵塚ダストシュートです」
ドアノッカーを叩き、来訪を伝える。
すると扉が開き、中から目立つ赤毛の塊と表現出来る少女が二人を出迎えた。
「万魔殿の棗イロハです。本日はわざわざご足労いただき有難う御座います」
「塵塚ダストシュート代表の塵塚アヤコです。こっちは御手洗ショウコになります」
「よろしくお願いしまーす」
イロハは目立つ赤毛を揺らして頷くと、部屋の奥にあるソファーへと二人を案内する。
「本日の依頼、古紙回収の筈でしたが変更がありまして」
「変更、ですか?」
「はい。あ、こちらは召し上がって頂いて構いませんので、どうぞ」
「ああ、これはすみません」
イロハが差し出したのは、上品な紙の包みの饅頭だった。
「ゲヘナ名物の一つ、温泉饅頭と珈琲です」
本日のおやつ
ゲヘナの温泉饅頭¦非常に上品な包みで、中身も上品。蒸し上げられた生地はしっとりとしながら、蒸しパンの様な弾力がある。
中身はこし餡で、これもまた上品な甘さと舌に残らないさらりとした口融けで美味。
珈琲¦香りが良く、苦味もそれ程強くない。珈琲独特な甘味と酸味の方が強く、優しい甘さの饅頭とよく合う。
三人は饅頭と珈琲を供に、仕事の話を進めていく。
当初の依頼では古紙の回収だったが連絡に不備があり、古紙の回収ではなく破棄の作業依頼だった。
「つまり、万魔殿主導の元でそちらの書庫にある古紙を全て破棄する。でよろしいですか?」
「はい、大変申し訳ありませんがそちらの方でお願いしたいのですが、構いませんでしょうか?」
「ええ、問題ありません。破棄する場所が業者かこちらかの違いだけですので」
「では、お願い致します」
そして、十数分ほどイロハと内容を詰めると三人は現場となる書庫へ向かった。
「書庫に必要な機材と人足は用意していますので、存分に使ってください」
「これは何から何まで申し訳ありません」
「いえ、こちらも面倒を掛けていますので……」
「……キキキ、待っていたぞ」
書庫の扉を開けた先には、あの世紀末覇者像のモデルとなった人物の羽沼マコトが居た。
「……マコト先輩、こちらは古紙の破棄を依頼した塵塚ダストシュートの方達です」
「キキキ、知っているとも。だが、この資料は万魔殿の最重要機密、このマコト様抜きに破棄はさせんぞ」
「では、依頼は無しという事で?」
「あ、無視してもらって構いませんので」
「なにぃ?!」
「は、はあ……」
とりあえず古紙、万魔殿の最重要機密という資料の山の破棄に移る。
しかし流石というべきか。量が凄まじい。
纏められた資料の束は、塵塚ダストシュートの事務所を埋め尽くして溢れんばかりの量がある。
そして、そのどれもが透けて見えない様に厚紙で挟まれている。
人足は充分だが、これは一日仕事になるかもしれない。
「しかし、凄まじいですな」
「キキキ、そうだろう。トリニティではこのような豪奢な部屋は無かろう。キキキ」
書庫の椅子でふんぞり返ったマコトが誇らしげに言う。
塵塚的にはちょっと邪魔なので、依頼者でなければこの資料の山と一緒に運び出している。
「……あれ? すいませーん。この束も破棄します?」
「ん? ああ、……それは最も厳重に破棄してくれ。むしろ、焼却炉に行かずこの場で燃やしてもらっても構わない」
御手洗が資料の山から発掘したもの、それは他の資料よりも厳重に包まれた冊子の束だった。
「え、でも結構な装丁の本ですけど……」
「構わない。それだけは完全に灰にしてくれ」
「はあ、畏まりました」
先程までの居丈高な態度は消え、一転して冷徹な目で御手洗が抱える束を睨んでいた。
それは悪魔の長と呼ばれる万魔殿の首長の顔だった。
「それじゃ、これは私達より皆さんにお任せします」
「了解しました」
「完全に灰にしろ。分かったな? ……いや、私も行こう」
「は、はい!」
「まだ残っていたとは、まったく忌々しい……」
万魔殿の人足の反応から、普段のマコトとは違うという事が判る。
一体あれが何なのか。気にはなるが、自分達が知ったところで不利益にしかならない事は明白だろう。
それに塵塚は権力者と必要以上に関わる気は無い。
「ショウコ、他にも似たようなのが無いか探して。アタシはこっちの山を崩してく」
「りょーかい」
さっさと仕事を終わらせて飯食って帰ろう。
塵塚はそう決めると、動きを速めた。
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「つっかれた……」
「これは中々に骨が折れる」
資料の運び出しは八割程終わった。これは万魔殿の人足達の働きのお陰だ。
あとは順次焼却炉に放り込んで、全て灰になるのを見守るだけだ。
「これはガツンと腹に入れないと保たない」
「食堂があるって話だったけど……」
辺りを見渡すと、あった。
食堂と書かれたプレートが天井から吊り下がっている。
「今日のメニューはカツカレーだ!」
「やった! ガツンとくるやつ!」
空腹を抱えた欠食児童二人は、まだ誰も並んでいない食堂にトレーを持って駆け込む。
「カツカレーください! 大盛りで!」
「こっちも同じく」
「はーい、お待ちくださいね」
二本角の生徒が手際よく更にカレーを盛り、その上に揚げたてのカツを乗せて、二人に渡す。
「どうぞー。って、うちの生徒じゃない?」
「ああ、万魔殿からの依頼で来ました塵塚ダストシュートの者です。今日の様に廃品の処分等々代行してますので、何かありましたらこちらへ」
愛清フウカと名乗った生徒に、塵塚は名刺を渡す。
「あ、清掃代行もやってくれるの?」
「ええ、請け負ってますよ」
「なら、今度お願いしようかしら」
「是非、お願い致します」
塵塚は簡単に業務内容をフウカに説明して、先に席を確保していた御手洗の元へ着く。
本日の昼食
カツカレー¦極々一般的なカレーに揚げたてのカツが乗っている。一切変化球無しのニンジンジャガイモタマネギたっぷりの甘口寄りのビーフカレー。
こういうのでいいんだよこういうので、と何処からか聞こえてきそうなカレーだ。
カツも厚めなロースカツで嬉しいし、福神漬けは赤い。
こういうのでいいんだよこういうので。
サラダ¦レタスと茹でブロッコリー、ついでにパイナップルが入ってる。まさかの組み合わせだが、辛いカレーにこれは嬉しい。
「では、いただきます」
「いただきます!」
スプーンで白飯とカレーを半々にして掬い、口に入れる。
そうすると、口の中は一気にカレーになる。
つまり祭りだ。
スパイスの辛みと香りが食欲をそそり、野菜と肉の甘味と脂がスパイスの刺激をまろやかにしていき、スパイスと野菜と肉の祭り囃子をどっしりと白米が受け止めている。
更にカツをスプーンで割って、カレーと一緒に頬張れば、カツという神輿の乱入だ。
もうこれは祭りと言う他ない。
そして、この付け合わせの福神漬けとサラダが更に祭り囃子を加速させる。
カレーという屋台と祭り囃子の群れと、カツの神輿の大騒ぎにちょっと疲れたら、福神漬けの複雑な酸味とサラダの瑞々しさ、そしてサラダのパイナップルの甘さが祭りの中にある神社の森の様な休憩スポットになる。
この休憩スポットが肝だ。
これがカツカレーという祭りを、一段上のものにする。
カーニバルやフェスティバルという言葉は相応しくない。
米という土台にカレー達が思い思いに騒ぎ、その騒ぎに疲れたらサラダと福神漬けという休憩スポットで、その騒ぎを眺めながら思いを馳せる。
祭りという環境だからこそ、このカツカレーとサラダだからこそ魅せる事の出来る最高の一時。
「旨い」
「隊長、おかわり大丈夫かな」
「動けなくなるまで食わなきゃヨシ!」
「じゃあおかわり!」
「アタシもする」
結局、二人共にカツカレーをおかわりし、昼からの作業は欠伸混じりになった。
だが、給食部からは次回の清掃代行の仕事が入り、万魔殿からも優先して依頼を回してもらえる事となり、二人の懐事情は改善されていくのだった。
次回はアビドスかミレニアム
けと、ミレニアムって何かあった?
次回
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