キヴォトスの塵塚さん   作:装甲アッサム春雨

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ミレニアムのハンバーガーとピザ

今日も今日とて、オンボロトラックに揺られて現場に向かう二人。

今日の現場はトリニティとゲヘナとも違う街並みのミレニアム。

 

「ビルばっかだ」

「流石はミレニアムだな。あれとか、最近発表された最新鋭の車だ」

「あっちは自動運転の重機だよ」

 

このキヴォトスの科学技術が生まれる場所、その呼び声に相応しい風景は機械と技術が乱立する光景は、電子機器を専門としない二人すら目を輝かせる展覧会の様であった。

 

「あ、爆発」

「誰か暴れた?」

 

少し離れたビルで爆発が起きたが、すぐに消防車が駆け付けてきた。

 

「うわ、消防車も自動だ」

「あれだと、ビル一つに消防車が専属で就いてるのかね」

 

燃えるビルはすぐに消火され、白衣を着た人々が軽い様子で白衣を叩きながらゾロゾロと歩いてビルから出てくる。

 

「実験失敗的なやつ?」

「かもな」

 

このミレニアムでは当たり前なのだろう。

事故現場から離れはするが、人々は慌てる様子は無い。

 

「実験失敗でビルの階層がぶっ飛ぶのが当たり前かー」

「スゴい世界だね隊長」

「よし、なんかに巻き込まれる前に現場行こう」

「アイアイマム」

 

塵塚が言うと御手洗がアクセルを踏み込み、トラックは疲れたエンジン音をたてて加速した。

 

 

 

 

 

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「いやぁ、依頼を受けてもらって助かるよ」

「いやいや、こちらこそご依頼いただき有難う御座います」

 

事前に聞いていた車庫にトラックを停め、実に近未来的な建物のミレニアムサイエンススクールの一室に入る。

そして、依頼主である白石ウタハに挨拶を通し、塵塚が依頼内容の確認していると、ウタハが少し苦い顔を見せた。

 

「……すまない、依頼内容に加えたい事があるんだ」

「なんでしょう?」

「依頼はミレニアムジャンクヤードからのパーツ回収に変更は無い。だが、念の為に武装をしてほしい」

「武装、ですか? 我々は荒事、所謂戦闘をお断りしております」

「ああ、いや、何と言うか今朝、そのジャンクヤード内でまだ稼働状態のロボが発見されたと、報告があってね。自衛の為に武装をお願いしたいんだ」

 

勿論、依頼を受けてくれるならで構わない。ウタハはそう続けて、塵塚の返事を待つ。

さて、これは困った。塵塚達は色々な理由から戦闘行為が絡む依頼を断っている。

だが、ウタハはあくまでも自衛の為の武装と言って、明確に戦闘が起きるとは断言していない。

銃社会のキヴォトス、二人も自分の武器を持っていないという訳ではないが、戦闘は不得手だ。

塵塚は御手洗の顔を横目で見る。若干動揺はしているが、落ち着いてはいる。

塵塚としては荒事は何としても避けたいが、この収入が無くなるのも何としても避けたい。

シスターフッドや給食部からの定期的な依頼で、収入は安定しているとはいえ、二人の専門は古道具、所謂アンティークの修繕と保全だ。

これには金が掛かる。ただ使い込まれた道具なら、新しい部品に交換したり、元々の部品の補修ぐらいで済む。

しかし、由緒ある品の場合はそう簡単にはいかない。

木製ならそれに使われている木材を選び、その中から木目や質まで厳選する必要がある。

それに加えて、塗料や接着等に使われた薬剤も当時の物を使用するか再現しなければ、その品が過ごしてきた時間という絶対的な価値を失う事になる。

木製の品だけでもかなりの手間と金が掛かり、他にも金属や石材まである。

古道具修繕の主な依頼主のシスターフッドからの依頼は、結構な額の援助はあるとは言え、それでも足りない。部品の仕入れ等は馬鹿にならない出費がある。

そして、塵塚と御手洗は二人して大飯食らいだ。

家計簿のエンゲル係数が占める割合はかなり高い。

空きっ腹を抱えて仕事はしたくないし、稼業に支障来すのも避けたい。そして、新たな顧客を逃がすのも何としても避けたい。

御手洗も同じ様で頷いている。

ならば、曲げるのは信条だ。

 

「……分かりました。依頼内容に了承します」

「本当かい! 有難う! お礼になるかは分からないが、依頼料に加えて君達のトラックの整備、あと装備や経費もこちらで持とう」

「よろしいのですか?」

「構わないとも。こちらの都合で君達の信条を曲げさせたのだから、これでも足りないと思っているよ」

 

ウタハの顔を見ると、本当にそう思っているのか実に申し訳無さそうに眉を下げている。

 

「あと、君達の安全の為にバックアップは任せてくれ」

「至れり尽くせりで恐縮してしまいますな」

「気にしないでくれ。私達としても、君達の様な人に会えて嬉しいんだ」

「はあ」

「カメラ越しにだが、あのトラックはかなり大事に使い込まれているね」

「まあ、唯一の移動手段ですから」

「いやいや、物を大事にする人間はそれだけでも信用に値する。私達の様な物作りにとってはね」

「……恐縮です」

「よし、恐縮ついでに準備を始めよう。皆、作業開始だよ」

 

ウタハの号令にエンジニア部の面々が動き出した。

 

 

 

 

 

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「隊長ー、そっちは?」

「こっちも問題無し」

『こちらウタハ、右前方に反応有り。捜索を頼む』

「了解」

 

耳元から聞こえるウタハのナビに従い、塵塚達はエンジニア部制作のターレットトラックに乗り、アームを操作してジャンクの山を掘る。

エンジニア部が作ったターレットトラックは、作業用のアームと回収用のカーゴがあり、Wi-FiとBluetoothも完備らしい。

 

「うわー、これ欲しい」

「置く所無いし、管理しきれないものは持たない方がいい」

 

これがあれば、鉄屑漁りも楽になるだろう。だが、二人のオンボロトラックと違い、このターレットトラックは最新鋭の電子機器の塊でもあるミレニアムのエンジニア部製だ。

電子機器を得手としていない二人では、早晩にお釈迦にしてしまうのがオチだろう。

 

『気に入っていただけた様で何よりだ。しかし、これもまだまだ試作機の段階。君達に渡すには、私達の納得の出来ではないね』

「あちゃー、ダメかー」

『整備性に重点を置いたものなら別で作れるから、また今度送ろう』

「あまりこいつを甘やかさんでください。この間も依頼主に餌付けされてたので」

「えー、いーじゃん隊長」

「お前ね……」

 

御手洗が口を尖らせ、塵塚が嘆息する。

御手洗は妙に他人の懐に入るのが上手い。

気付けばこうしてフランクに依頼主と話している事があり、塵塚は時折肝を冷やしていたりする。

 

「でも、武装してって話だったけど何も無さそうだね隊長」

「そういうのフラグって言うんだぞ」

『ははは、今のところ何も反応は無いから安心……。警戒してくれ』

 

ウタハの言葉に二人は背負っていた銃を構える。

ターレットトラックの運転は自動に切り替わり、ジャンクヤードから離れ始める。

 

『反応は前方だが、こちらに来る気配は無いね。念の為、依頼はここまでにしよう』

「よろしいので?」

『構わないとも。もう充分な量は集まったからね』

 

ウタハがそう言うと、塵塚と御手洗は胸を撫で下ろし、自動運転となったターレットトラックに運ばれるまま帰路に着いた。

この時、ウタハが警戒した反応の奥。ジャンクヤードの最奥で、やけに頭が平たい珍妙なセンスのロボットが二人を見ていた事は、終始誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

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「万魔殿以来の実入りだったね」

「まさかまさかの実入りだわこれ」

 

塵塚が助手席で車載ラジオを弄りながら、御手洗の言葉に頷いた。

あの後、ジャンクヤードからパーツを持ち帰り受け取った報酬は、予想以上のものだった。

 

「ラジオも空調も直って、ガソリンも満タンにしてくれるとか、エンジニア部は神がなんかなのかな」

「これ、ミレニアムに足向けて寝れないよ」

 

規定の二割増しの金額に加えて、オンボロトラックのレストアまでしてくれた。

お陰でノイズばかりのラジオは最新のヒットチャートを奏で、生温い風しか吐き出さない空調はしっかりと要望に合わせた温度を提供してくれる。

エンジニア部様々である。

 

「危うく自爆装置付けられそうになったらしいが、そこは止めてくれて助かった」

「私達が自爆する時は破産する時だけだもんね。隊長」

「まあ、暫くは破産は無いと思いたい」

 

エンジニア部の約二名がWi-FiとBluetooth、ついでに自爆装置を付けようとしたらしいが、ウタハがそれを止めたらしい。

二人の相棒のオンボロトラックは、実はミレニアムではアンティークの域に片足を突っ込んでいるらしく、今の自分達の技術で何処まで最新鋭に近付けるかを試そうとした余波でそうなりかけた。

だが、事前に二人の専門を調べていたウタハが、それが二人の美学と矜持に反すると部員達を止め、傷んでいた箇所の修繕とタイヤ交換で納めてくれた。

 

「代わりに次のエンジニア部からの依頼はロハで受けるけどね」

「ここまでしてもらって、また同じってのはねぇ」

 

次回があればロハ、そう決めてオンボロトラックこと、新生オート三輪の〝リチャード一世〟を夕方のミレニアムに走らせる。

そんな二人の胸中は共通している。

 

「「腹が、へった……」」

 

さあ、店を探そう。

だが、ここで一つ条件を塵塚は御手洗に出す。

 

「いいか、ショウコ。安くて量が出る店だ。臨時収入はあったが節約しないと、次の聖堂の修繕で自爆する事になる」

「自爆はヤダよ隊長! もう無料の食パンの耳の隊長が採ってきた謎野草絡め塩味はヤダ!」

「それなら店を探そう。とにかく安くて腹がはる店!」

「焼き肉チェーン!」

「ばっかお前、それ結局高くなるやつ」

 

増設されたナビに付近の飲食店を検索するも、二人が走る近辺にはちょっとお高い店か、結局高くなる店ばかり。

さあ、どうしたものか。せっかくミレニアムまで来たからには、それらしいものを食べたい。

地味に大飯食らいな二人は、コンビニの駐車場でナビに張り付き、とにかくそれらしい店を探す。

そして、見つけた。

 

「ミレニアムダイナー! ハンバーガーにピザ!」

「よくわからないけど、ミレニアムっぽい!」

 

飲食店が群れを為す通りからちょっと離れた所に、ポツンと一軒のダイナーを見つけた二人は、そこへと車を走らせる。

空腹を抱えた二人には永遠とも思える三十分、パワーアップしたオート三輪のエンジン音が止まると、そこは実にレトロな雰囲気の店だった。

 

「うわ、スッゴい映画に出てくるやつー!」

「電飾の切れ具合に寂れた感じが良い!」

 

建材もミレニアムでは珍しい木造建築で、トリニティの古い建築に慣れた二人は親しみが持てる。

と、そこまで考え感じはするが今はこの空腹が第一だ。

店に飛び込み、空いたボックス席に座ると二人でメニュー表を広げ、頭を突き合わせてメニューを選ぶ。

 

「隊長、ステーキある」

「お前、値段見てみ? これでハンバーガー三つ、セットなら二つだ」

「でも、この間見たカビゾンビの映画でゴリラの隊長が食べてた……」

「……また今度な。今のアタシ達はハンバーガーとピザ腹なんだ」

 

だからこそ、この少ない種類のハンバーガーとピザから選び抜かねばならない。

さあ、どれだ? 

二人に好き嫌いは無い。

 

「シーフードピザ……、いやペパロニも捨てがたい」

「ハンバーガーはビーフのダブルでいいかな」

「それでいこう。ならピザも王道のマルゲリータで」

「サイズは?」

「勿論Lサイズ! コーラで!」

 

二人は注文を終えると、店内の装飾を観察する。

映画でよく見る派手な赤が椅子やテーブルに使われ、床は白と黒のチェック柄に統一されている。

インテリアもレトロな雰囲気でまるで映画の世界に居る様な気分になる。

 

「あれとか使えそう」

「あのラジオも外装を変えればトリニティでも受けそう」

 

全体的に派手過ぎる外観はトリニティの古めかしい街並みには合わないかもしれない。

だが、それも工夫次第。二人は装飾品を観察しては携帯でメーカーを調べ、手帳に記入していく。

 

「お待たせしました」

 

一通りメーカーを調べ終えたタイミングで、ついに来た。

 

 

本日の夕飯

ハンバーガー¦ビーフパティ、レタス、トマト、チーズのシンプルなハンバーガー。だけど、パティは自家製の分厚いのが二枚にトマトも厚切りが二枚で、チーズも良い感じにとろけている

ピザ¦よくある薄いピザ生地ではなく、ふかふかもっちりな厚い生地。よく見るとトマトソースは自家製っぽく果肉がある

コーラ¦グラスにたっぷりの氷が浮いた市販品。こういうのでいいんだよ

 

 

「では」

「「いただきます!」」

 

二人は迷いなくハンバーガーを掴むと、がぶりと食らいついた。

そして牛肉とチーズの二種類の甘味と旨味が口中を駆け回り、トマトの酸味とレタスの瑞々しさがそれらを宥める。

いや、宥めていない。

 

「うわ、スッゴい……」

「溢れるし垂れる……!」

 

パティの肉汁とスパイシーなソースが野菜の優しさを蹴り飛ばし、これでもかと主張してくる。

それにチーズだ。これが更に濃厚さを刺激して、シンプルに二人の飢えた食欲を刺激する。

そして、半分程を飲み込んだところでコーラを流し込む。

この容赦なく冷えたコーラの炭酸が、口を支配する濃厚さを洗い流して、また振り出しに戻してくれる。

これにより何時でも最初の感動を味わえる。

 

「この組み合わせ発見した人、天才だよね」

「ああ、これは永久機関だ」

 

ハンバーガーを平らげ、ピザに取りかかる。

一人一枚のLサイズ。容赦ないカロリー。

だがそれがいい。

ふかふかもっちりな生地に乗ってやってくるのは、爽やかかつしっかりとした味わいのトマトソース、そして全てを飲み込みながらも消さないチーズ、その波乱の中にちらりと顔を見せるバジルの鮮烈な香り。

これに生地の僅かな甘味が加わり、そこに流し込む氷でちょっと薄くなったコーラ。

二人は最早永久機関の蒸気機関車。ハンバーガーとピザという石炭を炉にくべて、コーラの水で機関を回すのだ。

 

「チーズ伸びるー」

「最高ー」

 

手の汚れも行儀の悪さも何のその。そんな事を気にしては、このご馳走は食べられない。

ついでのタバスコで更に加速のターボブースト。

ターボエンジン搭載の蒸気機関車二両を止める事など、誰が出来ようか。

皿にへばり着いたソースも生地の耳でこそいで、残さず食べた二人は最後に残った薄くなったコーラを流し込み、やっと終点に着いた。

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

手を合わせ、伝票を持ち会計を済ませる。

二人の寂しい財布にも優しい価格で、更に満足した二人はオート三輪に乗り込み月夜のミレニアムからトリニティへの帰路に着いた。

 

「今度はトリプルいっちゃおう」

「ついでにピザはシーフードいってみよう」

 

新生オート三輪のパワフルなエンジン音に揺られて、二人は次の予定に涎を垂らした。




オート三輪
リチャード一世。御手洗が中古で拾ってきた。
前のオーナーが魔改造をしていたらしく、空調ラジオ完備だったがまともに動く事はなかった。
だが、今回で復活&パワーアップ

次回

  • トリニティのトリニティビーフ
  • 百鬼夜行 初めての生魚 寿司
  • DU地区のさば味噌定食
  • 二人の地獄の自炊
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