キヴォトスの塵塚さん   作:装甲アッサム春雨

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仕事がね、忙し過ぎて死んでた


アビドス柴関ラーメン

「隊長ー、砂しかなーい」

「そりゃー、除雪ならぬ除砂作業依頼だからー」

 

オート三輪に揺られて、二人が向かうのはアビドス高校。

しかし地図を頼りに進めども、一向にその影すら見えない。

 

「うひー、ガソリン入れてきてよかったー」

「燃料切れで立ち往生とか、砂漠の真ん中で笑えんから」

「ホントだよー。おっと、ここを右折」

「はいよ」

 

御手洗のナビに従い、塵塚がハンドルを回すとそこはまた一面の砂世界。

どうにか道路が砂に埋まってない事だけが救いの様な光景に、二人はアビドスに入る前に買っておいたカロリーバーを口の端に噛む。

 

「隊長、ホントにあるの? 学校」

「無かったら依頼来ないって」

「でも、一面砂漠だよ」

 

さて、どうしたものか。

御手洗の言う通り、砂漠しかない光景に塵塚は頭を捻る。

依頼は確かにアビドス高校から、校内の除砂作業だった。しかし、行けども行けども砂しかない。

 

「連絡してみる?」

「いや、なんか見えてきた」

 

道路に積もった砂に若干足を取られながらも、どうにか進んだ先にある砂丘の向こう側に建物があった。

 

「あれ、学校じゃない?」

「それっぽいな」

 

コンクリート造りの四角い建物、トリニティではあまり見ない造りだが、たくさんの人が校門と思わしき場所に居るので、違っても道は聞ける。

 

「って、あれ?」

「どうした?」

「確か、アビドス高校って廃校寸前で十人も居ないって、噂で聞いた様な」

「なら、ありゃなんだ?」

 

遠くに見えるアビドス高校と思わしき場所には、十人ではきかない人数が集まっている。

所詮は噂とするには、なにやら剣呑な雰囲気もある。

 

「荒事か?」

「なんか、それっぽいね。様子見る?」

「そうしよう。巻き込まれても迷惑なだけだし」

 

二人は車を停め、人だかりが居なくなるのを待つ事にしたが、暫く待っても居なくなりそうにない。

 

「はあ、行くか。……前進」

「前進、ヨーソロー」

 

このまま待っていても燃料が減るだけだと、やはりアビドス高校と思わしき場所に向かう事にした。

そして、近付くと見えてくるキヴォトスではよく見覚えのあるヘルメットの集団。

 

「ヘルメット団だ」

「停止ー。アビドス高校に連絡」

「ヨーソロー」

 

まだ仕事も始めていないのに、既に疲れた顔で塵塚は携帯を手にアビドス高校に連絡を入れる。

 

「毎度お世話になっております。塵塚ダストシュートの塵塚です。現在、そちらの近くに来ているのですが、どうにもお客様方が大勢いらっしゃる様でして……」

 

若干の苛立ちを隠しながら、塵塚は丁寧に普段通りの口調で話す。

もし、除砂作業と称してヘルメット団とのいざこざ解決の依頼だった場合、即座に帰宅して契約金の払い戻しと、違約金の請求書を作らなければならない。

 

「はい、ええ、ええ、そうでしたか。では、私共はこちらで待機しております」

「どういう感じ?」

「すぐに排除するってさ」

 

言うなり銃声の応酬が始まった。

少し離れていても聞こえる馴染みの音はすぐに収まり、ボロボロのヘルメット団散り散りに逃げていく。

 

「終ったみたいだから行くぞー」

「アイアイマム」

 

塵塚はアクセルを踏み、砂にタイヤが滑らない様に車を進める。

すると、群れからはぐれたヘルメット団の一人がこちらに向かってきた。

 

「おい! 車を寄越せ!」

「……どけ」

「うるせえ! 降りろ!」

「……ショウコ、ハンドル」

「アイアイマム」

 

運転席を御手洗と交代し、塵塚は一人車から降りてヘルメット団と相対する。

 

「丸腰で何する気だ?」

「こうする」

 

おもむろに構えた右拳を羽虫でも叩くかの様に、塵塚はヘルメット団の顔に叩き込んだ。

 

「はぁ……、行くぞー」

「アイアイ」

 

たった一発、それだけで塵塚の拳はヘルメット団のヘルメットのバイザーを砕いて相手を気絶させた。

 

「隊長、大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ。気分悪いや」

「じゃ、早く終わらせて何か食べよう」

「それが一番だ」

 

助手席でカロリーバーを水で流し込みながら、二人はアビドス高校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かりました。どうにも人手が足りなくて」

「いやいや、こちらこそ。しかし、この程度でよかったんですか? まだ校庭の方には砂が積もってますが」

「ええ、まあ……。でも、校舎内の除砂作業依頼ですから」

「そうですか。では、もしまたお困りでしたら、こちらにご一報ください」

 

アビドスの書記だと言う奥空アヤネに名刺を渡し、塵塚は校庭に視線を向ける。

果てがない。

校舎内だけでなく、校庭やその他の風景のほぼ全てに砂がある。

砂漠の中に町があるとは違う。砂漠に町が飲み込まれている。

一応、名刺を渡しはしたが、これでは一年と保たずにアビドス高校は無くなるだろう。

 

「隊長ー、資材の積み込みと窓の目張り終ったよー」

「分かったー。すぐ行く。では、私共はこれで」

「はい、報酬は明日の昼までに振り込んでおきます。本日は有難う御座いました」

 

お辞儀をし、車に乗り込む。

もしかしたら、次の依頼は無いかもしれない。

砂漠に飲み込まれていく町と五人しか居ない学校、このキヴォトスでアビドスが生き残る未来はほぼ無いだろう。

 

「隊長、こっからどうする?」

「まずは飯だ」

 

だが、今は他人の心配より自分達の腹の心配だ。

 

「何食べよう」

「落ち着け、アタシ達の腹に従うんだ」

 

アクセルを踏み、自分達の腹に問いかける。

自分達は今、何腹なんだ。

砂漠しかないアビドス、しかしまだ無事な町はある。

そして、砂漠の中での除砂作業という重労働で兎に角汗を流している。

つまり、塩気が欲しい。だが、何となくな水気も必要だ。

塩気と水気、完全に喉が渇く組み合わせ。だが、今の自分達にはそれが必要だ。

そしてそれらを満たす存在、それはなんだ。

砂漠を抜け、少し寂れたネオンが僅かに灯る町に入り、二人はそれを見つけた。

 

「「ラーメン!!」」

 

〝柴関ラーメン〟と書かれた看板を見つけ、急いで車を駐車場へ停めると、二人は一気に駆け込んだ。

 

「いらっしゃい」

「「ラーメン大盛二つ!! あと餃子も!」」

「はいよ」

 

二人は店に駆け込むや否や、空いていたカウンター席に座り、メニュー表を片手にラーメンと餃子を迷わず頼んだ。

空腹は限界突破の天元突破、今は皿まで平らげる自信がある。

なので、お冷やを口に含み喉の乾きを潤して誤魔化す。

しかし二人の若い胃は嘶く。

空の自分に水を放り込むとは何を考えている。さっさと固形物を入れろ。目の前の柴犬店長に噛みつくぞ。

 

「はいよ、お待たせ」

「「いただきます!」」

 

 

本日の夕食

ラーメン¦情け容赦無く盛られたもやしとキャベツが野菜不足に嬉しい。チャーシューも豚バラで容赦無い厚切りで、麺も太麺

餃子¦シンプルな餃子。タレはお好みで作る

 

 

まずは野菜を頬張る。

もやしとキャベツの野菜界二大歯応え王の野菜は、噛めば脳に響く歯応えのオーケストラを奏で、さっと炒めて薄くされた味付けがその二重奏に厚みもたらしてくる。

そして、極厚の豚バラチャーシューは肉と脂のストレートな幸福を空腹な二人の脳に叩き付け、なんかもう色々な感覚を麻痺させてくる。

さあ、次は麺だ。

豚骨ベースの醤油味、そのスープに極太の麺が沈み、それを一息に啜る。

豚、脂、ニンニクの遠慮の無いトリオがチャーシューで麻痺した二人の脳を更に麻痺させてくる。

麺を啜る。野菜を食べる。チャーシューを噛む。これらを繰り返す事で口内で奏でられる音は、まさしくオーケストラに相応しい。

 

「隊長、餃子餃子」

「旨いな」

 

そして餃子。本来ならメインにもなりうる存在だが、このオーケストラの前では前座や余興だ。

しかし、前座や余興と侮るなかれ。

弾力のある皮は歯切れ良く焼かれ、餡も野菜多めで肉汁が溢れてくる。

そして、肉汁と脂で麻痺した口内に酢醤油を付けた餃子を放り込めば、口内は正気を取り戻して再びオーケストラが再開する。

二人は無我夢中で食べ進め、あとはスープを飲み干すだけとなった辺りで、白く盛られた器が店長から差し出された。

 

「店長、これは頼んでないが?」

「いい食べっぷりだったからな。サービスだよ」

「ホント?! やった! 有難う!」

 

 

サービス

白飯とチャーシュー¦炊きたての白飯に炙ったチャーシューと半熟の味玉が乗っている。しかも、海苔も三枚

 

 

二人は海苔をスープに浸け、たっぷりとスープを吸わせるとそれを白飯に乗せて巻く。

旨い事が確定したそれを頬張り、炙りチャーシューもついでと放り込む。

脂と炭水化物のコンボは疲れた二人の体に最後まで染み渡り、半熟の味玉の黄身を飯に絡めてレンゲで掬う。

そして、レンゲで掬った黄身を纏った白飯をスープに潜らせ咥えこむ。

最早、オーケストラを超えてよく分からない幸せがそこにあった。

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

スープも飲み干した二人は勘定を済ませ、車へ向かう。

その途中、携帯が鳴った。

 

「どうした?」

「んー、なんかシャーレ?に先生?が来るって」

「先生?」

 

塵塚は自分の携帯を見ると、御手洗の言う通りモモトークがその話題で持ちきりだった。

 

「ふーん。まあ、アタシらには関係ない話だわな」

「だよねー」

「よし、帰るぞ」

「帰ってお風呂だー」

 

二人は明日は何を食べようかと、寂れながらもまだ力強く息をするアビドスの町をゆっくりと駆け抜けた。

次回

  • トリニティのトリニティビーフ
  • 百鬼夜行 初めての生魚 寿司
  • DU地区のさば味噌定食
  • 二人の地獄の自炊
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