反響大きかったら続き書くかも。
田中 久。享年30歳(29歳没)のサラリーマン。趣味はオンラインゲームで妻子なし。恋愛経験は高校の頃に一度と、ゲームのオフ会で会ったハンサムな青年に告白を受けた事ぐらい。
物語として描くなら、ありふれたが枕詞に付くであろう程に平均的な人生だった。が、
「俺って死んだんですよね?そういう記憶があるんですけど」
目の前で何故か正座しているゴスロリ幼女と爽やか系優男の二人に尋ねる。……というか、この二人、なんでこんなに黒尽くめなんだよ。
「えーっとですね……。すいませんでしたぁっ!!」
そう言って優男が勢いよく土下座する。いや、訳が分からないのだが。そんな疑問が顔に出ていたのが、土下座したまま顔を上げない優男に代わって、ゴスロリ幼女が口を開いた。
「まことにもうしわけなかった、ひさしどの。じつはわれらはなんじらがいうところのいわゆるしにがみでな。このたび、そこなしんじんがあやまってひさしどののいのちのひをふきけしてしまったのだよ」
「あ、そうなんすか」
幼女特有の舌っ足らずな口調と高い声で、随分厳しい喋り方をするゴスロリ幼女。……と言うか、そこな新人の時に土下座優男を見てたし、そっちの方が新人なのかよ。
「えーっと。まず、どうしてそんな失態が起きたのですか?」
「うむ。じつはこのたわけがの。じこでそくししたもののいのちのひをふきけすさいに、勢い余って、ぐうぜんちかくにあった、ぬしのいのちのひをふきけしてしまっての」
「……ああ、成る程。俺はそこの死神さんのうっかりで殺されてしまったんですね」
「うむ、そうなるの」
コクリと頷く幼女。隣の優男がうっかりの部分でびくうっ!!と肩を動かしていたが……本当に分かりやすいな、こいつ。
「それで、俺が死んだのは分かったんですけど。……何でここに?」
「それはな、きんこうをとるためじゃよ」
そこから幼女に教えられた事を分かりやすくまとめると、
・世界というものは数えるのも億劫な程に存在していて、いくつかの世界ごとにグループになっている。
・それぞれのグループは天秤のように釣り合っていて、一つ命が失われたら別の世界でも同時に命が失われるのが決まりであるらしい。
・死神は事故などで減った命の分のバランスを取るために刈り取っている。なお、刈り取る対象は決まっているそうだ。
・魂の数が世界の重さになる為、そのバランスが崩れたらその世界が含まれるグループと、それの対となっているグループがそのまま滅びる。
「……って、いやこれ不味いじゃん!?」
「うむ。ゆえにわれらがきたのじゃ。とにかく、じかんもそれほどなゆえ、さっさとてんせいしてもらうぞ」
「え、いやちょっと待って!?」
「またぬ!!」
幼女の声と同時に、一瞬の浮遊感の後、俺は落下していきその後の記憶は無い。
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(それで、気付けば既に転生していて、しかも女の子とは……)
かつて田中 久と名乗っていた魂は、朝霧 円香と言う赤子へと転生した。
転生直後は戸惑ったものの、この体がハイスペックなのか、すぐに女の子というものに適応してしまった。
成長するにつれ、顔も体も美しく育ち、その上勉強でも技術でも、乾いたスポンジが水を吸うかの如く身に付いてくれる為、ゲーム感覚で色々やった結果、周囲から神童扱いをされてしまった。
最初の内は良かったが、両親を含めた親族が俺の扱いを巡ってギスギスし始め、周りも俺を偶像のように扱う。それがキツくて、辛くて、苦しくて。私は今までやっていた習い事も全て投げ出し、逃避してしまった。
その結果。今では完全な一人引きこもり生活を送る女子高生となっていた。
その経緯を話すと、全てを投げ出した私に、両親達は考えを改めてくれるどころか、「なぜ辞めたのか」と怒り、再びその才能を発揮することを強要してきたのだ。
その為、唯一私本人のことを見てくれた叔母を保証人にして、進学を理由に私は家を飛び出して地元を離れ遠くで一人暮らしを始めた。
しかし、進学先でもついうっかり才能を発揮してしまうのではないかと、それが原因でまた偶像扱いされてしまうのではないかと恐ろしくて、不登校になってしまった。
……本当に、何でこうなってしまったんだろう。私はただ……。幸せでありたかっただけなのに。
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この世界に転生してからハマったソーシャルゲーム、アリオン・プロジェクト、通称アリプロ。
それは、そのアリプロがコンビニとコラボ商品を販売したという情報を知り、久方振りに外に出た日の事だった。
「ふふふっ。限定クリアファイルのラスイチ。運良く手に入って良かったぁ」
嬉しさのあまり小躍りしそうになるのを抑えながらニコニコと帰路を歩いていた。しかし……。
(……やっぱり視線を集めちゃうなぁ)
周囲からの無遠慮な視線を感じ、先ほどまでの高揚感が少しだけ減った。
才能を使わなくなったとしても、この美貌とスタイルの良さは健在だ。どうあがいても注目されてしまう。
(あー……やっぱり引きこもるべきだなぁ。本当に)
好奇の視線に晒され、辟易しながら歩いていると、髪を金髪に染めたチャラ男三人に道を塞がれた。
「えっと……」
「ねぇ、お姉さん。今一人だよね?俺達と遊ばない?」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、私の胸と顔を見る男達。
(あーナンパかぁ。やっぱりお外怖ぁ……)
下心を隠しきれていないチャラ男達に呆れながらも、「私、急いでますので」と横をすり抜けようとする。と、
「いーじゃんいーじゃん。お姉さんのこと楽しませて上げるからサ」
「そーそー。ほら、行こうぜぇ?」
「ちょっ、離して下さい!?」
腕を掴まれ、無理矢理連れて行こうとするチャラ男達。先程まで私を見ていた周りの人も今は見ないふりをしている。
(ああ、本当に不味いなぁ、これ)
半ば諦めの境地に達していると、
「あの……」
と、低いけど控えめな声が掛けられた。
「あん?誰だよ……」
「何だよ。何か……よ、う」
「あ、えーっと、その……」
チャラ男達は思わず吶る。それもそうだろう。声をかけてきたのは2mはゆうに超えているであろう身長に、ラガーマンや柔道家のようにガッシリとした肉体。
そして極め付きは……
「そちらの女性……嫌がっているようですが……?」
「人を殺したこと?有りますよ。この両手の指で数えられないぐらい」と淡々と答えそうな厳つい顔と鋭い目だ。これはビビる。私もちょっとチビリかけてるもん。
「あの?」
「「「ひいっ!!すみませんでしたー!!」」」
声を揃えて逃げ出すチャラ男達。勿論私は置き去りだ。
「……えーっと、大丈夫でしたか?」
「あ、はい。ありがとう……ございます?」
「主食は新鮮な肉!!」と言い出しそうな顔つきの男性だが、私を助けてくれた恩人であるのは間違いない。謝礼を言いつつ、ニッコリと作り笑いを浮かべると。
「あの、少し話をさせてもらってもいいですか?」
と、言われた。お前も結局男だったんだな。失望しました。……なんて言葉はこの「人の悲鳴が子守歌でした」と言い出しそうな凶悪フェイスを前に言えるはずもなく、
「はい、喜んでぇ……」
消えそうな声で同意してしまうのだった。
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想像と違い、廃ビルや人気のない路地ではなく、オシャンティーな喫茶店であった。
「突然すいませんでした。えっと……」
「あ、円香です。円周率の円に花香るの香で円香」
「円香さん……ですね。私はこういうものです」
懐から取り出した名刺を受け取ると『音々プロダクションアイドル部門プロデューサー”プレイヤー名”』と書かれていた。……あれ、なんで名前が見えないんだ?
「えっと……。取り敢えず、プロデューサーさんって呼びますね?」
「はい、どうぞ」
「一体私になんのようでしょうか」
しっかりとプロデューサーさんの目を見て……って駄目だ。怖い。代わりに額を見て質問した。
「はい。実は円香さん。貴女をスカウトしたいと思っています」
「……は?」
思わず絶句する私に対して伝えられた、プロデューサーさんの話はこうだった。今、ネオンプロダクションではある一大プロジェクトを行っているそうで、そのプロジェクトアイドルの一人に私をスカウトしたいというのだ。
そのプロジェクトの名前はプリンセスプロジェクト。物語のお姫様に誰もが一度は憧れるように、世間に埋もれている原石を発掘しようと言うプロジェクトだそうだ。
その単語を聞いて、私は思い出した。そして気がついた。「ここってゲームの中の世界じゃねぇか!!」と。
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『プリンセスプロジェクト』、通称プリプロ。若しくはPP。前世では社会的に人気のあったアイドル育成ゲームだ。
プレイヤーはプロデューサーとなって、個性豊かなアイドル達を育成し、共にトップアイドルを目指すというゲーム内容で、田中久もハマっていた。
(しかし、円香というアイドルはプリプロには存在していなかったはず……。何故だ?)
考え込んでいると、プロデューサーさんが、声をかけてきた。
「それで、どうでしょうか円香さん。アイドルに、なってみませんか?」
真剣な表情。そして、人を射抜くどころか穿ち殺すレベルの眼光。思わず「はい」と即答しそうになってしまうが、
「考えさせて下さい……」
と、私は答えた。
プロデューサーさんは少し残念そうながらも、素直に引き下がった。
結局、その日はプロデューサーさんの名刺だけを受け取って帰ったのだった。
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夜。私は久し振りに叔母へと電話した。
「もしもし、叔母さん?」
『オバサンじゃなくて、直江お姉様って呼びなさいよ!!まったく!!……で、円香チャンから電話なんて珍しいわね』
「ちょっと相談したいことがあってね」
そこで、私はアイドルとしてスカウトを受けたこと。そして私が何故か迷っていることを話す。
「私はどうしたいんだろう……」
『好きにすればいいじゃない』
「そんな投げやりな……」
思わず呆れる。だが、叔母さんは電話の向こうで事も無げに言い放った。
『あんたの人生だもの。あんたの好きにすればいいわ。あんたが後悔するって目に見えて分かるような選択をするなら止めるけどね』
「……叔母さん」
『だから直江お姉様とお呼びっ!!……まあ、円香がそう悩むってことは本音ではやりたいんしゃないの?』
「何でそう思うの?」
『だってあんた、したくないならバッサリ切り捨てて「やらない」って言うじゃないの』
叔母さんのその言葉に、私はようやく自分の本心に気がつけた。
私は、ここがプリプロの世界だと知って、アイドルになってみたいと思ったんだ。
けど、プリプロには”円香”というキャラは存在しない。アイドルになってしまったらシナリオが壊れてしまう。だから私は躊躇ったのだ。けど……。
「……ねぇ、叔母さん」
『だから直江お姉様と……』
「叔母さんはさ、私がアイドルになったら……応援してくれる?」
私がそう質問したら、叔母さんはピタリと黙り込む。そして、
『ハァー……。円香、あんた天才天才持て囃されてたけど、実は馬鹿よねぇ』
「え、いきなり暴言!?」
戸惑う私に叔母さんは面白そうに言った。
『応援するに決まってるでしょ?それがあんたの……円香の選んだ道なら。なにせ、私はあんたの直江お姉様だからね』
「叔母さん……っ」
『だから直江お姉様とお呼びって言ってるでしょっ』
思わず泣いてしまった。茶化しながらも、電話越しに叔母さんの優しさが伝わってきたから。だから……
「私、なるよ。アイドルに。そして、日本一……ううん。世界一のトップアイドルになる」
『へぇ……。大層な事を言うじゃん。吐いた唾は呑めないよ?』
「何言ってるの叔母さん。私はかつて神童なんて謳われた、朝霧円香だよ?」
『……昔に戻ったわね、円香。頑張りなさいな』
「……っ、うんっ!!」
『それと……叔母さんじゃなくて、直江お姉様だからねっ!?』
叔母さんはそう残して、通話を切る。
通話の切れたスマホの画面を名残惜しそうに見つめ、私は昼間に貰った名刺を取り出そうと、鞄の中を漁る。
これで、死んだ後に始まった私の物語のプロローグは終わり、私はアイドルになる。
ここから始まった私のアイドルとしての半生は苦難と挫折、そしてそれ以上の喜びに溢れていた。
もし、この歩みにタイトルを付けるとするならば、TS転生者が世界一のトップアイドルを目指す物語である。