愛が重すぎるメスガキを分からせたいカードゲーマーの話。 作:不二崎
潤沢な品揃えに、広々としたデュエルスペース。
還元率が高いオリパに、店長直々に作成した構築済みデッキなどなど。
良いところをあげればキリがないのが、カードショップ『ブランシェ』。
俺の親友の姉が経営している、行きつけの店だ。
この店舗では一ヶ月に一度、初心者講習会なるものが開かれる。
文字通り、オラクルを触った事がない初心者にルールなどを教えるこのイベントには、構築済みデッキを一つ買うだけで参加できて。
何を隠そう、俺は講習会に幾度も参加している。
勿論、参加者側ではなく、講師として。
小学生の時に全国大会で躍動した過去がある俺は、後進育成にも余念がないのだ。
だがしかし、今回に限っては参加者として、このイベントに参加していた。
初心者とは程遠い俺が、講習会に参加する理由はただ一つ。
講師役として登壇している我がライバル、ラキナの様子を偵察するため。
それにしても……おかしい。
こんなのは、何かの間違いだ。
「ざこざこな初心者のみんなのための、初心者講習会を始めるよっ」
「「「「はーい!」」」」
顔が良くて根明で性格も良い俺よりも、顔は良いけど生意気なラキナの方が人気があるなんて!
二年前、ここら辺に戻ってきた俺は、以前のようにブランシェに通い詰めた。
すぐに馴染んで、数多くの子供達に講師として頼れる姿を見せてきたのに何故なんだ!!!
「ハクトが教えてくれるのもいいけど、やっぱり可愛い女の子に教えてほしいよな」
「ああ。ここだけの話、ハクトはノリがガキっぽ過ぎて共感性羞恥を感じる時があるし」
「それな。もっと言うと、オラクルの実力だって、ラキナさんの方が強いし」
「……私はハクトさんが良いんだけどなぁ」
目の前の子供達から語られる衝撃の真実。
この、マセガキが……。
心なしか、いつもより男の割合が多いと思ったら、そういう事かよ。
いくら何でも単純すぎるだろ。
好意的な言葉を言ってくれるのは、俺が講師の時、毎回来てくれる子だけだ。
「オラクルには、大きく分けて三種類のカードがあるよ。よわよわなみんなは全部、言えるかな?」
「「「モンスターカード、マジックカード、アイテムカードです!」」」
「せいかーい。知識量はつよつよみたいだね〜」
畜生。
どいつもこいつも、俺の時の数倍はノリノリだ。
ラキナの奴も、普段より物腰が柔らかい。
まるで、子供向け番組に出るお姉さんのようで。
このままでは、立場を奪われてしまう。
講師役をこなして貰える報酬、ブランシェで使えるお買い物券と特別なオリパ1パック。
たった数時間、子供達に指導するだけでこれらが貰える仕事を取られちまう……!
「相変わらず人気だね、星守さんは」
危機感を覚える俺に声をかけてきたのは、見知った顔の人物。
部屋の中なのに被ってるキャスケット、タボっとしたパーカーにショートの黒髪。
何処からどう見てもボーイッシュな女にしか見えないこいつの名は、高月シュウ。
俺の幼馴染であり、唯一無二の親友だ。
因みに、性別は不詳。
小・中と別の学校に通っていた上、どんなに聞いても教えてくれないから分からないんだよな。
まぁ、別にどっちでもいいんだけど。
男だろうと女だろうと、シュウはシュウだし。
「男子に人気のある彼女に講師役を頼んで正解だったよ。とは言え、ここまで盛り上がるとは思わなかったな」
「……お前の差し金だったのか」
「うん、お陰様で大儲け。構築済みデッキの在庫もはけたし、いいことずくめだよ」
前述した通り、ブランシェはシュウの姉が経営しているカードショップ。
そのため、こいつも度々店の手伝いをしており、今回の初心者講習会のような企画のセッティングも行っているそうだ。
「こんなに盛況なら、次からは星守さんに講師役を頼もうかな。君がやるよりも収益が見込めるみたいだし」
「ぐっ……ちょっと待てよ。それじゃあ、俺の仕事が無くなるじゃんか!」
「そうだね。今のままだと、君はお役御免になってしまうね。だから、女装とか……」
「な、ななな、何言ってんだっ! 女装なんて、絶対にやらねーよ!」
無様に慌てふためく俺を見て、楽しげにくすくすと笑うシュウ。
こいつはずっと昔から、何かにかけて、俺をいじってくるんだよな。
それも、心の底から楽しそうに。
性格自体は全然違うけど、そういう一面がちょっとラキナに似ている……というのはひとまず置いといて。
今、大事なのは、講師の座を取り戻すこと。
だけど、奪還する方法が思いつかない。
「基本的な知識は教えたし、そろそろ実践編に移るよー。相手役の人は……」
その言葉を耳にした瞬間、脳裏に電流が走った。
ここで、俺がラキナと戦い、勝利する。
双方共に同じ構築済みデッキを使って、勝つことが出来たなら。
「まさか、同じ条件で勝つなんて……やっぱり、ハクトが最強なんだな」
「今までの非礼、重ねてお詫び申し上げるね。お兄さんには、叶わないや」
「僕が認めてあげるよ。世界一強いプレイヤーは君だってね」
きっと、こんな感じになる。
認めたくないが、マイデッキを持ち出したデュエルで、俺はラキナに勝てない。
しかし、プレイングの差が物を言うミラーマッチであれば、俺にも勝機がある。
散々俺をコケにした子供達も、勝ちさえすれば、手のひらを返すに違いない。
そうすれば、講師の座は俺の物。
更に、ラキナに舐められる事も無くなる。
これぞまさしく、一石二鳥。
このチャンス、逃すわけにはいかない……が、初心者講習会で出しゃばるのは良くないよな。
経験者こそ、初心者に優しくあるべきだ。
そう考えて、大人しくしていると。
「悩むけど、先輩講師のハクトお兄さんにお願いしようかな〜♡」
「い、いいのか? オレで……」
「お兄さんがいいのっ。私、教えるのなんて初めてだから不安だし、経験者同士で説明しながらやった方がわかりやすいと思うし」
初心者の参加者を差し置いていいのか、という葛藤はある。
けど、ラキナが決めたんなら、仕方がない。
寧ろ、俺にとっては好都合だ。
今日こそ、俺は奴を超える。
カードパワー関係なしの真剣勝負で、俺の実力を思い知らせてやるぜ。
もちろん、講習に参加してる初心者のみんなに対する説明や解説も忘れずにな。
「そうと決まれば早速、始めるか。ゲームの内容については、随時説明していくぞ」
オラクルのゲーム性は極めてシンプル。
モンスターカードをフィールドに召喚し、マジックカードやアイテムカードでサポートしていき、最終的に相手プレイヤーのライフを0にすれば勝利。
次いで、他のカードゲームにありがちな、コストという概念は存在しない。
ルール上の制約に反しない限り、いくらでもカードを使うことができるんだ。
ゲームでは三種類のカードを使用する。
それぞれの名称は、モンスターカード、マジックカード、アイテムカード。
モンスターカードは戦闘でダメージを与えるのが役目で、基本的に一ターンに一枚しか召喚できない。
また、特定の条件を満たす事で召喚を行った後でも召喚できるカードがある。
その召喚の名称は追加召喚で、普通に召喚する行為の名称は通常召喚。
更に、モンスターカードは、基本モンスターと進化モンスターの二つに分類されるが……ここら辺はややこしいので、この説明はまた後で。
マジックカードは、フィールドにセットした次のターンに効果を発揮するカード。
即座に発動できない代わりに強力な効果を持つ事が多く、一ターンに何枚もセット可能なのが特徴。
アイテムカードは、自分のターンに手札から発動して効果を発揮するカード。
マジックカードと比べると、シンプルな効果であることが多い。
また、一ターンで使用できるアイテムカードの数に制限こそないが、一ターンにつき、同一モンスターに使えるのは1枚までという制約がある。
最後に、アイテムカードの中にも区分があり、使ったら無くなる消費アイテムと、モンスターに装備して効果を発揮する装備アイテムの二つがある。
ここまで、随分と長ったらしくなってしまって、申し訳ない。
カードゲームというものは色々と複雑な上に、説明が難しいものなんだ。
「まずは、先攻後攻を決める。ルール説明の都合があるから、私が先行をもらうね。次に、デッキの中から好きな基本モンスターを一枚選んで裏側でリーダーゾーンに置き、デッキから五枚ドローする」
ラキナの説明に耳を傾けながら、リーダーゾーンにカードを伏せ、デッキから五枚ドローする。
便宜上、リーダーゾーンに置くモンスターはリーダーと呼ぶ。
リーダーは如何なる効果でも破壊されないので、デッキの核となるモンスターを配置する。
その代わり、リーダーを攻撃されると、プレイヤーのライフが減少してしまうので、他のカードを活かして守る事が必要とされる。
そして、プレイヤーの初期ライフは8000だが……今回に限っては半分の4000で行う。
あくまで、説明のためのデュエルなので、テンポを重視するぜ。
「準備が整ったみたいだし、始めるよ。お互いのリーダーをひっくり返してデュエルスタート!」
俺とラキナがリーダーを登場させると、デュエルテーブルの上に立体映像が映し出される。
全く同じ容姿の機械仕掛けの兵士が対面する姿は、迫力バッチリ。
バトルが始まれば、これらのモンスター達が戦う姿を見られると考えると、胸が躍るぜ。
俺とラキナのリーダーは『メカニカル・ウォリアー』。
攻撃力500の、とある効果を持つモンスター。
通常のモンスターは攻撃力とHP、二つのステータスを有する。
しかし、リーダーが所有するステータスは攻撃力のみでHPは存在しない。
前述した通り、リーダーのHPはプレイヤーのHPと直結するからな。
「私のターン、ドロー……は出来ないよ。先行一ターン目はドローできないし、攻撃も無理だから注意してね。最初に、手札から『メカニカル・ソルジャー』を通常召喚するよ」
ビジョンに映るのは、槍を持った機械兵。
メカニカル・ソルジャー。
攻撃力は800で、HPは1600。
特殊な効果を持たない代わりに、結構ステータスが高いモンスターだ。
とは言っても、安価な構築済みデッキのカードなので、控えめな方であるが。
「次に、手札のアイテムカード『メカニカル・コア』をリーダーに装備させて、カードを二枚伏せる。これで、私はターンエンド」
メカニカル・コアはとある効果を持つカード。
複雑な効果なので後述するが、中々に厄介だ。
それだけでなく、場に伏せられた二枚のマジックカードにも気を配らないといけない。
先行はドローできなかったり、攻撃できないデメリットがある。
その代わり、場がガラ空きである後攻のプレイヤーに妨害される心配なく、マジックカードを使用できるメリットがあるからな。
「オレのターン、ドロー。次いで、『メカニカル・サーチャー』を召喚し、効果発動! 手札を一枚捨てて、デッキから『メカニカル』アイテムカードを一枚、手札に加えるぜ。俺は『メカニカル・コア』を手札に加え、リーダーに装備させる!」
現実でも居そうな小型のドローン。
メカニカル・サーチャー。
攻撃力が400、HPが800と、ステータスは貧弱。
だがしかし、このモンスターの真骨頂は、単純ながらに強力なサーチ効果。
要らない手札を一枚捨てるだけで、欲しいアイテムをデッキから手に入れることが出来る。
それも、一度だけでなく、一ターンに一度。
生きてさえいれば、何度でも効果を支えるのだ。
とはいえど、速攻で処理されがちなので、大体一回しか使えないけれども。
「『メカニカル・サーチャー』に手札のアイテム『メカニカル・ガン』を装備させて……お待ちかねのバトルだ! まずは、ラキナのリーダーを攻撃したいところだが……」
「相手フィールドにリーダー以外のモンスターが存在する場合、相手のリーダーには攻撃できないよ。戦闘のみならず、カードの効果の対象にも出来ないから注意してね」
俺のフリに対応するとは、流石はラキナだ。
今回の場合、ラキナのフィールドにはリーダーの『メカニカル・ウォリアー』と『メカニカル・ソルジャー』がいる。
だから、『メカニカル・ソルジャー』を倒さない限り、リーダーである『メカニカル・ウォリアー』に攻撃できない。
「というわけで、『メカニカル・サーチャー』で『メカニカル・ソルジャー』を攻撃!」
小型ドローンに内蔵された銃火器によって、一方的に撃たれてしまう機械仕掛けの兵士。
本来、戦闘が発生すると、攻撃力分のダメージをお互いに与え合い、HPが削られる。
分かりやすく言うと、攻撃された方だけでなく、攻撃した方もダメージを受けてしまうのだ。
しかし、今回の戦闘で、俺の『メカニカル・サーチャー』はダメージを受けない。
何故なら、アタックした際のダメージを受けなくする効果を有する『メカニカル・ガン』を装備していたからな。
『メカニカル・ガン』は効果の強力さ故に、元々の攻撃力が500以下のモンスターにしか装備できない縛りがあるけれど、『メカニカル・サーチャー』は攻撃力が400なので装備できるんだ。
そのため、今回の戦闘の結果は。
ラキナ
メカニカル・ソルジャー : 1600−400=1200
こんな感じになるな。
「続いて、俺のリーダー『メカニカル・ウォリアー』で、『メカニカル・ソルジャー』に攻撃!」
機械仕掛けの戦士が、機械仕掛けの兵士を殴りつける。
先程と同様に、本来ならお互いにダメージを受ける筈だが、今回もダメージを受けるのは相手だけ。
リーダーが相手モンスターに攻撃した場合、ダメージを受けないってルールがあるからな。
その代わり、逆にリーダーが攻撃された場合、相手はダメージを受けないから注意が必要だ。
これらを踏まえた戦闘の結果は。
ラキナ
メカニカル・ソルジャー : 1200−500=700
これで、モンスターは全員攻撃した。
モンスターは一ターンに一回しか攻撃できないので、普通ならターンを終えるところだが、俺のターンはまだまだ終わらない。
「攻撃に成功したので『メカニカル・ウォリアー』の効果発動。攻撃力500以下の味方モンスター、一体を選んでスタンドさせる! 更に、『メカニカル・コア』の効果発動。このアイテムを装備しているモンスターの攻撃に成功した時、味方モンスター一体の攻撃力をこのターン中に限り、300ポイントアップさせるぜ。これらの効果は全て『メカニカル・サーチャー』へ!」
スタンドっていうのは、攻撃済みのモンスターを再攻撃可能な状態にすること。
先程の効果の処理をまとめると、リーダーの効果とリーダーに装備させたアイテムの効果によって、攻撃済みの『メカニカル・サーチャー』を再攻撃可能にした上に、400だった攻撃力を700に上げたって訳だな。
「スタンドした『メカニカル・サーチャー』で『メカニカル・ソルジャー』を攻撃! これぞ、メカニカルデッキの基礎となるメカニックコンボだ!」
火力を増した銃火器を受けた機械仕掛けの兵士は、衝撃に耐えきれずに大破する。
この戦闘においても、『メカニカル・ガン』の効果は発動してるため、『メカニカル・サーチャー』はダメージを受けない。
ラキナ
メカニカル・ソルジャー : 700−700=0
華麗に決まった。
決め台詞も、初心者の手本になるコンボも。
やはり、俺こそが講師に相応しい……。
「セットしていたマジックカード『メカニカル・コピー』の効果を発動するね。倒された『メカニカル・ソルジャー』を蘇生させる。ただし、蘇生したモンスターのHPは100になっちゃうよ」
水を刺された上に、厄介極まりない効果。
セットしてたのは蘇生系のカードだったか。
復活した『メカニカル・ソルジャー』のHPは100だが、それでも十分すぎるな。
「カードを一枚セットして、ターンエンドだ。『メカニカル・サーチャー』の攻撃力は400に戻るぜ」
「私のターン、ドロー。セットしていた『メカニカル・コード』の効果を発動。『メカニカル』と記された基本モンスターが場に存在する時、同名モンスターを攻撃力を半減させた状態で、デッキから召喚出来るよ。私は『メカニカル・ソルジャー』を召喚」
召喚権は消費してしまうが、手札を減らすことなくモンスターを並べられるマジックカード。
自分のターンにしか使えない点がネックだが、今の状況では関係ないな。
「バトルに移行するよ。死にかけの『メカニカル・ソルジャー』で、『メカニカル・サーチャー』にアタックっ!」
「欲張りさんだなぁ! マジックカード『メカニカル・リフレクト』を発動。相手モンスターに攻撃された時、自身のモンスターに与えられるダメージを一度だけ0にする!」
『メカニカル・サーチャー』を破壊しようとした『メカニカル・ソルジャー』の攻撃は電気のバリアによって阻まれ、反動でダメージを受けたソルジャーは大破する。
……さっきから大破してばっかだな、コイツ。
ラキナ
メカニカル・ソルジャー : 100−400=0
「ざーんねん。折角復活したのに壊されちゃった。なら、二体目の『メカニカル・ソルジャー』と、リーダーの『メカニカル・ウォリアー』で、『メカニカル・サーチャー』にアタック!」
セットしているマジックカードは何もない。
孤立無援の『メカニカル・サーチャー』はなすすべもなく破壊されてしまった。
同時に、サーチャーが装備していた『メカニカル・ガン」も破壊。
俺
メカニカル・サーチャー : 800−500−400=0
ラキナ
メカニカル・ソルジャー : 1600−400=1200
「前のターンのお兄さんと同様の処理を行って『メカニカル・ソルジャー』をスタンドし、攻撃力を300上昇させるね」
ラキナも俺と同様に、『メカニカル・ウォリアー』に『メカニカル・コア』を装備させている。
本来、『メカニカル・ソルジャー』の攻撃力は800なので、『メカニカル・ウォリアー』の効果を使用できないが、今回は『メカニカル・コード』の効果で攻撃力が半減した状態で召喚されたため、問題なく使用できるのだ。
「スタンドした『メカニカル・ソルジャー』で『メカニカル・ウォリアー』にアタック!」
ついに、リーダーに攻撃されてしまったか。
……まずいな。
俺
プレイヤーのHP : 4000-700=3300
「カードを1枚セットして、ターンエンドだよ」
俺の手札もかなりいい部類だったが、ラキナの手札はそれ以上に良い。
こちらの手札は一枚で、フィールドのモンスターはリーダーのみ。
ぶっちゃけキツイが、希望はある。
「オレのターン、ドロー。そして、『メカニカル・ソード』を『メカニカル・ウォリアー』に装備させ……ウォリアーを進化! 機械仕掛けの剣が、轟音を上げて駆動する! 現れろ、メカニカル・ソード・ウォリアー!」
一枚のモンスターと二枚の装備アイテムをひとまとめにし、その上に一枚のカードを重ねる。
そうして、映像上に現れたのは……4つの複腕を用いて剣を構えている機械兵。
これこそが、俺の希望。
とある条件を満たすことで基本モンスターを昇華させる、特別な召喚方法。
その名も、進化。
今回の場合だと、『メカニカル・ウォリアー』に『メカニカル・コア』と『メカニカル・ソード』を装備させる事で『メカニカル・ソード・ウォリアー』に進化出来るのだ。
攻撃力は1500で、HPは2500。
言うまでもなく、強力な効果持ち。
前述した通り、リーダーのHPはプレイヤーのHPも同義なのだが、リーダーが進化すると変化する。
相手モンスターに進化したリーダーが攻撃された時、リーダーではないモンスターと同じようにリーダーのHPが減少し、プレイヤーのHPは変化しないようになるのだ。
しかし、それ以外は進化する前と同じ。
味方のモンスターがいる限り、攻撃対象にも効果の対象にもならないし、相手モンスターに攻撃してもダメージは受けない。
そして、進化モンスターのHPが0になったり、カードの効果で破壊された場合は、進化をする前の基本モンスターに戻ってしまう。
そうなってしまうと、進化する以前の基本モンスターが装備していたアイテムも破棄され、攻撃された時にはプレイヤーのHPが減少するようになる……。
うん、自分でも何が何だか分からん!
ここら辺は、もうフィーリングで大丈夫だ。
「早速、バトル! 『メカニカル・ソード・ウォリアー』で『メカニカル・ソルジャー』にアタック。切り刻め、ウォリアー!」
4本の腕を巧みに扱って剣を振るう『メカニカル・ソード・ウォリアー』は、瞬く間に『メカニカル・ソルジャー』を切り裂く。
ふふふ……すごいぞ、カッコいいぞー!!
まさに、圧倒的な力。
進化モンスターこそが最強なのだ!!!
ラキナ
メカニカル・ソルジャー : 1200−1500=0
「更にぃ! 攻撃が成功した時、『メカニカル・ソード・ウォリアー』の効果発動! 自分のHPを1000減少させる事で、自らをスタンドさせる! 疾風怒濤の2回攻撃を喰らいやが……」
「あ、セットしていたマジックカード『マナ・フレイヤ』を発動するね」
「…………ひょ?」
「このカードの効果でHP1500以下のモンスターを破壊できちゃうからぁ……お兄さんのとっておきを壊しちゃうね♡」
「そんなああああああああ!!!! 俺の『メカニカル・ソード・ウォリアー』がああああ!!!」
特大の火球を受けた『メカニカル・ソード・ウォリアー』は、呆気なくドロドロと溶けていく。
そうだ……失念していた。
俺達が使用している構築済みデッキには、便利な汎用マジックカードである「マナ・フレイヤ』が一枚だけ入っていることを。
シンプルながらに強力な効果を有するこのカードには、特別な制約が無い。
そのため、どのデッキでも使えてしまうのだ。
俺
メカニカル・ソード・ウォリアー : 破壊
「リーダーの『メカニカル・ウォリアー』で、お前の『メカニカル・ウォリアー』に攻撃。それと、カードを一枚セットして……ターンエンドだ」
迂闊。
あまりにも、迂闊。
その結果、切り札を失ってしまった。
手札は0である上に、セットしているカードは単体で効果をなさない。
まさしく、絶望的な状況。
だが、決して諦めない。
何といっても、最後まで真剣にデュエルするのが俺のポリシーだからな……!
ラキナ
ラキナのHP : 4000-500=3500
「ドロー。『メカニカル・サーチャー』を召喚。サーチャーの効果発動。手札を一枚捨てて、デッキから『メカニカル・ソード』をサーチして、リーダーの『メカニカル・ウォリアー』に装備。ウォリアーは進化して『メカニカル・ソード・ウォリアー』に。次いで、バトル。後はお察しの通りだけど……何かある? おにーさん♡」
「ありません。オレの負けでーす」
俺
プレイヤーのHP : 3300−400−1500−1500=0
「ハクトも頑張ったが、やっぱこうなるか」
「ラキナさん、可愛くて強いとか最強じゃん!」
「結果はともかく、すごかったなぁ。ナイスファイトです、ハクトさん!」
子供達の言葉を背に、俺は歩みを進める。
全く同じ構築済みデッキを使って、負けた。
悔しいっちゃ悔しいが……それ以上に、めちゃくちゃ楽しかった。
また、やりたいな。
次は、今回と別のデッキで。
「お疲れ様。見応えのある良いデュエルだったよ。それにしても、随分と楽しそうだったね」
「まぁな。やっぱり、ラキナとのデュエルは面白いよ。結果的に負けちまったけど、楽しかった」
「……本当に変わったよね、君は」
シュウは意味ありげに笑う。
昔の事は、正直思い出したくない。
俗に言う、黒歴史って奴だ。
「少し前まで、勝つことが全てだ……とか言っていたのにさ。そんな考え方が変わったのも、星守さんの影響だったりして」
「ラキナは関係ねーよ。楽しむ方が良いって思えるようになったのは、シュウのお陰だ」
「ふ、ふふ。そう……そうだよね。僕は、君の一番の理解者であるべきなんだ」
「……悪い、聞き取れなかった。今、なんて言ったんだ?」
「何でもないよ。何でもね」
ちょっと気になるけど、本人が何でもないって言ってるし、まぁいいか。
それよりも、大事なのは講師問題。
負けちゃいけないデュエルに負けたので、今日から講師の座はラキナのもの。
ブランシェ内で使えるお買い物券も、特別性のオリパも、ラキナのもの。
母さんから与えられる小遣いだけでは、欲しいカードを手に入れられないのに……。
これから、俺はどうすれば良いのだろうか。
「そういえば。はい、これ」
途方に暮れていると、シュウから黒いビニールに包まれた一つのパックを手渡される。
もしかして……いや。
もしかしなくても、これは……!
「今日の報酬の買い物券とオリパだよ。これからも色々とよろしくね、ハクト」
「お、おお!! ありがとう、心の友よっ!!!」
「……!?!?!!?」
感謝の勢い余った俺は、シュウを抱きしめる。
あまりにも無力な俺に差し伸べられる、一筋の蜘蛛の糸。
今この瞬間、シュウが菩薩のように思えた。
……やはり、持つべきものは親友なんだよな。
そう実感した一日だった。
感想や評価など、お願いします!!