やれやれ…何故僕が備品の荷解きをしなくちゃいけないんだ。こういうのは普通教師がするものじゃないのか?
「会長。納入チェックも生徒会の大事な仕事ですよ?部費が正しく使われているか私達で確認しないと」
ちなみに四宮さんも一緒だ。ただでさえ彼女から狙われているというのに二人きりになるとは…早く作業を済ませて家に帰ろう。
「?…会長、今何か飛んで来ませんでしたか?」
何を言ってるんだ?部屋の中に鳥でもいたとでも…
ここで、この小説を読んでいる読者だけに教えておこう。
基本的に無敵の僕だが、唯一苦手なものがある…それは『虫』だ。見た目が気持ち悪いとかそういう理由じゃない。まぁそれも少しあるが…虫が嫌いな一番の理由は、行動が読めないからである。
僕は人間や動物となら意思疎通を図ることが出来る。だが虫ほど小さいものとなると思考が拾えないのだ。あの何を考えているかわからない生物がたまらなく苦手なのだ。そりゃ念力を使えば一瞬で捕まえる事が出来るが、念力でだって触りたくないんだ。
何故急にそんな話をするのかって?僕達の目の前に『G』がいるからだ!
(これはクロゴキブリ…いえ、翅の長さを見るにこれはウルシゴキブリね。関東圏にはいないと本で読んだことがあるから荷物の中に紛れ込んだと見るべきかしらね…害虫じゃないから怖がる必要はないわね…いや、むしろこれは…)
何故四宮さんはそんなに冷静なんだ!Gが目の前にいるんだぞ!?
とにかく、この場から離れてすぐに瞬間移動で遠くへ…
「キャーッ!会長!怖いですーー!!」
なっ!四宮さんが僕の腕に抱き着いてきた!?どういう事だ!?
(フフッ…虫に怖がる女子が男子に飛びつくのは自然な現象…男を惑わす流れる様なボディタッチ!知能指数の低い行動ですが、これこそが女子力!どうですか会長?今頃顔を赤らめて挙動不審になって…ない!?どういう事なの!?)
クッ!Gの事で頭が一杯で四宮さんの思考を読むのを怠っていた!不味い!これでは瞬間移動が出来ない!
(この私がこんなにもくっついているというのに表情一つ変えないなんて…流石は会長、怪物じみた精神力の持ち主ということね…それなら藤原さんのようにプライドや恥を捨てなければ…!)
藤原さんへの評価はごもっともだが、君に付き合っている暇はない。一刻も早く離れてもらおう…
「会長~!早くゴキさんを退治して~!かぐや怖い~~~!」
僕が退治だと!?無理に決まってるだろ!退治なら君がやれ!
「無理~!ゴキさん怖い~!」
クッ!この猫被りめ…さっきは冷静にGの種類を言い当てた癖に…!
こうなったら…!
「ひゃっ!?か、会長…?」
僕の体は四宮さんを下敷きにしながら床に倒れる。
幽体離脱。つまり今の僕は零体になっているのだ。これなら四宮さんに気づかれずこの場を離れることが出来る。
「か、会長!何ですか…?ちょっと、離れてください…///」
…何だか如何わしい雰囲気だが、断じてワザとではない。偶々四宮さんを押し倒したように僕の体が倒れただけだ。それより、早くこの場から離れよう。ほとぼりが冷めたら体を回収…
…ドアニゴキブリガイル。
クッ…零体のままでは瞬間移動が出来ない。ここまでか…
「こんにちは~!…あっ、ウルシゴキブリさんだ~!」
そう思った時だった…この場にやって来た藤原さんがGを手で掴んで窓の前に移動する。
「森へお帰り…」
そのままGを外へと逃がした。た、助かった…
「いや~!ゴキさんが無事に帰れて良かったです…あれ?かぐやさんと会長?」
不味い!このままでは藤原さんに誤解を招く事になる!とにかくすぐに体に戻らなくては!
「ふ、藤原さん!違うの!これは…」
「会長~!仕事中に寝たらダメじゃないですか~!」
…えっ?
「ふ、藤原さん…?」
「そんな悪い子には…こうです!」
何を思ったのか、藤原さんは僕の額に『肉』と書いてしまった。おい、それって油性じゃないよな?
(ひ、人の顔に落書き…!?何の躊躇いもなく…何て事を…!)
あの四宮さんまで引いてるじゃないか。
「う~ん…これだとひねりがないですよね…そうだ!」
そう言って藤原さんは字を書き加えてしまう。そうして出来上がったのは『果肉入り』という字だ。おい、『果』の字を間違えているぞ。
「ププッ…!何の果肉が入ってるんだろ…!」
「藤原さん…あなた、なんという事を…!」
「大丈夫ですよ!会長はこんな事で怒る人じゃないですって~。それに水性ですからすぐ消せますし!」
なるほど…ならすぐに起きるとしよう。
「(か、会長が起きる!)藤原さん!逃げましょう!」
「ちょ、かぐやさん!?」
そう言って二人は生徒会室から出ていった。
やれやれ…とにかく額の落書きを消してさっさと仕事を終わらせよう。
その日の夜、かぐやは…
「どうしよう早坂~!私、会長に嫌われたかも~!」
「落書きをしたのは書記ちゃんなんですから大丈夫ですよ」
斉木に嫌われてないか不安になっていた。