6月に入り、秀知院学園は衣替えの時期に入っていた。
当然四宮さんと藤原さん、石上の制服も半袖になっているが、僕だけは学ランを着たままになっている。秀知院学園生徒会長は学ランの首元に純金の飾緒をつけていなければならないのだ。その為僕が半袖になれるのは生徒会の任期が終わってからだ。
やれやれ…ジメジメして暑苦しいから早く僕も衣替えをしたいものだ。
さて、今日の仕事は石上が一通り済ませているようだし、早く帰るとしよう。
「へへっ、だーれだ?」
…生徒会室を出た途端、背後から目を塞がれてしまった。
僕の背後を取れるのは二人だけだ。藤原さんもその二人の内の一人だが、僕の背後にいる奴の声は男の物だから藤原さんではない…
つまりお前だ、燃堂力。
「よぉ相棒。ラーメン食いにいこーぜ!」
行かない。
こいつは同じクラスの嫌われ者で以前話した海藤同様やたらと僕に絡んでくる。そして藤原さん同様、思考を読む事が出来ない恐ろしい存在だ。思考が読めない理由は、この男が何も考えていないバカだからだ。もしこいつが藤原さんと手を組んで僕を暗殺しようとしてきても僕には防ぐことが出来ないのだ。
僕と同じく高等部から入学してきた混院なのだが、何故このバカが秀知院に入れたのか本当に謎だ。
「あれ~?会長じゃないですか~」
なっ、何故藤原さんがここに!?
「いや~、生徒会室にスマホを忘れちゃって急いで取りに来たんです。あれ?会長と一緒にいるのは…」
「お?」
やれやれ…ついに僕にとって厄介な二人が出会ってしまったか…
「なんだリッキー君じゃないですか~!」
「なんだ千花っちじゃねぇか!」
「「イェーーイ!」」
いや知り合いなのかよ!?なんかハイタッチしてるし!
「実は私とリッキー君、ちっちゃい頃からの幼馴染なんですよ~!リッキー君が高等部に入学する前は学校が違いましたけどよく遊んでたんです!」
知り合いどころの話じゃなかった。
「そういえば、会長とリッキー君は友達同士なんでしたっけ?」
友達じゃない。
「千花っち、俺っち達は友達同士じゃねぇぞ」
「え?そうだったんですか?」
「おうとも…俺っち達は相棒同士なんだぜ」
「わぁ~!良かったですね会長!相棒君がいてくれて」
相棒じゃない。
「なぁ千花っち。俺っち達今からラーメン食いに行こうとしてたとこなんだけどよ、千花っちも一緒にこねぇか?」
「良いですね~!じゃあ私も行きます!会長も良いですか?」
良いも何も僕は行くとは一言も言ってない。僕はこのまま帰らせてもらう。
そう決め込んで、自宅に帰ろうとしたものの…
「私、ラーメンを食べるの久しぶりだな~。リッキー君は何味を食べるんですか?」
「お?俺っちはラーメンなら何でも食べるぜ」
何故ついて来てる?
「斉木、街に不穏な風を感じないか?俺達で不穏な風の正体を確かめようじゃないか…」
しれっと海藤までついて来てるんだが。
「お?同じクラスのチビじゃねぇか。何してんだオメー?」
「誰がチビだ。俺と斉木はこれから不穏な風の正体を探りに行くんだ。部外者は消えてくれ」
誰も行くとは言ってない。
「んだと!?俺っち達はこれからラーメン食いに行くんだよ!」
「そうですよ!そういうあなたが部外者じゃないですか!…ところであなた誰ですか?」
「フッ、俺の名は海藤瞬。しかしこれは表向きの名前…その正体は漆黒の…」
「あ~!あなたがこの前かぐやさんにラブレターを送ってフラれちゃった頭がイッちゃってる人ですか~!」
「グフッ!?」
効果は抜群だな。
「ギャハハ!んだオメー?四宮にラブレター送ってフラれちまったのかよ!」
「そうなんですよね~!あ、ラブレターの写真撮ってあるけどリッキー君見ますか?」
「ギャハハ!なんだよこの文章!?オメーカッコつけすぎだっての!」
そのくらいにしてやれ。海藤のライフはとっくにゼロだ。
「ぐすっ…!」
ほら、泣いちゃった…ん?
「あれ?女の子が泣いてる…」
文字だけだから一瞬海藤の声かと思ったが、どうやら違うようだ。
「どうしたんだ?俺っち話聞いてくるわ」
お前自分の顔面を鏡で見た事ないのか?防犯ブザーの音は聞きたくないからやめてくれ。
「どうしたの?誰かにいじめられたの?よかったらお兄ちゃんに話してくれないかな?」
「海藤君…さっきと口調変わってません?」
「…何があった小娘よ!訳を話してみろ」
今のがお前の素か?というかここのくだりほとんど原作の斉Ψと変わらないじゃないか。この小説の作者はもう少しオリジナリティーを磨いた方が良いと思うぞ。
『すみません。努力します…』
…今誰かの声が聞こえたような?
それはさておき、どうやらこの女の子が飼っている犬のウィンドが散歩中にどこかへ行ってしまったらしい。首輪を外してしまったらしいから警察とかに見つかれば野良犬と思われて保健所に連れて行かれてしまうな…
「へへっ!任せな嬢ちゃん!その犬俺っち達が見つけてやんよ!」
「リッキー君の言う通りです!私達に任せてください!」
その俺っち達と私達に僕は入ってないだろうな?
ん?女の子がカバンか何か取り出しているようだが…
「おい!防犯ブザー鳴らそうとしてるぞ!?」
「ままま待ってくださーーーい!!」
それからなんとか海藤と藤原さんが女の子を宥め、海藤が犬の特徴をノートに書き写す。燃堂?あいつは犬の特徴も聞かずに探しに行ったぞ。
「よし…こんなところか」
「いやどんなところですか!?どうみても何かのバケモノじゃないですか!」
「何を言う藤原!どこからどう見ても犬だろう!」
どこからどう見てもバケモノじゃないか。
どんなバケモノなのかは原作斉Ψの第一巻第4χを見るといい。
「まぁいい。これをコピーして街中に配るぞ!行くぞ斉木!」
じゃあな海藤。また明日。
「よ~し!このラブ探偵チカがパパっとウィンドを見つけ出してみせます!」
犬とラブ関係なくないか?
「さぁ!行きますよ会長!」
じゃあな藤原さん。また明日。
さて、僕は帰るか。
「お兄ちゃん!ウィンド見つかるよね!大丈夫だよね?」
やれやれ…話を聞いてしまった以上無視するわけにはいかないな。
しかし『念写』は苦手なんだよな…
この能力を使えば現在起きている出来事を紙に写すことが出来る。これでウィンドの様子も現在いる場所もわかるという訳だ。
だが念写には一分の時間が必要で、その間に違う事を考えてしまえばその違う事が写し出されてしまうというわけだ。
案の定失敗だ、一瞬四宮さんの顔が浮かんでしまった。なにやら顔を真っ赤にして近侍の早坂さんに詰め寄っているが、深くは考えないでおこう。
やれやれ…ようやくウィンドの様子を念写する事が出来たが背景がわかりづらく居場所の特定が難しくなっている。
仕方がない、もう一度念写を…ん?
「ウィンド~!心配したんだからねっ!」
やれやれ…見つかってよかった。
「ありがとうお兄ちゃん!」
礼ならあの三人に言ってやってくれ。認めたくはないがウィンドを見つけられたのはあいつらのおかげだ。
ウィンドの様子を念写する時に燃堂、海藤、藤原さんの姿を念写してしまったが、燃堂と藤原さんの絵がウィンドの居場所を特定するヒントになったのだ。
まず燃堂が他の人の犬を捕まえている時の絵。そして藤原さんが虫眼鏡を持ってウィンドを探している時の絵。この二人がいる場所の背景とウィンドがいる場所の背景が一緒。つまりウィンドは燃堂と藤原さんの近くにいたのだ。二人の近くにいるとわかれば後は簡単だ。千里眼を使えば二人の居場所がわかるからな。
それと海藤も何気に役に立っていた。どうもあいつが描いたバケモノの絵が原因で警官と一悶着あったようだ。実はウィンドを保護した後、その警官がやって来たのが見えたのだ。もし海藤と一悶着なければ僕より先にウィンドを見つけてそのまま連れて行っていただろう。
「会長~!ウィンド見つかったんですか!」
「流石相棒だぜ!」
「くっ!まさかダークリユニオンの背後に警察までいたとは…」
まぁそんな事、お前達からしたら夢にも思っていないだろうがな。
「お?じゃあこの犬誰のだ?」
お前の後ろで青筋立ててる奴のだろ。
「いや~、良い事をすると気持ちが良いですね~」
「俺っち全然気持ち良くねぇぞ…」
「フン、バカめ…」
あれからもずっと僕の後ろを三人がついてきている。ちなみに燃堂の顔が更に酷い事になっているのはあいつが捕まえてきた犬の飼い主にボコボコにされたからだ。
「お?見えてきたぜ!」
やれやれ…結局ラーメン屋についてしまったじゃないか。仕方ない。さっさと食べてさっさと帰ろう。
「ん~?…リッキー君、あの張り紙…」
「お?」
ラーメン屋の入口に張られている一枚の紙。張り紙には『定休日』と書かれている…
休みじゃねぇかっ!!
最近SNSで窪谷須がバズってそれに斉Ψ原作者の麻生周一先生が便乗して海藤のテーマがオリコンチャート20位に入るという現象が起きたんだけど?