ここは・・・どこだろう・・・?
真っ暗だ・・・。
あれ・・・おかしいな・・・?いつもは色や匂いを感じれば何か視えるのに・・・。
そういえば、箒さんはどうしたんだろう・・・?
私はちゃんと謝ることができただろうか・・・?
身体と頭がだるい・・・鉛みたいだ・・・。
ああ、そっか・・・ちょっと無茶しちゃったんだな・・・。
洗脳(プログラム)に抗うのは久しぶりだったな・・・妹のESPが暴走した時以来だっけ・・・?
まあ、箒さんとお友達になれたから良かったけど・・・。
ここに私を運んだのは箒さんだろうか・・・?
なら、そろそろ起きてお礼言わなきゃ・・・。
★
「・・・・・」
「あ、織斑先生!エレフセリアさんが起きましたよ!」
「ああ、見えてるよ山田くん」
保健室からエレフセリアが倒れたという連絡が入ったのは放課後から一時間ほど経った時だった。
慌てて飛び出して行った山田くんの次に急いで駆けつけてみると、篠ノ之が目を腫らしながらベッドに眠るエレフセリアを看病していた。
事情を問いただしてみると、事は中々に重大だった。
しかし解せない、彼女が洗脳に抗ってまで篠ノ之に会話を求めたその真意が。
彼女の性質は学園での行動から大体推察できたが、その身に受ける苦痛がどれほどのものか解らない程頭が悪いわけではない。
とりあえず本人に事情を聞くことにして、看病をすると言ってゴネた篠ノ之は一夏に迎えに来させたが、エレフセリアの様子を見た一夏までも看病すると言いだしたので、起きたら報告すると言って強制的に外に追いだした。
それから2時間ほど経って、ようやくエレフセリアが目を覚ました。
指を動かす事も億劫そうな様子に山田くんが顔を歪めたのを横目で一瞥し、私は尋問の内容を緩める方向で修正した。
「さてエレフセリア、お前に聞きたいことがある。内容は解るな?」
「・・・・・ッ」トンッ
ゆっくり伸ばした指先で、机を一度だけ叩いた。どうやら返答しているらしい。
「篠ノ之にESPを使ったらしいな」
「・・・・・ッ」トンッ
「一夏のことか?」
「・・・・・ッ」トンッ
「・・・洗脳に抵抗してESPを使用してまで会話したかったのか?」
「・・・・・ッ」トンッ
聞けば聞く程、なんとまあ呆れた奴だと私は溜息を吐く。
こいつの事情は知っていたが、まさかここまで馬鹿だとは思いもしなかった。
そして、そんな奴を今の今まで警戒していた私自身を笑いたくなった。
こいつは馬鹿だ。ただただ真っ直ぐな、折れも捻じれもしない一筋の線。
私達大人が忘れてしまった、純粋さの塊のような奴。
研究所(あそこ)からの手紙の内容(・・・・・)は、確かに正しかったようだ。
私はもう一度溜息を吐きだした。
「最後に聞いておこう。篠ノ之にそこまでした理由は何だ?」
「・・・・・」
答えは返ってこない。当然だ、こいつは喋ることができない。
だからこれは自分自身への問いかけ。
こいつを理解してやるための、私なりの反省だった。
「クラス代表者の模擬戦は休め、その様子ではISの起動も辛かろう」
「・・・ッ」トンットンッ
眉を顰めて指で机を二回鳴らす。
そして僅かに首を振るような動作を見せた。
拒否しているのだろう。しかしその弱った姿からは説得力は感じられない。
それ故に私の判断は覆られない。
「ダメだ、今の状態を自ら省みられないようなら模擬戦どころか授業の参加すら認められない。医者の判断では一日安静、戦闘に関しては1週間認められないそうだ」
「・・・ッ!・・・ッ!」トントンッ・・・トントンッ・・・
「・・・エレフセリアさん、今のあなたでは少しの無理でも大事に成りかねないんです。約束を破るのは心苦しいでしょうが・・・」
「・・・・・」
山田くんの心情を読み取ったのか、先程まで見せていた気勢は落ち着いていた。
ふむ、こいつには感情の読み取りやすい山田くんの言葉の方が余程効果があるな。
何はともあれ、これ以上騒がず大人しくしてくれるのなら教師として安心できる。
「そういう訳だ、黙って寝ていろ。山田くん、私は仕事に戻る」
「あ、はい!私もすぐ戻りますね!」
「・・・・・」ペコッ
やることはやった。手紙(・・)の裏付けも取れた。
ならば後は呼び出される前に残してしてきた今日の仕事をこなすだけだ。
職員室に戻る為保健室を出てみると、一夏と篠ノ之、そしてエレフセリアのルームメイトである布仏が廊下で待ち構えていた。
「千冬姉ぇ!クルヴィは大丈夫なのか!?」
「はぁ・・・学校では織斑先生と呼べと何度言ったら解るんだお前は・・・」
「織斑先生!クルヴィは、あいつは起きたんですか!?」
「クルルーに何があったんですか!?」
それぞれエレフセリアの安否を口にしながら詰め寄ってくる。
まだ二日しか経っていないのに随分馴染んでいるものだと、改めて彼女の性質を確認させられ苦笑が漏れた。
しかし例え友人であっても、あいつの情報はそう易々と話せるものではない。
なので詳しい事情は避け、症状だけを簡潔に述べる。
「1日安静、1週間の激しい運動は禁止だそうだ。深刻な病状ではないから安心しろ。あとクラス代表者の模擬戦には出られないので、織斑とオルコットはそのまま不戦勝となる」
「そうですか・・・良かった、本当に・・・!」
「・・・なんか納得いかねぇけど、クルヴィがそんなんじゃ仕方ねぇよな」
「・・・・・」
「面会するならあまり時間をかけるなよ、奴もだいぶ疲れているようだからな」
その言葉に一夏と篠ノ之は喜々として保健室に入っていくが、布仏だけはその場で佇んでいる。
何やら思案気な表情で俯いているが、もしや何か知っているのか・・・?
まあ、奴なら更識から何かを聞いていてもおかしくはない。
余計な事を言わないように釘を刺しておくか。
「布仏、何を聞かされたか知らんが、エレフセリアに関してはまだ話すなよ。あちらにも色々とあるようだからな」
布仏が顔を上げて何かを言いたそうにしているのを無視して、そのままその場を切り上げて去った。
やれやれ、ガキ共の世話は毎度苦労させられる。あのバカも何か企んでいるようだしな・・・。
先行き不安な未来に溜息を吐きつつも、今日の仕事を終わらせるために職員室へと急いだ。
★
「山田先生!クルヴィは大丈夫なんでしょうか!?」
「篠ノ之さん!静かにお願いします!」ボソボソ
「あっ・・・す、すいません・・・」ボソボソ
箒さんの声が聞こえた。
ようやく戻り始めた感覚が、他にもい、一夏さんや本音さんの色をぼんやりと捉える。
「クルヴィ、倒れたからって心配したんだぜ?特に箒なんて」
「よ、余計な事を言うな!」
「いてぇ!?ホントの事だろ!?」
「クルルー、大丈夫なの~?」
「だから静かにお願いします!」ボソボソ
『す、すいません』ボソボソ
なんだか騒がしいや、みんな元気がいいなぁ・・・。
あ、そうだ。心配かけちゃったことを謝らないと・・・。
「・・・ッ!」モゾモゾ
「エレフセリアさん!?まだ起きあがっちゃ駄目ですよ!?」
むぅ、起きあがろうとしたら山田先生に押し留められてしまった。
仕方ないのでみんなの方を向きながら手を合わせて拝む様な姿勢で謝ってみた。
「・・・ッ・・・ッ」ヘコ~
「あはは~大丈夫だよクルルー。心配したけど無事だって聞いて安心したから~」
「そうだな、以外に元気そうで良かったよ。でもあんまり無茶すんなよ?」
「そ、そうだぞ!あんな風に目の前で倒れられたら、ゆ、友人として気が気でないからな!」
それぞれの言葉を聞いて安心して微笑む。
良かった、許して貰えたようだ。
「あれれ~?しののん、いつの間にクルルーとお友達になったの~?」
「そういや、保健室に運んだのも箒だったよな?放課後なんかあったのか?」
「い、いや、それはだなっ・・・」
箒さんの言葉が引っかかったのか、本音さんが疑問を口にするのに合わせて一夏さんからも質問が出た。
箒さんはどう説明すればいいのか解らず言葉を詰まらせている。
・・・まぁ、その内容が一夏さんが好きとか一夏さんにどうしてほしいとかの話なので、箒さんだけじゃなく私も非常に困るわけだが。
やはり告白と言うのは相応の機会と万全の準備を持って臨むべきなのだ。
こんなロマンもへったくれもない凡ミスで恋を曝すほど、乙女の純情は軽くない。
そういう訳で、少し顔が熱くなっているのを自覚しつつも箒さんへ援護射撃を行うことにした。
「・・・・・ッ」クイクイッ
「ん?どうしたのクルルー?」
「・・・ッ・・・ッ・・・ッ」
「ふむふむ・・・あ~なるほどね~!それはおりむーには話せないよ~」
「え?のほほんさん、どういうことだ?」
「ダメだよおりむー、女の子の秘密を探っちゃ~。山田先生もそう思いますよね~?」
「え?あ、そ、そうですね!織斑くん、ダメですよ!女の子には知られたくない秘密が沢山あるんですから!」
「そ、そうだぞ一夏!お前はデリカシーが足らん!」
「いきなりみんなしてなんだよ!?」
本音さんのフォローはうまく行ったみたいだ。
流石はお友達1号。
今度お礼するものを考えておかなければ。
でも、このままだと一夏さんが弾きだされて可哀想だ。
私も何かフォローしなくては!
えっと、例えば・・・・・・うん、このくらいなら問題ない、よね?
恥ずかしがり屋な箒さんの危機感も煽れるし、彼の意識も引けて一石二鳥だ。
「・・・・ッ!」クイクイッ
「うんうん、わかったよクルルー」
再び本音さんに詳細を伝えると、ワクワクしてそうな笑顔で了解してくれた。
「おりむー、クルルーがちょっとベッドから起こしてほしいって~」
「ん?まあ、別にいいけど」
本音さんの言葉に何の警戒も抱くことなく、一夏さんがベッドに近づいてくる。
少しドキドキしている。
一夏さんが布団を剥いで、私が後ろに倒れこまないように腰に手を廻してきた。
あの色がこんなに近くにある。
私の左手を握って顔を息がかかるほど隣に寄せると、優しくゆっくりと背中に力を入れて起こしてくれる。
ちょっと恥ずかしいけど、意外と冷静だ。
そしてベッドのふちを背もたれにできるように動かしてくれると、私を起こし終えたと思っている一夏さんが離れようとした時、まだ近くにあった思いっきり手を引き寄せた。
完全に油断していたため、あまり強い方ではない私の力でも簡単に体幹を崩す事ができる。
目の前を覆った驚きの色を見せる顔を右手で抑えつけると、そのまま一夏さんの唇と接触するように抱きこんだ。
「むぐぅ・・・!?」
「なぁ!?」
「ひゃ~クルルー情熱的だ~」
「え、えええええエレフセリアさん!!?」
わ、わぁ・・・!男の子の唇ってこんな感触なんだ・・・。
熱くて、ちょっと乾いてて、唾液がちょっと甘い・・・。
それに、なんだか頭の中が蕩けて行くみたいに気持ちが良い・・・。
もっと味わってみたいけど、次の機会までにとって置かなくっちゃ。
名残惜しい思いを噛み締めながら、私はそっと唇を離した。
「く、クルヴィ・・・?えっと、今のは・・・一体・・・」
「クルヴィ!い、いきなり何をするんだ!どういうことか説明して貰うぞ!!」
「・・・ッ・・・ッ」
「ええっとね、身体を起こして貰ったお礼だって~」
「そ、そうなのか?」
「そうそう~」
一夏さんは釈然としないながらも一応納得したようだ。
・・・・なるほど、これは難しそう。これが鈍感系主人公の実力か・・・。
箒さんの方は益々猛って行くが、フォローは本音さんに任せてあるので問題ない。
「そんな訳なかろう!正直に吐くのだ!!」
「モタモタしてたら私が面倒見ちゃうよ、だって~」ボソボソ
「ッ!!?」
「急にボソボソ喋り出してどうしたんだ?」
「な、何でもない!それより一夏!早く寮に戻って勉強するぞ!ただでさえ時間がないんだからな!」
「ちょ、引っ張るなよ!それにまだ挨拶してないだろ!?」
箒さんと一夏さんの色が部屋を出てどんどん遠ざかって行く。
しばらくしてから本音さんがサムズアップしてくれたのが匂いで視えたので、私もそれに倣って返した。
山田先生はしばらく固まっていたが、やがて再起動すると不純異性交遊についての注意を長々と説教し始めた。
巻き込まれない内に本音さんが別れの挨拶をして部屋に戻っていく。
私は自業自得なので、誠心誠意叱ってくれる先生の言葉を粛々と受け止めた。
誰かに叱って貰うのは本当に久しぶりだったので、萎縮しながらも沸いてくる喜びを隠しきれずについ微笑んでしまう。
「もう、ちゃんと聞いてるんですかエレフセリアさん!」
「・・・ッ・・・・・・ッ」コクコクッ・・・・・・ニコ~
「はぁ・・・なんで笑顔なんですかぁ・・・」
誰かと一緒に過ごすって、笑ったり怒ったり悲しんだり、笑われたり怒られたり悲しまれたり、そういうことの積み重ねなんだということを、私は実感した。
そしてその何でもないような積み重ねが、何よりも幸福な思い出なのだ。