国家解散より100日が経ち、予定通り魔界統一トーナメントが始まろうとする。
当初の大会参加者は元三大勢力関係者の合計108名だったのだが、現在は6272名と予想を遥かに超えた数となっていた。
ここまで激増した原因は、ある出来事が切っ掛けとなった。煙鬼達と隆誠が発した気の柱が消えた後、出場する筈だった黄泉の部下が相次いで辞退し姿を消してしまったから。それで黄泉の国家解散が真実味を増したため、あわよくば優勝をかすめ取る事が出来るかもしれないと参加者が一気に増える事になったのだ。
余りの応募人数に誰もが呆れており、「勝つのは軀か黄泉のどちらかなのに」と思いながらも、奇妙な興奮と期待感が魔界全土を覆っていた。
『予選抽選会まであと20分です。大会参加者は速やかにアリーナに集合して下さい。繰り返します――』
抽選会場となっている元癌陀羅では、多くの参加者だけでなく、観客達も多く溢れかえっていた。
その中には大会主催者である幽助、彼の隣に隆誠は戦闘用の道着を身に纏って準備運動をしていた。
人間の隆誠がいる参加している所為か、多くの妖怪達がチラチラと見ている。
――浦飯幽助と一緒にいる人間、大した力は無さそうだな。
――何で参加してるのかは知らねぇが、もし戦う事になれば腹の足しにさせてもらおうか。
――人間の肉を食うなんて久しぶりだぜ。
妖怪達は彼を単なる獲物としか見ていないのか、戦いとは違う楽しみが出来たと言わんばかりに嫌らしい笑みを浮かべている。
視線を向けられている隆誠は勿論気付いているが、全く気にしていない。寧ろ眼中にないと言わんばかりの様子で、幽助と話していた。
「しかし、まさかこんなにアホが集まるとはな」
「大方、漁夫の利を狙っているんだろう」
参加者の余りの数を見て呆れる幽助と隆誠。
確かに組み合わせ次第によって優勝を狙えるかもしれないが、今回行われるトーナメントはそんな簡単ではない。
最初に行われる予選はかなりの人数が落とされる為、生半可な実力者が優勝を目指すには相当な運が必要となるだろう。仮に突破したところで、本戦で強い相手と当たったらそれまでとなってしまう。
「よーー、浦飯! やっと見つけたぜ!」
すると、幽助を呼ぶ声が聞こえた。
隆誠は聞き覚えがあるなと思いながら振り向くと、以前に黄泉と対談してる時に隣室で待機していた者達だった。その中に赤い長髪の蔵馬と言う男はいない。
「よぅ、オメェら!」
知り合いの再会に幽助は嬉しそうに歓迎の姿勢を見せていた。
集まった六人――
隆誠も彼等に倣って自己紹介をした後、大会について話をしようとする。
「皆さんもご存知でしょうが、今大会は予選でかなり落とす事になっています。運が悪ければ同士討ちになる可能性もありますので、そこは覚悟して下さい」
「え? そうなのか、リューセー?」
「お前、大会主催者の一人なのに何で知らないんだ?」
まるで初耳と言わんばかりに聞き返す幽助に、凍矢が大変呆れた表情になっていた。
隆誠も同様に呆れつつも、改めて内容を説明しようとする。
「参加者6272名を49人ずつのブロックに分けて予選を行う予定で、本戦に出場出来るのは一人だけになっているんだよ」
「てことは本戦に残れるのは………87人くらいか」
「戯け、128人だ」
割り算がまともに出来ない幽助に嘆く隆誠は、この大会が終わった後に再び勉強させる必要がありそうだと改めて理解した。
二人のやり取りを見ている酎達は、まるでダメな弟を叱る兄みたいな光景のように思えた。
誰もが幽助と戦いたいと言う意思表示を見せた後、彼等は一旦別れることになる。
その直後、他の参加者や観客達が途端にざわめき始めた。大会参加者の中で一番注目されている軀と黄泉(+二人の子供)の登場によって。
幽助と隆誠も気付いており、此方へ近付いてくる二人に視線を向けた事で対峙する形となる。
「久しぶりだな、二人とも」
「ああ」
「あの時にお会いして以来ですね」
先ず声を掛けたのは軀で、幽助と隆誠も倣うように返した。
「浦飯の方は、あの時よりもまた腕を上げたな」
前回会った頃と比べて更に強くなっている事を、軀は既に気付いていた。
「兵藤隆誠、と言ったか。お前のような強い人間がいたなんて驚いた。出来れば俺直属の部下になって欲しいくらいだ」
いきなりの勧誘発言に、周囲の者達が驚きの声を発する。嘗て魔界三大妖怪の一人と謳われた軀が、人間相手にそこまで評価するなど思いもしなかったから。
「まぁ、それは抜きにして、今回は俺も本気で行くぜ」
そう言いながら軀は顔に巻いている包帯を片手で取り払う。中身は赤味がかった茶髪のショートヘアで若く美しい風貌をしており、顔の右半分は焼け爛れている。
長年隠されていた軀の素顔を見た事で、周囲の誰もが声を失っている。
「実戦に勝る修行は無い。浦飯は俺と当たるまでに、せめて互角くらいに力を上げろよ。兵藤の方は、そこの
二人にアドバイス(?)をした軀は踵を返して去って行く。
「パパ、今のが軀って人?」
「そうだ」
「お父様、あの方はどうして傷を治さないんでしょうか?」
「さぁな。本人に聞かなければ分からない事だ」
黄泉は傍にいる男の子と女の子の質問に答えていた。
そのやり取りを見た幽助と隆誠は、二人が黄泉の子供だと気付く。
「こいつら、オメーの子供か?」
「君達も出場するのかい?」
「君じゃない、修羅だ」
「わたくしは
口の悪い男の子は修羅、丁寧な喋り方をする女の子は迦楼羅と名乗った。
「修羅と迦楼羅か、どっちも良い名前だな。けど名前負けすんなよ」
「「……………」」
笑みを浮かべながら言う幽助に、修羅と迦楼羅は何故かジッと見ている。
「パパ、この浦飯ってやつ大したことないよ。今の僕や迦楼羅よりちょっと上ぐらいの強さだもん」
「クスクス。修羅お兄さまったら、いくら本当のことだからって流石に失礼ですわよ」
「このガキ共……!」
思った事をそのまま口にする修羅と、小馬鹿にするような感じで嘲笑する迦楼羅に青筋を浮かべる幽助。
すると、迦楼羅の方は突然隆誠の方へと視線を向ける。
「貴方の方は何故か全く強さが感じ取れませんわ。ですが……この方の気は何処かで」
「おい迦楼羅、こんな人間にいつまでジロジロ見てるんだよ」
「あっ! もう、修羅お兄さまったら」
何か興味を引かれるかのようにジッと見続けている迦楼羅に、修羅は面白くなさそうに不機嫌な表情となって止めさせた。
(もしやこの子……)
修羅がシスコンだと言う事に隆誠は気付く。
一緒に歩いている時は必ずと言っていいほど、妹を守るような感じが見受けられたのだ。可愛らしい容姿でお嬢様みたいな振る舞いをすれば、兄として守ろうとするのは当然かもしれない。
因みに父親の黄泉はそれに気付いているのかは不明だが、兄妹のやり取りをみて大変微笑ましそうに見ている。
「じゃ、約束通り、パパともここで敵同士だからね」
「ん? うむ」
息子の台詞に黄泉は言い淀んでいた。
いきなり敵同士と言われたら、父親の彼としてはそうなってしまうのは無理もないだろう。
「修羅お兄さま、本気なのですか?」
「当たり前だ。迦楼羅だって僕やパパと戦うのを覚悟して、この大会に参加したはずだ」
「それはそうですが……」
迦楼羅も修羅の言う通り、身内同士で戦う事を承知の上で参加している。
だからと言って戦う前から敵愾心を燃やすのはどうかと文句を言いたいが、今の兄に何を言っても無駄だと思って諦める事にした。
何も反論出来なくなった妹を見た修羅は、再び父親の黄泉に向かってこう言った。
「パパ、僕や迦楼羅と当たっても全力で勝負してよ!」
「ああ、分かったよ。約束だ」
黄泉の返答を聞いた修羅は、迦楼羅を連れて何処かへ行こうとする。
「もしも手加減したら、一生口きかないからな!」
「お、お父様、どうかお手柔らかに……!」
生意気な発言をする修羅と、何とか兄に合わせようとする迦楼羅。
性格が対照的な兄妹に、隆誠は苦笑するしかなかった。
「生意気なガキだな、特に兄の方は」
幽助からすれば修羅と迦楼羅のどちらも生意気にしか見えなかったのだろう。初対面の相手に失礼な発言をされたら無理もないが。
「あの様子では、相当手を焼かされたでしょう?」
「そうだな」
隆誠からの問いに、黄泉は一切否定する事無く頷いた。
「初めて出来た息子や娘を相手に悪戦苦闘の毎日だった。自分自身に笑ってしまうよ。何故こんな器の小さな男が、魔界統一など考えたのかとな」
以前に会った時とは別人と思うほどに黄泉は見違えていた。父親としての感情が芽生えた事で、今までの価値観が大きく変わったのだろう。
家族愛を最も大事にしている隆誠としても、実に良い傾向だと見ている。もしかしたら今の彼とは仲良く出来るかもしれないと。
「あの日の凄まじい妖気と兵藤の闘気、あのお陰で俺は目が覚めた。信じてもらえなくても構わないが、俺は何も望まず、この大会を全力で戦う」
黄泉の言葉に嘘偽りは一切無い。そう思ってしまうほどに隆誠と幽助は確信した。
「二人とも、健闘を祈るぞ」
そう言って黄泉は踵を返して二人と別れる。
「幽助、これは面白くなってきたな」
「ああ」
真正面から戦う事を宣言した黄泉に、隆誠と幽助は楽しそうに笑みを浮かべていた。
オリキャラの迦楼羅は修羅の妹と言う設定です。
容姿については、髪を伸ばした修羅の女の子バージョンみたいな感じです。
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