『修羅選手、手を差し伸べた兵藤選手に騙し討ちを仕掛けた事で、決戦場が火の海と化しています!』
会場では小兎の実況のマイク音が響くも、会場にいる観客達や予選を終えた選手達の殆どが絶句していた。修羅の放ったエネルギーを間近で直撃した隆誠でも流石に死んだかもしれないと。
「バカが。さっさと勝負を決めれば良かったものを」
試合を見ていた飛影は隆誠に対して呆れていた。如何に強くても所詮は甘い人間に過ぎなかった事に。
修羅のやった事は、妖怪として正しい行動なのだ。生まれたばかりの子供と言えど、魔界の妖怪相手に下手な情けを掛ければ、それこそ命取りになってしまう。
「それはどうかな?」
しかし、軀が飛影とは全く異なる反応を示していた。
「俺には黄泉の息子が選択を誤ってしまったように思える」
修羅はあのまま素直に降参していれば良かったと非常に後悔するかもしれない。そう考えてしまうほど、軀は少しばかり気の毒そうな目でみていた。
彼女以外にも――
(修羅、お前は虎の尾を踏んでしまったかもしれないぞ)
黄泉も同様の事を考えながらも、息子が無事に戻って来られるかを少しばかり心配していた。
「へへ、大成功」
油断していた隆誠に一撃当てれた事に、修羅は立ち上がりながらしてやったりと笑みを浮かべていた。
先程躱された妖気弾と違って至近距離で放ったから、どんなに防御したところで大ダメージは免れない。それどころか今度こそ死んだだろうと修羅は予想している。
「決まったな……っ?」
森が燃えている中、突如異変が起きようとしていた。
火の海によって赤く染まっている筈が段々変わっていき、いつの間にか青白い火となっていく。
「うわぁっ! ま、まさか……!?」
直後、突風が吹き荒れた事で修羅は咄嗟に両腕を交差して顔を守りながら、再度前方へ視線を移す。
ゆっくりと歩く隆誠を避けるように、青白い火が道を開けているような光景だった。
「そんなバカな、傷一つ受けてないなんて……!」
確実に当たったにも拘わらず、全く無傷な姿を見せている隆誠に驚愕する修羅。
すると、歩を止めた隆誠が口を開く。
「今のは中々良い攻撃だったぞ、修羅。並みの妖怪であれば間違いなく焼死しているだろう」
だが、と言いながら言葉を続ける隆誠。
「相手が悪かったな。俺には効かないどころか、単に怒りを買っただけだ。もう此処から先は容赦しないぞ」
「……ふっ、そのつもりでやったんだよ。これは真剣勝負なんだ」
生きていた隆誠に驚愕する修羅だったが、途端に笑みを浮かべながらそう言い返した。
挑発しているのが見え見えだと分かっているのか、未だに涼しい顔をしている隆誠。
「そうか。だったら早く俺に出させてくれよ、本気をさ」
「っ! 言われなくてもそのつもりだよ!」
本気を出すよう催促して来ることに苛立ちを隠せなかった修羅が動き出した。
また追いかけっこかと思いながらも、隆誠は彼の速さに合わせるように追いかける。
先程まであった筈の森林が無くなって焼け野原になった空間を走る二人だが、十秒も経たない内に変わった。走っている修羅が突然真上に向かって跳躍したから。
隆誠は走るのを一旦止めて、上空に舞う修羅が何をするのかを見守っている。
「はぁぁぁぁぁ……!」
胸の辺りで交差する修羅の両手から、今までとは桁違いの妖気が集中していく。またしても放出系の技だと一目瞭然だ。
それを見ても隆誠は回避の姿勢を一切取らず、まるで向こうの出方を見守っているように隙だらけだった。
両手に収束された妖気が溜まったのか、修羅はもう既に放つ寸前となる。
「必殺!
両手から円盤状の妖気の塊を放つ魔円咬は、一つ残らず全て隆誠の方へ向かっていく。これまで放った妖気弾とは全く異なり、夥しい数と凄まじい速度で襲い掛かろうとする。
「少し強めにするか」
隆誠がそう言った直後、彼の全身から金色のオーラ――『
覆われている神聖気が修羅の魔円咬に当たった瞬間、まるで何もなかったかのように消失する。残りの塊も一切爆発する事無く同様の事象となった後、役目を終えたかのように隆誠のオーラも消えていく。
「そ、そんな……!」
全て撃ち終えた修羅が着地しながら、自分の必殺技が全然効いてない事に驚愕していた。
本来であれば魔円咬が一つでも当たった後に爆発し、残りの塊も連鎖爆発を起こして対象にダメージを与える技。確実に当てるよう、全ての妖気の塊を当てるように集中して操作したのだが、全く異なる結果となっている。
(まさか、アレで僕の妖力を!?)
ここで修羅は漸く気付いた。自身が放った妖気弾や炎の妖気は当たったように見せかけて、妖気でも霊気でもない不思議な気で全て防いでいたのだと。
人間の身体は妖怪と違って脆弱だから、アレが無ければ今頃とっくに倒せていた筈。そう考えなければ辻褄が合わないのだ。
「どうやら気付いたようだな。俺が今まで君の妖気を受けても無傷だった理由が」
そう言ってる隆誠だが、修羅に気付かせるよう種明かしをした。神聖気で防ぐのを見せれば必ず答えに辿り着く筈だと。
「俺のオーラを貫けない時点で、君の負けは確定だよ。だからそろそろ負けを認めたらどうだ?」
「ぐっ……」
改めて降参するように再度言う隆誠に、自慢の必殺技が通用しなかった事で修羅は非常に口惜しがっていた。
会場にいる者達も、二人の力の差を理解している。
しかし、修羅は諦めなかった。妖気が通じないなら近接戦でやろうと、隆誠に突撃を仕掛けようとする。
「やぁぁぁぁぁぁぁ!」
攻撃を仕掛ける修羅に、隆誠は簡単に躱して反撃をしようと彼の頬を拳で当てた。
「うっ、くっ……ちくしょう……!」
殴られ吹っ飛ばされても再度立ち向かおうとする修羅だが、破れかぶれのように拳や回し蹴りを繰り出した。しかし、動きを見切られているように掠りもせず全て紙一重で躱されている。
「このぉぉぉ!」
「ふんっ!」
諦めずに挑み続ける根性を見せている事に隆誠は感心するも、流石に少しばかり鬱陶しく感じたのか、少々強めの蹴りを修羅に当てる。
「あぁぁぁぁぁ………!」
隆誠の蹴りで勢いよく吹っ飛んでいく修羅は、森林に突っ込むどころか、大きな岩に激突した。
「ちょっとやり過ぎたか」
崩れ落ちて行く岩を眺めながら、それを吹っ飛ばそうと隆誠は指先を向けようとする。
しかし、その必要は無かった。瓦礫と化した岩の塊の一部を持ち上げて退かした修羅が、ヨロヨロと立ち上がるのを見たから。
「くっ……負けない。僕は絶対負けない!」
力の差を理解している筈なのに、修羅は全く諦めようとしなかった。それどころか更に闘志を燃やしている。
「お前みたいな人間に絶対負けてたまるかぁ!」
「……ふっ。その根性だけは認めてやるよ」
何処かの弟に少し似ていると笑みを浮かべてしまう隆誠。
本当ならもう試合を終わらせても良いのだが、こうなったら最後まで付き合おうと決心する。