『陣選手、兵藤選手を攻め立てます! 両選手のお陰で武術会は滅多に見られない空中戦がされております!』
空中戦が始まって陣が一方的に攻撃を仕掛けているが、隆誠は全く焦りを見せる事無く防御と回避していた。
一旦距離を取ろうと離れる隆誠に、陣は逃がすまいと言わんばかりに追撃する。
しかし、両者が披露している飛翔術には決定的な違いがあるように見えた。風使いである筈の陣が、何故か人間である隆誠の速度に追い付かないのだ。
背を向けて空中飛行する隆誠に追いかけている陣だが、一向に追いつくことが出来ない。当の本人も当然気付いているが、そんなのは知った事じゃないと言わんばかりの様子だった。
「まさかあの陣が飛翔術で翻弄されるとは……!」
「リューセーが空飛べるのは知ってたが、やっぱ陣以上だったか」
会場のモニターで観戦している凍矢が信じられないと驚愕しており、一緒に観ている幽助は納得する表情だった。
陣の一回戦の相手が修羅を圧倒した隆誠だと知った凍矢は、勝率が低くても得意の飛翔術を使えば勝機を見出せる筈だと踏んでいた。けれど、向こうが陣以上の飛翔術が使えると分かった事で、これは非常に不味いと不安視している。
幽助は雷禅が亡くなる前から、隆誠が飛翔術を使える事を知っていた。その時から既に陣以上ではないかと予測していたが、今観ている試合で改めて確信する。
一方、別の場所では軀と飛影も興味深そうに二人の試合を観ている。
「やはりお前の仲間では、兵藤が相手では荷が重いようだな」
「仲間? ふんっ。勝負する以上はどいつも敵だ」
「そうか……」
冷めた返答をする飛影がそっぽを向くも、軀は何かを察しているように笑みを浮かべている。その後に視線を別の方へ移すと、観戦席に座っている蔵馬を発見する。
「それは誰と戦う時も一緒か?」
「当たり前だ」
遠回しに蔵馬の事を指して尋ねるも、飛影の返答は変わらずだったが、軀は満足するように再び笑みを浮かべるのであった。
「こなくそ!」
追いかけていた隆誠が突如止まって自分の方へ振り向いたのを見た陣は、好機と言わんばかりに前進しながら拳を繰り出す。
だが、それを見抜いていたかのように、隆誠はひらりと躱しながら背後に回る。後ろを取った事で陣が完全に隙だらけとなってしまう。
「終わりだ!」
そう言って隆誠は開いた右手から、相手を覆い尽くすほどのオーラ波を放った。
陣は直撃するのだが、突如姿を消す。
「躱しただと? っ、まさか……!」
まるでこうなる事を分かっていたかのような回避に、隆誠が目を見開く。
彼は今になって気付いた。攻撃を躱された後に反撃してくるのを誘導されてしまったと。
すると、背後から陣が現れて――
「
「うおおおっ!」
腕を高速回転させて竜巻を作った必殺技『修羅旋風拳』を使った。凝縮された竜巻が解放されたように、隆誠の全身を覆う。
直撃した隆誠はまともに回避行動を取る事も出来ないのか、億年樹の上にある大地に激突した。
大地を突き破ってそのまま地上に落下していくかと思いきや、いつの間にか全身に神聖気を纏っている無傷の隆誠が、すぐに陣がいるところへ向かって飛んでいく。
「オラは負ける訳にはいかねぇんだ! 幽助ともう一度やり合うまではな!」
手応えを感じた陣はダメージを与えたと確信したのか、負けられない理由を口にした。
幽助と同じBブロックだと分かった陣は喜んだ。だから一回戦の相手が幽助の師匠である隆誠だろうが絶対に負けないと固く誓っている。
「成程。その意気込みを聞いてしまうと、思わず君に勝ちを譲ってしまいたくなるよ」
「ッ!」
背後から倒したと思った筈の隆誠の声がした事で陣が振り向くと、そこには無傷の彼が何事も無いように浮遊していた。
「お、お前、直撃した筈じゃ……!」
「あんな不意打ち程度、咄嗟に防御するのは造作も無い」
ダメージを一切受けていない隆誠に、陣は思わず後退りしてしまう。
「さて、そろそろ終わりにさせてもらおうか」
「なっ! こ、この……! もう勝った気でいるだべか!?」
「ご自慢の飛翔術だけでなく、お得意の技でも俺に通用しなければ打つ手はないと思うが?」
「ぐっ……」
隆誠の言っている事は事実なのか、何も言い返す事が出来ない陣。
飛翔術で翻弄されるだけでなく、全力で放った修羅旋風拳を受けても掠り傷一つすら無い。この時点で力の差が歴然としているのは明白だった。
「だとしても、幽助と戦うまでオラはぜってぇ諦めねぇ!」
「そうか。ならばその熱意、どこまで貫き通せるか……是非とも見せてくれ!」
「がっ!」
隆誠が一瞬で陣の懐に入って腹部に膝蹴りを食わらす。
突然受けた衝撃に陣は怯んでしまい、それが隙となって更に攻撃を許してしまう。
空かさずに拳の乱打を浴びせた後、隆誠は拳を少々強めに振り下ろした。防御や回避が出来ずに全て受けてしまった陣は、そのまま落下して億年樹の上にある大地に激突する。
攻撃を終えた隆誠はゆっくりと降下して地面に着地し、仰向けに倒れている陣を見てこう言った。
「どうした。もうこれで終わりか?」
「へ、へへ……。余裕余裕、まだまだやれるぜ……!」
「ふっ。そうでなくては張り合いが無い」
隆誠の声に反応したかのように、倒れていた陣はフラフラした状態でありながらも立ち上がった。
すぐに風を纏って再び浮かぼうとする陣だが、すぐにまた地面に着いてしまう。
「か、風が……!」
「どうやら風を使う為の妖力が無くなったみたいだが、それでもまたやるか?」
「たりめーだ!」
妖気が使えないなら肉弾戦をやろうと、陣は無謀にも突撃を仕掛けた。
拳を繰り出す陣に、隆誠は身体を少しずらすだけで躱している。反撃せずとも、陣が勝手に自滅するのを分かっているから。
「ぎっ! ちくしょう、ちくしょおぉぉぉ!!」
何度攻撃しても全く当たらず、完全に破れかぶれとなってしまっている陣。
またしてもひらりと攻撃を躱す隆誠に彼は追撃しようとするも、バランスを崩してしまったのかうつ伏せで倒れてしまう。
会場で観ている者達からしたら、悲痛な戦いとも言うべき光景だった。実況の子兎が少々気の毒そうな感じで陣を見ている。
「う、ぐ……はぁっ、はぁっ……ぜってぇ諦めねぇぞ……!」
「ほう」
だがそれでも、陣は諦める姿勢を一切見せずに再度立ち上がった。それを見た隆誠が思わず感心してしまう程に。
☆
(あの陣って小僧、昔の俺にそっくりだな)
会場で試合を観ている雷禅の旧友の一人、
彼は今から1500年前の昔、雷禅に戦いを挑んだ。
当時の雷禅は全盛期で魔界で最強と呼べるほどの存在で、全く相手にならないどころか完全に遊ばれていた。それでも痩傑は諦める事無く、ただ只管挑み続けては惨敗の日々を送っていた。
それでも痩傑としては幸せだった。いつか雷禅を倒す、もう一度雷禅と戦いたいと言う目標を立てて今に至るも、その当人は死んでしまった所為でもう叶わない。
煙鬼の誘いで大会に出ようと思った矢先、予想外の人物と出会った。人間でありながらも、当時の雷禅に匹敵する実力者の隆誠が。
彼が発する不思議な闘気を見て昔の血が騒ぎ、大会前に隆誠と手合わせをした。結果としては本気を出した隆誠に負けてしまったが、この大会で優勝するだけでなく彼に絶対勝つと言う新たな目標を掲げた。
その陣が隆誠に勝てないと分かっていながら挑む姿を見せている所為で、痩傑は当時の自分と雷禅を思い出した。尤も、これはこの試合を観ているである煙鬼も同様に思い出しているだろうと思いながら。
☆
「そんなになってまで君は幽助と戦いたいか?」
「ああ。アイツは熱いモノを飛び切り感じさせてくれるからな!」
隆誠の問いに陣が力強く答えた。
こうまで言い切るとは、それだけ幽助に対する思いがあると隆誠は察した。同時に惜しいと思ってしまう。一回戦の相手が自分でなく幽助に当たって欲しかったと。
予選で戦った修羅と違って真っ直ぐな姿勢を見せる陣に揺らいでしまうが、自分も幽助と戦わなければならない目的があると、隆誠は改めて戒める事にした。
「ならばその敬意を表して、ここからは俺も少々本気を出すとしよう」
「何?」
今まで本気じゃなかった事に驚く陣とは別に、隆誠が行動に移そうとしていた。
「ふっ!」
「ぐぁっ!」
突如、右手の人差し指と中指から繰り出される小さな光が、陣の片膝に強烈な痛みが襲い掛かる。
だが、隆誠が空かさずもう片方の左手の人差し指と中指からも小さな光を放ち、今度は陣の頬を掠めた。
(は、速過ぎる……!)
隆誠の放った光が陣には全く見えなかった。例え万全な状態でも躱す事は出来ないだろうと思いながら。
そして――
「そらそらそらそらそらぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっっっっっっ!!!」
今度は掛け声とともに凄まじい速さの小さな光を両手の人差し指と中指から連射して、陣の身体に全て直撃する。
隆誠が使っているのは、ドラグ・ソボール極悪人キャラのフリーズが使っていた『クレイジーフィンガーバレット』と呼ばれる技。ピッコルと戦っている際に使って、文字通り滅多打ちにしていた凶悪な技でもある。
既に満身創痍となっている陣では躱す事も、防ぐ事も出来ず、身体中に当たる光の激痛に耐えるしかなかった。
それが数秒以上続き、余りにも容赦の無い攻撃に、会場では隆誠に絶句する者が現れている程だ。
「あ、あ………」
隆誠が攻撃を終えると、只管耐え続けていた陣は限界が訪れたかのように倒れた。
「漸く倒れたか」
一切音を上げずに耐えていた陣に隆誠は感心していた。流石に少しばかりやり過ぎたと内心少し反省しながら。
「君には悪いけど、幽助の相手は俺がやる。そうしなければならない目的もあるからな」
「じょ、冗談じゃねぇ……!」
すると、陣が再び立ち上がろうとする。
「おいおい、嘘だろ……!?」
これには隆誠も本気で驚いている様子だ。少々加減して撃ったとは言え、『クレイジーフィンガーバレット』をまともに受ければ立ち上がる事が不可能だと思っていたから。
「ゆ、幽助の相手は、オレだ!」
ボロボロの筈なのに陣は未だに諦める姿勢を見せていないどころか、まだ戦えると言う闘志を隆誠に見せ付けている。
「ほら、もう一度勝負だ! かかって来い!」
「…………ん?」
挑発して来る陣にどうしようかと少しばかり悩む隆誠だが、彼の眼を見て何かに気付く。
それを確かめようと、彼は突撃して拳を繰り出して顔面に当たる――寸前に止めた。
「やはりな」
微動だにしない陣を見て、目を開けたまま意識を失っていると隆誠は気付いた。それを確かめる為に攻撃を仕掛けても、一切反応しなかったから寸止めしたのだ。
「審判、相手は気絶してます。俺の勝ちで良いですよね?」
中継カメラに乗っている審判の女妖怪に問うと、隆誠の勝利と二回戦進出の判定が下された。
それを聞いた隆誠は、気絶している陣に担ごうとする。
「オ、オラは負けねぇだ……幽助……」
「全く。その諦めない姿勢に免じて、後で治癒しておくよ」
そう言いながら隆誠は修羅の時と同じく転移術を使い、一瞬で会場へ戻るのであった。