魔界にやって来た元神   作:さすらいの旅人

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コッソリ更新しました。


雷禅の国で起きた騒動

(息子が魔界(ここ)に来て多少マシになったが、それでもまだ黄泉や軀には勝てねぇな)

 

 魔界三大妖怪の一人、雷禅は塔の最上階で、今後の事について考えていた。大きな腹の虫を魔界全土に響かせながら。

 

 嘗ては『闘神』の異名を持つ魔界でも最強クラスの妖怪であり、食人鬼でもあったのだが、ある事情によって今も人間を食さないでいる。その理由は部下の北神達だけでなく、息子も未だに知らない。

 

 人間をエネルギー源として生きる彼が700年近くも食事を取らない事によって、栄養失調に陥って力が著しく衰えてしまうのは当然の流れだった。同時に死期が近づいている事も理解しているが、それでも人間を食べようとせず必死に我慢している。

 

 残りの命があと僅かと迫っていながらも、雷禅は毎回挑んでくる息子の相手をしている。未だに自分を倒せない未熟者だが、それでも着実に強くなっている事を実感しているのは確かだった。

 

 その内超えるかもしれないが、そうなった時は墓の中にいるから、生きている内は無理だろうと諦めている。修行相手をしている北神達を超えるのが精々だと。

 

(まぁ、今更息子の事を彼是考えたところで、今の俺じゃどうする事も出来ねぇが)

 

 そこで雷禅はふと思い出した。全盛期だった頃、自分に何度も挑んできた大昔の喧嘩仲間達の事を。

 

 だが、すぐに振り払ってしまう。自分が人間を食うのを止めてから彼等とは音信不通となり、再会したいとも思わない。こんな死ぬ寸前の状態で再び喧嘩したところで、あの時と大違いで惨めに負けてしまうのがオチなのだ。

 

 本格的に死期が近づいてきた際の走馬灯だろうと思いながら、息子の幽助が来るのを待つ事にした。一ヵ月置きに挑んでくる為、そろそろ来るだろうと思いながら。

 

(妙だな)

 

 扉の方へ視線を向けるも、一向に足音が聞こえなかった。

 

 走る足音が聞こえた後に勢いよく扉が開いて幽助が自分に挑んでくる、と言う流れになっていた。しかし、その足音どころか気配すら一切感じない。

 

 もし幽助でなく部下の北神であれば、何かしらの事態が起きて遅れたかもしれないと大して気に留めない。しかし、息子となれば少しばかり別になる。これでも一応は父親だから、日課となってる小競り合いを終わらせなければゆっくり寝る事が出来ないから。

 

 念の為に息子の妖気を探知するも、自身がいる塔の周囲にいなかった。更に範囲を広めると、少し離れた場所で小競り合いと思われる気のぶつかり合いを察知する。

 

(妖気でも霊気でもないな……そう言えば以前、息子がそんな奴と戦っていたな)

 

 雷禅はふと思い出す。妖怪に覚醒したばかりの幽助が初めて魔界に来た際、S級妖怪に匹敵する実力を持つ人間――仙水(せんすい)の事を。その時は息子と互角に戦っていたが、あんな奴に梃子摺って貰っては困ると言う理由で手出しをした。その所為で幽助は不完全燃焼と言う後味の悪い結果となるも、仙水からすれば望んでいた展開だった事を雷禅が知る由も無い。

 

 しかし、気が似ていると言っても決定的に違うところがある。量が圧倒的に違い過ぎるのだ。今のところ息子が何とか拮抗したところで、その相手は全く本気を出していない為、敗北するのは時間の問題だと雷禅はそう考えていた。

 

(仕方ねぇ。余り気は進まんが、久々に外の空気を吸いに行くか)

 

 雷禅が殆ど死に掛けの身とは言え、それでも幽助を簡単に倒せるだけの実力を持っている。

 

 普段は部下の北神達に対処を任せているが、外で戦っている正体不明の人間は明らかに彼等以上の実力があると判明したから、雷禅自ら動こうとしているのだ。

 

 すると、慌ただしい足音が此方に向かって来ており、目の前にある扉が開く。

 

「大変です、雷禅様! 此処から少々離れたところで幽助さんが――」

 

「ああ、分かってる。俺が行くから付いてこい、北神」

 

 慌ただしい表情で報告して来る北神に、雷禅は立ち上がって塔を出ようとする。

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

「おお、中々やるじゃないか!」

 

 凄まじく速い攻撃してくる少年に、隆誠は慌てる事無く防いでいた。

 

 二人は攻防を繰り広げながら互いに気をぶつけてる事によって、周囲に被害が及んでいる。まるで大嵐のように吹き荒れており、地面は抉れ、草木は吹っ飛んでいく惨状と化していた。

 

 拳、肘打ち、膝蹴り等、攻撃が当たる事で大きな衝撃が周囲に響き渡る。

 

「せいっ!」

 

「ぐぅっ!」

 

 隆誠は少年の拳を紙一重で避けた瞬間、反撃をしようと回し蹴りを腹部目掛けて当てた。

 

 それを直撃した少年は、勢いよく後方へ吹っ飛んでいく。

 

「この……野郎!」

 

 少年が大木に激突する瞬間、空中で態勢を立て直そうと身体をグルンと半回転させる。大木が背中に当たる筈が、着地する要領で両膝を曲げながら両足に激突するも、空かさず隆誠目掛けて跳躍していく。

 

(器用な奴だな。だったら……ん?)

 

 隆誠は待ち構えるも、すぐに表情を変えた。彼目掛けて跳躍している少年が、自分の方へ向けている指先からオーラと呼べる気が集中している為に。

 

 直後、少年の指先から気が放たれる。隆誠を覆えるほどの巨大な弾丸とも言える塊が。

 

 予想外な反撃で躱す事が出来なかったのか、隆誠は動けないまま直撃した瞬間に大爆発が起きる。

 

 

 

 

「っとと! やっと当たったぜ」

 

 無茶な態勢から霊丸(レイガン)を放った所為で大きな反動が襲い掛かる幽助だったが、勢いを殺すように両足を着地していた。

 

 耶雲の仲間と言う理由で見知らぬ人間と戦うも、想像以上に強い相手だと認識していた。それどころか奴以上に強いのではないかと。

 

 嘗て戦った耶雲は、冥界を統べる王として君臨し、幽助やその仲間達を苦しめた強大な敵。更には『冥界玉』と呼ばれる力の源を手にした事で全く歯が立たず、危うく人間界ごと崩壊する危機に陥ってしまうところでありながらも、一緒にいた仲間のお陰で何とか勝利を手にすることが出来た。

 

 人間だった当時は全く歯が立たなかったが、妖怪として復活し、魔界で実力を付けた今なら耶雲と拮抗出来ると思っていた。しかし、その仲間と思わしき正体不明の人間が魔界へやって来たから戦いを挑むも想像以上の実力者で、もしかしたら耶雲以上に強いのではないかと。

 

 どんなに攻撃しても簡単に捌かれるどころか、向こうからの反撃を受けてしまう始末。完全に遊ばれてると分かった幽助は、奥の手を使おうと、フルパワー状態の霊丸(レイガン)を放つ事にした。

 

 向こうは不意を突かれて動けなかったのか分からないが、見事に直撃したのを見た事により、幽助は漸く安堵の息を漏らす。

 

(倒せたと思えねぇが、多少ダメージは受けた筈だ)

 

 動けなかったにしても、奴の事だから防御した筈だと幽助はそう思っていた。

 

 爆発したことで煙が発生して今も見えないが、漸く霧散して耶雲の仲間と思わしき人間の姿を現わす。

 

「ふぅ~っ、危ないところだった。思わずヒヤリとしたよ」

 

「なん……だと!?」

 

 煙が晴れた先には、傷が何一つ付いていない無傷の人間が埃を払う仕草をしていた。

 

「一応訊いておくけど、今のが君の全力かい?」

 

(嘘だろ。俺は本気で撃ったのに、全然効いてねぇのかよ……!?)

 

 人間からの問いに幽助は答える余裕が無かった。

 

 父親である雷禅にも全力の霊丸(レイガン)を撃っても通用しないが、彼が自分より圧倒的に強い妖怪だからと言う事で納得している。

 

 しかし、今戦っている人間は全く別だった。自身の得意技である霊丸(レイガン)が通用しない人間など、予想外にも程があるから。

 

(ッ! そう言えばあの身体に纏っている気、妖気でも霊気でもねぇ。まるで仙水みたいじゃねぇか!)

 

 幽助は今になって漸く気付いた。目の前の人間が纏っている正体不明の気が、以前に戦った仙水(しのぶ)の『聖光(せいこう)()』と似ている事に。

 

(もしかしてヤツは耶雲の仲間じゃなく、仙水の知り合い、なのか?)

 

「答えてくれないなら、さっさと終わらせるか」

 

「!」

 

 幽助が質問に答えなかった事で人間は残念そうな表情になりながら、指先を自身へ向けていた。まるで霊丸(レイガン)を撃つような仕草だ。

 

 直後、彼の指先から聖光気と思わしき闘気の光弾が放たれた。まるで幽助に対する当てつけのように巨大な塊だ。

 

(やべぇ! か、躱せねぇ!)

 

 発射速度が自分以上だった為、幽助は先程の人間と同じく咄嗟に動く事が出来ない。

 

 直撃は免れないと悟り、すぐに防御態勢を取るも――

 

「何みっともねぇことしてんだ。それでも俺の息子か」

 

「お、親父!」

 

 凄まじい速度で割って入ってきた自身の父親、雷禅が片手で弾き飛ばした。

 

「幽助さん、ご無事ですか!?」

 

「お前等まで……!」

 

 現れたのは雷禅だけでなく、彼の部下である北神達も現れる。

 

 突然現れた第三者達に、幽助に光弾を放った人間は目を見開く。

 

「今度は父親とお仲間の登場か。にしても……」

 

 人間は何か気になるように雷禅の方へ視線を向ける。

 

「先程から聞こえた大きな音の発生源はお前だったか。しかも空腹な上に相当衰弱しているが、断食でもしてるのか?」

 

「人間のお前に答える義理はねぇよ」

 

「それもそうか」

 

 答えない姿勢を見せる雷禅に、人間は気に障らないどころか当然のように受け止めていた。

 

 会話が出来る相手だと分かったのか、再度質問を試みようとする。

 

「では質問を変えよう。此処は魔界みたいだが、この世界に冥界は存在しているか?」

 

「冥界だぁ?」

 

 いきなりの質問に雷禅だけでなく、北神達も目を見開く。

 

 彼等は冥界の存在を勿論知っているが、あくまでも知識の一つとして記憶してるだけにすぎない。主に知っているのは、嘗て冥界と全面戦争した霊界の閻魔大王によって封印された程度の知識しか。

 

「そんなモノは霊界が大昔に封印してる筈だが」

 

「霊界、ねぇ」

 

 まるで初めて聞いたと言わんばかりの反応を示す人間に、雷禅は段々と訳が分からなくなっていく。

 

「どうやら本当に俺の知らない別世界に来ているようだな」

 

「別世界だと? お前、まさか……」

 

 雷禅は気付いた。目の前にいる人間が、自分が知る人間界とは異なる世界からやってきた存在だと言う事に。

 

 それを確かめる為に問おうとするも――

 

「だぁぁぁぁぁ!! テメエ等、俺抜きで勝手に話し始めてんじゃねぇ!」

 

 雷禅達によって喧嘩の邪魔をされただけでなく、全く理解出来ない話をしている所為で、幽助は我慢の限界が訪れるのであった。

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