魔界にやって来た元神   作:さすらいの旅人

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龍虎対決

(さぁ、どうする飛影?)

 

「う、ぐ……!」

 

 電撃を浴びせた飛影が地面に倒れても、隆誠は彼の脚に巻き付いた光の鞭を解くように消失させる。

 

 身体が痺れている所為で、飛影はすぐに起き上がれなかった。完全に隙だらけなのに、隆誠は一切動く気配を見せずに静観しているだけ。

 

 力を解放している隆誠がその気になれば、一瞬で勝負を付ける事が出来る。それをやらないのは、相手の全力を真っ向から受けて勝利したいからだ。人間に転生した事で格闘戦や真剣勝負を好むようになり、このような大会では特に顕著となる。聖書の神を知る者達からすれば、断じてあり得ないと声高に叫ぶかもしれないが。

 

「……ちっ。どうやらこのまま戦っても勝ち目は無さそうだな」

 

 痺れが抜けたのか、飛影は立ち上がりながらそう言った。額に巻いてる白い鉢巻を外しながら。

 

「やはり使うしかなさそうだ」

 

 漸く決心したかのように、飛影は次に右腕に巻いている包帯を解いた。素肌を晒した右腕には、黒い龍と思わしき紋様がとぐろを巻くように浮かんでいる。

 

 飛影が包帯を解いた右腕を前に突き出した瞬間、全身から今までの炎とは比べ物にならない黒炎が出現し、更には飛影の額には第三の目『邪眼』が開くと青白く光った。

 

「ほう……」

 

 飛影から発せられる黒い炎を見る隆誠は、大変興味深そうに眺めていた。やっとその気になってくれたかと思いながら。

 

「これは本来魔界の炎術。この魔界で使えば、更に活き活きと暴れてくれるだろう」

 

「ふっ、上等だ。ならば見せてみろ!」

 

 脅すように言う飛影だが、隆誠には全く通じないどころか好戦的な笑みを浮かべるだけだった。更に距離を取ろうと後退し、再び全身に黄金のオーラを纏いながら構えを見せている。

 

 飛影は実のところ、本当は使いたくなかった。この大会では死亡しても失格になるとは言え、幽助の知り合いを殺せば非常に後味の悪い結果になると躊躇っていたのだ。そう考えてしまうほど幽助との絆が深まっているのだが、本人は絶対に認めようとしないだろう。

 

 尤も、仙水の『聖光気』以上の闘気を持つ隆誠なら防ぐかもしれない。既に力の差を教えられ、追い詰められてしまった今の状況では使わざるを得ないが。

 

 そして構えてる二人は何時でも撃てる状態になり――

 

邪王炎殺(じゃおうえんさつ)(こく)(りゅう)()ァァ!!」

 

 飛影は邪王炎殺拳の最大にして最強奥義『邪王炎殺黒龍波』を放つと、姿を現わした黒龍が隆誠を喰らおうとするように襲い掛かり――

 

「喰らいなぁ! 魔虎咬!」  

 

 隆誠が両手にオーラを集束して放ったのは、予選で戦った修羅が切り札として使った『魔虎咬』を放つ。

 

 

 

 

『兵藤選手、飛影選手が放つ黒龍波に対抗するように、予選で修羅選手が見せた技を放ちましたァァァ!』

 

 会場では飛影が邪王炎殺黒龍波を使う事に、彼を知る者達が戦々恐々としながら見ていたが、隆誠の放つ技を見た事で一気に変わった。

 

「アイツ、いつの間に僕の技を……!」

 

 本来の持ち主である修羅が憤っていたのは言うまでもなかった。とても悔しそうに歯軋りする程だ。

 

 予選で使った修羅の魔虎咬は虎の頭部だけだった。しかし、隆誠の魔虎咬は本物の虎みたく再現して突進させており、本人以上に技の完成度が高い。

 

「流石は隆誠様ですわ! 修羅お兄さま以上の技を披露するなんて!」

 

「おい迦楼羅! それはどう言う意味だぁ!?」

 

 迦楼羅の台詞が聞き捨てならなかったのか、修羅は思いっきり反応して問い詰めようとする。

 

 因みに二人の側には父親である黄泉がいるのだが、彼は全く気にしてないように試合を観戦しているだけだった。

 

(たった一度見ただけで、修羅の魔虎咬を再現させたか。つくづく恐ろしい奴だ)

 

 本人以上の完成度が高い技を放つなど、相当な戦闘センスがなければ出来ない芸当だと黄泉はそう考えていた。唯一違いがあるとすれば妖気だけで、名前に相応しくないほど金色の闘気で作られた巨大虎になっているが。

 

 今やっている試合で隆誠が勝てば、次に戦うのが黄泉となっている。今まで以上に気を引き締めなければならない上に、決勝に挑む気概を持って固く決意するのであった。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ぬぅぅぅぅぅ!」

 

 出現した龍と虎は、相手の頭部に噛み付こうと拮抗するようにぶつかり合っていた。それに対して術者である飛影は妖気を、隆誠はオーラを後方から送り込んでいる。

 

 どちらも本気で撃っている所為で、龍虎の周囲は凄惨なモノとなっていた。飛び散った龍の黒炎が草木を燃やし尽くし、虎が雄叫びを上げる事で周囲の地面を破壊していく。

 

 この拮抗状態が始まってまだ一分程度しか経っていないが、会場で観ている者達にとってはとても長く感じるほどだった。

 

 しかし、その状況はすぐに一変する。隆誠の虎が段々と押し始めたから。

 

「くそぉぉぉぉぉぉ!」

 

 それは飛影も当然気付いており、全ての妖力を使い果たして黒龍を強化させようとする。

 

「そらぁぁぁぁ!」

 

 負けじとオーラを注ぎ込む隆誠にはまだまだ余裕があり、更に大きくなった虎は龍の猛攻を食い破るように突進していく。

 

 龍の頭部は砕かれただけでなく、残った身体も虎の突進で霧散していき、そして――術者の飛影に当たった瞬間に大爆発が起きる。

 

 爆風と衝撃を受ける隆誠だが、全身に纏っているオーラで防いでる事で微動だにせず立ったまま。

 

 ソレ等が漸く収まるも、飛影がいる周囲には土煙が舞って姿が見えない。隆誠が片手を軽く振った瞬間、強風が吹き荒れた事であっと言う間に無くなってしまったが。

 

 煙が晴れた先には大爆発を直撃した所為か、仰向けで倒れている飛影がいた。姿を確認した隆誠は全身に纏う闘気を消失させた後にゆっくりと歩き、彼の数歩手前で止まり見下ろしている。

 

「あ、ぐ、くっ……!」

 

「少しは気が晴れたか、飛影」

 

 隆誠の問いに飛影は答えず、何とか立ち上がろうとする。

 

 だが、あくまでそれだけ。今の彼は妖力が完全に尽きただけでなく、魔虎咬によって大きなダメージを受けているから、もう戦う事は出来ない状態だ。

 

「分かっていると思うが、君の負けだ」

 

「………つくづく嫌な野郎だ。だが、認めてやる。今はな」

 

 飛影が降参を認めた事によって、会場では隆誠の勝利と三回戦進出の決定が下された。

 

「次こそは必ず貴様を倒す」

 

「ふっ、そう言うのは嫌いじゃない」

 

 多分それは二度と訪れないが、と内心付け加える隆誠。

 

「いいか。この俺に勝っておいて、次の試合で、無様に、負けたら、ただでは……済まさん、ぞ」

 

「お、おう……」

 

 意識が失いそうになりながらも威張る飛影に、思わず頷いてしまう隆誠。

 

 直後、彼は言いたい事を全て言ったのか、全身の力が抜けたように倒れそうになる。

 

「おっと」

 

 倒れる飛影を咄嗟に受け止める隆誠は、一回戦で戦った陣の時のように担いだ後、会場に戻ろうと転移術を使ってその場から姿を消す。

 

 

 

 

(よく戦った、飛影)

 

 飛影が敗北しても満足そうな表情を浮かべる軀。

 

 その後に隆誠が飛影を担いで姿を消したのを見て、予想が付いているように振り向いた。

 

「本当に律儀な奴だな、お前は」

 

「あらら、俺が来るの分かってましたか」

 

 振り向いた先には、飛影を担いでいる隆誠がいた。

 

 予選で戦った修羅とは違って、飛影は未だに意識を失っている。

 

「傷はもう既に治してるので、コイツが目覚めるまで傍にいて下さい」

 

「ああ、そうしよう」

 

 担いでる飛影を軀に引き渡すと、彼女は優しく抱きかかえる。まるで大切な者のような感じで。

 

「とても部下として見る目じゃないですね。何だか愛しい恋人のように思えてしまいそうだ」

 

「……ふ、ふふふふ。そうか、俺と飛影はそう言う風に見えるか」

 

 恋人と揶揄われた軀は不快にならないどころか、妙に嬉しそうな感じで笑っていた。

 

 もし飛影が聞いていれば否定はせずとも、隆誠に向かって『殺すぞ』と殺意を向けるだろう。

 

「飛影のような生意気な奴は、貴女みたいな姉さん女房が傍にいた方が良いでしょうね。では、俺はこれで」

 

 これ以上彼女と話していたら、飛影が目覚めた途端に襲い掛かりそうだと身の危険を感じた隆誠は去ろうとする。

 

「待て、兵藤」

 

 去ろうとする隆誠に軀が引き留めた。

 

「次の3回戦では黄泉と当たる。飛影との試合で力を随分消費したみたいだが、勝算はあるのか?」

 

 隆誠が本気でやらなくても飛影を簡単に倒せる事を、軀は既に気付いていた。

 

 優勝を狙うのであれば、力を温存して勝ち続けるのがセオリーだ。しかし、彼は相手の意思を尊重するように戦っている。端から見れば馬鹿なお人好しだが、軀は何故かとてもそのように思えなかった。

 

「問題ありませんよ。黄泉と戦う前の準備運動(・・・・)に丁度良かったですから」

 

「なっ……」

 

 準備運動と言った事に軀は思わず絶句してしまう。

 

 修羅や陣だけでなく、先程終えた飛影との戦いを準備運動扱いすると言う事は、まだまだ余力を残していると言う事になる。

 

 この時の軀は飛影が眠っていて良かったと内心安堵する。聞いていたら確実に怒るだけで済まさず、殺意を漲らせて襲い掛かる光景が目に浮かんだ為に。

 

「尤も、決勝で貴女と戦う事になれば話は別になりますが、ね」

 

「……ふっ。俺と当たるまで負けるなよ」

 

「なるべくそうします」

 

 飛影とは違う意味で生意気な人間だと改めて理解した軀だが、必ず決勝で隆誠と戦う事を決意する。

 

 今度こそ話を終えた隆誠は別れを告げて幽助がいる所へ向かおうとする。

 

「隆誠」

 

「ん?」

 

 自分を呼ぶ声に反応した隆誠が移動してる脚を止めて振り向くと、以前に会って手合わせをした女妖怪の棗がいた。何故か少々不機嫌そうな顔をしているが。

 

「ああ、棗さん。前に手合わせした時以来ですね」

 

「……呼び捨てで構わないと言った筈よ」

 

「いやいや、年上の貴女にそれはちょっと……」

 

 棗は以前に隆誠との手合わせで相当な実力者だと知っている。加えて自分以上の強さだから、そんな相手に畏まった呼び方をされたくなかったから、呼び捨てにするよう言ったのだ。

 

「まぁ、そんな事より隆誠、軀と中々面白い話をしてたわね。決勝で戦う約束をしてたみたいだけど、私は眼中に無いのかしら?」

 

「え? …………あ!」

 

 隆誠は思い出した。次の三回戦で棗が軀と戦う事を。

 

 あくまで軀が決勝に進む前提で話しただけに過ぎないのだが、隆誠と再戦したい棗からすればお気に召さない内容だったようだ。

 

「あ、いや、別に貴女が負けると決め付けた訳では……!」

 

「あら、そうなの?」

 

 慌てながら弁明をしようとする隆誠に、少々怖い笑みを浮かべながら詰問する棗。端から見れば不機嫌そうな彼女を何とか宥める彼氏みたいな光景のようだった。

 

 因みに二人のやり取りに――

 

「兵藤の野郎ぉぉ、棗さんとあんな親しげに話しやがってぇぇ……!」

 

「だから止めとけって酎、お前じゃ絶対勝てないからさ」

 

 嫉妬している酎を、相棒の鈴駆が必死に止めていたのはご愛嬌としておく。

 

 更には――

 

「りゅ、隆誠様! わたくしと言う恋人がいながら、他の女と浮気とは何事ですか!?」

 

「お前はあいつと恋人じゃないからな!」

 

「ハハハハ、迦楼羅。今回ばかりは父さんも修羅と同意見だぞ」

 

 偶然見つけた迦楼羅が割って入ろうとするところを、修羅と黄泉が止めていたのは誰も気にしてない。




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