魔界にやって来た元神   作:さすらいの旅人

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三回戦

 隆誠がちょっとしたトラブルに遭うも、各ブロックの二回戦は行われていた。

 

 一回戦で勝ち上がった選手達は相当な実力者であるが故に、試合時間が今までより長い。その試合の一つは実力が拮抗してる者同士で、二時間以上戦い続けているのもあった。普通であれば試合が長過ぎて中断か延期になってもおかしくないが、人間の大会とは大きく異なっており、例え何日掛かっても一切止める事はしない。人間としての価値観を持つ隆誠からすると、余りにも長い休憩時間となっているが。

 

 因みに思い過ごしだと思うが、二回戦で戦っていた軀と棗は妙に気合いが入っていたように、相手を瞬殺する勢いで勝利した。まるでお前の相手をしてる暇はないと言わんばかりの形相で、会場にいる者達を驚愕させるほどの一撃を繰り出していたから。

 

 そんな女性陣の事とは別に、隆誠はBブロックの試合を観戦していた。黄泉は問題無く勝ち上がっていたが、幽助が戦った相手は無名でありながらも相当な実力者だった。冷や冷やする場面が何度もあった為にアレを外す(・・・・・)かと思いきや、そうすることなく勝利を飾っている。恐らく自分と当たる時は必ず外すだろうと予想しながら。

 

 数時間以上の時間を要して各ブロックの二回戦が終わり、次は三回戦に移ろうとする。

 

『さぁ、Bブロックでは三回戦最大の注目カードが始まろうとしています!』

 

 実況の小兎がそう言った事で、途端に会場がざわめいている。

 

 Bブロック三回戦の第一試合、兵藤隆誠 VS 黄泉の対決が始まろうとしており、モニターでその表示を見た瞬間に観客達が一気に盛り上がったのは言うまでもない。

 

 既に準備を終えていたのか、二人の選手はいつの間にか億年樹の上で待機している。

 

 

 

 

 まるで決勝戦ではないかと言う雰囲気の中、会場にいる者達はモニターに映っている隆誠と黄泉を凝視している。

 

 ゆっくりと小型の円闘場へ向かっていく二人は、互いに相手を意識するように歩いていた。

 

『この魔界統一トーナメントの中で唯一出場する人間でありながらも、相手に圧倒的な実力を見せつけて勝ち上がる男、兵藤隆誠!』

 

 

「最初は人間のくせにって思ってたが、アイツ本当に強いな」

 

「もし兵藤が優勝しちまったら、魔界は一体どうなるんだ?」

 

 

 観客の妖怪達は不安を感じていた。魔界統一トーナメントに優勝したら魔界に住む者達は優勝者に従う事になっており、人間の隆誠が優勝したら自分を含めた妖怪達は一体どうなってしまうのかと。

 

 だが、今まで見せた破竹の勢いは此処で漸く途切れるかもしれない。何しろ三回戦の相手は、妖怪の誰もが知っている魔界三大妖怪の黄泉なのだから。

 

『そして一方は、魔界三大勢力の一人として今なお君臨し続ける男、黄泉! 予選では実の娘の迦楼羅選手と凄まじい親子対決を見せてくれました!』

 

 

「黄泉ィィ! そんな人間のガキなんざ、捻り潰せぇぇ!」

 

「黄泉様ァァ! 理想国家の再建をぉぉぉぉ!!」

 

「ああ、修羅お兄さま。わたくしは一体どちらを応援すれば良いのでしょうか!?」

 

「そんなの僕達のパパに決まってるだろ!」

 

 

 黄泉の勝利を願う観客の中に、国家解散した筈の彼の元部下達が大勢いる。自分達の主は黄泉しかいないと言わんばかりの応援に凄まじい熱気を感じさせる程だった。

 

 そんな応援とは別に、黄泉の娘の迦楼羅が大変場違いな発言をしているところ、息子の修羅が即座に父親を応援すべきだと突っ込みを入れていた。

 

 会場の殆どが黄泉の応援で包まれているとは別に、モニターに映っている二人は小型の円闘場で対峙する。

 

『それではBブロック三回戦、兵藤選手 対 黄泉選手、始めぇぇぇぇ!!』

 

 小兎が試合開始の宣言をした瞬間、会場は一瞬で静まり返る。

 

 しかし、中継機を通じて聞いた二人は未だに動く気配が感じられなかった。

 

 

 

 

(流石は魔界で名の知れた三大妖怪の一人、これまでの相手とは桁が違う)

 

 隆誠は黄泉の強さを再認識した。試合前に会話していた時は穏やかな雰囲気だったが、試合開始の宣言をした瞬間に一気に変わった。表面上は落ち着いていても、妖気を探れば猛々しい妖気が感じ取れるのだ。

 

 予選で戦った修羅は経験不足による荒々しさが大変目立っていたが、目の前にいる父親は実戦経験が豊富で妖気も洗練されている。言い換えれば今の黄泉は、修羅が成長した理想の姿と言っても過言ではない。

 

(この状況でも心拍数が正常のままとは、中々に肝が据わっている奴だ)

 

 対しても黄泉も、隆誠の心の内を探るかのようにジッと視線を向けている。

 

 黄泉は視力を失った事で並外れた聴覚と嗅覚を身につけており、更には感覚を研ぎ澄ます事で、相手の体温や血圧・心拍数の変化、筋肉の硬直具合、そして空気の流れを感じ取れる。それによって相手の表情や思考、霊気や妖気の動きすらも読み取る事が出来るのだが、隆誠は対面してる今でも正常な状態である為に思考が全く読めなかった。

 

 普通なら戦闘になれば必ずしも心に変化が見られるのだが、隆誠にはそう言ったモノが全く感じ取れない。まるで戦いそのものが日常の一つでもあるかのように酷く落ち着いて、それはそれで凄いと黄泉は思わず感心してしまいそうになる。迦楼羅との件では分かり易いほど動揺していたのとは別にして。

 

「兵藤、先に言っておくが」

 

 試合が開始しても二人は全く動かなかったが、突如黄泉の方から口を開いた。

 

 一体何を言うのかと隆誠は無言のまま聞こうとするも――

 

「例えこの試合で俺に勝ったとしても、娘との交際は断じて認めないからな」

 

「開口一番にソレかよ!」

 

 いきなり迦楼羅の事について釘を刺してきたので、真剣な表情で聞いていた隆誠が思わず突っ込みを入れてしまった。

 

 因みに黄泉の親バカ発言は会場側もばっちり聞いており、観戦している殆どの者達が思いっきりズッコケていたのは無理もないだろう。

 

「お前からしたら非常に馬鹿馬鹿しいかもしれないが、父親の俺としてはどうしても言っておきたかったんだ。生まれたばかりの娘が突然求婚などすれば猶更な」

 

「まぁ、確かに……」

 

 隆誠は元の世界で義妹のアーシア・アルジェントを愛しい家族の一人と見ているから、黄泉の父親としての心情が分からなくもないと共感してしまう。

 

 嘗て『禍の団(カオス・ブリゲード)』に所属していた悪魔のディオドラ・アスタロトがアーシアに求婚したのを見た瞬間、隆誠は怒りだけでなく殺意も沸いて本気で殺そうとしていた。その経験がある為に、彼は黄泉の発言が否定出来ないでいる。

 

 本当ならこの場で迦楼羅に全く興味無いと否定したい。しかし、生まれたばかりの幼子に心の傷を負わせたくない隆誠は、一先ず後回しにする事にした。

 

「取り敢えずそれは抜きにして試合に集中しようか、黄泉…………いや、お義父(とう)さん♪」

 

「………フ、フフフフフ。お前に義父(ちち)呼ばわりされる筋合いは無いんだが」

 

 直後、黄泉の全身から妖気が放出した。それを見た隆誠も対応するように、全身からオーラを放出させる。

 

 妖気と闘気がぶつかり合った事で、億年樹の上に大きな気の柱が出来てしまう。

 

 先程までの場違いな雰囲気とは一変し、二人の表情は真剣になっている。会場側もそれを察したかのように、再び静まり返った程だ。

 

 大きな気の柱の中で、隆誠と黄泉は突如気の放出を止めて、互いに構えようとする。

 

「「行くぞ!」」

 

 今までの試合と全く違い、二人には一切の油断など無い真剣な表情だった。

 

 元聖書の神と魔界三大勢力の一角を担う妖怪の戦いが、今此処に始まろうとする。




少々ギャグっぽくなりましたが、次回は真剣な戦いになります。
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