魔界にやって来た元神   作:さすらいの旅人

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隆誠 対 黄泉①

『兵藤選手、黄泉選手に互角の戦いを繰り広げております!』

 

 各ブロックの三回戦が開始してから一時間以上経つも、どの試合も決着が付かずに長引いている。その中で会場にいる選手や観客達の殆どが、Bブロックの方へ凝視したままだった。

 

 それもその筈で、魔界三大妖怪の一人と謳われている黄泉が、人間の兵藤隆誠と互角の戦いを繰り広げている。どちらも気を一切使わず肉弾戦のみで戦い続けているばかりだが、観戦している者達は一切ヤジを飛ばさないどころか、白熱するように盛り上がっているのが現状だ。

 

「リューセーがあんなマジ顔で戦うなんざ初めて見たな」

 

 観戦している幽助は、今までに見た事のない表情で戦っている隆誠に少しばかり口惜しそうに歯軋りしている。

 

 自分の修行相手をしてる時、彼は常に余裕そうな表情で戦っていた。それが一切無いと言う事は即ち、全く気を抜けない相手と言う事になる。二回戦で飛影と戦っていた時は本気を出していたが、恐らく相手に合わせていたのだろうと幽助は既に察していた。因みに飛影も当然気付いており、非常に不愉快な表情で観戦しているのは言うまでもない。

 

(もしリューセーが黄泉に勝てば、次に戦うのは俺だ。その時は……)

 

 試合を観ながらも、先の事を考えた幽助は思わず自身の両手首に巻いてるリストバンドを見る。それは隆誠から貰った修行用バンドと少々異なっており、自身の力を抑える為の枷だった。

 

 本当であれば大会が始まったら外す予定だったのだが、とある事情(・・・・・)で装着せざるを得ない理由があった。それを知るのはもう少し後になる。

 

 隆誠と黄泉の肉弾戦だけでも会場が白熱している中、試合の流れが徐々に変わろうとしていく。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「たぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 己の身体能力だけでの攻防を繰り広げている隆誠と黄泉は、互いに譲らないと言わんばかりの拮抗した戦いを見せていた。

 

 二人がこれまでの試合で本気になった表情は一度も見せた事がない。隆誠は勿論、黄泉もそれに見合う相手がいなかったのだ。

 

 互いに武術の心得があるかのように、相手の繰り出す拳や蹴りを上手く捌き、防御し、回避している。僅かにでも隙を見つけた瞬間、空かさず攻撃してダメージを与えるも、それは微々たるものに過ぎなかった。

 

(強いな、流石は魔界三大妖怪の一人!)

 

(あの時の俺は本当に愚かだった。魔界を支配する好機と考えていた自分の馬鹿さ加減に!)

 

 隆誠が実力を称賛するも、黄泉は過去の自分を殴りたいほど自己嫌悪している。

 

 魔界三国の睨み合いが五百年以上続いていた中、雷禅が死んだ事で黄泉は今こそ魔界全土を支配すべきだと考えていた。これでもし幽助の提案を呑まずに全面戦争を仕掛けていたら、間違いなく大敗を喫する最悪の未来を描いていただろうと確信する程に。

 

 その大敗の要因となるのが、今戦っている人間――隆誠だ。未だ肉弾戦だけだが、こうして直に戦っている事で改めて相当な実力者だと思い知らされている。

 

 彼は視力だけに頼らず、感覚を研ぎ澄まして空気や流れや妖気も感じ取っている。それが分かったのは、自身が背後を取って攻撃を繰り出しても、まるで後頭部に目があるかのように回避や防御していたからだ。武術を学んでいれば当然の対処法なのだが、正確に把握されたら、流石の黄泉も脱帽するしかない。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ!」

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ!」

 

 攻防を繰り広げる二人だったが、突如力比べをするかのように相手の両手を強く握りしめる。

 

 暫く硬直するかと誰もが予想するも、そうはならなかった。隆誠が笑みを浮かべた途端、突然力を抜いてしまったから。

 

(ッ! しまった!)

 

 突如押し出す力が無くなってしまった事によって、黄泉はバランスを崩して前のめりになってしまい、誘導されてしまった事に気付くも一足遅かった。

 

「そらぁ!」

 

「うぐっ!」

 

 隆誠が空かさず前蹴りをやると、体勢が崩れた黄泉は防御する暇もなく上半身に直撃した。相当な威力だと証明するように、直撃した黄泉は軽く吹っ飛んでいくほどだ。

 

(今なら……いや、やめとこう)

 

 超スピードで接近して追撃を仕掛ければ、更にダメージを与える事が出来るチャンスと判断した隆誠は、両膝を曲げて跳躍しようとする寸前に止めた。

 

 その間に吹っ飛ばされている黄泉は地面に当たる寸前、咄嗟にバク転をして両足で地面に着地した。

 

 漸く一息が付いたかのように肉弾戦が一旦終わり、二人は互いに距離を取って対峙する。会場で見ている者達としては、全身の力が抜けたかのように大きく息を吐く程だった。

 

「一つ訊きたい。俺が無防備に吹っ飛んでいたのに、お前は何故追撃しなかった?」

 

「視力に頼らない戦いをするお前相手に、追撃は逆に悪手だと判断したまでだ」

 

「成程な……」

 

 返答を聞いた黄泉は、それは正解だと内心頷いていた。

 

 隆誠の言う通り、もしあの状況で追撃をすれば黄泉は反撃に移るつもりだった。自分に近付いた瞬間、妖気を放出する技を撃つ気でいたから。

 

 それは別に卑怯でも何でもない。肉弾戦をしてると言っても、それは単に二人の気分でやっていただけに過ぎないのだ。もし隆誠が逆の立場になっていれば、黄泉と同じ考えを示していただろう。

 

「本当に油断出来ない奴だ、お前は」

 

「誉め言葉として受け取っておくよ」

 

 黄泉の言葉を素直に受け取る隆誠は、やはり追撃しなくて良かったと内心安堵した。

 

「それじゃあ今度は……!」

 

「ッ!?」

 

 隆誠が開いた片手を前に向けて伸ばした瞬間、気の塊とも呼べる光弾が高速で放たれた。それを見た黄泉は咄嗟に回避すると、地面に当たった光弾は小規模な爆発を起こす。

 

「逃がすかぁ!」 

 

「くっ!」

 

 避けられるのを既に分かっていたのか、隆誠は逃がさないと言わんばかりに小型の光弾を連射する。

 

(何て奴だ! 一発だけでも相当な威力ではないか!)

 

 隆誠が撃つ光弾を高速で躱し続ける黄泉だが、並みのS級妖怪ですら簡単に倒せるほどの威力があると判断していた。

 

 黄泉であれば直撃したところで多少のダメージを受けるにしても、もしも連続で受け続けたら流石に不味い。

 

「甘いな!」

 

 回避に集中している黄泉が森に入り込んだ事で姿が見えなくなったが、隆誠は全く焦っていなかった。跳躍して飛翔術で浮遊し、彼の位置が分かっているように光弾を両手で撃ち続ける。

 

(やはり兵藤も、相手の気を読む事が出来るのか!)

 

 森に逃げ込んだ黄泉は確信した。こうまで正確に位置を把握するように狙って撃っているのは、感覚を研ぎ澄ませるだけでなく、相手の妖気を探知出来る能力も持っていると。

 

 それが気付いた数秒後、黄泉が逃げ込んだ森は既に焼け野原どころか、彼方此方にクレーターが出来て凄惨な光景だった。それによって彼の姿が丸分かりとなり、浮遊したまま隆誠は超スピードを使って即座に距離を詰める。

 

「せいっ!」

 

(? 何だ?)

 

 隆誠が現れて再度光弾を撃つも、それを躱した黄泉は急に違和感を覚える。

 

 確かに自分を狙って撃ったのは間違いないのだが、先程までの正確さが無かったのだ。自分でなくても、子供達の修羅や迦楼羅でも容易に躱せるのではないかと思えてしまう。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 だが、それでも隆誠は光弾を撃ち続けていた。今度は先程と違って全く出鱈目な方向へ。

 

「貴様、一体何処を狙っている!?」

 

 正確な狙いが急に無くなったことに黄泉が思わず罵倒するも――

 

「周囲を見てもそんな事が言えるか?」

 

「ッ! これは……!?」

 

 隆誠の発言を聞いた事で考えが甘かったと思い知らされてしまった。周囲には隆誠が放った無数の光弾が、退路を断つように自身の周囲を包囲しているから。

 

「お前にもう逃げ道はないぞ!」

 

「くっ、やられた……!」

 

 黄泉はまたしても隆誠に誘導されたと今更気付いた。先程まで光弾を正確に撃っていたのは、自分を確実に狙っている事を錯覚させられたのだと。

 

 戦いながら策を講じるのは蔵馬の得意分野だと思っていたが、隆誠も同様のタイプだったと改めて認識する。

 

「これで、終わりだ!」

 

 そう言って隆誠は両手を振るった瞬間、包囲している無数の光弾が意志を持つかのように動き始め、凄まじい勢いで黄泉へと向かっていく。

 

 彼が使ったのは、『ドラグ・ソボール』のキャラであるピッコルが使った『滅空(めっくう)(ほう)()(だん)』と呼ばれる技。無数のオーラ弾で敵を取り囲んで退路を断ち、それらを一斉に敵へ当てれば多大なダメージを与える事が出来る。

 

 誰もが流石に回避出来ないだろうと思っている中、黄泉に直撃する無数の光弾は爆発を鳴り響かせるのであった。




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