魔界にやって来た元神   作:さすらいの旅人

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隆誠 対 黄泉③

(ったく。何でこんな時に限って発作が起こるんだよ)

 

 崩れた岩山を吹き飛ばして姿を現わした男、もとい隆誠は自分の身体に対して内心舌打ちをしていた。

 

 先程まで道着を纏っていた茶髪の青年だった彼だが、今は全く異なっている。嘗て天界を君臨した『聖書の神』の姿となり、目の前にいる黄泉と対峙すると言う誤算が生じてしまった。

 

 隆誠としては、この姿になるつもりなど最初から無かった。例えこの試合で敗北する状況になっても素直に受け入れ、最後まで正体を晒す気は無いと固く誓っている程に。

 

 しかし、彼がそう誓っても元の姿にならざるを得ない場合がある。詳細は省くが、嘗てオーフィスから『無限の竜神(ウロボロス・ドラゴン)』その物の(オーラ)を与えられて完全に制御可能となるも、後になってデメリットが発生する事になった。今のように時々発作が起きた後、自身の意思とは関係無く『聖書の神』の姿に強制的に戻ってしまうのだ。原因は今でも不明だが、人間の姿で神の能力(ちから)を行使する事で発生するのかもしれないと結論付けている。

 

 発作が起きてまだ数回程度であっても、こんな状況で元の姿に戻ってしまうなど最悪な状況としか言いようがなかった。益してや別の世界に来てまで姿を晒すなど、最後まで人間として過ごしたい隆誠としては不本意なのだ。

 

 黄泉達に姿を晒してしまった以上、ここはもう腹を括るしかないと決意せざるを得ない。この大会が終わった後、元の世界に戻れば問題無いと前向きに考えながら。

 

「貴様は兵藤なのか? だが、その姿は一体……?」

 

 目が見えない黄泉でも、自分の知る隆誠とは全く異なる存在だと言う事は理解していた。同時に感じ取れる気は、まるで浄化されてしまいそうなほどに。

 

「……驚くのは無理もないが、俺は確かに兵藤隆誠だ。この姿は少しばかり事情があってな」

 

 隆誠は腹を括っても、自分から『聖書の神』だと馬鹿正直に言うなど愚かな真似はしない。

 

「蔵馬と似たようなモノだと思ってくれればいい」

 

「蔵馬だと? ……ッ! なるほど、そう言うことか」

 

 黄泉はすぐに気付いた。目の前にいる隆誠は、妖狐蔵馬が人間に転生した姿で南野秀一と似た存在である事に。

 

 それと同時に納得した。息子の修羅を圧倒する実力だけでなく、霊気でも妖気でもない不可思議な闘気を扱えるのは、今の姿に由来するモノだったと。

 

 蔵馬と同じ境遇の人間でも、決定的に違う点がある。姿は勿論のこと、彼から感じられる気は妖怪とは大きくかけ離れていた。今も正体は全く不明だが、間違いなく蔵馬以上の実力者である事は間違いない。

 

(今の姿が人間や妖怪でなければ、一体奴は何者なのだ? もしや霊界……いや、それはないか)

 

 霊界関係者ではないかと推測する黄泉だが、すぐにあり得ないと結論する。仮にそうであれば、霊界にいるエンマ大王が魔界に対抗する為の戦力として強気になっている筈だと。

 

 尤も、そんな事を考えるのは今更だった。魔界全土を支配する野心を既に失っている黄泉からすれば、隆誠が何者であろうと関係無い。娘に手を出す不届き者を成敗する一人の父親に過ぎないのだから。

 

「これは余計に負けられなくなったな。お前が異形の存在であっても、娘との交際は断じて認めん!」

 

「やれやれ、今の貴方は本当に父親として板に付いてるよ」

 

 頭に『頑固な』が付くと内心付け加える隆誠だが、自分の正体について追及しない事に内心感謝している。

 

「先に言っておくが、俺は蔵馬と違って、この姿で戦う事に何の躊躇いもない。それに少々加減も出来なくてな」 

 

「!?」

 

 隆誠が右手を掲げた瞬間、彼の背後から数えるのも馬鹿らしくなってしまうほど夥しい光の剣と光の槍が出現する。ソレ等が全て自分に向けられている事に、黄泉は思わず頬を引き攣らせてしまう。

 

「黄泉、上手く躱す事をお勧めする。でないと……後悔するぞ!」

 

 そう言って隆誠がパチンッと指を鳴らした直後、無数の光の剣と光の槍は黄泉に狙いを定めて、弾丸の如く一斉に発射された。

 

「煉破反衝壁!」

 

 余りにも数が多過ぎて躱せないと判断したのか、黄泉は防御態勢を取ろうと瞬時に煉破反衝壁を使った。先程の滅空包囲弾と同じく、あの武器は隆誠の気によって作られたモノだから防げる筈だと。

 

 それでも万が一の事を考えて、確実に防ごうと展開させている妖気膜の出力を最大にする。

 

 直後、夥しい光の剣と光の槍は黄泉の狙い通り防いでいる。だが――

 

「ぐっ! な、何だと!?」

 

 数秒もしない内に妖気膜に罅が入っているどころか、一部が貫通して黄泉に命中していた。

 

「残念だったな、黄泉! その防御壁が妖気以外まともに通用しないのはお見通しなんだよ!」

 

 隆誠は煉破反衝壁の弱点を既に見抜いていた。あれはあくまで妖気にしか対応できない防御技だと言う事に。

 

 迦楼羅は妖怪だから、妖気を扱っての攻撃技を使っていた為に吸収され、妖力を回復していたので問題無かった。隆誠が人間の姿で使った『滅空包囲弾』は吸収出来なくても、防ぐ事に関しては辛うじて成功していたのは、黄泉と互角の力で戦っていただけに過ぎない。

 

 しかし、真の姿である聖書の神となれば話は別になる。今放たれている夥しい光の剣と光の槍には、人間の時と違って神聖気の量だけでなく威力も格段に上がっている為、黄泉の煉破反衝壁が機能不全に陥っていた訳なのだ。

 

「こ、こんな事が……!」

 

 完璧な防御と自負していた煉破反衝壁が簡単に崩されてしまうなど、黄泉としては痛恨の大誤算だった。

 

 既に妖気膜のあらゆる所が罅割れており、あと少しで崩壊する瞬間に光の剣と光の槍の発射が収まったと思いきや――

 

「さっきのお返しだぁぁ!」

 

「ッ!」

 

 隆誠は次の攻撃をしようと、いつの間にか両手に収束させていた大きな球状の光弾を放った。先ほど自分に妖気球を食らわせた意趣返しとして。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 防御に集中していた黄泉は、隆誠の攻撃に対処出来なかった。

 

 光弾が罅割れた妖気膜を貫いた瞬間、完全に崩壊すると同時に巨大な爆発が起きる。

 

 

 

 

『こ、これは凄まじい! 兵藤選手が放った気弾が、黄泉選手の煉破反衝壁を崩壊させ大爆発ぅぅぅぅ!!』

 

 隆誠のやる事に何度も驚かされている小兎だが、それでも実況に専念しようとありのままを周囲に伝えていた。魔界三大妖怪の黄泉を圧倒する展開に、会場の者達は最早絶句しかない。

 

「パパァァァァ!」

 

「お父様ぁ!」

 

 父親が大爆発の中心で直撃した事に、息子の修羅だけでなく、隆誠の応援をしていた娘の迦楼羅でさえも悲痛な叫びをあげていた。

 

 モニターでは爆発が収まっても、巨大なキノコ雲のように煙で覆われている。

 

 そしてソレが漸く霧散し、隆誠は勿論のこと、大爆発の中心にいた黄泉が傷を負っていながらも立っていた。

 

『な、何と! 両者、共に健在です!』

 

 ウオォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 凄い戦いをしているのに、どちらも無事な姿である事に会場は一気に湧いた。

 

 

 

「不思議だ。自慢の技が敗れたと言うのに、頭の中が真っ白になって気持ちよかったよ」

 

「……そうか」

 

 すごい発言をする黄泉に隆誠がドン引きしそうになるも、清々しい表情をする彼を見て思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「今のがお前の本当の力か。これ程の強さであれば、覚悟を決めなければならないな」

 

「おいおい、まさかもう迦楼羅を俺に託すつもりでいるのか?」

 

「そんな訳あるか!」

 

 力強く否定する黄泉だが、内心では徐々に認めつつあった。妖怪でもない異形の存在であっても、隆誠ならば良いかもしれないと。

 

「お前のような奴に、娘は断じて渡さん!」

 

「……本当に板についてるな」

 

 構えながら言ってくる黄泉に呆れてしまう隆誠。

 

 隆誠も構えた直後、二人は瞬時に動き出した。最初にやっていた肉弾戦の続きをする為に。

 

「決着をつけるぞ、黄泉ぃ!」

 

「望むところだぁ!」

 

 真の姿となった隆誠相手に、黄泉はもう後先の事を考えずに全ての力を出そうと奮戦する。

 

 数時間以上の戦いを繰り広げるも、Bブロック三回戦の勝利を飾るのは――隆誠だった。敗北した黄泉は意識を失うも、完全燃焼したかのように晴れやかな笑みを浮かべていた事も付け加えておく。




中途半端かもしれませんが、黄泉との戦いは此処までになります。

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