魔界にやって来た元神   作:さすらいの旅人

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黄泉に勝利した後

 隆誠が勝利した瞬間に会場だけでなく、テレビを通じて観ている魔界全土にいる妖怪達も震撼させていた。魔界三大勢力の一人として君臨し続けていた黄泉が正体不明の人間に敗北するのは、魔界に住まう者達からすれば前代未聞とも言うべき大事件に等しいから。

 

 同時に魔界の歴史に残るほどの名勝負と謳われる事になり、それを見ていた選手達は激しく燃え上がったのは言うまでもない。それによって各ブロックの試合も白熱した戦いを繰り広げる事となった。

 

 会場全体が熱気に包まれている中、隆誠は黄泉を医務室へ連れていた。試合に勝利して直ぐに転移術を使って会場へ戻り、医務室へ向かう途中で修羅と迦楼羅に遭遇している。敗北した父親の姿を見た事で非常に口惜しがる修羅(むすこ)、父親を医務室へ運ぶ未来の旦那に感謝の言葉を述べながら頭を下げる迦楼羅(むすめ)は、神の姿となってる彼を見ても全く動揺していない。余りにも対照的な反応を示す兄妹に、隆誠はただ苦笑するばかりだったが。

 

 黄泉が負っていた傷の大半は既に隆誠が神の能力(ちから)を使って治癒したのとは別に、とある部分(・・・・・)には『再生の加護』を施しておいた。既に機能が失っている為に時間を掛けても回復する可能性が非常に低いが、何もしないよりはマシだと思いながら。

 

 そして看護師らしき女妖怪に意識を失ってる黄泉を引き渡した後、隆誠はすぐに退散した。

 

 途中で元の人間の姿に戻ると、今の彼は相当な体力を消耗する破目になる。強制的になったとは言え、神の姿になれば体力だけでなく自身のオーラもかなり食われてしまう。黄泉が一人の父親として戦う姿を見せていたから、家族愛を大事にする隆誠としては手を抜かずに真の姿で戦い続けるのは必然だった。

 

 しかし、次の四回戦で幽助を相手にするには少々分が悪い。試合中に必ず起きるであろう不測の事態(・・・・・)に遭遇する事を考えれば、疲弊したまま戦うのは危険なのだ。幽助とはなるべく万全な状態で戦い為、回復手段を使ってはいけないと言うルールが無いにしても、少々狡い手段だと理解しながら保存していた体力回復用の『とある豆』を使う事にした。その瞬間に消費していた体力やオーラが元に戻ったのは言うまでもない。

 

 幽助の試合でも観ようかと思いながら会場へ向かうも、その途中で見知らぬ者と出会う事になった。

 

 

 

「ワシの名はコエンマ。霊界の長であるエンマ大王の息子で、霊界探偵として活動していた幽助の元上司だ」

 

「なるほど、貴方が……んで、そんな方が俺に一体何の御用ですか?」

 

 コエンマから出来るだけ内密な話をしたいと言われた為、隆誠は選手用の控え室へ場所を移した。本来であれば選手じゃないコエンマは利用不可だが、隆誠の関係者となれば話は別になる為、こうして利用可能となっている。

 

「お主の事は幽助から一通り聞かせてもらった。何でも平行世界から来たそうで、そこには冥界が存在しているらしいな」

 

「ええ、仰る通りです。尤も、其方の冥界と俺が知る冥界は全く別物ですが、ね」

 

 霊界のコエンマが自分に会いに来た理由を隆誠は察した。幽助から知り得た『平行世界』と口にした事で。

 

 それとは別に、いくら霊界関係者でも魔界へ簡単に来られるのだろうかと内心疑問を抱いてしまう。この会場にいる妖怪達は観客も含めて、並みの人間では到底歯が立たない実力を持っている。荒事に向いてなさそうなコエンマが護衛も付けずに来るなど正気ではない。今回行われる魔界統一トーナメントは霊界としても見過ごせないから、危険を覚悟で来たのだろうと結論付けて何も指摘しない事にした。

 

「その冥界について詳しく知りたいところだが、そこは部外者のワシが関与する事ではないので聞かないでおくとしよう。だが、それとは別に確認したい事がある」

 

「……………」

 

「兵藤隆誠、お主が黄泉との試合で見せたあの姿は霊界側から見ても異形しか思えなかった。正直に答えて欲しい。今は人間に転生してるようだが、お主の生前は人間界で言う神の使い――『天使』に属する存在ではないか?」

 

「ほう……」

 

 隆誠は思わず笑みを浮かべながらも否定はしなかった。未だ答えずともコエンマは確信が深まっていく。

 

「それに加えて、試合で見せていた黄金の闘気も人間が簡単に扱える物ではない。この世界でも『聖光気』と呼ばれる闘気を扱う人間はいたが、お主の闘気はハッキリ言って『聖光気』以上の力だった。そんなモノを簡単に行使するとなれば、神に属する存在でなければならない筈。そう推測したのだが、どうだ?」

 

「成程、ね」

 

 何か間違いがあれば言って欲しい。そう訊いてくるコエンマに、隆誠は考える仕草をする。

 

 嘗て聖書の神として君臨していた天界は、霊界と全く異なる世界なのは言うまでもない。それでもコエンマが気付いたのは、幽助を含めた妖怪達とは異なる視点で見ていたからだろう。

 

 隆誠としては自身の正体を誰にも明かす気など一切無いのだが、霊界関係者である彼なら話は別だった。加えて内密に話をしたいと持ち掛けた時点で、自分の正体に気付いたと何となく察していた為に。

 

「コエンマさんの読み通り、確かに俺はこの世界だと異形の存在です。ですが一つだけ間違いがあります」

 

「その間違いとは何だ?」

 

「生憎、自分は天使じゃありません。彼等を纏めていた者――『聖書の神』と言う存在はご存知ですか?」

 

「んなっ!?」

 

 あっさりと正体を晒した隆誠に、コエンマは大きく目を見開く。

 

 普通ならあり得ないと即座に否定したい彼だが、それはもう無理だった。黄泉との試合で見せたあの姿が何よりの証拠なのだから。

 

 平行世界とは言え、人間界では空想に等しい神が実在していたなど、余りにも予想外過ぎる。コエンマの心情はそれで埋め尽くされ、言葉を失うほどだった。

 

「信じられないのでしたら、もう一度お見せしましょうか?」

 

「い、いや、そこまでしなくても良い!」

 

 再び真の姿を見せようとする隆誠だったが、コエンマは即座に断った。モニターで観戦した時からも凄まじい力を充分に感じ取れていた為、それはもう今更に過ぎないから。

 

「確認したいのだが、お主は今後、人間界や霊界に干渉するつもりでいるのか?」

 

「その心配は無用ですよ。俺は元の世界に戻る予定なので、其方に関わる気など微塵もありません」

 

「では何故この大会に出場したのだ? 仮にお主が優勝すれば魔界を統一する事になるのだぞ」

 

「俺も本当ならそんな気は無かったんですけど、幽助を鍛えた手前、参加せざるを得なくて」

 

 幽助との試合を終えた後は機を伺いながら棄権する予定です、と隆誠は付け加えた。

 

 その発言を聞いたコエンマは嘘偽りがないと判断したのか、「なら良いが」と一先ず安堵の息を漏らす。

 

「でも決勝で軀と戦う約束をしたから、簡単に手を抜いて負ける訳にはいかないんですが、ね」

 

「おい! それだと本末転倒になるではないか!?」

 

 安堵したのも束の間、優勝候補である軀と決勝で戦う約束をした事に危機感を抱くコエンマだった。

 

 こうして隆誠とコエンマが二人だけで話している最中、Bブロック三回戦第二試合で戦っている幽助が勝利したとのアナウンスが入る。




次回は幽助との戦いになります。
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