魔界にやって来た元神   作:さすらいの旅人

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四回戦

 各ブロックの三回戦から四回戦に移っており、Cブロックだけ既に四回戦を終えたのだが、Dブロックでは三回戦が未だに続いていた。

 

 現在Dブロックで試合しているのは軀と棗。優勝候補と呼ばれている筈の軀が、棗を相手に大苦戦を強いられている。尤も、その戦いはあくまで表面上に過ぎず、互いに相手の出方を探り合いながら体力の削り合いをしているだけだった。

 

 Aブロックの方では四回戦の真っ只中で、雷禅の旧友である周と痩傑が戦っている。実力が拮抗した強豪同士故か、もう既に数時間以上経過していた。

 

 黄泉が三回戦で敗北した事で優勝は軀になるかと思いきや、次々に勝ち上がる選手達の実力を見て予想外の展開が何度も起きていた。その所為で誰が優勝するのかは皆目見当も付かず状態となり、最早会場にいる者達はただ見守るだけしかない。

 

 だが、それとは別にこの後行われる試合が誰もが気になっていた。

 

『そして、いよいよBブロックでは、四回戦最大の注目カードが今まさに始まらんとしています!』

 

 小兎の実況を聞いた者達は、すぐに別のモニターへと視線を変えた。その表示には『Bブロック 四回戦 浦飯幽助 VS 兵藤隆誠』と映し出されている。

 

 人間から妖怪に生まれ変わった幽助と、神から人間に転生した隆誠。大会が始まる前まで師弟関係だった二人の戦いがもう少しで始まろうとしていた。

 

 

 

「おい。兵藤の奴、何かおかしくねぇか?」

 

「おかしいって、何がだ?」

 

「三回戦で黄泉と戦って相当疲弊してた筈なのに、今はそんな様子が全く見えなくてな」

 

「言われてみれば……」

 

 会場にいる観客達は小型の円闘場へ向かっていく隆誠を見て違和感を覚えていた。

 

 その内の一人が言ったように、隆誠は黄泉との試合による疲れが全く無いのか、まるで万全な状態で幽助に挑もうとする感じだった。

 

 試合が始まる前に医務室で治療を受けられるとは言え、あくまで応急処置程度に過ぎない。完全に治すのであれば入院して時間を要さなければならないが、いくら試合開始までの待ち時間が長いと言っても、入院した時点で試合放棄と見なされ失格になってしまう。

 

 隆誠は黄泉を医務室に連れて行ったが、あくまでそれだけだった。看護師からも治療を促すも、本人が必要無いと辞退している。ただ単に見栄を張ろうと余裕の姿を見せている、と言ってしまえばそれまでだが。

 

 その謎が全く不明なまま、小兎は敢えて気にせず実況に専念しようとする。

 

『この魔界統一トーナメントの提唱者で今は亡き魔界三大勢力の一人、雷禅の血を引く男、浦飯幽助!』

 

 

「浦飯ぃぃ! 負けんなよぉぉ!!」

 

「この際だからお前が勝ってくれぇぇぇ!」

 

 

 人間混じりと嘲笑されていた筈の幽助だが、観客達はそんなの気にしてられないと言わんばかりの様子で応援していた。これから戦う相手が、妖怪と全く別な存在である為に。

 

 それとは別に、幽助を熱烈に応援する者がいる。

 

「浦飯ぃぃぃ! 絶対、絶対に勝てよぉぉぉ!!」

 

 それは酎だった。今までとは比べ物にならないほど真剣な表情で、幽助の勝利を心底願っている。

 

「酎の奴、いつになく凄い応援をしているな」

 

「こいつがここまで真剣になるのは一体何なんだ?」

 

 酎が見せる熱烈な応援に鈴木と死々若丸が少々引くほどで、一体彼に何があったのかと疑問視するばかりだった。

 

「全くもう、見てられねぇぜ」

 

 事情を知っている鈴駆だけは完全に呆れ顔になっていが、幽助の応援をする事には変わりないようだ。

 

『そして一方は、三回戦で魔界三大勢力の一人である黄泉選手を倒した兵藤隆誠! その時には人間でも妖怪でもない異形の姿となり、観客の度肝を抜きました!』

 

 数時間前に行われた三回戦は、小兎も含めた会場にいる者達も鮮明に記憶している。隆誠が見せた姿は、妖怪の自分を簡単に滅する程の力を秘めていると恐怖した程だ。

 

 本当なら幽助も内心物凄く知りたいが、試合前と言う事もあって、その衝動を必死に抑えながらも彼と対峙している。この試合、もしくは大会が終わった後に必ず問い詰めようと。

 

『それではBブロック四回戦、浦飯選手 対 兵藤選手、始めぇぇぇぇ!!』

 

 小兎の開始宣言により、Bブロック四回戦が始まろうとする。

 

 

 

 

 

 

 試合が開始しても、両者共に動こうとせずに対峙していた。

 

(リューセーとはこれまで何度も相手して貰ったが、やっぱり桁が違うな)

 

 その際に幽助は隆誠の力を測っていたが、今のままでは絶対に勝てないと認識している。

 

 彼が四回戦に来るまで戦った相手は無名であっても、相当な実力者揃いだった。試合中には何度もヒヤリとした展開が起きて、危うく敗北しそうな場面もあるも、幽助はそれらを糧として更に成長している。

 

 しかし、その成長は隆誠の前では大して意味が無い物だと思い知らされてしまう。前の試合による影響なのかは知らないが、開放されている隆誠の闘気が途轍もなく大きいから。

 

 これまで隆誠は自身の修行相手になっていた際、一度も本気でやっていない。あくまで修行だからといえばそれまでになるが、幽助としては一度でもいいから本気でやって欲しいと口惜しがっていた。

 

 三回戦で見せた黄泉との試合では、余りにもレベルが違い過ぎると驚愕するばかりだった。その途中で隆誠が見せた本当の姿こそが、真の全力だと改めて思い知らされたが。

 

(今の俺が前より強くなっても修羅以上で黄泉未満、と言ったところだ。加えてリューセーとは、大人と子供ほどの差がある。ならば!)

 

 決心したのか、幽助は両手首に巻いてるリストバンドを外した。

 

 直後、彼の全身から抑えられていた凄まじい赤色の妖気が放出されようとする。

 

「ほう……」

 

 幽助がリストバンドを外して妖気を解放したのを見た隆誠は、最初から全力でやる気だと笑みを浮かべると、赤い妖気に当たる寸前に彼も闘気を放出させる。

 

 幽助の赤い妖気、隆誠の黄金の闘気。その二つの気がぶつかり合って、天高くそびえるような気の柱が完成する。

 

 

『おっとぉ! 両者いきなり物凄い気のぶつかり合い! 三回戦の時と同様、Bブロックの億年樹の上に、大きな気の柱が出来ているぅ!』

 

 

 会場にいる小兎は三回戦の焼き直しのように言うも、それだけ凄い物だと強調していた。

 

 しかし、この気の柱は試合をしている者達も感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 Dブロック三回戦を行っている軀と棗だが、遠くから感知した気が誰なのかが分かったように戦いを一旦止めた。

 

「浦飯、始めたか。しかしまさか、これ程の妖気を……!」

 

「浦飯の妖気が急に跳ね上がったのは……隆誠の仕業ね」

 

 今までの試合で見せていたのとは別人と思うほどに、急激に上昇した幽助の妖気に軀と棗は驚愕を露わにする。

 

 二人は既に気付いている。これ程までの妖気を放出する要因は、間違いなく隆誠だと。

 

「おい、そろそろ無駄な体力の削り合いは止めにしないか? こっちは先約があるんでな」

 

「……ふっ、良いだろう。私も丁度そう思っていたところだ」

 

 隆誠と幽助が本気でぶつかり合うのを感じ取ったのか、軀と棗は本気を出そうと決意する。

 

 しかし、それは彼女達だけでなかった。

 

 

 

「へっ。隆誠だけじゃなく、雷禅の倅もやっぱただもんじゃねぇな」

 

「ああ。戦闘中の俺達の妖気を掻い潜って、背筋にビビッと来たぜ」

 

 Aブロックで四回戦をやっている痩傑と周も、Bブロックでぶつかり合っている気を感知していた。

 

 片や出鱈目な実力を持った人間の隆誠。片や雷禅の息子である幽助。どちらも凄まじい気を放出しているから、雷禅の旧友である二人としては嬉しさの余りに笑みを浮かべている。

 

「あんな気合いの入った気を感じたら、燃えざるを得ねェよな、周よ」

 

「ああ、てめェとマジでやるのは千とんで八年振りだな」

 

 痩傑と周は雷禅の喧嘩友達だが、同時にライバル関係でもある。昔は血の気が多かった所為もあって、雷禅を倒すのは自分だから邪魔するなといがみ合っていた程だった。

 

 昔の血が騒いだ訳では無いにしろ、二人は久しぶりに心から本気で暴れたい様子だ。

 

「おら、本気で来いよ。金物くせェメタル族の小僧!」

 

「前から言ってやろうと思ってたがよ、てめェその帽子全然似合ってねーぞ!」

 

 Dブロックの軀と棗に続き、Aブロックの痩傑と周も妖気を力を解放した瞬間に妖気の柱が出来上がった。

 

 

 

 

 

 

「うっ、ぐっ……!」

 

 AブロックとDブロックが共鳴するように妖気の柱が形成されている頃、Bブロックで気のぶつかり合いをしている幽助が、徐々に隆誠の闘気に押されていた。

 

 ジリジリと後退していく幽助は踏ん張ろうとしているも、その努力が実らないかのように、あと少しで小型の円闘場から弾き出される寸前だった。その直後に隙だらけとなり、隆誠が先制攻撃を仕掛けようと誰もが予想する。

 

「……ふっ」 

 

 すると、優勢に押していた筈の隆誠が突如闘気の放出を止めた。

 

「って! おっとっと!」

 

 気の柱が霧散した事で、円闘場から落ちる寸前だった幽助が何とか持ち直した。

 

 同時に疑問を抱いている。何で急に放出を止めただけでなく、自分に攻撃を仕掛けないのかと。

 

 だが、それはすぐに分かった。隆誠が肉弾戦をやろうと構えているのを見て。

 

 明らかな挑発行為でも、幽助の事をよく知る者達はこう思う。挑発と分かっていても絶対乗る筈だと。

 

「へっ。上等だぁ、リューセー!」

 

 まるで期待を裏切らないかのように、幽助は隆誠の思惑に乗ってやろうと真正面から突進する。

 

 向かってくる幽助に対して構えている隆誠は懐に入られても、全く微動だにしない。

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

 幽助は先制攻撃を仕掛けようと、拳に妖気を込めて、隆誠の顔面目掛けてストレートを仕掛けた。

 

 この程度は隆誠なら簡単に避けられると誰もがそう思って――いたと思いきや直撃し、隆誠は軽く吹っ飛んでいく。

 

「あ、あれ? 当たっちまった!?」

 

 予想外に直撃した事で幽助は困惑してしまう。手合わせの時には毎回簡単に躱すのに、何で当たってしまったのかと。

 

 そんな疑問を余所に、吹っ飛んでいた隆誠がそのままダウンする。

 

 これには幽助だけでなく、会場にいる者達も放心してしまうのは無理もなかった。




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