修行用バンドを付けた幽助だが、常にフルパワー状態でなければ、まともに動く事が出来ない状態だった。幻海婆さんの呪霊錠よりきついと愚痴ってしまう程に。
それでも幽助は諦める事なく続けていた。呪霊錠を付けた事によって自身の霊力が桁違いに上昇した経験がある為、雷禅に勝つにはこれ位やらなければ無理だと自ら戒めている。
そんな彼の姿勢に、隆誠は心底感心した。諦めず前向きに続けるのは
自分の弟と共通している事もあってか、隆誠は幽助の修行相手を続けようとする。自分が元の世界に戻るまでの間、出来る限り付き合おうと決めたから。
因みに幽助が付けてる修行用バンドは相当な負荷が掛かるように設定されていた。彼と相手をしながら実力を把握した事もあって、上級悪魔でも簡単に動けない程の重さになっている。
隆誠の見立てでは、その重さに慣れるのは大体数ヵ月位になると予想している。本来であれば完全に慣れるのには一年以上掛かるが、諦めない姿勢を見せる幽助であれば、それ位は乗り越えるだろうと。
今までやっていた組手を一切やらせず、現在は基礎練習として徹底的な走り込みをさせていた。フルパワー状態のまま走らせれば身体能力だけでなく、妖力も充分に鍛える事が出来るから。幽助としては組手が手っ取り早いのだが、まともに動けることが出来ない以上、隆誠の指示に従っている。
だが――
「ざけんなぁ! 何で勉強なんかしなきゃいけねぇんだよ!?」
「当然だろ。聞けば君は中三の途中で
「冗談じゃねぇ! 俺は元から勉強は大っ嫌いなんだ! そんな事より修行させろ!」
「勉強もちゃんとした修行の一つだよ。知識を学び、そして考える事も戦いにおいて必要なモノになる。ただ単に腕っぷしだけ強くなったところで、そんなの宝の持ち腐れも良いところだ」
「つまり俺がバカだって言いてぇのか!?」
「それこそ馬鹿も休み休み言えだよ。ほら、さっさと始めるぞ。言っておくが、逃げたところで無駄だからな」
幽助にとって地獄の拷問と言える勉強の所為で、早くも音を上げそうになっていた。
勉強の途中にフルスピードで何度も逃亡したのだが、隆誠が宣言した通り結局無駄な努力に終わっている。
幽助が修行と勉強で四苦八苦している中、雷禅が予想していた通り、他の国も突如魔界に現れた隆誠の存在に気付いていた。
☆
「軀様、一つご報告がございます」
「どうした?」
雷禅と同じ魔界三大妖怪の
彼は77人いる直属戦士の中で最も強く、250年の間、軀の下でNo.2の座についていた。
「雷禅の国に妙な人間が居座っていると言う情報が入りました。密偵によると、現在は雷禅の息子を鍛えているとの事です」
「ほう」
まるで興味深いと言わんばかりに、奇淋の方へ視線を向ける軀。
軀は雷禅の国についての情報を得ている。雷禅が死に掛けているとは別に、その息子である浦飯幽助が今も過酷な修行をして強くなろうとしている事を。
自身の国でNo.2になっている飛影と同じく、雷禅の国のNo.2は間違いなく幽助だと既に推測していた。にも拘らず、ある程度の実力を付けた筈の幽助を鍛える実力を持つ強い人間が存在しているならば、軀が興味を持つのは当然だった。
(飛影なら何か知っていると思うが……聞くだけ無駄か)
嘗て人間界で幽助と一緒に行動を共にしていた飛影であれば、その人間について何か情報があるかもしれないと考える軀だが却下した。正直に答えてくれない性格なのは、この数ヵ月の間で接して分かった為に。
相手が人間でも、それなりの強さを持つ存在がいる事に興味を示す軀は、何かあれば逐一報告するよう奇淋に命じるのであった。恐らくは黄泉も察知している筈だと思いながら。
☆
「蔵馬、雷禅の国で少しばかり面白い情報が入ったぞ」
「面白い情報?」
雷禅と軀と並ぶ魔界三大妖怪の
黄泉と蔵馬は嘗て盗賊稼業を営んでおり、立場は全く逆だった。蔵馬が大将で、黄泉が副将と。
今は頭脳派で辛抱強くなっている黄泉だが、盗賊時代は血の気が多くて粗野な性格だった。その所為で蔵馬に見限られてしまい、刺客からの襲撃で両目を失う事になった。それから長い年月をかけて音や空気の流れを頼りに戦う術を身に付けた他、周囲の相手の心拍数や国家中を把握する聴力と知謀、そして雷禅や軀と肩を並べられる力を得るまでに成長して現在に至っている。
「雷禅の息子、浦飯幽助が突如魔界に現れた人間と訓練をしているみたいだが、お前の知り合いか?」
「いきなりそう言われても、誰なのかは全く分からないんだが」
魔界に現れた人間と聞いた蔵馬は、もしかして
尤も、桑原は今も人間界に残って高校の受験勉強に専念している筈だから、それを放棄してまで魔界に来るのは断じてあり得ない。彼は幽助に絶対合格して自慢すると約束しており、不義理な事はしない性格なのは蔵馬も充分理解している。
魔界にいても平気な人間は蔵馬が知る限りは桑原、そして既に死んでいる仙水だけしかいない。だから黄泉が言った人間は完全に自分が知らない人物となる。
「だろうな。そう言い返すと思って、此方を用意した」
「………………は?」
黄泉が機器のボタンを押すと、ディスプレイには何故か幽助が苦痛の表情で勉強している姿と、教鞭を取っている人間――隆誠の姿が映し出される。
(嘘だろ? あの幽助が魔界に来てまで勉強してるなんて……)
いきなりの光景に、冷静な蔵馬も信じられないと疑ってしまうほど目が点になっていた。
勉学が大の苦手な幽助が、自ら進んでやるとは到底思えない。となれば、教えているその人間が強制的にやらせている事になる。
彼の性格を考えれば、勉学など即座に放り出して実戦訓練をやろうとするだろう。しかし、画像を見る限りだと諦めているような感じが見受けられた。そうさせるほど、画像に映っている人間はかなりの実力者と言う事になる。
「蔵馬、この人間に見覚えはあるか?」
「知らないな。寧ろ俺が聞きたいぐらいだ」
黄泉からの問いに蔵馬は知らないと答えた。本当に知らないのだから、そう答えるしかない。
同時に内心興味を抱いている。彼の幼馴染である
しかし、流石の蔵馬も気付けなかった。幽助が勉強してる最中でも、修行用バンドによる妖力強化の修行をしている事に。
黄泉も多少気になっているのか、部下の