隆誠が魔界に来て約数ヶ月後。
予想通りと言うべきか、修行用バンドを付けた幽助は以前より実力が向上した。単純な計算で言えば、数ヵ月前の頃と比べて五倍は上がっている。
それを証明する為にバンドを外した瞬間、全身から凄まじい妖気が溢れ出していた。飛躍とも言える急激な上昇に戸惑う幽助だったが、前に体験した事もあってか直ぐに制御する。
次に今度は身体能力がどこまで上昇したのかを確かめようと、今まで見守っていた北神達四人が幽助の相手をする事にした。
今まで修行を見守っていた彼等だが、決して何もしていなかった訳ではない。急に時間が空いたのを利用して鍛錬に費やした事もあって、それなりに実力を上げたと自負している。
隆誠が立ち合いをする事になり、幽助は手合わせをするも――
「ま、参りました……!」
「四人掛かりの筈が、こうも簡単に……!」
「いやはや、末恐ろしいと言うか……」
「全く、隆誠殿の修行はとんでもないものですな」
北神、
(嘘だろ? 以前までコイツ等に苦戦してた筈なのに、こうもあっさり勝っちまうなんて……)
「見事だ、幽助」
以前まで苦戦していた自分は何だったのかと疑問を抱く幽助とは別に、隆誠が拍手をしながら称賛していた。
「これなら流石の雷禅も苦戦するだろうな」
生命の危機に瀕しているとは言え、雷禅は今も相当な実力を持っている。何度も挑んできた幽助を何度もぶちのめすどころか、半殺しにまでした程だ。
しかし、このところ彼の妖力が徐々に低下していた。それに気付いた隆誠は非常手段として、体力回復用の『とある豆』を用意するも――
『生憎、俺の腹は人間しか受け付けねぇんだ。それと悪いが隆誠、出来ればもう俺の近くにいないでくれ。このところ
雷禅は丁重に断るだけでなく、自分から離れるように警告してきた。
これを聞いた隆誠は、そろそろ彼の死が間近と悟るも、本人が拒否している以上どうしようも出来なかった。
「そうだった! よっしゃ、今すぐクソ親父に挑戦してくらぁ!」
隆誠の台詞を聞いて思い出したのか、幽助は血相を変えて雷禅がいる塔へと向かった。
「準備運動しなくて良いのか?」
「北神達の手合わせでもう充分だ!」
いくら強くなったと言っても身体を慣らす必要があるのだが、先程の手合わせを準備運動扱いした事に北神達は少しばかりショックを受けている。
「何と言うか……北神さん達には色々な意味で申し訳ない」
修行相手と言う立場を奪っただけでなく、手合わせでも雑な扱いをさせてしまった事に罪悪感を抱いてしまう隆誠は謝罪をした。
「い、いえ。別に気にしてませんから……」
そう言う北神だが、他の三人達と同じく少しばかり哀愁を感じる隆誠だった。
この数ヵ月の間、北神達は隆誠とそれなりに仲良くなっている。
今までは危険な人間だと警戒していたが、幽助相手に有無を言わさず従わせる姿を見続けただけでなく、妖怪である自分達相手にも敬意を払っている。東王だけは未だに難色を示しているが、北神達は普通に話せる関係となっていた。
すると、隆誠はある事に気付く。
「そう言えば、この時間帯になると雷禅は腹の音を鳴らせている筈ですが」
『!』
飯時になれば塔の最上階から雷禅の腹の音が魔界全土に響くのが常識だった。数ヵ月も滞在している隆誠もすっかり慣れて、今は完全に時計代わりとして幽助に食事を用意していたが、今日は腹の音を一回も聞いていない事に疑問を抱く。
隆誠の台詞に北神達もハッとしたかのように目を見開き、幽助が向かっている塔の最上階へ視線を向けている。
そして数分後、異変が起きた。
雷禅と思わしき妖気が爆発したかのように、塔の壁を突き破り、幽助を無理矢理連れだすように森の方へ向かっていく。
「い、一体何が……!?」
「雷禅様……!」
戸惑う東王に、雷禅の身を案じるように呟く北神。この光景は隆誠達だけでなく、雷禅の配下達全員が目撃していた。
「……どうやら、一足遅かったようだな」
「隆誠さん、それは一体どう言う意味ですか?」
嘆くように呟く隆誠の台詞に反応した北神は、何となく予想しつつも敢えて問う。
「皆さん、覚悟を決めた方が良いですよ。既に雷禅の妖気が消えかかっていますから、恐らくあと一時間も経たない内に――」
「出鱈目を言うな! 雷禅様が死ぬのは、もう少し先の筈だろう!」
隆誠が雷禅の死が迫っている事を口にするも、東王は認めたくないのか即座に否定していた。
「でなければ、何時ものように腹の音が鳴っている筈ですが?」
「っ……」
妖気が消えかかっているだけでなく、聞き慣れている腹の音が鳴らないのは死が迫っている。改めて言われた事で、東王はもう何も言えなくなっていた。
雷禅が死ぬ前に自分を客人として出迎えた礼を直接言いたいが、息子と最後の会話をするかもしれない。そう考えた隆誠は森へ向かった二人の後を追わず、帰って来るのを待つ事にした。
雷禅と一緒に森へ向かった幽助が一時間も経たない内に戻ってきた。
「幽助、雷禅は?」
「死んだ」
『!!』
肝心の雷禅がいない事に隆誠が代表して問うも、あっさりと答えた幽助に北神達は目を見開いた後に嘆きの声を上げた。
数ヵ月程度の短い付き合いとは言え、隆誠も彼の死に悲しんでいる。哀悼の意を表そうと、小さく黙祷を捧げながら。
「リューセー、親父からの伝言だ。『後は好きにしろ』だとさ」
「………そうか」
いくら最後の伝言だからって、流石に一言だけは無いだろうと隆誠は突っ込みたかったが、敢えてそんな野暮なことはしなかった。
だが、それでも意味は充分に伝わっている。
此処に留まって幽助達と一緒に行動するも、黄泉や軀達との戦いに巻き込まれたくなければ人間界へ逃げても構わない。雷禅はそう伝えたかったのだろうと隆誠は察しているのだ。
「んで、幽助はこれからどうするつもりだ?」
何かをするにしても、それは幽助の出方次第だった。
彼が雷禅の意思を継いで国王になった後、黄泉や軀と戦うか、もしくはそのどちらかと手を組むか。色々な選択肢はあるのだが、難しい事が苦手な幽助がやるとすれば、『戦う』と言う選択肢が濃厚だろう。
隆誠としては別世界の戦争に加担する気は無いのだが、既に幽助達と関わってしまった以上、それはもう無理だった。この数ヵ月の間、黄泉や軀の部下と思わしき諜報員が嗅ぎまわっているのを確認済みだから、今更無関係とは言えない。
「黄泉んとこに行く。って事で北神、案内してくれねぇか」
『な?』
いきなりの発言に北神達は目が点になった。
それは無理もないと言えよう。雷禅が死んだばかりなのに、幽助が黄泉のいる国へ行こうと突飛な事を言い出したのだから。
「一応確認だが、もしかして黄泉と戦う気なのか?」
「ちげぇーよ。話し合いをする為だ」
「話し合い、ねぇ」
幽助が一体何を考えているのかは隆誠にも全く分からなかった。
雷禅からお守をする為に修行相手を数ヵ月やれば、幽助についてある程度理解している。相当腕白で単純な性格だと言うのを。
それが突然黄泉の国へ行こうとすれば、何かとんでもない事をやらかすのではないかと隆誠は少しばかり危惧してしまう。
とは言え、隆誠は幽助が何をするにしても口出しする立場ではないから、取り敢えずは彼の行動を見守る事にするのであった。
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