黄泉と軀が国家解散して魔界全土に行き渡るのには大して時間が掛からなかった。
トーナメント開催にあたり、会場は黄泉の国である癌陀羅で行う事になって募集している。
しかし、国家が解散したとは言っても、脅威が完全に消えた訳ではない。魔界の住人の殆どが未だに黄泉と軀の強さを恐れており、今回行われるトーナメントは二人の一騎打ち同然で、どちらが勝つのかとしか殆ど見ていない。
黄泉はトーナメントに同意する条件として、開催期日を国家解散より100日後とする事を提案し、これには幽助や軀も認めている。
今回参加するトーナメントは元三大勢力の関係者ばかりだが、その中には別世界から来た隆誠も含まれている。本来であれば元神が、魔界の行く末に関わる行事に参加するなど以ての外だが、それはもう今更に過ぎなかった。彼は死んだ雷禅と関わってしまった為、参加せざるを得ない状況となっている。
因みに隆誠が参加すると知った黄泉は、幽助側の勢力の中で一番厄介な存在だと警戒している。幽助の妖力値を530000Pまで強くさせるだけの育成能力を持つだけでなく、妖気や霊気とは全く異なる力を感じ取った事で幽助以上の実力者だと瞬時に理解したからだ。
そこで黄泉はある事を考えた。本当なら切り札となる息子の『
あれから一週間経った。
既に雷禅の国へ帰還している幽助達は、93日後に行われるトーナメントに向けての話し合いをするのだが……。
「なんだなんだテメェ等、そんなに睨むなよ」
雷禅が死んだ事で新たな国王となった幽助だが、北神やその部下達は異議を唱えるかのように無言で見ている事に大層不服だった。
一緒にいる隆誠は幽助の目的を理解しても、北神達の心情を察しているから敢えて口出しをせず見守っている。
「雷禅が俺に任せるっつーから、やりてーようにやったんだろがよ」
幽助の言い分は決して間違っていない。雷禅が任せると言われたのであれば、北神達は彼に協力するのは当然だろう。
しかし、幽助が一人で勝手に決めてしまったから、いくら彼等としても簡単に受け入れられない。せめて一声でもかければ、こんな事にはならなかったかもしれないが。
(やはりこう言う事には向いていない、か)
元神として視ていた隆誠は、幽助には実力があっても王としての素質が無いと改めて分かった。
だが、それとは別に人望が厚い。蔵馬や他の妖怪達は幽助に対する信頼があるから、全員黄泉に反旗を翻す結果となったのが明白だ。
「……済んだ事は、もう仕方ないですが」
「問題はトーナメントです」
「隆誠さんとは別に、我々四人が微力ながら協力します」
幽助と隆誠がトーナメントに参加するのは勿論のこと、北神、東王、西帝、南海の四人も出場する事になっている。
その中で北神が不穏な発言をした事で、幽助は過敏に反応した。
「おい、ちょっと待てよ。オメーら、なにセコい裏工作してやがるんだ」
「当然の作戦ですよ。軀や黄泉がまともに国を解散したと思っているのですか?」
北神が疑うのは当然と言えよう。
以前まで三国の睨み合いが500年以上も続いていたのだから、向こうが幽助の提案に乗って言われたまま急に解散したとは到底思えないのだ。
「幽助。納得出来ないかもしれないが、北神達はお前の為を思って協力しているんだ。いくら雷禅に任されたからと言って、此方に一切相談も無く勝手に決めた罰だと思って甘んじて受け入れろ」
「ぐっ……!」
相手が師匠役として鍛えられた隆誠だからか、幽助は北神達と違って強く出れなかった。
「それに大会では色んな策を巡らせると考えた方が良い」
「……確かにリューセーの言うとおり黄泉はかなり怪しいがよ、軀はきっとマジで勝負してくるよ」
幽助がこう断言するのには理由がある。
対談を終えて癌陀羅から出る途中、見慣れぬ二人組と出会った。顔全体を包帯で巻かれた性別不明な人物――『軀』、連れと思わしき黒髪が逆立った少年――飛影の二人と。
軀は出会って早々幽助に挨拶をした際、死んだ雷禅に対する思いやりなのか、墓前に活けるよう一輪の華を手渡した。その後に『バカめ』と言う皮肉を込めたメッセージも伝えるよう言った後に、飛影と一緒に退散したが。
短いやり取りだったが、幽助は軀を信用に値する人物と見ている事もあって、疑う必要が一切無いと思っているようだ。
「例えそうだとしても黄泉が策を巡らす以上、どの道警戒することに変わりないだろう」
「隆誠さんの仰る通りです。加えてこれは私個人の意思である限り、あなたも文句は言えない筈です」
隆誠がフォローしてくれてる事もあってか、北神はそれに乗っかって反論出来ないよう言い包めた。
幽助もそれはある程度理解してはいるようだが、苛々が募ろうとしていく。
何の小細工抜きで純粋にトーナメントを楽しみたい彼としては、北神達のやる事に納得が行かないのだ。
「だから、そんなことじゃねぇーんだよ! 俺がやりてぇのは、なんつーか――」
「たのもーーーーォ!!!」
幽助が言ってる最中、突如第三者の大きな声が響かせた。
侵入者と思って北神達は振り向きながら警戒するも、現れたのは大きな風呂敷を肩に背負っている鬼のような姿をした大男と、瓢箪を片手に持っているグラマーな女性の二人。どちらも妖怪なのは言うまでもない。
「な、何だオメーらは!?」
幽助が代表して見知らぬ二人組に問う。
「雷禅が死んだって聞いてさ。慌てて田舎から出て来たんだよ」
「ワシは
女性――孤光が此処へ来た理由を話したのに対し、男性――煙鬼は妻も含めた自己紹介をした。
奥さんと違って旦那さんは見た目と違って温厚だと失礼な事を思う隆誠だが、話が通じる妖怪であれば問題無いと結論する。
「あなた方は、元国王とはどのような関係で?」
雷禅の知り合いだと分かったのか、今度は北神が問う。
大して隠す理由も無いと言わんばかりに、煙鬼はあっさりと答える。
「大昔のケンカ友達です」
雷禅に仕えていた北神達だけでなく、息子の幽助も初めて聞く内容みたいで、隆誠を除く全員は揃ってキョトンとしている。
「ワシ等も強かったがあいつはもっともっと強くてのー。今の軀や黄泉なんぞ、当時の雷禅見てたら小便ちびっとるよ」
「それが突然人間の女なんかに骨抜きにされやがってよー!」
当時の雷禅の強さを語る煙鬼だったが、弧光が突然幽助に顔を近づけて当時の不満をぶつけていた。
「そのずーっと前からアタックしてた、あたいの立場はどうなるんだよ!?」
「さ、酒くせー……!」
弧光は酒を飲んでいたようで、彼女の口から酒気が漂っている事に気付く幽助。此処へ来る前に相当飲んでいたと分かった程だ。
「全く、やけっぱちでこんなのと一緒になっちまってよー。まぁ、あたしを大切にしてくれるけんどね……」
そう言いながら弧光は瓢箪に入っている酒をゴクゴクと煽った後――
「雷禅のバッッキャローー!!」
完全に酒乱となっており、またしても大声で叫ぶのであった。
「す、すいません! こいつずっと酒飲みっぱなしで……アイデデデ!」
謝りながら弧光を宥めようとする煙鬼だったが、酒乱状態の彼女に手を嚙まれてしまう。
余りの光景に幽助や北神達だけでなく、隆誠ですらも呆然となってしまうのは無理もなかった。
今回は黄泉側の方で原作と違う流れになっています。