聖夜学園小の
その女子生徒にまつわる噂話が流れ始めたのはとある少女が聖夜学園小に転入して来た頃であった。
曰く、その眼は宝石の様に美しいのに一切の光を感じる事ができない、だとか。
曰く、事あるごとに『賭け』を持ち掛けてくる、だとか。
曰く、相手が一度、『賭け』のテーブルに乗ればーー
彼女は文字通り"全て"を賭けて勝ちに来る、だとか。
これは、そんな彼女が『なりたい自分』を見つけるまでの話である。
*
「あぁー!また負けたー!」
聖夜学園小・ロイヤルガーデン。
そこではガーディアン・
「ふふ、ボクに賭けで勝とうだなんて数千年は早いよ。という訳でこのケーキはボクが貰うね、やや」
「これで阿部の52連勝か…」
「いつ見てもものすごい豪運ね…」
「……これ、阿部さんが負ける日って来るのかな?」
そして残りの3人のガーディアンーー
「それで?ボクを
それを横目にケーキを平らげたちゆりは本題…ガーディアンの本拠地であるロイヤルガーデンに呼び出された理由を
「話が早くて助かるよ。それで君をここに呼んだ理由なんだけど、阿部さんには僕たちと一緒に新しい"ジョーカー"…つまり、君の"後輩"となる子に会って欲しいんだ」
「…成程ね、新しい"キャラ持ち"がこの学校に現れた訳だ」
「うん。それもただの"キャラ持ち"じゃない。初代
それを聞いたちゆりは「へぇ…」と不適な笑みを浮かべる。
ハンプティ・ロックーー出所不明・使用用途不明の謎の
ーー確かにガーディアンが現在の"ジョーカー"であるボクをロイヤルガーデンに呼ぶのも不思議ではない、とちゆりは考えた。
「分かった、その話に乗ろう。ボク個人としてもその子には興味がある」
「本当かい?ありがとう!」
そしてその話が終わった直後。キィ、と扉が開く音がする。
ちゆりが音が鳴った方に顔を向けると一人の少女がいた。そして桃色の髪と多少吊り目ぎみな眼が特徴のその少女の傍らには、世間一般の人が見たら"妖精"と呼ぶ様な小さな人型が二人、空中に浮かんでいた。
それを見たちゆりと唯世は一瞬だけ顔を見合わせ、彼女に対し微笑んで言った。
「「やあ、
*
あたし、日奈森あむ。聖夜学園小に通う四年生。
ある日、外キャラを演じるのが段々と苦痛になって『なりたい自分に生まれ変わりたい』と守護霊にお願いしたら不思議なたまごが3つも現れてその一つから守護霊、もとい『しゅごキャラ』のランが生まれたの。
そこからは怒涛の展開だった。
そんなこんなでお茶会に参加しにロイヤルガーデンに向かったんだけど…
「ふふ…そんなに固くならないで?今日のお茶はマカティーよ。スコーンも焼いてきたわ」
「やったあ!なでしこのスコーン好っきー!」
「さっきボクとの賭けに負けて落ち込んでたというのにもう復活したんだねぇ。相変わらずややはゲンキンというかなんというか…」
「そういえば阿部は今日"レイシオ"連れてきてないのか?」
「あ〜…教授なら『ギャンブラーの戯れなんぞに着いて行けるか』って言ってどっか行っちゃったんだよねぇ…」
「またかぁ?"レイシオ"は阿部から生まれたしゅごキャラの筈なんだけどなぁ…」
「まぁ他のメンバーは全員しゅごキャラ連れてるし、教授がいなくてもなんとかなるでしょ」
その。なんていうかさ…お茶会にお呼ばれしちゃっただけでもビックリなのにさ…
「なんでガーディアンがみんなしゅごキャラを持ってるのー⁉︎」
「うわビックリした…いきなりどうしたんだいマイフレンド?」
「どうしたもこうしたもないよ⁉︎ガーディアンのお茶会に来たと思ったらガーディアン全員がしゅごキャラを持ってたんだよ⁉︎幾らしゅごキャラの事を聞きに来たとはいっても流石にビックリするって!あとあたしとあなた初対面!マイフレンドなんて呼ばれる筋合いまだないんだけど⁉︎」
「日奈森さん落ち着いて…まず自己紹介からしようか」
そんな事を思って自己紹介を聞いていたら、最後の人…あたしに話しかけてきた子の自己紹介になった。
「さて、最後はボクだね。ボクは阿部ちゆり。君と同じく春から5年生。そしてボクのしゅごキャラの『レイシオ』…は今日はちょっといなくてね。そっちはまた後日紹介するよ。これからよろしく、マイフレンド」
またマイフレンドって呼んでる…だからあたしたちまだそう言う関係じゃないのに…
それにしても阿部ちゆり、か…どこかで聞いた事あるような。
あ。
「阿部ちゆりって…まさかあの"聖夜のギャンブラー・アベンチュリン"⁉︎」
思い出した。この人、学校で相当有名な人だ…良い意味でも悪い意味でも。
賭けを通して弱きを助け、強きをくじく勇気のある女の子。あるいは重度のギャンブル中毒者。人によって見方が変わるとは言うけどこの子ほど見方が綺麗に2分割してる人は見た事も聞いた事もないぐらいだ。
噂でガーディアン入りしてると聞いた事はあったけど…まさかそれが本当の事だったなんて。
「…王様。その異名、ボク初耳なんだけど」
「あはは…まぁ僕たちが意図的に伝わらない様にしてたからね…阿部さんが聞いたら調子乗りそうだったし」
「…まぁいいや。ああそうだ、ボクはガーディアンの中でも少し特殊な立ち位置でね。5人目以降のガーディアンが属する"ジョーカー"と呼ばれる役職に就いてるんだ。そして君がガーディアンになるなら必然的にボクと同じく"ジョーカー"に就く事になるからそこの所よろしくね」
「いや、あたしガーディアンになるとは一言も…今日はしゅごキャラの事聞きに来ただけだし」
「そうかい?じゃあ…
そう言ってちゆりさんが離れる。…でも、その笑みは更に深くなった様な気がした。
その後は目的通りしゅごキャラの話を聞く事ができ、いろんな事を知った。いわく、目には見えないこころのたまご、大人になると消えてしまうそれから生まれた『もう一人の自分』がしゅごキャラだという。そして、ガーディアンは代々しゅごキャラ持ちがメンバーを受け継いでいるらしい。どうりでさっきちゆりさんがガーディアンに誘ってきた訳だ。
「…という訳なんだ。だからキミも、ガーディアンに入ってほしい」
そしてこれはガーディアン全員が望んでいるらしく、王子からもガーディアン入りをお願いされた。確かに、ガーディアンに入れば色々な特権がある。遅刻も早退もトクベツOK、先生もガーディアンの話なら対等に聞いてくれる…そしてなにより、
「やだ」
その話を、蹴った。
そんな反応をするとは思わなかったのかガーディアンの皆はあぜんとした表情をしている。
「なっ…なんでー⁉︎ガーディアンになればいろんな特権てんこもりなのにっ」
「え…その…ロイヤルケープ着るのが…ヤだから…」
その理由がこれだ。ガーディアン正装、ロイヤルケープ。やたらと鮮やかな色をしたそのケープを着たくないが為にガーディアン入りを蹴ったのだ。
「ケープって…それだけ…?」
「それだけって…大事なコトじゃん!どーしたってあたしのファッション哲学と美意識に反するしっ‼︎」
「ぷっ…はは!なんだぁコイツおもしれー!ごーかく‼︎」
「だから入んないってば‼︎」
「日奈森さん…どうしても、ダメかな…?」
「うっ…い…いくら王子の頼みでも…そんなの入ったらまたクラスで浮いちゃうの確実だし…」
皆はなんとかあたしをガーディアンのメンバーにしたいのか変わる変わるあたしを説得しようとする。最終的には王子までちょっと悲しそうな顔をしながらあたしを引き留めようとしてきた。
心が物凄く揺れ動く感じがしたけどなんとか思い留まり、押し切られる前にいち早くここから逃げようとした、その瞬間だった。
「あれ、もしかしてもう帰っちゃうのかい?ならせっかくだし、君が帰る前にちょっとしたゲームをしないかい?」
今までずっと黙っていたちゆりさんが突然、そんな事を言ってきた。
「ゲーム?な、なんでよ?」
「うん?こうして知り合った以上、君にはもっとボクという人間の性格や物事の進め方を理解してもらいたいからね。そしてボク自身も、君の事をもっと知りたいと思ってるんだ」
そう言って、ちゆりさんはパチンッ、という音を響かせて綺麗なコインを弾く。その数秒後、二つの握り拳をあたしの前に差し出した。
「左?それとも右?それじゃあーー答えを発表しよう」
「ちょ…ちょっと待ってよ。あたしはやるとは一言も言ってないし…大体、どっちの手を選ぶか聞いてないのに答えを発表するっておかしいでしょ⁉︎」
「…あっ、そういえばそうだったね。でも大丈夫、なぜならーー」
そう言ってちゆりさんはコツ、コツと足音を鳴らしてあたしの方へ近づいてくる。ただその雰囲気は今まで感じていたうさん臭いものじゃなく、
「さぁ、ボクと取引をしよう」
右手が開かれる。そこにコインはなかった。けど、異様な雰囲気は消えてくれない。
「君は断れない」
左手が開かれる。けどそこにもコインはなかった。
ーー変だ。冷や汗が出て止まらない。脳みそが『今すぐ逃げろ』と言ってくる。それでも、逃げられない。あの子の光がない両眼が逃げる事を許さない。
「断る理由がない」
ふと、あたしの右手が少し重くなった気がする。落ち着け。そんな筈はない。そう言い聞かせてあたしは右手を開く。
けど、そこには。
「断る余地もない」
きらきらとかがやく、コインがあった。
*
「行っちゃったね」
「あはは、おもしれーヤツだったな!」
「想定外の新顔ちゃんだったねー♡それで?これからどうする?」
「もちろん…ここで引き下がるガーディアンじゃなくってよ。でしょ、ちゆりちゃん?」
「そうだね。これは面白い賭けになりそうだ。
オール・オア・ナッシング。この命を賭けて君の全てを奪おう。日奈森あむ」
ちゆりちゃんの見た目は簡単に言えばTSアベンチュリン(ロリ)。つまりはTSカカワーシャちゃん。ただし性格は完全にアベンチュリンに染まってる訳ではない模様。