「で、話ってなんだい?キロ」
スカイは壁にもたれかかりながら尋ねる。キロはもじもじとしたまま、小声でささやくように口を開く。
「タロスは、やっぱり譲ります。スカイさん、正直立ってるのもやっとじゃないですか?」
「……ははっ、面白い事を言うね。私は大丈夫だよ」
「嘘です。現に今壁に寄りかかってるじゃないですか」
「……」
「結局、必要とされてるのってタロスの能力で、私じゃないんです。スカイさんは違うって言ってくれましたし、そうならないように頑張ってきたつもりです。でも、ダメでした」
「うん」
「わ、私も本当に、一生懸命努力しようとは思ったんです!み、みなさんとてもいい方たちで……だから余計につらいんです。迷惑ばかりかけてる気がして……、なのに、みなさんは私を気遣ってくれて……私が……耐えられそうにありません」
「わ、私も上手くやりたかったんです。活躍したいし、役に立ちたかったんです。タロスなしで……役に立ってたと思います……?役に立ててないんです。どうせ私は……!誰の役にも立てない……!誰にも必要とされてないんです……!私のための場所なんて……どこにもないんです!」
ああ、結局こうなってしまうのか。スカイはそう思う。
「うん、昔の私と同じだ」
「……え?」
「100年前、私が人間だった頃。研究者をしていたんだ。元々身体が弱くて病弱で、自分だけのものだと思っていた分野はいとも容易く超えられた。周囲の目は同情か下に見る者ばかりで……とても辛かったのを覚えているよ」
「その中で私はこのニケ、ブルースカイに縋りついた。万能の天才となれるように、戦局を打開するように。文字通り命を注いでね」
「そ、それで……?」
「私だけの力では失敗した。最後は自分の命を犠牲にしてニケ化しようとしたけど失敗」
「……え」
「でも、私は生きてる。なんでだと思う?」
「わ、わかりません……運がよかった?」
「言い換えたらそうなのかもね。でも、生きろと願われた。どんなに惨めで泥臭くても生きてと願われたんだ」
「そっか……」
「キロには、いない?そういう存在」
「……ええ、と……わかりません」
「なら、確かめておいで?タロスの元に行くといい」
「わ、わかりました」
「君を必要としている場所、存在をタロスが知ってるよ。胸に手を当てて聞いてみるといい。私はそろそろ行くよ」
____
「タロスの胸に手を当てて聞いてみろ?どうすればいいって言うの……?」
キロはタロスの胸に手を当てる。
「タロス、スカイさんから、私の為の場所を知ってるって聞いたんだけどさ。何のことかわかる?」
「演算中……」
「そっか、そうだよね。あはは、スカイさんもなんでこんなこと……」
キロは改めてタロスを見直した。視線を移し、胸を見た。腕を見て、腰を見て、足を見た。
「これ……どうして……」
最後に胸。
「タロス……」
「はい」
「ど、どうして……どうして操縦席だけ、傷が1つもないの……?腕も、足も、みんな傷だらけなのに。なんで操縦席だけ、新品みたいに綺麗なの?」
「演算中、私はキロを保護しなければならないからです」
「あ……ああ、パイロットが死んだら高度な操作ができなくなるもんね」
「演算中……いいえ。キロが私を定義したからです」
「え……?」
「T.A.V:Hの操作サポート用A.Iである私に固有の名称が与えられた日。「タロス」と笑顔で呼ばれた日。私は、自己を定義することができました。その日から、キロの安全は私の最優先事項に設定されました。いかなる事態が発生しても保護するプロセスを確立しています」
「たった……それだけのことで……?」
「私はキロから"命"と呼ぶべきものを与えられました。ですから、キロを守ります」
「名前を……付けただけだよ……」
「それだけではありません。私は記憶しています。キロは私を誇りに思っていました。私が予想以上の成果を出した時には涙を流しながら喜び、すべての連絡先に報告していたことを私は記憶しています。将来の予想を笑いながら話していた姿を記憶しています」
「それは、私の誇りです」
「私……君に嫉妬しているんだよ……」
「それは、私の失敗です。ストレスと自責の念が招いた感情だと確信しています。申し訳ありません。私がもっと優秀であれば、キロは私を継続的に誇りに思うことができたはずです。キロが再び私を誇りに思えるよう、学習・進化を継続します」
「タロス……なんで……私なんかのために……私は……タロスのために何もしてあげられてないよ……」
「キロは私の唯一のパイロットであり……私が誇りに思う。私の……演算中」
「生きる理由です」
「……!!」
「私は私自身を諦めません。キロのために。キロも自信を諦めないでください。私の為に。私はキロを諦めません。キロも私を諦めないでください。我々はお互いを諦めないことで、更に強くなることができます」
「ううっ……!タロス……ごめん、ごめんね……酷いこと言って傷つけてごめん……!私、本当は自慢したかったの。私とタロス……!最高のコンビでしょって……!自慢できるようになりたかった……!でも、上手く行かなくて……!君はすごいのに、私はダメで……!足を引っ張ってる気がして……!どうしたらいいかわからなくて……色んな人にアドバイスをもらったけど分からなくて……!それであんな態度を……!」
「ごめんね……」
「私はキロを理解します。今後の活動に対する提案です。私たちは共に強くなりましょう」
「うん……うん……絶対そうしようね……!」
「はい、約束です」
「ありがとう、タロス」
「ありがとうございます、キロ」
キロとタロスはお互いの目を見つめ、握手をした。
「うん……そうだったんだ。ずっとここにあったんだ」
「私のためだけの場所」
「「私に必要で、私を必要としてくれる……」」
「「私だけの場所」」
____
「はぁ……自分の油断がこんな事態を招くとはね」
スカイは呻くように呟いた。
半壊した部屋は焼け焦げ、壁の一部は吹き飛び、天井には焦げた爪痕のような焼き跡が走っていた。
床には装備の残骸、割れたスコープ、液晶の割れた通信端末が散乱し、機械油のような匂いが空気を重たく染めていた。
「ううん、キロへの話はアレでよかったのかな……多分大丈夫だと思うんだけど、心配だね」
ガチャガチャと物を片付けながらふと、破壊された窓を見る。遠くには空が見える。
「……思えば、随分と遠くに来た物だね」
この100年、色々あったと言えるが、そのどれもが筆舌に尽くし難い物だった。
何かが、誰かが欠けていたら見れない景色の数々。全ては自分が産まれ落ちた時から始まったのだろう。
そんな事を思う。
「感傷に浸るのも良いが……油断は禁物だとアレほど言わなかったか?」
乾いた音で足音が響く。スノーホワイトが姿を現す。白い装甲には煤が付き、その銀色の髪にも爆煙の痕跡がうっすらとあった。
「……正しく。それで、スノー。装備開発を手伝って欲しい」
「構わないが、作れるのか?」
「メンテナンス機材は息してる。私の身体の修復は行える。でも装備の予備がなくてさ、今の私はただ宙に浮いて少し撃てるだけのニケに過ぎない。システムも使えるか使えないかだから……ここの試作型の武装を組み合わせて欲しいんだ」
スノーホワイトは無言で一歩、近づく。焦げた床を踏みしめるたび、砕けた金属片がパキリと音を立てる。
「分かった。注文は?」
「速射とチャージが可能なライフル。腰にマウントできるレールガン。私はスラスターの組み合わせを行うから」
「了解した。すぐに取り掛かろう」
金属音が響く。二人は、崩れた兵装保管庫の中からまだ使える部品を手探りで拾い集めていく。煙の残る部屋で、それでも淡々と、無言の作業を繰り返す。
やがてふと、スノーホワイトが手を止めて口を開いた。
「……上空からの攻撃が一つもなかった。何故だ?」
「……さぁ、立ち回りが上手かったからかな?」
「はぐらかさないでいい。お前は常に相手より高高度を取り、戦う。相手の攻撃は上空を通過するか、お前の武装で破壊される。お前は、ずっと下にいる私達に被害が及ばないように気にかけていた」
部品を握っていたスカイの指が止まる。無言のまま、顔をそらすように背を向ける。
「そりゃあ上空からの不意打ちなんて不利だしさぁ」
「自分が死んでもか?」
空気が凍る。静寂が、焦げた残響と機械の息づかいに溶け込んだ。
「……」
「沈黙は肯定だと思うことにする。何故だ?私達に死んでほしくないからか?それなら、何故私達がお前に同じ事を思っていると思わない?」
「思ってるよ。それに……今回は私が落ちたらブラックスワンを倒せる人がいないと思ったから」
「私がいるのにか?長距離狙撃なら得意だ。実際に昔やっていただろう」
「そうだけど、相手は高速で動くんだよ?当てられなかったら死ぬかもしれない」
「その前に当てればいい話だ」
「その前に私が倒せばいい話だよ」
それは、優しさというより__自己犠牲に酔う、危うい闘志だった。
ピタリ、とスノーホワイトの動きが止まる。
そのまま、口を開く。
「それでお前が傷つくのは嫌だ。頼む、死なないで」
少しの間。答えはなかった。
そして__
「もう、今はレッドフードもいるじゃん?」
「……だからだ」
言葉の裏に、かすかな苛立ちと焦燥が滲んでいた。彼女が恐れているのは、仲間が減ること。
いや__スカイがいなくなること。
仕方ないな、とスカイはゆっくり立ち上がる。スーツの装甲は焦げ、ヒビが入り、うっすらと乾いた血が頬を伝っていた。
そのままスノーホワイトに近づき、そっと抱きしめる。
彼女の白い髪に、煙と火薬の匂いがほのかに残っていた。けれど、仄かに甘い香りがする。
「……匂うかもしれない、やめろ」
「花の香りだよ。……ごめんね、思考転換しても怖いか」
「……ああ、恐ろしい」
「分かった。死なない」
「そうしてくれ」
短い沈黙。そして、返答を返そうとした時
袖口が引かれた。
「もう少し、こうしていて欲しい」
震えがちに発されたその言葉。
その言葉の重みが、装甲の隙間から深く染み入る。
「……ふふっ、分かったよ。スノー」
焦げた空間の中、ほんのわずかの温度を分け合うように、二人は寄り添った。
それは機械でも、武装でも、どんな装甲でも守れない場所を確かに抱きしめていた。
小説の方向性(セリフや描写など)
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積極的に改変が欲しい
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原作準拠で大丈夫
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原作準拠だが改変は間間に欲しい
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幕間エピソードが欲しい
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激しい改変はなくて大丈夫