レッドフードが去ってから少し。
ドロシーを臨時のリーダーとしたゴッデス部隊は一時期士気の低下を招いたものの、各々奮起して普段と変わらない様相を見せている。特にこの時点の僕にはアークガーディアン作戦の全容を知らない。何が起こるかも。
だから備えなくてはならない。
「……装備はまだ完全に作れないなぁ。スノーも紅蓮とラプンツェルので手一杯だし」
背部ウイングにビーム砲、対艦刀を備えた近接戦用の装備。これがいつか必要になるかもしれないとデータは揃えている。プロトタイプも作った。拡張装甲として普段装甲と切り替えができるようになった。
「ブルースカイ、リリスと指揮官が帰還しました」
「了解。こっちも一仕事終えたから行くよ」
ドロシーがわざわざ顔を出してくる。しかし、2人はこの時点で戻ってきていたのか。てっきりそのままOZに突入すると思っていたから少し驚く。
ブリーフィングルームで作戦計画書が配られる。
アークは5段階に分けて徐々に封鎖される。作戦完了後、内側からも外側からもアークへの通行は不可能になること。最終封鎖の完了まで、アークへの進入口を防衛する作戦は「アークガーディアン」と命名された事。説明は淡々と続けられ、聞く側からも言葉はなかった。
だが、顔からは隠し切れない感情がこぼれ出ていた。
「……以上、質問はある?」
リリーバイスが尋ねる。それに対して真っ先に声を上げたのはドロシーだ。
「私たちの撤収はいつになりますか?」
「第5次封鎖の一番最後。量産型ニケ部隊も同じね。最後の最後までアークを守り切ってから」
「そうですか」
続いてスノーホワイト。
「第5次封鎖の完了まで、どれくらいかかりますか?」
「未定よ。そこは流動的に変わるみたい。長くても1か月は超えない予定だけど」
「……短いですね」
「うん、本当に」
「それと、これからは防衛戦に移るから、勝利の翼号もアークへ回収されることになったの。これは、第3次封鎖の辺りになる予定よ」
「我らが空飛ぶネグラともおさらばか。わざわざ5段階に分ける理由はなんだい?」
「一度にアークに収容できる人数には限界があるの。だから、安全な移動のために分けるんだって」
「ふん、お偉方が真っ先に逃げ込もうという訳か」
「人数の問題だけではないでしょう」
「そう。アークには何十か所も入口があるから。そっちは物資用だけどね。物資も最後まで運ばないといけないから、少しずつ封鎖していくしかないの。当たり前だけど、そんな事をしていれば……ラプチャーも集まってくるはず。私たちの出番はそこから」
「入口が数十か所も?なぜ人々の受け入れをしているのは1か所だけなのですか?」
「選別するため」
ラプンツェルの疑問にドロシーが答える。
「選ばれていない者、政府に身分が認められていない者はアークに入れない。違いますか?」
「ああ、正解だ。誰でも入れてやるという訳にはいかない」
「第5次封鎖の完了後、アークにたどり着いた人はどうなるのですか?それに地上に残った人はどうなるのですか?」
「見捨てられる。私達は負けたんだ。全てを救う事はできない」
指揮官がバッサリと切り捨てた。その答えに各々悔しそうな表情を滲ませる。紅蓮が今すぐ軌道エレベーターにと言うが、今やラプチャーの戦力は人類の比じゃない。敗北の二文字が相応しいだろう。
「まあまあ。アークへの封鎖をラプチャーが見過ごす訳ないだろうし、軌道エレベーターの精鋭も集まってくるんじゃない?それで全部倒したらもう一度攻略すればいいよ」
そうやって矛を収めさせる。そんな事、できないって自分が一番よく分かっているのに。よく言えたものだと思う。
僕達は"敗北と向き合う方法"を考えなければならない。
「……僕は研究室に戻る。最善を尽くすよ」
「スカイ、貴女は……」
「回避できない敗北でも、各々向き合わないとね」
ーーーー
ドロシーは誰もいない部屋でソファーに身をうずめ、天井を見上げている。うつろな目で遠い未来を見上げた。
「……ふふ、うんざりだわ」
「何がそんなに嫌なの?」
「……!」
ドロシーが目を見開く。目の前にはリリーバイスが立っていた。
「驚いたならちゃんと驚いてくれない?」
「だれも居ないと思っていました」
「ノックをしたけど?聞こえてなかった?」
「そうですか……」
「紅蓮と決闘したんだって?それも引き分けだったって」
「ええ、そうなりました」
「すごい。いよいい次期リーダーって感じ?」
「貴女を見て覚えました。それに臨時リーダーです。次期ではありません」
「……ふふ」
「……??……!!リリス、貴女……まさか」
「長くて半年。無理すればもっと短くなるって」
「……」
息が抜ける。呆然としてしまう。
「もう、驚いたならちゃんと驚いてってば」
「……方法はないのですか?」
「まあ、何もしないでじっとしていれば長くはなるみたいだけど。こんな時に、そんな事してられないし」
「今すぐ退役して、ゆっくりしてください」
「分かってるでしょ?それは無理」
「その話、私以外の皆には?」
「ううん。貴女にだけ話しておこうと思って」
「残酷ですね」
「悪いけど次期リーダーの宿命だと思って」
「スノーホワイトには話しておくべきです」
「ううん……自信がないの。話していいかどうか」
「同じ苦しみを二度も味合わせるつもりですか?」
「……確信が持てないから、乗り越えられるかどうか」
「スノーホワイトはもう子どもではありません。あの日から見違えるほど成長しています」
「ふふ、私から見たら、まだみんな子ども」
「私も含めて?」
「そうは思ってないから、貴女には話したの」
「……私にだって子ども扱いされたい時はあります。スカイにも話さないのですか?」
「分かる。私もあるから。……スカイにも話さないとダメかな?」
「彼女は良い意味でゴッデスに依存していません。それに私がダメになったら次期リーダーは彼女でしょう」
「やっぱりそう思う?」
お互い、ふ、と笑みを漏らす。
「ええ。ラプンツェルはあまりにも慈善的。紅蓮は逆に慈悲がない。スノーホワイトは優柔不断。状況判断を的確に行えるのは私とスカイくらいでしょう」
「色々と抱え込ませてしまってるから、これ以上は……と思うんだけど、ドロシーも同じなら私から話しておくね」
「……お願いします」
それからドロシーは、自分自身が抱えている嫌悪感をリリスに吐露した。
「その話、私以外にもできるようになるといいね」
去り際、彼女はそう告げた。
ーーーー
スカイの研究室。
「システム:OVERLOADは無事起動する。ノーバディ・ボイドのお陰なんだけど……問題は起動時間だけど無茶をするしかないな。敵戦力が分からない以上畳みかけ、物量で押してくるって線もある……何より、リリスが心配だ」
カタカタとPCを弄って自分のスペックを調整・メンテナンスをする。この時点の僕は原作で知らないイベントだからと、また無視をしようとした。改変をせずに、だが、部屋を出た瞬間、彼女の悲痛な想いを聞いてしまった。
「死にたくないなぁ……」
悲痛に満ちたリリスの声を、聞いてしまった。その瞬間世界がひっくり返ったような感覚に陥った。
いくら気丈に振る舞い、自身の死を悟っていた彼女でさえ死は恐ろしいのだと、ただ弱音を見せないようにしていただけなのだと知ってしまった。
ゲームの世界で確定したイベントだからと自分は俯瞰した立場で物を見ていた。けれど彼女達は生きている。この世界にある命として存在しているのだ。救済がない。未来にどんな影響があるか分からない。それでも、目の前で弱音を漏らした彼女を無視する事はできなかった。
「ッ、スカ……イ!?……あ、はは、ごめんね。ちょっと疲れちゃって……大丈夫、だから」
「リリス、来て」
「えっ……ちょ、ちょっと!?引っ張らないで!」
彼女だってゴッデスだ。救済の対象だ。その死を無くす事はできない。けれど、やれる事はあるのではないかと思った。腕を引っ張って研究室に連れて行く。
「大丈夫!大丈夫だよ!スカイ、気持ちは嬉しいんだけどね……?」
「……いいから。ベッドに寝転んで、できる事をやらせて欲しい」
「……そっか。うん、いいよ」
彼女は溜息を1つ漏らすと、大人しく仰向けに寝転んだ。自分はと言えば、彼女をスキャンをしながらモニターに映るデータとにらみ合いをする。
「レッドフードと同じボディのコピーはそもそも無理か……僕に手に負える技術じゃない。かといってボディの延命は無理だ。元々短期決戦用なのが致命的……新しいボディへの交換も、恐らくボディが耐えられない」
「ふふ。色々調べてくれてる。ありがとう。でもね、無理なの。どうしても」
延命させる方法はない。彼女の死亡は確定で必要で回避ができない。してしまったら大きく世界を変える事になる。
「だが……これなら、或いは」
「スカイ?」
「今のキミの人格を複製はできる。ノーバディ・ボイド……コレを使う」
「確か今のスカイの原案の計画書の名前だよね?何にでもなれる万能の象徴を目指したっていう」
「そうだね。僕はコレがあるから様々な武装や装備を作れる。原理さえ理解できていればね」
「うーん。でも私は無理でしょ?だってスカイは私じゃないから」
「リリスの記憶を僕の中にデータとして直接保存する。もしかしたら未来でキミを復活させられるかもしれないから」
彼女が驚いたように目を見開いた。そして少し目を伏せがちに首を横に振った。
「ダメ。それでスカイにどんな影響が出るか分からないもん」
「そうだね。だからこのやり取りの記憶も一緒に封印するよ。出力は落ちるかもしれないけどそれで乗っ取られたり壊れたりはないかな」
「それでも。出力が下がっちゃうならダメ。……映像を、遺言を残させてくれただけでもいいの。満足してるから」
「嫌だ」
「え?」
「嫌だと言ってる」
ハッキリと告げた。
「ハッピーエンドを作るのにキミがいないのはおかしい。例え逸脱した行為だとしても……未来に希望を持つ事は自由だと思う。リリス、ここでくらい本音を話してよ」
「……それ、は」
「死にたくないって言ったんでしょ?それが本音じゃないか」
「……うん、そうだね。死にたくない。本当なら皆ともっと一緒に居たい。……だけどいいのかな、そんな我儘を言っても」
「いいよ。責任は僕が持つ」
「スカイ、かっこいいね。じゃあ、お願いしようかな」
「分かった。このやり取りの記憶はこのデータに保存して消すね。2人とも覚えていない。何もなかった事にする」
「ふふ、世界への言い訳?私達は何もしてませ~んって」
「通るかは分からないけどね。けど表面上は何もないんだから許して欲しいよ」
「私は良いと思うよ」
「よし、じゃあ始めるよ」
そうして、彼女の人格のデータ保存が始まった。
それが、これから死にゆく白百合へのせめてもの手向けだった。
記憶を封印する。
ーーーー
「スカイ、大丈夫?」
「え、あ、うん。あれ?」
気が付けば僕は机に突っ伏していた。リリスが心配そうに顔を覗かせる。
「疲れちゃった?」
「いや……そうでもない。何かの夢かな」
「ふふ、そっか。本当に……ううん、なんでもないの。ドロシーには伝えたんだけど、スカイには話しておいた方がいいって言われちゃって」
何やら意味あり気。何だろう。
「私は多分、この作戦で命を落とすと思う。ドロシーをリーダーに任命したけど、彼女にはまだ荷が重いかもしれない。だから、ドロシーを、ゴッデスを支えてあげて欲しいの」
「……正規メンバーじゃない僕に?」
「そんなのもう関係ないでしょ。スカイは無茶をやる癖以外はずっと皆の事を見てるじゃない。それに行動も結果も大体皆の為でしょ?だから……お願い」
「はぁ……しょうがないなぁ。分かったよ」
「いいんだ?そんなあっさり?」
「皆の負担を減らしたいからね。その為のプロトタイプ装備も作ったし」
「ふふ、そっか。……ありがとう。スカイが来てからゴッデスは常に、少しだけ余裕を持ててたから。改めてのお礼。後」
「ん?」
「これは個人的なお願いなんだけど、スノーとドロシーをちゃんと支えてあげてね。スノーは私がいなくなったらきっとダメ。ドロシーも気丈に振舞ってるだけで、繊細で弱いから」
「……分かった。全部任せて、リリスは目の前の事だけに集中して」
「うん、ありがとう」
そうはにかんで笑う彼女……白百合は、もう散るのだろう。そう思うと胸が締め付けられるように苦しい。レッドフードの時でさえ、こんなに苦しくはなかった。
そうして、アークガーディアン作戦が幕を開ける。
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小説の方向性(セリフや描写など)
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積極的に改変が欲しい
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原作準拠で大丈夫
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原作準拠だが改変は間間に欲しい
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幕間エピソードが欲しい
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激しい改変はなくて大丈夫